第2576号 2004年3月15日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


初心者からベテランまで,心臓弁膜症の最新知見を楽しく学べる

心臓弁膜症の外科 第2版
新井達太 編

《書 評》米田正始(京都大教授・心臓血管外科)

豊富な経験を持つ実力派による執筆

 とにかく読んで楽しい本なのである。実際に拝読する前は,正直なところ和製教科書にはあまり関心がなかった。これまでもよい和製教科書はいくつかあったとは思うが,海外の本格派と比べると初心者向けの感がぬぐえなかった。あるいは和製ものは一般に視野がどこか狭いとか,手術の名人が書いているとは限らないと言う友人もいて,自分でも何となく納得し和製教科書は研修医蔵書をICUなどで拝借して,ぱらぱらとページを繰る程度にしか読んだことはなかった。
 ところがこの教科書は初心者にわかりやすく親切なだけでなく,すでにたくさんの弁膜症手術をこなした人間にもおもしろく役立つのである。執筆者は経験豊富な実力派の方が多いし,図はプロフェッショナルで美しい線画に慣れた目にはあまり見事とは言えないが,逆に著者の生の手術記事を見せていただいている感が強く,内容重視の観点からは好感さえ与えてくれる。おそらく読者には弁形成・弁置換を問わず自分の経験と比較して散漫になっている知識が整理されたり,ちょっとした疑問点を説明してくれたり,時には自分がすでに旧式としてやめた方法が工夫改良して使われているのを見ては悦に入ったり,温故知新で再認識したり,熱心な達人には自分にも一日の長があると勇気づけられたり,その方の経験実力に応じたよい勉強になるであろう。私どもがお世話させていただいている生体弁研究会のシンポジウム・ライヴ手術に参加しているような楽しさがそこにある,と言えば我田引水であろうか。
 日進月歩の医学の中で弁膜症外科もまた進歩が速く,細部にまで最新の内容を維持するのは大変なことであるが,この書はそれを教科書レベルでは十分に達成しているように思われる。中には合併症のため早々に使われなくなった術式もあるが,これは次回の改訂で整理されるであろうし,ハリソンなどにも記載されているように時代の流れを考えながら読むのは医学書を読む時の原則であるため,正しく読みさえすれば何ら問題ないであろう。

海外の一流教科書にも肩を並べる

 教科書としての基本使命,たとえば病態生理や手術・治療の適応および短期・長期予後検討なども紙面の許す範囲できちんと記載されていて偏りも少ない。友人に聞けばこの教科書の前版(私は長期留学に出ていたこともあり読む機会が最近までなかった)も評判がよかったとのことで,そのよさを継承しながら新機軸を積極的に盛り込まれたようである。余談ながら,編者の新井達太先生がご退官後も学会に熱心に参加され,ディスカッションを楽しんでおられる最大の理由が理解できたように思える。
 そういうわけで,この優れた弁膜症外科教科書の新版は,初心者からベテランまでわかりやすく楽しく弁膜症治療の新しい知見を手術テクニックとともに学べる,あるいは立ち止まって考える場を提供してくれる優れものである。新井先生と執筆の諸先生方のご努力によって,海外の一流教科書に比肩するレベルに達したと思うのは私だけではないと信じる。ぜひ多くの方々に読んでいただきたく,ここにご推薦申し上げたい。
B5・頁648 定価(本体27,000円+税)医学書院


他科専門医や研修医が循環器診療を理解するために

循環器疾患治療スタンダード
田邊晃久 編

《書 評》村山正博(横浜市スポーツ医科学センター長)

「勝負が早い」循環器診療

 俗にいう治療シリーズは種々雑多,書店に行けばすべての疾患を網羅した大冊からハンドブック型のものまで各種各様あり,選択に躊躇することが多い。
 この度上梓された「循環器疾患治療スタンダード」は実地医家または循環器診療に十分な経験を有していない他科専門医や臨床研修医向けの実戦的な書といえる。なぜならば,本書の特徴は「専門医に紹介するタイミング」,「専門医からのワンポイントアドバイス」にあると見たからである。
 循環器診療は「勝負が早い」ことにより昔から非専門家からは敬遠されがちであり,ややもすれば専門機関への紹介のタイミングを失することの多い領域である。正確な診断が付くのを待つより,時間を惜しむことを優先する状況は多く,本書にも「いわゆる“ハズレ”を恐れてはならない」,「過剰な診療,誤診を恐れずに医師の決断に要する時間を短縮する」といった記載が見られるのも,そのような背景があるからである。

循環器病学のトップリーダーが編集

 編集者の田邊晃久教授は若い頃から何に対しても積極的で診療に真摯な専門家であった。特にホルター心電図を武器とした不整脈領域はその草分けの1人であり,また虚血性心臓病診療にも詳しい。実験から診療まですべて自分で企画し,独力で行なって来られた方である。今や循環器病学のトップリーダーの1人となられたことは,古くから教授を知る私にとっても心強いことであるが,その人が編集された書であるから自信を持ってお薦めしたい。
 私も似たようなシリーズの編集に携わった経験があるが,取り上げる疾患と執筆者の選定に苦労したものである。この種のシリーズの昔のものを取り出して見ると,今更ながら日常診療上,遭遇することの多い病名の変遷に驚くが,本書に記載されている病名でまず困ることは少ないと思う。本書の性格上,急性期の対応に関する記載が多くなるのはやむを得ない。執筆者の選定は,おそらく,田邊教授が日頃から親交があり,その臨床能力と人柄を信頼している方に依頼をされたものと思う。私はすでに現役を引退した身であり,最近の診療事情に詳しくないが,いずれも要を得た明快な記載で「私もこうするであろう」,「なるほど,こういう新しい治療があるのか」といった感想を持ちながら目を通した次第である。
 本書の使い方は,「どういう疾患・病態か」と「専門医に紹介するタイミング」をまず見てから,時間があれば「治療に必要な検査と実際」,「治療の実際」に戻る手もある。出版社の総合医学社の意気込みは,「本書を2年ごとに改訂し,ロングセラーになるよう努力する」とのことであるので,日進月歩の本領域における改訂の内容を楽しみにしたい。改訂の折には本書を使った読者からの質問を受け付け,ワンポイントアドバイスを加えるのはいかがかと思ったりもする。
 手頃な書であるから,これからはじまるシリーズを2年ごとに揃えていくという手もあろう。診療デスクの上に1冊購入をお勧めしたい。
B5・頁352 定価(本体7,300円+税)総合医学社