第2592号 2004年7月12日


連載

ディジーズ・マネジメントとは何か?

ディジーズ・マネジメントの事例(2)
第6回 多様な環境における適用(後編)

Application of Disease Management in Variety of Settings Worldwide.

Gregg L. Mayer President, Gregg L. Mayer & Company, Inc.
坂巻弘之 医療経済研究機構研究部長


2588号よりつづく

 前回に引き続き,いくつかの国で実施されたディジーズ・マネジメント(以下,DM)プログラムの事例を紹介する。それぞれにおいて,DMプロセスである患者集団の特定・アセスメント・階層化・介入・効果計測がどのように行われたのかを確認されたい。

高齢者向けケア付き施設のうつ病プログラム

 うつ病は,人口の約12%が罹患しており,女性患者が多いと推定されている。うつ病は高齢者向けケア付き施設でも広く見られる。ケア付き施設環境における高齢者のうつ病の適切な治療を妨げる障害として,初期治療を行う医師による検査・管理の不備,医師とケア・スタッフとの協力の不足,援助を求めることに躊躇する高齢者の姿勢,不十分な社会環境や社会的相互作用,カウンセリングなどの心理社会的介入の利用不足があげられる。ここで紹介する事例は,オーストラリアのシドニーにあるケア付き施設で実施されたランダム化比較試験の結果である。

 この研究は,地域の個人住宅,ホステル,老人ホームで暮らす入所者1466人からなる大規模なケア付き施設コミュニティーで実施された。母集団をランダムに2群に分け,老人性うつ病尺度を利用してうつ病を検査した。対照グループは111人,介入グループは109人だった。対照グループ,介入グループのそれぞれ86%,83%が女性で,平均年齢は83.8歳,84.9歳,それぞれ17%,8%が,ベースラインで抗うつ薬による治療を受けていた。

 このプログラムは「ヘルス・エイジング」と呼ばれ,うつ病の徴候を最小限に抑えることを目的としている。プログラムの構成要素は,治療を妨げる障害の除去,介護者の訓練,健康教育・増進の奨励からなっている。プログラムは定期的なミーティングを通して,初期治療を行う医師と施設スタッフとの総合的な協力を奨励するもので,医師はケースに基づく心理社会療法と抗うつ薬の利用についての教育,双方向ワークショップにおけるうつ病と併発疾患の評価・管理について訓練も受ける。施設スタッフは,うつ病教育において老人性痴呆専門看護師から訓練・支援を受ける。

 対象者に対しては,運動プログラム,うつ病,慢性疼痛,気晴らし,ストレス管理技術,転倒防止といった話題を取り上げた講義が提供され,ボランティア・プログラムで部外者の助けを借りて,最も落ち込んで孤立した虚弱な入所者が,すべての活動に参加するよう奨励される。介入の目標は,施設スタッフや医師によるうつ病発見率を高めること,うつ病が治療可能であることを高齢入所者に納得させること,ケア付き施設の関係者全員が利用できるプログラム活動を実施することにある。対照グループは所定の治療だけを受け,介入とその評価はすべて個人単位ではなくグループ単位で行われた。

 9か月半のフォローアップを経て,介入グループは対照グループと比較して,老人性うつ病尺度において有意な改善を示した。この研究から,高齢者のうつ病に関する地域住民ベースのDMプログラムが,ケア付き施設環境で効果を上げうることがわかった。このプログラムのために新たなスタッフは追加されず,既存のスタッフと医師の訓練によって実施された。

地域薬局でのCADプログラム

 北米の死亡の約40%が心血管疾患に起因しており,この割合は人口の高齢化に伴い上昇が予想されている。血清脂質低下が心血管疾患の罹患率・死亡率を抑えることが証明されているにもかかわらず,定期的な血清脂質検査は十分に実施されていない。さらに,検査を受けて高脂血症治療薬を処方されている患者の中にも,LDLコレステロールの目標値を達成していない者が少なくない。

