第2609号 2004年11月15日


投稿

国際医師実地研修に参加して

国際医療奉仕団ジャパンハートの活動より

吉岡春菜(国際医療奉仕団ジャパンハート)


 国際医療奉仕団ジャパンハートという団体をご存じでしょうか? 1997年からミャンマーで医療活動を行ってきた吉岡秀人先生が,たくさんの協力者に恵まれ本年度より立ち上げた新しい医療団体です。現在ミャンマー中部のサガインにて,日本から派遣された看護師・医師・現地スタッフとともに,主に外来診療・手術・巡回診療を行っています。私はこの団体を通じて国際医師実地研修に参加し,3か月が経過しました。

 日本には海外で研修をしたいと考えている医学生や研修医がたくさんいますが,それを本当にかなえる団体は少ないのが現状です。私は多くの国際医療にかかわる方から話を伺いましたが,中には単に自分のキャリアアップのためであったり,目的がはっきりとつかめないものであったり,真の国際医療として納得できるものではありませんでした。

 そのような時に,吉岡先生からミャンマーでの医療活動についてお聞きする機会を得ました。先生は水面に石を落とした時に広がる波紋を例に話してくれました。石を落とした時にできる第1の波紋は自分自身であり,次にできる波紋は家族。そして次第に地域社会,日本,アジア,地球,宇宙へと広がっていきます。人間の意識がこの波紋と同様に広がりを見せた時,その人の意識の進化が起こります。医療も同様で,アジアで医療を行うにあたり,日本はアジアの一部ですから日本を飛び越えた,日本を意識しない国際援助は自然の流れに反しているということでした。

 私はこの話を聞いた時に,これこそが日本人がやるべき国際医療であると思い,ジャパンハートの国際医師実地研修に参加することを決めました。

 また,ミャンマーは第二次世界大戦で多くの日本人が亡くなった地です。ミャンマーから生還された方の話では,英軍の捕虜となった時に水や食料を分けてくれたミャンマーの人々のおかげで生き延びることができたそうです。捕虜を援助することは死罪だったので,彼らは命がけで私たちの先人を救ってくれたことになります。ここにいると,現在を生きる私たちには過去に先人が受けた恩を返す義務があり,また先祖に対する供養の気持ちも自然と湧き上がってきます。

そこは志あるものが集う場所

 ジャパンハートでは現在,国際看護研修と国際医師実地研修をはじめ,長期休暇を利用した医学生の実地研修やボランティアの受け入れを行っています。国際看護研修では現在までに4人の看護師が参加しています。患者はそれぞれの完全受け持ち制で,入院から退院まで1人の看護師が責任を持って看ています。医学生の実地研修では現在鹿児島大学の医学生を受け入れ,現地に20日間滞在しスタッフとともに生活をして医療活動に参加しています。ボランティアでは国士舘大学の学生を受け入れています。国際医師実地研修では外来診察,手術,巡回診療を主に行います(詳細はホームページあるいはhttp://www.japan-heart.com)。

 ミャンマーも他の東南アジアと同じく貧富の差が激しく,現金収入の少ない村人は命の灯が消える間際まで病院に来ることができません。また手術を受けたくても資金がないためあきらめる人が多く,巡回診療で患者を探しだすことが必要です。現地には吉岡先生が常駐し,その元で充実した経験を積むことができます。私の次には卒後4年目の小児外科医の先生が中長期で派遣される予定です。

名もなき病める人のために生きてみる

 日本の大学病院や研修病院では,研修医は1人の患者に対し治療というごく一部にしか,かかわりません。ミャンマーでは患者の経済状況,病院へのアクセス方法,生活環境をはじめ,投薬管理や入院中の生活面などにも目を向けて患者を守らなければなりません。それを通して自ら考え判断し,背伸びをしながらもそのことに責任を持つという姿勢が身に付くのではないかと思います。

 また,私は昨年日本の研修病院で1年を過ごしましたが,検査診断に頼りすぎ自分の診断能力を磨くことを怠ったと反省しています。ミャンマーでは施設や経済的問題から気軽に検査をするわけにはいきません。したがって,高い診断能力が必要となります。

 ミャンマーでの研修で自分が一番変わったことをあげると,それは「公共心」です。みなさんは自分の研修先を選ぶうえで何を重視していますか? かつて私は自分がいかによい研修を受けられるかを中心に,自ら得ることばかりを考えていました。しかし社会人として公共の場に出た時大切なことは,いかに自らの力を社会に還元できるかということであり,生きる場所が日本であろうとどこであろうと公共のために身を尽くすという姿勢が,どんなに小さな出来事であろうとも大切であると感じるようになりました。

 私たちの世代は公共心をより拡大して,多くの医師がその力を自分のためだけではなく社会に還元しなければならないと思います。そうすれば日本の医療はもとより,アジア全体のQOLがより改善されると思います。

 ミャンマーで出会った患者さんたちを紹介したいと思います。

(1)3歳の男児で頸部腫瘤を主訴にやってきました(写真)。彼の両親は小さな雑貨屋を営みながら手術代を稼ごうと一生懸命です。しかしミャンマー国内では手術を受け入れてくれる病院がありませんし,手術代は月収の数百倍にもなります。腫瘤は神経線維腫で日増しに大きくなり,死期が近づいています。彼は3歳ながら「日本の先生が治してくれる」と信じており,私たちもできる限りのことをしたいという切実な思いです。日本に連れて帰り,手術を計画しています。

(2)ミャンマーでは口唇裂が大変多く,毎週6-7件の手術をしています。大人になっても手術を受けられなかった場合,結婚はまず無理です。村でひっそりと隠れるように生きている人を巡回診療にて見つけ出して手術をします。退院する頃には鏡を何度も見て別人のように明るい表情になり村へ帰ってきます。その後の患者さんの人生を想像すると,こちらも明るい気持ちになります。

(3)19歳の女性が腹痛を主訴にやってきました。彼女は16歳で結婚し,子供を1人もうけていました。疾患は卵巣膿瘍で,大変な手術となりました。腹膜は分厚く肥厚し,腸管や膀胱とともに卵巣に癒着していました。ミャンマーには十分な麻酔がないため腰椎麻酔と静脈麻酔の併用にて5時間の手術になりました。彼女の術後は吉岡先生が不在であったため,医師は私ひとりという状態で看護師とともに彼女を守らなければならず,患者さんに対する責任というものを彼女から教わりました。

 ジャパンハートは現在ミャンマーのみで活動をしていますが,将来的には日本や海外から若い医師を集め,アジア各国で活動を展開する予定です。

 今年度より研修医制度が変わり,大学を卒業した後,専門に関係なく幅広く研修を積むようになりました。今後は海外にて実地研修を積みたい医師にも沢山のフィールドが与えられるようになると思います。これから経験を積んでいく私たちは,自らのキャリアアップだけのために海外へ出るのではなく,医師という職業を通してより公共性を発揮し,意識を拡大していかなければならないのではないかと思います。


吉岡春菜氏
2003年川崎医大卒。国立病院岡山医療センター小児科にて1年間研修。2004年より国際医療奉仕団ジャパンハートの国際医師実地研修に参加。「これから多くの若い日本人医師が海外で働く時代が来ると思う。その先駆けになりたい」