医学界新聞

 

抗がん剤のTDMは有効か?

第25回日本臨床薬理学会開催


 さる9月17-18日の両日,第25回日本臨床薬理学会が,中野眞汎会長(静岡県立大)のもと,静岡市の静岡コンベンションアーツセンターにおいて開催された。「分かち合う」をテーマとする今回は,医師,看護師,薬剤師といった医療職に加え,企業など薬剤にかかわるさまざまな参加者の活発な意見交換の場となった。

 また,第31回日本小児臨床薬理学会との同時開催により,双方の交流を深めるものとなった。


なぜTDMが行われないのか

 抗がん剤は一般に有効域と毒性域が近接しており,血中濃度をモニタリングしながら用量を調節するTDM(Therapeutic drug monitoring)が有効であると期待されている。しかし,その臨床応用はまだほとんど行われていない。シンポジウム「抗がん薬におけるTDM,進歩と展望」(座長=福井大・上田孝典氏,広島大・森川則文氏)では,こうした現状を踏まえ,抗がん剤のTDMの可能性が議論された。

 南博信氏(国立がんセンター東病院)は悪性腫瘍の大部分を占める成人固形がんに対して,抗がん剤のTDMはあまり効果がないのではないか,との見方を示した。氏はその理由として,薬剤の濃度よりも腫瘍の感受性が臨床効果に大きく影響すること,現在のがん化学療法は高濃度の繰り返し投与が主流であるため,有効性が認められず数回の投与で終了することが多いことをあげた。しかし,近年開発されてきている分子標的治療薬については,少量を長期間持続投与するため,TDMが効果的なのではないかと指摘した。

 藤田健一氏(埼玉医大)は,抗がん剤の安全かつ適正な使用に向けたシステム作りについて口演,化学療法を標準化し,逸脱した化学療法を制限するために,がん化学療法レジメンを発行したことを紹介した。このレジメンでは,エビデンスレベルの高いものだけを採用,1日投与量,期間,副作用対策,実施上の注意などがまとめられている。氏はさらに抗がん剤のTDMが普及しない理由として,南氏が述べた理由の他に,標準的化学療法のほとんどが併用療法であるためモニタリングが難しい点を指摘。代謝産物などのバイオマーカーを用いるのも有効なのではないかと述べた。

TDMによる患者個別の治療

 近年,多発性骨髄腫に対するサリドマイドの効果が注目されているが,患者に投与する際には万全の管理体制が望まれる。森田邦彦氏(慶大)は多発性骨髄腫患者におけるサリドマイドの投与量の比較(200mg vs 400mg)を行い,投与期間中の血中濃度,抗腫瘍効果,副作用から患者個々の至適維持用量を決定した。また,症例ごとに使用状況を確認できるように,薬剤部によるサリドマイドの一元管理体制を構築。患者指導の徹底により,治療中止後の残薬はすべて回収できたことを報告した。

 山内高弘氏(福井大)は急性白血病の治療に用いられるシタラビンについて,血中濃度だけでなく白血病細胞内およびDNAに結合した量を測定した。その結果,細胞内濃度は治療効果に,血中濃度は副作用に相関したことを報告,こうしたモニタリングによって正確な治療効果が把握でき,白血病治療のテーラーメイド化が確立できる可能性を示唆した。

がん化学療法の向上に貢献

 古居奈歩氏(金沢大病院)は腹膜播種に対してVP-16,シスプラチン,パクリタキセルなど複数の抗がん剤の腹腔内投与を行い,それぞれの腹水中や血液中への濃度推移を測定した。その結果パクリタキセルでは腹水中からほとんど消失しないことがわかり,薬物によって腹水中や血液中への濃度推移が異なること,特に脂溶性が低くても分子量が小さいほうが腹水からの消失が早く,血液中への移行が高い傾向にあることを指摘した。

 最後に登壇した座長の森川氏は,髄腔内播種患者に対する髄液灌流療法について紹介,ほとんどの患者で意識レベルは向上しQOLも改善したものの,その効果は髄腔内播種に対してのみ有効で,がんの根治療法にはなりえなかったことを述べた。氏は「抗がん剤のTDMは患者の治療効果を随時把握できるだけでなく,同様の患者の薬物療法に応用でき,新たな治療法開発時の裏づけ情報としても重要な意味を持つ」と指摘。「TDMによって薬物療法を行う医師,薬剤師の経験値をより向上させ,がん化学療法および医療の質向上へとつなげていきたい」としめくくった。