 この事例は,血清脂質管理による冠動脈疾患(CAD)管理に焦点を当て,カナダで実施された地域薬局ベースのDMプログラムの結果である。この研究(the Study of Cardiovascular Risk Intervention by Pharmacists: SCRIP)は,カナダのアルバータ州とサスカチェワン州にある54か所の地域薬局において,薬剤師が介入するDMプログラムと通常の治療とを比較した多施設ランダム化比較試験である。薬剤師は,調剤時に患者に定期的に会い,新たに発生した問題について最初に相談を受けることが多いのでディジーズ・マネジメントサービス提供者となりうる。

 薬剤師が患者の病歴に関する知識や特定の薬物使用状況(例えばニトログリセリン,インスリン,経口血糖降下薬など)によって心血管疾患の高リスク患者を明らかにし,電話登録とコンピュータによる群分けが行われた。薬剤師は,介入グループに登録された患者に対して面接により心血管疾患リスク要因が軽減できるものか否かを評価すると同時に,ロシュ社のコレステロール検査薬を使用しその場で患者のコレステロールを測定する。リスク評価と血清脂質検査結果が患者に説明され,教育用パンフレットも手渡される。これらの結果によって追加的な医療処置が必要と判断される場合には,主治医への受診が促され,リスク評価と検査結果がファックスにて主治医に送信される。

 登録後2週目,4週目,8週目,12週目,16週目に,面談あるいは電話で介入グループの患者を追跡調査し,各時点で主治医への受診,ライフスタイル変更を確認し,必要に応じてさらなる教育・支援を提供する。本研究のプライマリ・エンドポイントは,主治医の血清脂質検査の実施有無,あるいは高脂血症治療薬の処方または投薬量の変更であり,セカンダリ・エンドポイントは,SF-12によるQOLと薬剤師満足度調査などが用いられた。

 最初の400人の患者が登録された時点で,すでにプライマリ・エンドポイントが満足された患者の割合は,介入グループが57%だったのに対し,通常治療グループは31%と,薬剤師の介入が患者治療の改善に効果があることが統計的に確認されたため,予定例数に至る前に研究は終了した。薬剤師の介入を提供するための経済的コストは,16週間の介入で患者1人当たり7ドルと推定された。

看護師電話コールセンターを利用したHMO糖尿病プログラム

 米国における糖尿病罹患率は10%を超えると推定されているが,実際に糖尿病と診断されているものはそれらの半分に過ぎない。糖尿病に要する医療費は糖尿病以外の病気に要する医療費の約4倍であり,その主たる要因は糖尿病合併症である。これら合併症罹患とそれに伴う経費の多くは,糖尿病治療に関するガイドライン遵守を改善すれば避けられることがDiabetes Control and Complications Trialなど多くの臨床試験で示されている。

 この事例は,米国の7つのHMO(Health Maintenance Organization)に登録された糖尿病患者7000人を対象にアメリカン・ヘルスウェイズ(the American Healthways: AH,旧Diabetes Treatment Centers of America)が実施した糖尿病DMプログラムの結果である。

 診療,調剤などの請求データをもとにすべての糖尿病患者を特定し,AHはこれらの患者について電子的にすべての患者データを記録した。病院・診療所におけるカルテ・レビューによりベースライン臨床データを集め対照データとして利用した。請求データを分析して研究実施中の医療費の計測を行い,DMプログラム実施前後のコスト比較を行った。また,第三者企業と契約し,プログラム終了後の患者と医療サービス提供者の満足度調査が実施された。

 このAHプログラムは,医師・患者をサポートする総合チームが中心となって実施するもので,必要な治療を調整するために医師と協力したり,患者の行動改善を促すものである。経験豊かな糖尿病看護マネージャーが患者に定期的に電話をかけ,糖尿病治療のために教育・支援を提供する。糖尿病治療のほとんどは患者の自己管理にまかされており,服薬,血糖自己測定,食事・運動,ストレス軽減,定期受診など,医師の指示に従うかどうかを決定しているのは患者である。また,糖尿病患者のかなりの割合が,EBMに沿った治療・管理を受けていないであろうこともわかっている。そこで,看護師が電話をかけて医師の指示に従うよう促し,治療・処置の合理的根拠や重要性を説明するとともに,患者の質問に答えている。電話をかける頻度は個々の患者のリスクによって決まり,そのリスクは今後6-12か月間に医療費がかかる可能性を予測するモデルによって決定される。

