第2595号 2004年8月2日


インタビュー

院内感染対策のコストをどう削減するか

田仲曜氏(東海大学医学部外科学系講師)に聞く


 昨年のSARS流行を契機に院内感染対策の重要性が指摘されているが,実際には「感染対策はコストがかかる」という認識が根強く,取り組みに消極的な施設も少なくない。こうした背景には,院内感染対策の効果として在院日数の短縮や抗菌薬使用量の減少などが指摘されているものの,いずれも「院内感染が発生したら」ということを前提とした間接的なコスト削減であり,適正な評価が難しいことが考えられる。

 しかし田仲曜氏は「衛生材料の視点から感染対策を行うことで,むしろ直接的にコスト削減を実現することができる」と言う。そこで今回,東海大学医学部附属病院(以下,東海大病院)における氏の取り組みについてインタビューを行った。


包交車でMRSAが伝搬

――感染対策に取り組まれるようになったきっかけとはなんでしょうか?

田仲 外科医になって4年目の時に,傷は消毒しなくていいこと,剃毛はかえって創感染を増やしてしまうことを学びました。穴澤貞夫先生(慈恵医大)や倉本秋先生(高知大)はそのことを20年以上前からずっと主張されていて,剃毛をすると明らかに有意差をもって創感染が増えることは海外では常識になっています。

 しかし,自分の周囲を見回しても,それを日常の診療に反映させている医師は誰もいませんでした。正しいことなのに誰もやらないのをとても不思議に思い,少なくとも自分だけは,患者さんに対してしっかりと実践していこうと決心しました。

 5年目に出向した病院では,数人の外科医が日替わりで回診していました。私の患者さんは消毒しないので包交はしていませんでしたが,その時病棟で発生したMRSAが包交の行われた順に部屋から部屋へうつっていくことに気づいたんです。そこで包交に使用する物品を患者のベッドサイドに置いて包交車を使わないようにしたところ,MRSAの伝搬を防ぐことができました。

 その後,東海大病院に戻ってからは食道の外科手術にたずさわっていましたが,食道がんにはMRSAや緑膿菌による術後の呼吸器感染が多く,大変苦労しました。そこで,MRSAによる呼吸器感染を予防するためにバクトロバン(ムピロシン)軟膏を鼻に塗るということを食道癌手術全例に適用したところ,呼吸器感染のみならずMRSA感染が0%になりました。

 MRSAが出なければ緑膿菌を中心としたグラム陰性棹菌にターゲットを絞った抗菌薬の使用ができるので,術後の管理がかなり改善されるわけです。細菌学は学生時代に唯一再試験だったくらい私は苦手だったのですが,これらのことから感染対策に興味を持つようになり,ICT(Infection Control Team)のメンバーになりました。

なぜ衛生材料なのか?

――衛生材料に着目した理由とはなんでしょうか?

田仲 きっかけは,先ほど述べた出向先の病院での経験ですね。包交車で菌が移っていくということに気づいて,包交材の単包化に取り組んだわけです。東海大病院に移ってからも外科病棟の師長さんと少しずつ取り組んでいきました。

 そんな折,2001年の第56回日本消化器外科学会のシンポジウムで,下関市立病院の吉田順一先生が「鑷子とガーゼを単包化すれば使用量が減少し,中央材料室の負担が軽くなり,節約にもなる」と報告しているのを聞いたのです。調べてみれば,看護師さんの報告の中にいくつか同様のものがありました。

 衛生材料の単包化には,使用直前まで滅菌状態が保たれ衛生的なだけでなく,「袋の中のものは滅菌,袋から出したら不潔」というように無菌についての概念がわかりやすいため,日常作業や教育上のメリットもあるんです。そこで,経済性を追及しつつ,より便利で感染対策に適した衛生材料を選択できるように「衛生材料ワーキンググループ」を立ち上げたわけです。

田仲曜氏と衛生材料ワーキンググループのメンバー
上段左から小泉織絵氏(NS),高木加代子氏(NS),大瀧英寿氏(用度管理課),太田理絵子氏(NS),青木美穂氏(NS)。下段中央が伊藤由美子氏(NS),右が吉田光子氏(NS)

――衛生材料ワーキンググループとは?

田仲 もともと看護部副主任の研究グループがあり,そのメンバーと外科系の先生を中心に声をかけて立ち上げたもので,東海大病院の医療材料委員会の下部組織です。

 医療材料委員会は経済性の面から不要な物品の購入を取り締まるような,いわば関所ですが,衛生材料ワーキンググループが感染対策だけでなく,経済性を前面に出した活動を行っていたので「ぜひ推進しなさい」と言ってくれました。

 しかし,実際には経済性だけでなく,感染・安全対策,使い勝手のよさを考えていかなければいけませんから,いろいろな職種のスタッフと医師をメンバーにしました。そしてまず外科病棟で試験使用し,試験使用でも経済的に優れていると判断されたものを13病棟で試験運用,その結果問題がなければ全病院で切り替えていくというステップでガーゼ,アルコール綿,鑷子の単包化について進めていったわけです。

■単包化によるメリット

――具体的にはどのように取り組まれたのでしょうか?

