医学界新聞

 

<インタビュー>

「電子カルテ時代の看護診断」はいかにあるべきか

江川隆子第10回日本看護診断学会会長に聞く


 第10回日本看護診断学会が,きたる6月19-20日,大阪市(大阪国際会議場)において開催される。同会はその前身である「日本看護診断研究会設立総会および第1回学術集会」の開催(1991年)から数えて足かけ15年になるが,その間,「看護診断」の普及に向けて地道な努力を継続し,着実にその成果を積み重ねてきた。

 本号では,第10回会長を務める江川隆子氏(京大/前阪大)にその歴史を振り返っていただくと同時に,今回の開催に当たっての抱負をうかがった。


■「日本看護診断学会」について

「設立総会」の頃

――「日本看護診断学会」として,今回は第10回を迎えることになります。この学会の前身である「日本看護診断研究会」の設立総会と第1回学術集会が開かれたのは1991年ですが,最初にその当時のことをお聞かせいただけますか。

江川 ご指摘のように,当学会の前身となる「日本看護診断研究会」は,1991年6月,大津市において開催されました。

 個人的には,第2回のこの研究会の教育講演で「ノンコンプライアンス」の看護診断について講演させていただいたのが最初です。1994年から世話人にも名を連ねさせていただきました。ですから,第1回の設立総会は,雑誌で大会の様子を知りました。プログラムでは,第1日目に発起人を代表して松木光子先生の挨拶,日野原重明先生の「看護診断に望むこと」というビデオ講義がありました。そして,松木先生の講演「看護診断とは何か」とシンポジウム「看護診断と看護教育」が行われました。

 2日目には,「看護診断:悲嘆」,「看護診断:ペアレンティングの変調」,「看護診断:恐怖と不安」,「看護診断と看護理論」の4題の教育講演の他,「看護診断にどう取り組むか」というパネルディスカッションが企画されていました。確か,当時から3000人を超える参加者が得られ,盛会だったように記憶しています。

第10回日本看護診断学会プログラム
【会長講演】
 看護の質を高める看護診断(京大・江川隆子/前阪大)
【招聘講演】
 (1)看護情報科学の変遷とICNPの妥当性検証(Norma M. Lang)
 (2)世界の看護情報科学と米国における電子カルテの現状(Roy Simpson)
 (3)看護情報科学における看護診断の役割(Marjory Gordon)
【教育講演】
 看護情報システムと看護診断を支える看護研究(日赤看護大・中木高夫)
【フォーラム】
 電子カルテの運用と看護診断
【徹底生討論会】
 電子カルテ時代の看護診断(Marjory Gordon,Norma M. Lang,Roy Simpson他,<司会>青森県立看護大・新道幸恵,中木高夫)
【交流セッション】
 (1)看護診断と標準看護計画とのリンケージを可能とするシステム-不安・急性疼痛,(2)ウェルネス型看護診断と母性看護
【事例セッション】
 看護診断思考過程ケーススタディ(1)(2)
【データベース・セッション】
 看護診断のためのデータベース作成過程

今回の学会の特徴

――今学会の特徴はどのようなところにあるのでしょうか。

江川 今回は「電子カルテ時代の看護診断:Nursing Diagnosis in EPR(Electronic Patient Records)Era」というメインテーマを掲げました。

 ご存じのように,現在はカルテの電子化の格段の普及という状況があります。カルテの電子化のためには,「共通用語」が不可欠となり,その「共通用語」として役割を担うのは「看護診断」になります。

 そこで今回は,臨床場面において看護診断がどのように活用されているかを考えようと思います。具体的なプログラムとしては,まず「看護情報科学の変遷とICNPの妥当性」,「世界の看護情報学と米国における電子カルテの現状」,「看護情報科学における看護診断の役割」という3題の招聘講演を設け,看護診断とはどういうものか,またアメリカでは看護診断はどのように活用されているのか,その現状と課題をお話しいただきたいと思っています。

 次に,わが国で実際にどのように導入されているかという問題について,フォーラム「電子カルテの運用と看護診断」を設けました。ここでは,わが国の中でもきわめて早い時期に看護診断の導入を試みた施設の方々にご参加いただいて,「カルテと診断の合体」という観点から,その現況・問題点を報告していただきます。また,このフォーラムには厚生労働省の方のご出席をお願いして,行政・政策面から看護診断をどのように活かすかという問題を論じていただきたいと思います。

 これらの講演やフォーラムを通して,「電子カルテ時代の中でどのように看護診断を活かすか」,また「活かすべきか」というメインテーマを総合的に論じていただきたいと思います。

