第2584号 2004年5月17日


新たな内科学のあり方を模索

第101回日本内科学会開催


 さる4月8-10日の3日間にわたり,第101回日本内科学会が,溝口秀昭会頭(東女医大教授)のもと,千代田区の東京国際フォーラムにおいて開催された。昨年100周年を迎え,新たな一歩を踏み出す今回,「新しい時代の内科学-コミュニケーションと温かさ」をテーマとして,パネルディスカッション「良質の医療を求めて」など,医療の質向上を実現するにはどうすればよいかが議論された。

 また,日本内科学会のホームページ上(会員専用サイト)で学会終了後3か月間,すべての講演を視聴することができるなど,新しい試みも行なわれている。


貧血の多様な病態

 会頭演説では,溝口氏が「貧血の病態と治療-最近の進歩」と題し,特に女性に多く見られる鉄欠乏性貧血などについて講演した。

 氏はまず,鉄欠乏性貧血の原因として,出血や成長に伴う鉄分の必要量の増加,および食生活の変化による鉄分不足をあげた。そして,これらの中には,消化管出血やジョギングなど激しい運動による溶血というような,一見わかりにくい原因も含まれていることを指摘した。

 鉄欠乏性貧血の症状としてはいわゆる貧血症状だけでなく口角炎,匙状爪,異食症などが知られているが,氏が女子大学の新入生を対象に行なった調査では,鉄欠乏性貧血と診断された学生(全体の8.2%)において「朝起きにくい」「肩や首がこる」などの回答が有意に多く,これまで貧血の症状と考えられていなかった不定愁訴が,貧血によるものである可能性も示唆された。

 こうした鉄欠乏性貧血の治療としては鉄剤の投与が一般的であるが,氏は「原因をはっきりとさせ,それに応じた治療・指導が重要」と述べ,生活環境の改善なども含めた治療の必要性を強調した。

家庭血圧計の臨床応用

 教育講演に登壇した今井潤氏(東北大)は「これまで家庭血圧計による高血圧診療はなかった」と述べ,家庭血圧計による自己測定の利点として「統一された条件下で長期にわたって測定でき,再現性が高い」,「白衣性高血圧の診断に不可欠」,「降圧薬の薬効評価に有効である」ことをあげた。

 しかし,外来血圧と異なる家庭血圧については診断基準が存在しなかったため,日本高血圧学会は昨年「家庭血圧測定条件設定の指針」を発表。起床後,就寝前の1日2回測定を一定期間続け,平均値をそれぞれ別個に評価すること,家庭血圧135/85mmHg以上ならば確実な高血圧として降圧治療の対象とすることなどが盛り込まれている。

 氏は「家庭血圧計による降圧目標レベルの設定は大規模介入試験の結果を待たなければならない」と述べ,現在進行中の「HOMED-BP Study」
http://www.cpt.med.tohoku.ac.jp/HOMED-BP)を紹介。多くの臨床内科医の参加を呼びかけた。

■良質の医療は患者の視点から

 パネルディスカッション「良質の医療を求めて」(司会=日大 堀江孝至氏,東大北村聖氏)では,教育,安全,システム,質の評価などの観点から,6人の演者による発表が行なわれた。冒頭に司会の北村氏が「現在ほど,社会が医療の質に注目している時期はない。国民が医療に対して不信を持っている面もあるが,逆に言えば期待の表れだ」として,学会として,サイエンスだけでなく社会のニーズに応えるかたちでこうしたディスカッションをしていく必要があると,本企画の趣旨を述べた。

病歴と身体所見で,検査前確率の考察を

 最初に演台に立った赤津晴子氏(ピッツバーグ大)は,日米の医学教育を比較。米国の特徴として,臨床医養成と医科学研究者養成をはっきり区別し,その2つが同等の位置を占めている点をあげた。一方で日本は,「医科学研究の推進」が医学部の中核となっており,臨床教育が立ち遅れているのではないかと指摘。さらに,「社会は研究者よりも優れた臨床医を多く必要としているのではないか」と問題提起した。