田仲 これまで病棟,外来,検査室で使用するガーゼは,局方ガーゼをガーゼカストに入れ滅菌したものを使用していましたが,まずこれの単包化に取り組みました。

 ガーゼの単包化によるメリットは,使用量が一定になり無駄な使用を避けられることと,滅菌期間が長いことです。しかし,単包化の作業を中央材料室で行うのでは手間がかかりすぎますから,企業に製品化してもらうことを考えました。そこでガーゼ会社4社ほどと交渉し,なるべく安価で生産してもらうよう相談したところ,2社が賛同してくれましたので,そこの製品を採用しました。

――直接企業に働きかけたわけですか。

田仲 そうです。その結果,2か月間のガーゼ購入費が2002年度は1100万円だったのが,2003年度は約700万円になり約400万円の減額,滅菌バックの購入費も前年度に比べ約60万円の減額となりました。

個別包装なら患者も便利

田仲 次にアルコール綿ですが,これまでは80%エタノールにカット綿を浸して作成したものを使っていましたが,70%イソプロパノール不織布の滅菌個別包装のものに変更したところ,4か月で300万円のコスト削減となりました。また,このメリットは経済的な面だけではありません。血液培養や中心静脈カテーテルから検出される真菌やMRSA,表皮ブドウ球菌について調査した結果,アルコール綿を個別包装に変更したことでMRSAの検出が有意に減少したのです。

――感染対策の面から見ても非常に有効ということですね。使いやすさの点ではいかがですか。

田仲 最初は「使用の際に封を開けなければいけないのが面倒」という意見もありましたが,すぐに「これは使いやすい」という評価になりましたね。この個別包装されたアルコール綿は,ポケットに入れて携帯することができます。今まではステンレス瓶に入っていたため,ワゴンで運ぶ必要がありました。この違いは大きいと思います。

 また,例えば糖尿病の患者さんが自宅でインスリンの自己注射をする際,今までは消毒に使うアルコール綿として,100枚くらい入った容器を渡していました。これだと,常にその容器を持ち歩かなければいけません。その点,個別包装であれば1日に5回血糖を測らなければいけない人は,5枚持っていればいいわけです。

――外出もしやすくなりますね。

田仲 それに,こちら側としても,毎週決まった数だけ渡せばいいわけですから,無駄がありません。

カップ入り綿球は高価?

――消毒に用いる綿球についても検討されたそうですね。

田仲 カップ入り綿球を導入しただけで,消毒薬の使用量が減ります。大きな容器に綿球をいっぱい入れて,ある時間になるとそれを廃棄する,ということを毎日繰り返していると,大量の消毒薬や綿球が無駄になります。

 カップ入り綿球は,1個1個の値段は割高になってしまうのですが,無駄に消費されるぶんが減ったことで,十分補うことができます。実際,カップ入り綿球を病院全体で導入した後に消毒薬の使用量を比較すると,前年度よりポピドンヨード製剤が19.0%,グルコン酸ヘキシジン製剤が27.4%の減量となり,結果としてカップ入り綿球の購入金額をはるかに上回る経費節減ができています。

 たぶん今,全国的にこうした取り組みを「やりたいけどやれない」と思っている病院がとても多いのではないかと思います。実際,私が「経済的にとても節約につながりますよ」と発表すると「うちでもぜひやりたい」という反応があります。発表するたびに聞いてみると,アルコール綿やカップ綿球を導入した病院,ガーゼを単包にしている病院が,少しずつですけれど,明らかに増えてきています。

中央材料室の業務が軽減

田仲 単包化でいちばん苦労したのは,鑷子をはじめとする鋼製器械です。単包化する際の袋詰めに手間がかかりますから,外科病棟での試験運用は,中央材料室には非常に不評でした。ですが,外科病棟での結果として2400本/月から1000本/月に減少し,病院全体では最終的に鑷子の使用量が21%に減少(79%の節約),さらに鑷子立てが不要となったので,中央材料室では1日10カゴあった洗浄物品が2-3カゴにまで減少しました。アルコール綿,綿球の個別包装化によって万能壷も不要になりましたから,中央材料室の業務はかなり軽減されたのではないかと考えています。

 そして,これら洗浄物品が減少したことにより,ウォッシャーディスインフェクターで洗浄できるようになりました。現在は鋼製器械の一次消毒を廃止,中央材料室で一括洗浄滅菌できることをめざしています。そうなれば一次洗浄に用いるステリハイドなど高価で有害な消毒薬が減少し,さらなる経済性・効率性が実現します。

■各科のキーパーソンをまず説得

――改善にあたって,現場の医師の反応はどうでしたか?

