英語で発信! 臨床症例提示 -今こそ世界の潮流に乗ろう-
Oral Case Presentation
[第9回] Never give up!
齋藤中哉(ハワイ大学医学部医学教育部客員教諭)(第2605号より続く)
温度差
ハワイ大学医学部の教育課程は,前期2年(pre-clinical)と後期2年(clinical)です。「良医養成」が医学部の主眼であるため,「基礎」と「臨床」といった二分法そのものが撤廃されています。医学生を臨床医に育て上げるという目的から焦点がそれることはありません。Paper Patient Simulation
前期2年では,problem-based learningによるpaper patient simulationと,clinical preceptorshipによる患者の問診と診察,指導医への症例提示と討論が,並行します。学生は,「講義を聞いてから」ではなく,「待ったなし」で診療現場に投げ込まれ,pre-clinicalといいながら,日本の医学部6年間に相当する教程を,2年で完了します。Clinical Case Simulation
後期2年では,clinical clerkshipによりprimary careを実地に修習します。チームの一員として,診察を行い,診療録を記載し,指示を出し,on-callまでこなしますので,学生が現場で担っている役割は,日本の研修医に相当します。Conferenceもproblem-based conferenceの形態をとるため,医学生は在学中の全期間を通じて,clinical case simulation(CCS)に明け暮れ,熟達した後,全米にレジデントとして巣立っていきます。■Contents Index[Summary, Problem List, Assessment & Plan, Conclusion]
今回は,患者情報に対する発表者の分析,解釈,考察を述べる部分であるSummary, Problem List, Assessment & Plan, Conclusionについて総論します。Text boxには,「Labsの提示に役立つテンプレート」として,前号に引き続き,検査所見における定型表現を整理しました。日本的「甘え」
日本の医学生と研修医に最も顕著な発表態度は,患者情報を断片的に提示していき,参加者全員に,あるいは指導医に,問題点を整理してもらい,結論を出してもらおうとする依存的な態度です。一方,英語圏における症例提示は,整理された患者情報だけでなく,それに対する発表者の見解が伴って初めて完成とみなされます。全体討議に移る前に,発表者自身が,診断過程と治療方針を明確に表明しなければならないということです。ハワイ大学医学部でも,この訓練は,入学した翌日からはじまります。Summary
(1)Summaryは,ID & CCからLabsまでの患者情報を素早く整理し,後続の議論の理解を容易にするための橋渡しです。“In summary, the patient is….”の文型が便利です。(2)患者情報の縮約が目的なので,繰り返しや冗長は避けます。患者情報が短い場合,また,持ち時間が短い場合は,Summaryを省略し,直ちに議論に移行しても構いません。
Problem List
症例検討の場で取り上げる問題点は,3項目以内が原則です。患者の問題点が多岐にわたっていたとしても,この原則を遵守します。集団討論の特性として,4項目以上では,すべてにわたる詳細な検討は頓挫してしまうからです。議論の焦点にならない問題点を事前に見抜き,大胆に省略しましょう。主要3項目以外は,討論の中で補足的に言及します。逆に言えば,problem listが3項目以内になるように,患者情報を強力に編集することが,上級者への道です。Assessment & Plan
(1)“Probrem #1”のように,問題点をnumberingして述べていくと,聴者の印象に残ります。(2)Planには,diagnostic procedure(Dx.),treatment(Rx.=ラテン語recipeの省略形),patient education(Pt-Ed.)の3要素が包含されているので,バランスよく記述します。
Conclusion
“In conclusion, the patient is….”の文型が便利です。次の3項目のいずれかを考慮することが,conclusionのよい手がかりとなります。(1)診療継続,終診,入院,退院のいずれを選択するか。(2)診療において最も大切な次の一手。(3)典型例に比較して,発表症例の独特な点。■Delivery Index[Vocabulary]
English Dictionary
non-native English speakerの間で最も定評がある一般辞書は,Longman Dictionary of Contemporary English(Pearson ESL, 2003)です。基本2000単語で全単語を定義しています。類語間の用法・語感の相違,英米間の発音・意味の差異が豊富に収録されており,実用的です。一方,ハワイ大学医学部において最も人気のある医学辞書は,Stedman's Medical Dictionary(27th ed., Lippincott Williams & Wilkins, 2000)です。医学生のみならず,医師の使用にも十分耐えます。
Vocabulary Building
語彙力構築のために,単語集を暗記するといった勉強法は,お勧めできません。生涯,英語を使っていく覚悟を決め,そのための環境を構築しましょう。英語圏の人々と,友達になり,一緒に勉強し,仕事をすることで,「待ったなし」の状況に身を投げるのです。上記2冊の「英英」辞典を,日々,使用し,「英和」辞典を引かずに読めるようになれば,しめたものです。日本語の介入なく,理解できない英語を理解できる英語により補完し,英語力を自己拡大していける水準に到達すれば,「独立宣言」発布です。♪間奏曲
日本の医学部6年+初期研修2年の永きにわたる“See one, see one, see one.”式教育に比較した場合,米国医学教育の真髄は,“See one, do one, teach one.”ではなく,“Do one, do one, teach one.”とさえ表現したくなります。良医養成の基本は,厳しい教育を短期間に集中して行うことです。言い古された言葉ですが,Never give up!そして,Never say die!
■Text Box
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(次回につづく)
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E-mail: nakaya@deardoctor.ac
【筆者略歴】 京大工学部修士課程終了。阪大医学部卒。東京医大八王子医療センター腎臓内科助手を経て現職。全米で唯一ハワイ大学医学部だけが持つFaculty Development Program「医学教育フェロー」を修了した最初の日本人として,同大学のカリキュラム開発(次世代Triple Jump & Clinical Reasoning)に従事。日本国内の医学部からも客員教授/教育顧問として招聘を受け活躍中。 |