第2587号 2004年6月7日


〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第39回

シンデレラ・メディシン(1)
「Extreme Makeover」

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2583号よりつづく

究極の人体改造

 アメリカのテレビ界では,ここ数年,「リアリティTV」と総称される番組が大流行している。リアリティTVの基本は,一般の人をある特殊な状況に置いたときに演じられる脚本のないドラマをドキュメンタリー風の見せ物にすることにあるが,最近,とりわけ人気の高いリアリティTVの番組が『Extreme Makeover』(ABC TV)である。

 題名を直訳すると「究極の改造」となろうが,この番組が改造の対象としているのは「人体」であり,世界最高を誇る米国の美容医療技術を駆使した「究極の人体改造」が番組の「売り」となっているのである。

 番組に出て人体改造の対象となるのは,1万人を越える応募者の中から厳選された「患者」たちである。子どものときに遭遇した事故で鼻が変形したとか,生まれつき唇が分厚いとか,容貌ゆえに「不幸」な人生を送ってきた「ストーリー」を持つ人々に対し,テレビ局が現代最高の美容医療を「無償」で提供,「変身して美しくなりたい」という夢をかなえるのである。

番組の「患者」に選ばれる幸運

 『Extreme Makeover』がどんな番組であるかをご理解いただくために,デシャンテ・ホール(22歳,女性)という,口蓋裂・口唇裂の患者の例を紹介しよう。

 デシャンテは幼少時に4回形成手術を受けていたが,形成は不完全なままに終わっていた。手術を4回受けさせた時点で両親の財力が尽きてしまったからだが,両親にとって左右非対称な顔のまま娘が育つのを見るほど辛いことはなかった。また,デシャンテにとっても,容貌ゆえにいじめられるなど辛い思いはイヤと言うほど味わってきたし,恋愛など自分には無縁のものと諦めきっていた。

 デシャンテにとって『Extreme Makeover』に応募するのは勇気がいることだった。自分の容貌をカメラの前にさらすことなど考えただけでぞっとしたが,「普通」の顔になりたいという思いはそれほど強かったのだった。

 幸運にも番組の「患者」に選ばれたデシャンテは,数週間家族と離れ,ビバリー・ヒルズで美容医療の集中治療を受けることになった。デシャンテを診た形成外科医は,容易な手術ではないが,顔を左右対象にすることができると保証,デシャンテを狂喜させた。口蓋の欠損部は,耳の軟骨を取ってきて埋めるということだった。

 形成外科医は,顔の形成だけでなく,腹部形成手術(通称tummy tuck:下腹部の余分な皮膚や脂肪を取り,腹壁を細くする手術),脂肪吸引(liposuction),腿のたるみを取る手術(thigh lift)など,デシャンテの全身に徹底した改造を加えた。また美容歯科専門医は,歯を真っ白にしただけでなく,デシャンテに,これ以上はないという完璧な歯並びを与えたのだった。

 手術から回復したデシャンテに,テレビ局は,服飾コーディネーター,ヘアドレッサー,メイクアップ・アーティストをつけ,デシャンテの「改造」を完全なものとした。やがて「究極の改造」を済ませたデシャンテが家族や友人の前に現れるお披露目パーティが開かれ,美しく変身した娘を見た途端に両親は感涙にむせんだ……。

「シンデレラ」しかアクセスできない米国医療

 以上が『Extreme Makeover』のお定まりのパターンであるが,「患者」の「前」と「後」の変身ぶりが,美容医療の技術進歩をまざまざと見せつけ,この番組のおかげで,米国における美容医療の需要は急増したと言われている。

 手術室にカメラを入れて,最新の医療技術をリアルに紹介することも番組の人気に貢献しているのは間違いないが,この番組の人気が高いのは,何と言っても,「改造」によって生まれ変わった患者,そして家族の喜びの大きさに,視聴者が純粋に感動するからに他ならない。

 そして,なぜ,患者や家族がテレビを見る人すべてを感動させるほど喜ぶかというと,「高名な形成外科医に手術を依頼するなど,財力を考えたら夢のまた夢」と諦めていたのに,番組のおかげで,無償で夢を実現する幸運を与えられたからに他ならない。「究極の改造」を受けた患者は,よくその幸福感を「まるでシンデレラになったよう」と語るが,番組を見た視聴者も,あたかも,おとぎ話のハッピー・エンディングを読み終えた子どものような幸福感を覚えることになるのである。

 これまでこの連載で何度も書いてきたが,米国医療の最大の問題は,医療を市場原理に委ねた結果,著しい貧富の差別が横行していることにある。財力の乏しい患者にとって,シンデレラのような幸運に恵まれない限り,米国が世界最高と自負する医療技術の恩恵にあずかる道が開かれていないことは,美容医療の領域に限らず米国医療全般の問題となっている。幸運な「シンデレラ」にしかアクセスが許されていない米国医療の厳しい現実を,『Extreme Makeover』に出演する「患者」たちが見事に象徴しているのである。