田仲 基本的に医師は,こうした経済的コストについてまったく無関心で,関係各科のキーパーソンとなる医師に何度も繰り返し説明しました。この根回しにはとても時間がかかりましたし,大変な労力でした。

 ただ,根回しされていない医師は当然,「なんでこれ,変わったんだろう」と思いますから,そこは各病棟の看護師やワーキンググループのメンバーが一生懸命説明し,理解を得られるようにいろいろな働きかけをしてくれました。ですから,これは当然ですが私1人ではできることではなくて,皆の力でできたことなのです。

医療廃棄物を減らす努力を

――今後の課題についてお願いします。

田仲 衛生材料や消毒薬の無駄を省くことも重要ですが,医療廃棄物を減らす努力も必要だと思います。例えば注射針ですが,点滴のボトルに刺した針は「人体に刺さる」という意味では危険なゴミですが,感染性があるわけではありません。しかし,これがいったん血液の付いた針と一緒に捨てられてしまうと,その時点で感染性のゴミになってしまいます。ですから,薬液を吸うのに使うような針は,なるべくプラスチック製のものに変えていく必要があると思います。もちろん,現時点ではプラスチック製の針は従来の金属製の針よりも高価です。しかし,皆がこれを使うようになれば企業も競争するようになりますから,その結果価格も下がっていくと思います。

――たしかにプラスチック製の針なら,金属の針と一緒に棄てないですね。

田仲 危険な針ゴミを減らしていくことで,清掃業者の人たちの感染防止も当然できるわけです。

 他には,オムツの問題があります。「血液や便がついているかもしれない」ということから医療廃棄物扱いされていますが,一般家庭では,おじいちゃんのオムツは普通一般ゴミとして捨てられています。でもそのおじいちゃんが病院に入院すると,オムツは感染源とみなされ,医療廃棄物となる。これは変な話ですよね。ドイツではオムツは一般ゴミとして捨てられています。熱処理による滅菌で感染性もありません。

 現在日本は,先進国の中でも最低のGNP比7%で医療を行っていかなくてはならない状態にあります。そして今,さらにその7%を減らそうとしているわけです。ですから,本当に必要なところにお金を使い,無駄なところはできるだけ省いていくようにしていかなければいけないと思います。

――ありがとうございました。

(おわり)

■改善のポイント

和田峰香氏,大瀧英寿氏,高木加代子氏(衛生材料ワーキンググループ)より

 感染対策,コスト削減と言っても,それまで使ってきた器具や身についた習慣を変えることに対して,医師や看護師の側から反発はなかったのだろうか。衛生材料ワーキンググループのメンバーに,病棟の改善にあたっての苦労を聞いてみた。

和田 やはりそれぞれの病棟で慣習化されていた物の使い方,それから新しい物を使うことに対する不安が最初の課題でした。

大滝 例えば単包化する時のガーゼの枚数でも,「うちは一度に5枚使う」「うちは3枚」など部署によって要望が違いました。だからといって5枚入り,3枚入りと作れば,それだけ在庫が増えてしまうわけです。そこで最大公約数として5枚入りに統一し,「使わないぶんは棄ててもいいですよ」という“落としどころ”を探るのが苦労しました。

――説得は大変でしたか?

高木 なぜ変えなければいけないかということを伝えたら,それほどブーイングはきませんでしたね(笑)。皆,感染を起こしたいわけではありませんし,「変えることでよくなるのであれば」と意欲的・協力的でした。

和田 ただ,新しい使い方に1人が慣れればいいわけではなく,病棟の皆が同じようにできなければいけません。看護師だけでも800人以上の大人数ですから,皆が統一した使い方ができるようになるには時間を要しました。規模が大きい病院なので,すぐに切り替えようとしてもなかなか切り替われないジレンマを感じましたね。でも変わったことで経費の削減ができたことを聞くと,「やってよかったな」とうれしかったです。

高木 変えることで前より使い勝手が悪くなるようなことにはしたくなかったので,100円均一ショップの入れ物を使ったり,包交車自体に分別できるゴミ箱を取り付けたり……。そういった工夫をするのは,苦労というより楽しかったですね。その結果,皆が使いやすいと言ってくれましたし,コストが削減できたわけです。協力の結果,どう変わったのかということを必ず伝えるようにしましたので,皆にも「やってよかったんだ」という認識を持ってもらえたと思います。

――では,特に反対意見はなかったのですか。

大滝 むしろ反対意見が表立って出てくれないところに苦労しましたね。反対意見は間接的に聞こえてくるんです。家に帰ってインターネットを見ると,掲示板に「あんなの使いにくいよな」と書き込みがありました(笑)。でも,それもだんだん使い慣れていくうちになくなりました。抵抗があるのは導入する時,つまり今までの習慣を変えるという部分だと思います。

和田 実際に使ってみて,それに慣れたら,皆が「使いやすい」と言ってくれましたからね。


田仲曜氏
東海大学医学部外科学系講師。1989年東海大学医学部卒業。東海大病院研修医,助手などを経て現職。外科での専門は食道外科で,幕内博康教授のもとで内視鏡治療から手術,化学療法を含めた集学的治療を学んだ。感染対策だけでなく,外科栄養学,緩和医療など幅広い分野で活躍中。