第2593号 2004年7月19日


家庭医をめざす学生に知ってほしいこと

葛西龍樹氏(カレスアライアンス北海道家庭医療学センター所長)に聞く


パラダイムシフトを理解し,実践するのが「家庭医」

――日本と諸外国における,「家庭医療」への考え方の違いについて教えていただけますか。

葛西 医療におけるパラダイムシフト(表)というものがあるんですが,これがかなり重要で,諸外国ではこれを理解して家庭医療をやる人が多いわけです。ところが日本では,そこが理解されていないことが多く,単に「ジェネラルな診療をやれば家庭医療である」と思われがちです。

 医療のパラダイムシフトで最も重要なところは,「問題を定義するのは患者である」というところです。ここを一番強調したいですね。これまでは何が問題かは医師の考えで定義され,それに基づいて医療が進められました。これからは患者が問題を定義するんです。海外ではこうしたパラダイムシフトを理解し,実践する専門分野として家庭医療が発展してきたという背景があります。近年問題になっている,「医者が説明してくれない,話をきいてくれない……」というような問題は,新しいパラダイムを理解している医療専門職が日本では少ないために起こっているのです。

 私は幸い,医療におけるパラダイムシフトを重視するカナダでレジデント教育を受け,その後も世界のさまざまな国の家庭医療を学ぶ機会がありましたので,日本でもそれが家庭医療の基盤としてしっかり定着するように伝えていく責任があると思っています。

表 医療のパラダイムシフト
新しいパラダイム 古いパラダイム
問題を定義するのは患者 問題を定義するのは医師
患者固有の苦しみがある 疾患は科学的に解明できる
自覚的側面を重視 客観的側面を重視
不確かな状態でもケアする 診断がつけば治療は自明
個別の対応が必須 マニュアルが有効
生物心理社会的モデル 生物医学モデル
多因子の関わり合い リニアな因果関係
複数の原因を考慮 単一の原因で説明
システム理論 二元論

まずは予備知識をつけて見学

――学生さんが家庭医療を見学する際,どういうところを見ればよいのでしょうか?

葛西 予備知識を持たずにただ見学すれば,家庭医の診療は普通の町の開業医と変わらないという印象を持つかもしれません。まずは,私の著作である『家庭医療-家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために』(ライフメディコム刊)など,家庭医療に関する本を読んでみることを勧めます。われわれが実践している「患者中心の医療の方法」(図)についての予備知識を持ったうえで,「今,どこの部分をやっているんだ」ということを確認しながら見学するとおもしろいでしょう。そして,われわれと議論してもらいたいと思います。

現場を見ることが大切

――家庭医療をめざしたいという学生さんへのメッセージをお願いします。

葛西 家庭医の教育は,今の大学教育には決定的に欠けています。例えば,本や講義だけで「スキーとは何で,どうやってすべるか,そのおもしろさとは何か」を十分に納得してもらうことは不可能でしょう。同じように,家庭医療の醍醐味を味わうには,実際に家庭医療が行われている現場へ出かけていって,そこで実際に家庭医療を実践している指導医から教育を受け,そこにあるものに触れていくことが最もよい方法です。

 現在はあまりにも家庭医療を実践している人や場が少ないため,そうした機会を持つことがなかなかできないのも現状ですが,家庭医療をめざしたい学生さんには,ぜひ機会を見つけて,実際の家庭医療がどう行われているのか,現場を見ていただきたいと思います。そこでしかわからないものが多いのです。