医学界新聞

 

医師国試――今年の傾向と今後の対策

内片健二(山梨医科大学医学部卒)


 4年ごとに改訂される出題ガイドラインの最後の年に相当した第98回医師国家試験は,単なる到達度評価にとどまらないさまざまな「試行」に満ちた試験だったといえそうです。難易度が増し,例年になく受験者の評価が差別化される試験でした。「パターン認識的問題」から「その場で考える問題」へのシフトはさらに進んでおり,“過去問を解けるようにする”という「国家試験のためだけの机上の勉強」だけではますます通用しなくなった感があります。

キーワードは「プライマリ・ケア」と「主治医としての役割」

 ガイドライン改訂後の第95-97回の国家試験で顕著になってきた特徴を私なりに整理するなら,キーワードとして「プライマリ・ケア」と「主治医としての役割」をあげたいと思います。common diseaseあるいはcommonな主訴への対応を問う,診断というより病態を考慮しそれに対する対処を問う,身体診察や医療面接の技能を問う,告知やターミナルケアといった場面で患者の感情面への配慮を問う,といった問題に力点が置かれるようになってきました。

 第98回医師国家試験では,この傾向は一層顕著になったといえます。さらに新たな特徴として,臨床問題がより重視され,しかも難易度が増したこと,必修問題も同様に難しくなったことがあげられます。

 今年は,問題数が550問から500問へ減りましたが,その背景としてB問題が臨床問題になりました。また,求められる知識も一歩突っ込んだ内容(例えば,皮膚が紅潮しチアノーゼを起こさない中毒の代表といえば一酸化炭素中毒ですが,問われたのはシアン化水素中毒でした)のものが目立ちました。出題形式についても,例年は臨床問題のC問題だけでみられた“自由に2つの選択肢を選択させる出題形式”の問題が,A, B, D, I問題でもみられ,それが全体の6分の1程度を占めていました。

 必修問題についても,例年ですと容易に正解を選択できるレベルであったものが一転し,選択に迷う設問が数多くみられました。実際,合格発表の際のアナウンスによれば,複数正解を認めたり,採点除外等の取扱いとした設問が,必修問題だけで7問もありました。

 このように,総じて設問の難易度が増し受験者の評価が差別化される背景には,新たなガイドライン作りや,出題形式の模索といった出題者の意図が見え隠れします。もしかしたら,卒後研修義務化やマッチング導入と絡めて,“研修医や研修プログラムの評価のデータベース化”といったことも視野に入れているのかもしれません。しかしながら,私が感じた出題の意図の最たるものは「もっと学んでほしい」というメッセージであったと思います。

国試対策の秘訣は「臨床実習」と「ケーススタディ」

 では,難易度が増す国家試験対策の秘訣は何でしょうか。私が強調したいのは,「臨床で求められる実践的な知識や技能の修得をめざす」という点です。具体的には2つ,臨床実習に積極的に臨むこと,そしてケーススタディをおすすめしたいのです。

 臨床実習に臨む姿勢として大切なことは,「研修医の予行演習」を想定することであり,さらにいえば,自分が「意志決定のプロセス」を担えるかどうか,と自問しながら参加することではないでしょうか。参考までに,臨床実習に臨む際に私が着目したポイントは大きく3つありました。各科のカバーする領域を知る,commonな疾患へのプライマリ・ケア医としての対応を学ぶ,そしてその科へコンサルテーションする際に配慮する点を教えていただく,というものでした。

 ケーススタディでは,患者の主訴にはじまり,問診,身体所見,鑑別診断(医師の行動の源といってよく,これを幅広くあげられるようになることが最も重要な到達目標だと考えます。),検査,診断,治療,そして効果判定のプロセスを疑似体験するわけです。ケーススタディのよいところは,最終的な診断名の疾患だけにとどまらず,考慮した鑑別診断を除外するプロセスを通して,1つの症例から実に多くの疾患について,対比しながら学ぶことができる点があげられます。

 蛇足ながら,実りあるケーススタディのコツは,「インプットを増やす」というよりも「アウトプットを増やす」というパラドックスに気づくことではないでしょうか。例えば,鑑別診断のリストを考えるうえで大切なのは,より多くの疾患をあげたリストを入手することではなく,自分がどれだけの疾患をあげられるか,という点を重視するのです。さらにこのとき,commonなもの,致死的・緊急性を要するもの,治療法が存在するもの,見逃しやすいもの,といった切り口で疾患を整理することができれば,学生の間に準備しておく到達レベルとしては申し分ないと思われます。

国試を生涯学習の一歩に

 最後に,この原稿のタイトルとはかけ離れてしまうかもしれませんが,この新聞の読者は日頃から積極的に学習している方が多いだろう,という予想のもとに,個人的な体験を踏まえたメッセージを述べます。国家試験は受験者のほぼ9割が通る試験であり,「合格するレベル」は比較的容易に到達できると思います。何年もかけて,何回も過去問を解いている同級生をみていて歯がゆく思ったことは,膨大な時間が国家試験のためだけの勉強に費やされているということでした。思う存分机へ向かうことのできる時間は,卒後にそう確保できるものではありません。「国家試験のためだけの勉強」から「生涯学習の一歩」を踏み出していただきたい,というのが私からのメッセージです。例えば,内科ならいずれ読むことになるワシントンマニュアルやハリソンといった教科書を読破するまたとない機会です。これまで続けてこられた創造的な学びを,国家試験の直前まで続けていただきたいと思います。

 みなさんの学生生活が実り多きものになりますように願っています。そして,国家試験に合格後は,ともに日本の医療をよりよい方向へ変えていきましょう。