 それから,電子カルテということになりますと,「データベース」ということも考察の対象にしなければなりませんので,「看護データベース作成過程」という事例セッションを設けました。従来は,「看護診断の導き方」というセッションはありましたが,このセッションはおそらく初めての試みだと思います。また,用語検討委員会が中心となった「研究委員会交流セッション」を設けて,実際に看護診断を使っている方々と研究者との議論を展開していただきたいと思っています。

 総合的に見ますと,知識と臨床場面における看護診断の活用という意図が十分に盛られるように工夫しました。

資料 日本看護診断学会のメインテーマ
第1回:看護診断の発達と課題
第2回:実践にいかす看護診断
第3回:クリティカルに進めよう看護診断を
第4回:看護診断の発展をめざして
第5回:21世紀への新しい看護の挑戦-看護診断-介入-成果のリンケージ
第6回:高齢社会でHUBとしてはたらく看護診断
第7回:21世紀-看護診断・介入・成果の実証
第8回:看護診断と情報科学-ケアとテクノロジーの出会い
第9回:看護診断-看護の共通言語確立への貢献

■「NANDA」に参加して

今年のNANDAに参加して

――日本看護診断学会の開催に先立って,NANDA(北米看護診断協会)の年次総会にご出席されたとお聞きしました。そちらの様子はいかがでしたか。

江川 参加者が増えたというのが第一印象です。特に私たちも含めて外国(21か国)からの参加者が増えて,国際的になったように感じました。それから,一般演題(66題)とポスター(31題)をも含めて発表数も増えました。その点でも,非常に国際化されたように感じます。

 今回のプログラムの特色としては,開発法の整合性を整えるために,「NOC(Nursing Outcomes Classification)看護成果分類」と「NIC(Nursing Intervention Classification)看護介入分類」との関係で,新しい診断法の検討がありました。

さらに進んだ国際化

――わが国の看護診断学の状況は,国際的な視点からどのような位置づけにあるのでしょうか。

江川 国際的な観点からも導入が大変進んでいるように思います。

 先ほど国際化と申しましたが,フランスでは,看護診断が看護用語として導入されたと聞きましたし,会員数はむしろヨーロッパのほうが多いですね。

 そして2年に1度,ACENDIO(the Association for Common European Nursing Diagnosis, Intervention and Outcome)のカンファレンスがアメリカからの参加者を交えて開催されています。

■「日本看護診断学会」の今後

「第10回学会」を迎えて

――今回は第10回という記念すべき学会となりますが,これまでの歴史を振り返ってみてどのように感じられますか。

江川 ここに学会となってからのメインテーマの記録がありますが(1面資料参照),これを見るだけでも,この間の経緯や変遷が感じられ,感慨深いものがあります。

 看護診断学会は,ややもすると,「看護過程」とか「成果」という視点から,看護診断を頭の中で知識として,学問として捉えがちではなかったかと思います。しかし今後は看護診断が,知識の上だけでなく,看護の実践場面において主役であること,また主役になるべきであることを表明すべき時代に来ているように思います。

 その意味でも,看護診断を学習するだけでなく,看護診断が着実に,また正確に使われているのかということを検証し,さらには今後主流になるべきだということを検討すべき時代を迎えているようにも思います。また,看護ケアの中で看護援助を「質的評価」だけでなく,「絶対評価」ができる方法論として「看護診断」があると思います。そのことに私たちは気づくべきであり,専門家として「絶対評価」が得られるように実践の中に活用すべきであると思います。

――普及が進んだとお感じになりますか。

江川 普及という面では,確かに急速に普及したと言えると思います。ただ,残念なことに今申し上げたように,あやふやな使われ方が散見されるようにも思います。

 特に今回のメインテーマとの関連で申しますと,電子カルテの時代になりますと,患者さんや家族の方だけでなく,他の医療職者である第三者にも見ることができます。したがって,従来よりもはるかに高い透明度が要求されることになります。そういう意味で,より正確に使う必要があります。その面からもターニングポイントとなるべきであり,またすべきだと思います。

今後の展望

――最後に,今後の展望をお聞かせいただけますか。

江川 まず,日本の文化に合わせた看護診断,日本から発信した看護診断の開発に努めるべきだと思います。167の診断をわが国で使えるかどうかを検証すべきだと思いますし,これは学会が中心となってやるべきだと思います。

 わが国の看護教育の水準もかなり高くなってきていますので,研究面からもそれは可能だと思います。それは会員に対する義務であるとも思います。

 もう1つは,診断ができたということは,治療方法を見つけなければならないことになります。今のケアの中から看護治療法を抽出するか,あるいは新しい方法を開発しなければならないと思います。

 その意味で今後の10年は,従来の診断方法を改良するとともに,看護治療法の開発に全力を投入すべきだと思います。治療法が開発できないならば,診断は無駄になりますし,絶対評価もできません。その点からも,日本独自の看護治療法の開発に努めるべきだと思います。

――どうもありがとうございます。