第2593号 2004年7月19日


レジデントサバイバル 愛される研修医になるために

CHAPTER 6
ナースに感謝,コメディカルに感謝(後編)

本田宜久(麻生飯塚病院呼吸器内科)


前回からのつづき】

 われわれ医師は,圧倒的多数の医師以外のスタッフに囲まれて勤務している。ちなみに,当院での職員数は医師が188名。医師以外が1170名である。これまで指導医とのやりとりに焦点をあてて連載してきたが,実は指導医は院内では少数派なのである。

 そして,たとえ指導医への失敗があったとしても,それをフォローするのが指導医の仕事という側面もある。また,患者さんへの失敗は,そんなことがないように指導医がチェックしている。しかし,他の職種の人たちへの失敗は,他人がフォローすることはきわめて困難なのである。

 いい加減だと嫌われるが,完璧主義すぎると周りを許せなくなる。妥協もできなくなる。そのバランスは難しい。

 医師以外の大多数のスタッフと楽しく仕事をするための秘訣が知りたい。少なくともサバイブしていくために必要なことはなんだろうか? またもや,失敗という宝の山から学んでいこうと思う。

できることは自分でやる

 ある日の内科病棟。発熱の患者○○さん。敗血症を疑っている。血液培養を2セット採取してから,抗生物質をはじめようと思っている。

研修医「Aさん,すみません。○○さんが敗血症かもしれません。血液培養を2セットとって,抗生物質を開始しようと思います。さっきオーダーしたんですが,もう少しお時間かかりますか?」

看護師A「先生,1セットじゃ駄目ですか?」

研修医「それはですね。血液培養の陽性率は高くないこともありますが,なにより1セットだけでは,培養された菌が本当に敗血症の原因菌なのか,常在菌の混入なのか判断しにくいんですね。そして,抗生物質を投与してからでは,培養されにくくなってしまう恐れが……」

看護師A「わかりました(ていうか自分でやってよ!)」

コメント

 時間が許すかぎり,できることは自分でやるというのが原則である。特に緊急の検査については,予想外の仕事を頼むことになり,スタッフの心的負担も大きい。血液培養を2セットとる理屈を滔々と述べるのも時間がある時には大切だが,声に出しては言いにくい「先生,自分でやって!」という心の声を聴く姿勢も大事である。相手の目を見て話す習慣をつければ,心の声を聴く力が,幾分なりともアップするだろう(このあたりの参考文献などあれば,メールにてお教えください)。

 ただし,採血や点滴確保,静注について研修医が自分ですべて行うような病院では,さらに研修医の仕事を増やすことは難しいだろう。しかし,手伝える時には手伝うという助け合いの精神は,いまのところは全国共通と思う。

その他の事例

●救急外来で救急車搬送の連絡あり。受け入れの準備中,研修医は控え室でくつろいでいた。「なんで私たちだけが準備しなくちゃいけないのよ」と看護師がポツリ。こういった声はなかなか届きにくい。せめて除細動器の記録紙と充電状態,喉頭鏡のライトは点検しよう。

●グラム染色を自分で行う。検査技師といっしょに見る機会があれば,格段に実力アップ。そして,顔の見える付き合いは,お互いに心理的負担が少ない。

CAUTION

時と場合によっては,自分でやらないほうがいいこともある。例えば,急変時や1時間以上待たせている外来。自分で採血・点滴ルート確保をしていては待っている患者さんに申し訳ない。診療しながら周囲の状況を把握しおくことは,研修開始時にはもちろん困難だが,できるだけ早期にマスターしておきたい重要な態度である。マスターの仕方については,混雑する現場に身をさらしつつ,各スタッフと現場の苦労を会話できる機会を持つことであろう。当院では,最近看護師の発案で救急外来に携わる多職種有志が集まり,困ったことを話しあう会が,自発的に,暖かい雰囲気ではじまっている。

イラスト/小玉高弘(看護師)

失敗した時は早めに謝る

看護師A「先生,息苦しい感じがあると○○さんがおっしゃっています。SpO2は95%で変わりなく,バイタルサインも安定しているんですが,本人は不安が強いみたいなんです」

研修医「あー,僕さっきも病棟に行ったばっかりなんですけど。様子みてもらっていいです?」

看護師A「あ,はい……(なに,この態度!)」

研修医(ああ,しまった。つい,感情的になってしまった!)

 研修医は病棟に直行した。

研修医「Aさん,コールありがとうございました。すみません。ちょっと疲れてたもので,対応が悪かったと思います」

看護師A「いいえ。ぜんぜん気になりませんでしたよ」

コメント

 どうしても失敗する時がある。人間なのだから仕方がない。すぐに失敗に気づけば成功である。すぐに現場に行けばフォローできることが多い。しかし,失敗には気づいたが後でフォローしようとしても,それは困難である。理由は,「看護師が交代勤務であれば,いつ会えるかわからない」「3日もたてばフォローするタイミングを失う」の2点。

 すぐに謝ると「ぜんぜん,気になりませんでしたよ」と言われることがしばしばある。筆者自身が気にしすぎであるか看護師の心遣いか,おそらく半々であろう。

不機嫌にさせたことへの配慮

技師「先生,連絡してくださいって言ったじゃないですか!」

研修医「え,でも,連絡しましたよ」

技師「でもね,私は聞いていません!」

研修医「だけどね。連絡はしましたよ!」

技師「聞いていないんです。お願いしますよ」

コメント

 言った,言わない。提出した,してない。持って行った,行っていない。このような不毛なやり取りが医師と看護師,医師と他の技術職,事務職の間で時々ある。そして,お互いが正しいと思っている。どちらかが折れないとはじまらないのだが,大抵の医師は折れない。

 医師が強く責められるのは研修医の時くらいである。そのうち,陰で批判されても,表だっては何も言われなくなる。「すみません。確認しておきます」とさらっと流し,気分を切り替えたほうがいい。その時点で自力ではどうにもならないことには,不必要に感情を揺らさない方が得策である。

 もちろん,この手の問題は本質的にはシステムの問題であるので,システムの改善なくして解決できる問題ではない。とは言え,完全なシステムでないために不平を言い続けることも精神衛生上よくないことなので,取り上げてみた。

その他の事例

●電話交換手や受付の方々は,いろいろな方のイライラや不機嫌な感情を電話を通して(または直接)受ける,極めてストレスのかかる仕事。時々,感謝の言葉を送る。

許した数の10倍,許されている

 レジデントという言葉で象徴されるように,ほぼ(もしくは文字通り)病院に住み込んで働き通しの研修医。時には,「この看護師は私をいじめて楽しんでいるんじゃないか?」とか,「技師さんも,研修医だから信頼してくれてないのかなあ」と思ってしまうこともあるだろう。特に体力的にきつい時は精神的にもまいりやすい。

 しかし,踏みとどまってほしい。よく考えれば許された数の方が絶対に多いのである。まず,医師の数倍の職員数。研修医という立場上許される未熟さ。医師免許があるがゆえに先生と呼ばれ,どんな年上の方にも敬語で接してもらえる身分。許されてきたことを数えてみれば,絶対に自分が我慢した数よりも多くなるだろう。

 研修医とは,多くの人の許しに支えられた住み込み人なのである。




本田宜久
1973年生まれ。長崎大卒。麻生飯塚病院での研修医時代より院内でのコミュニケーションに興味を持ち,以来事例を集めている。
yhondah2@aih-net.com