 このプラグラムにより治療基準の遵守状況,臨床所見,医療費について改善が見られた。HbA1c,網膜症,足,血清脂質のそれぞれ検査の受診割合が増え,HbA1cも平均で8.9%から8.5%に改善した。患者1人の1か月当たりの費用削減額は50ドルで,入院治療費は26%減少した。現在,多くの類似プログラムが全米の多くのMCOで実施されているが,MCOの医療費節約額がプログラム費用を上回ることを目指す契約となっており,本ケースは,DM会社のビジネス・モデルとなったものである。

結論

 DMの中核となるプロセスは,どの疾患・症状でも似通っているが,具体的な患者集団の特定・アセスメント・階層化・介入・効果計測技術のそれぞれは病気によって異なる。臨床試験受託,医療機器,製薬などのそれぞれの企業を含む多くのDMツール企業から,DM用ツールを入手することができる。最近,米国では看護師コールセンター・モデルが商業的に成功を収めている。しかし,DM提供者は医師であったり,看護師であったり,薬剤師やその他の関連保健専門家であったりするもので,必ずしもコールセンターのみがDMの手段というわけではない。DMプログラムの成否はプログラムの目標にかかっており,DMプログラム開始前に明確に規定することが重要である。成功すれば,プロセス,臨床面,経済面,QOL,満足度などの各側面で総合的な成果が得られる可能性がある。

 これまでDMプログラムのいくつかのケースをみてきたが,紹介したケースはオーストラリアやカナダなど米国とは異なる保健医療システムの国々でも実施されていることが理解される。

 一方,DMは,ある程度まで資源を消費する。プログラムによって,差し引きでヘルスケア資源を節約するか,他の財政援助手段を見つけなければならない。ここでは詳述しなかったが,紹介したプログラムは,製薬企業,DM企業,病院や大学の財団,薬剤師団体,研究所,政府などから財政的な支援を受けて実施していることにも留意すべきである。

 なお,学術文献に何百というピアレビューDM論文が掲載されており,世界中で多様な病状について数千人の患者を管理した経験から得られた知識を発表している。the Disease Management Association of America(DMAA)は,Litfinderと呼ばれる使いやすいデータベースに数百本のDM論文を収録している。DMAA会員はこのサービスを利用できる(www.dmaa.org参照)。また,The Disease Management Purchasing Consortium(DMPC)は,DMサービス仲介機関であり,会員は実用的なDM関連文書(例えば契約書の見本)のライブラリーへのアクセスができる(www.dismgmt.comを参照)。

(参考文献)
1)Llewellyn-Jones, RH. et al: Multifaceted Shared Care Intervention for Late Life Depression in Residential Care: Randomized Controlled Trial. BMJ. 319: 676-682, 1999.
2)Tsuyuki, RT. et al: A Randomized Trial of the Effect of Community Pharmacist Intervention of Cholesterol Risk Management. Arch. Intern. Med. 162: 1149-1155, 2002.
3)Rubin, RJ. et al: Clinical and Economic Impact of Implementing a Comprehensive Diabetes Management Program in Managed Care. J. Clin. Endocrinol. Metab. 83: 2635-2642, 1998.


Gregg L. Mayer氏
1981年カリフォルニア大バークレー校卒。87年同大にてPh. D取得(Physiology)。90-94年慶大・同大学院,国立小児病院研究所研究生。マッキンゼー,カイザー・パーマネンテ他の勤務を経て,95年ヘルスケア経営コンサルタントを起業し,現在に至る。