第2595号 2004年8月2日


注目される学術集会での「情報保障」

第1回障害学会開催される


 さる6月12-13日,第1回障害学会が,石川准会長(静岡県立大)のもと,静岡県の静岡県立大学において開催された。学会では,12題の自由報告,シンポジウムのほか,対談「『見えないものと見えるもの』と『自由の平等』」(石川准氏・立命館大 立岩真也氏)が行われるなど,充実したプログラムが展開される一方で,手話通訳や要約筆記など,「情報保障」を積極的に取り入れた運営方針そのものが,既成の学会における情報提供,ひいては運営のあり方に一石を投じるものとなった。

新学会の船出にふさわしく多彩な議論が展開

 学会プログラムは表の通り。「障害学」が取り扱う領域の裾野の広がりを感じさせる,多彩な発表が行われた。なお,個々の演題の講演資料に関しては,後述のように学会ホームページに掲載されており,現在も閲覧可能である。

表 第1回障害学会プログラム
自由報告
投票行動における「障害」の実態と原因――心身機能低下と投票バリアを日本とオランダにみる…山田健司(京女大)
ベトナム戦争帰還兵と精神障害…藤原哲也(三重大)
障害者運動を理解する上での平等派・差異派枠組みの検討…山岸倫子(都立大大学院)
胎児二分脊椎をめぐる出生前診断の意義を問いかける――本邦における二分脊椎の周産期管理の特殊性と胎児から外来へと関わった11年間の考察…松井潔(神奈川県こども医療センター)
日本における新生児聴覚スクリーニングの評価…大久保豪(東大大学院)
「リベラル優生学」における責任と自由――出生前選別・操作行為に対する責任帰属と社会の責任…堀田義太郎(阪大大学院)
ほか,全12題。

学会シンポジウム 「障害」概念の脱構築
司会:横須賀俊司 (広島女子大)
基調報告:杉野昭博(関西大)
コメント:倉本智明(関西大)・森壮也(アジア経済研究所)

対談 「見えないものと見えるもの」と「自由の平等」
石川 准(静岡県立大)・立岩真也(立命館大)

 学会中,もっとも注目を集めた対談では,石川氏,立岩氏が,互いの新刊書籍(石川准『見えないものとみえるもの』医学書院刊,立岩真也『自由の平等』岩波書店刊)に言及しながら,生産財の分配,労働の分配などの課題について,抽象的な議論に終始することなく,現実的な課題として検討された。

「情報保障」の先進的な取り組み

 学会全体の取り組みとしては「情報保障」への積極的な取り組みが目をひいた。「情報保障」とは,視覚障害や聴覚障害など,何らかの理由によって情報へのアクセスに格差が生じることをできる限り避けるために行われる取り組みであり,今回の学会では,「学会ホームページにおける講演資料の事前掲載」,「全講演における手話通訳」,「要約筆記(後述)」,「磁気ループ(後述)」が,情報保障の取り組みとして行われた。

 具体的にはまず,学会開催前にすべての講演資料を学会ホームページからダウンロードできるように手配。これによって,視覚障害者がダウンロードした資料を点字化して持参したり,聴覚障害者などが学会事務局に直接アクセスすることなく,資料を入手することができるようになる。

 また当日,すべての講演には手話通訳と要約筆記が行われた。要約筆記とは,写真のように,いわば速記録のような形で講演内容を次々に画面に映していく方法である。また,磁気ループとは,集音マイクで拾った音を座席につけた磁気ループに流し,専用の補聴器で直接聞き取ることを可能にしたものであり,当日は前方列の磁気ループ席に座る補聴器使用者の姿が目立った。これらは聴覚障害者の情報保障に,一定程度貢献したのではないかと思われる。

「情報保障」の取り組み
すべての講演で手話通訳(左)が行われ,また,要約筆記(上)がスクリーンに映し出された。

 これらの取り組みについて石川氏は「障害学会は,学会大会に参加した人に対して,誰にでも,報告内容や配布資料をその場で知り,討論に参加する権利を保障すべきだと考えています。情報保障は何も特別な配慮ではありません。人に優しいバリアフリーなどというようなものではないのです。聞こえる人や見える人に対して提供されている配慮(マイクとスピーカー,印刷資料)を,聞こえない人や見えない人にも同等に提供すべきだと考えているにすぎません」とその趣旨を述べ,今後の学会運営でも積極的に取り組んでいく意向を示した。