 松村理司氏(洛和会音羽病院)は「卒前・卒後教育では研究者的医師よりも臨床医教育者,専門医よりも一般医が指導に当たるのが望ましいが,この層が日本では実に乏しい」と実情を明らかにした。では,どうして研究者よりも臨床医が教育者として必要とされるのか。氏は,日本の症例検討は,幅の狭い病態生理学的考察に終始しやすいとして,「基礎に据えるべき臨床疫学的考察に欠けることが多く,特に研究者にその傾向が顕著だから」と説明した。そして,検査所見が華美になりがちな傾向を改め,病歴と身体所見を重視し,検査前確率に執着する訓練を卒前・卒後に徹底的に行なうべきであると強調。「検査前確率の考察を軽視する風潮は,日本の臨床医学の未熟さの最大の要因である」と述べた。

 鮎澤純子氏(九大)は事故防止・安全管理の取り組みについて,「体制は整いつつあるが,混乱も多い」とし,見直しのポイントを数点示した。中でも,現場に浸透している報告書の形式については,「本当に必要な情報を集めることができているか」と目的の再確認を促した。氏によれば,米国においては,「何でもいいから出してください」といった情報の集め方では限界があるとの結論に達しつつあり,項目を決めて情報を集めていく方式が見直されているという。この場合は決められた項目しか情報が集まらないデメリットがあるが,「そもそも報告書で必要な情報がすべて集まるだろうか」と述べ,日本の報告書も見直しの時期に来ているのではないかと分析した。さらに問題提起として,事故防止・安全管理のための体系的な教育プログラムが必要であると述べ,チーム医療の観点から,さまざまな職種との連携を図りながら構築していくのが望ましいとした。

ガイドラインは医療の質を保証するか

 川渕孝一氏(東医歯大)は医療経済と医療の質の観点から,DPCやクリニカルパスの現状を報告。DPC対象病院の医療費の伸びがその他医療機関の医療費の伸びよりも大きいことが最近明らかになったが,氏はそれに関して,医療費の適正化という厚労省の狙いが外れたのではないかという見方を示した。また,DPC対象病院では(今までどおりの出来高払いである)外来シフトが進んでいることが,数値のうえでも示されたと付け加えた。また,DPCを用いた病院比較の実例を示し,医療の質を図る指標としての活用の見通しを述べた。

 名郷直樹氏(横須賀市立うわまち病院)は,ガイドラインの普及と医療の質について自説を展開した。症例をガイドライン通りに治療した場合を想定し,それでもなお不確実なことが多いとして,「ガイドラインの推奨度(グレード)は誰にとっての推奨度か,わからない中で推奨度Aだけがひとり歩きしているのでは」と言及。医療の判断は決められないことを決めるという困難なものでEBMは道具の1つに過ぎないこと,患者が医療を受けないという選択肢もあることを含めて,医療の個別性を忘れてはならないことを主張した。

 最後に登壇した司会の北村氏は,医療の質の測定をテーマに口演。医療の質の測定を分類すると,アウトカム評価(例:生存率,退院時満足度)とプロセス評価(患者確認,試薬の管理)に分けられること,一方で,医学的なもの(生存率,検査値の正確さ)と医学的でないもの(患者満足度,病床稼働率)という分け方もあることを紹介。医療の質の評価は,これら4つの組み合わせを網羅したものがいいとした。また,米国で用いられているメディカル・インディケーターと呼ばれる指標を紹介し,「入院時のHbA1cが8%以上の患者のうち,退院6か月後にHbA1cが7%以下になった患者の割合」など細分化された指標による調査が日本でもはじまっていることを報告した。

 その後行なわれたシンポジストによる討論では,「研修医の医療安全を守るために,もう一度,チーム医療のあり方を見直さなければならない」という意見が出された。中でも北村氏は「患者を安全のためのリソースに」という鮎澤氏の発言に共感を示し,患者参加型の医療安全の重要性を強調した。最後に司会の堀江氏は,「良質の医療を求めるには多面的な取り組みが必要だが,基本になるのは患者の視点である」として議論を締めくくった。