医学界新聞

 

レジデントサバイバル 愛される研修医になるために

CHAPTER 5
ナースに感謝,コメディカルに感謝(前編)

本田宜久(麻生飯塚病院呼吸器内科)


前回からのつづき】

 われわれ医師は,圧倒的多数の医師以外のスタッフに囲まれて勤務している。ちなみに,当院での職員数は医師が188名。医師以外が1170名である。これまで指導医とのやりとりに焦点をあてて連載してきたが,実は指導医は院内では少数派なのである。

 そして,たとえ指導医への失敗があったとしても,それをフォローするのが指導医の仕事という側面もある。また,患者さんへの失敗は,そんなことがないように指導医がチェックしている。しかし,他の職種の人たちへの失敗は,他人がフォローすることはきわめて困難なのである。

 いい加減だと嫌われるが,完璧主義すぎると周りを許せなくなる。妥協もできなくなる。そのバランスは難しい。

 医師以外の大多数のスタッフと楽しく仕事をするための秘訣が知りたい。少なくともサバイブしていくために必要なことはなんだろうか? またもや,失敗という宝の山から学んでいこうと思う。

ホウ・レン・ソウ〈報告・連絡・相談〉を忘れるな

看護師A「○○さんが不穏です。ベッドから転落しそうで危険です」

研修医「はい,わかりました」

 と訪室。たしかに動きが激しく,治療に支障をきたしている。看護師は別の部屋で処置中で忙しそう。研修医は低血糖や低酸素血症など器質的疾患がないことを確認。ハロペリドールの投与をすることにした。

研修医「みんな業務で忙しそうだな。よし,自分で筋注して,後で報告しよう」

 と○○さんに,自らハロペリドールを筋注し,カルテに記載した。ナースに報告しなきゃと思いつつ,みな忙しそうで,タイミングがうまくとれない。すると,別の病棟から電話。

看護師B「先生,△△さんの状態が悪いので,すぐに来てください」

研修医「はい,わかりました。すぐ行きます」

 30分後……。ポケットベルがなる。

研修医「研修医の□□ですが」

看護師A「先生,○○さんの意識が悪くて,呼吸がおかしいんです」

研修医「あ,30分前に鎮静剤を筋注しました」

看護師A「えっ! 聞いてませんよ!」

研修医「報告しようと思っていたんですけど急に呼ばれちゃって……」

看護師A「いいから,とにかくすぐ戻って来てください!」

 すぐに戻った研修医であったが,ナースステーションでの看護師たちの冷たい視線を感じずにはいられなかった。

コメント

 看護師に伝えたくても,みんな忙しそうで声がかけにくい。しかもスーパーローテーション式の研修で勤務部署があちこち変わるため,看護師全員の氏名を覚えるのも困難な状況である。少し気の弱い研修医ならば,看護師への声かけを難しく感じることだろう。

 しかし,勇気を出して伝えよう。自分の行った医療行為を。カルテに記載するだけでは迅速に伝わらないだけでなく,心の通ったコミュニケーションになりにくい。誤解が生じる元になる。基本は,自ら投与する前に誤薬防止の意味も含めて報告である。

その他の事例

●酸素やカテコラミン投与を研修医が中止。何時から中止したか記録が曖昧になってしまった。

●転院が決まっていたのにもかかわらず,直前まで伝えなかった。「早く教えてください。こちらも看護サマリーとか準備しなくちゃいけないんですから!」と怒られた。

ためぐちは吉凶はかりしれず

 ある日の内科外来。

 ○○さんが気管支喘息発作で来院。吸入,点滴治療でも改善しない。

看護師A「先生,○○さん。これからどうなりますか?」

研修医「ああ。ちょっと待って。Aちゃーん。この人入院ね。心電図とっといてねえ。あ,あと胸のレントゲンもね」

看護師A「はい。わかりました……(なに,この言葉遣い!?)」

コメント

 多くの研修医の年齢は25歳前後と思われ,医療現場の医師以外のスタッフにも同年代は多い。しかし,彼らはすでに新人ではない。明らかに医師になりたての研修医よりも経験豊富である。その中で,年齢の近さゆえにか,親近感を表現するためか,彼らに丁寧語を用いず,友達感覚で話しかける(いわゆる「ためぐち」)研修医を時々みかける。かなり危険である。

 友達感覚でうまくいっている研修医もいる。見ているとうらやましく感じる時もある。しかし,そうではなく,影で「なれなれしい」と思われている研修医もいるのである。さらに異性にボディタッチしようものなら最悪である。セクシャルハラスメントと言われかねない。また,たとえ医療者間でうまくいっていたとしても,それを患者または家族が見た時にどのように感じるだろうか?

 やはり,仕事の場であることを意識して,丁寧語で接するほうが失敗が少ないだろう。

その他の事例

●ポケットベルのコールバック。電話ごしに,「○○ですが。コールがありました」と言っていたが,同僚が「研修医の△△と申しますが,コールをいただきました」と話しているのを目撃してビックリ。反省し,真似することにした。

相手を気遣う催促の言葉。「もう少しお時間かかりますか?」

 ある日の内科病棟。消化管出血の男性。輸血をするべきかどうか判断をするために緊急採血した。しかし1時間後も結果が出ない。検査室に電話をした。

検査技師「はい,検査室ですが」

研修医A「もうだいぶ前に○○さんの検査を出したんですけど,まだですか?」

検査技師「もうすぐ出ますので,すみませんがあと10分ほどかかります」

研修医A「わかりました。よろしくお願いします」

検査技師「はい。すみません……(こいつ何様だとおもってんだ!?)」

 そんな研修医Aは,ある日病棟の看護師と居酒屋に行った。頼んだはずの焼きナスがなかなか来ない。看護師が催促をした。

看護師「すみません。焼きナスを頼んでいたのですが,お時間もう少しかかりますか?」

店員「あ,もうできます。すみません」

看護師「いいえ。よろしくお願いします」

店員「はい。わかりました(笑顔)」

 研修医Aは,そのやわらかい物腰の催促に感動した。以来,催促を以下のように変更した。

研修医A「もしもし,○○さんの採血結果なんですが,もう少しお時間かかりますか?」

検査技師「あ,あとちょっとで出ます。10分以内には」

研修医A「わかりました。では,よろしくお願いします」

コメント

 研修医への周囲の信用はまだまだないが,医師というだけで権力は絶大である。検査をオーダーすれば,そのとおりに検査をしてくれる。過去には糖化ヘモグロビン(HbA1c)を3日間連続で検査してしまった研修医もいた。

 そんな研修医のオーダーをみて,「この検査必要なの?」と半信半疑ながらも指示に従ってくれる場合も多いだろう。すべてのオーダーについて,その必要性を周囲のスタッフに説明できれば理想的だが,それは無理。信用がまだ確立していない中でともに気持ちよく働くためには,いろいろな気遣いの言葉を用意しておきたい。もちろん,言葉ではなく,感謝や気遣いの心が原点である。

イラスト/小玉高弘(看護師)

次回につづく


【筆者略歴】
1973年生まれ。長崎大卒。麻生飯塚病院での研修医時代より院内でのコミュニケーションに興味を持ち,以来事例を集めている。
yhondah2@aih-net.com