第2575号 2004年3月8日


〔寄稿〕

米国のパスから学ぶ周術期管理

竹末芳生(広島大学大学院助教授/外科学)


 米国では,1990年当時は結腸切除における入院期間は2週間前後であったが,1990年代おわりには約1週間になった。これは包括医療(DRG/PPS)のためコスト削減目的で入院期間短縮の努力がなされたからである。
 手術部位感染(surgical site infection:SSI)を発症すれば,入院期間が1週間延長し,コストも3000ドル余分にかかると報告されている。そのため米国における術後管理は入院期間短縮を意識し,EBMに基づいたSSI対策が行なわれ,伝統的に行なわれてきた術後管理の見直しがなされた。
 その実施の効率的手段としてクリニカル・パスの導入があげられる。クリニカル・パスにより,結腸手術では入院期間1週間から5日へと,約2日間短縮し,円換算で約30万円のコスト削減になることが報告されている。
 CDC(米国厚生省疾病管理・予防センター)のSSI予防のガイドラインではEBMに基づいた対策が述べられ,日本でも多くの雑誌等で紹介されているが,実は米国で実際に行なわれている周術期管理について,あまり具体的には述べられていない。これはRandomized clinical trial(RCT)による証拠が必ずしもすべての管理について証明されているわけではないためで,実際の臨床に応用されているクリニカル・パスを参考にすることにより,米国の医師がどのように考え(本音),管理を行なっているのか,米国の実情がわかってくる。

■知っておきたい術後対策 8つのポイント

胃ゾンデのルーチン使用――迷信(ポイント(1))
 術後胃ゾンデは日本では消化器手術においてルーチンに用いられることが多いが,Cheathanらは20の臨床試験のメタ分析を行ない,非使用の肺炎,無気肺のrelative riskはルーチン使用と比較し約半分になることを報告している。また危惧される誤嚥に関しては,相対リスク0.95で差を認めていない。嘔吐は約1.5倍に増加するが,実際の胃ゾンデ挿入は7.1%に留まっている。ルーチン使用の場合でも2.4%再挿入されたことを考慮すると,胃ゾンデ使用は必要ないと結論されている。
 また,1994年に米国の結腸・直腸専門医を対象として行なわれたアンケート調査では,胃ゾンデをルーチン使用している外科医は約30%であった。
 一般的には,麻酔覚醒後,回復室で抜去されるが,表のクリニカルパスでは,術翌日,24時間の排液量が700ml/以下なら抜去するとしている。

表 Jefferson Medical Collegeにおける7日間入院プログラム(結腸手術)
術前日 入院.腸管処置
手術日 予防抗菌薬3回で終了.圧縮ブーツ,スーフル(1時間毎)
術後1日目 胃ゾンデ抜去(<700cc/24h).介助下に歩行,電解質,血糖,腎機能
術後2日目 流動食
術後3日目 尿留置抜去,硬膜外/PCA中止.介助なしで歩行,シャワー
術後5日目 常食,点滴中止
術後6日目 退院

術後腸管麻痺対策
 米国では,いかに早期に術後腸管麻痺を改善するかが,入院期間短縮のポイントとされている。
a.術後早期食事開始(ポイント(2))
 術翌日より経口摂取を開始する群(Early feeding)と,腸蠕動音を確認してから食事開始する群(Traditional feeding)で比較したところ,排ガス,排便,常食摂取時期は7つのRCTのうち3つでEarly feedingで早期であった。Cutilloらは排便までの期間がTraditional feedingでは約90時間,Early feedingでは約70時間であり,有意の差を認めたことを報告している。
 米国は,「腸管が動いて食べさせるのではなく,食べさせないから腸管が動かないのだ」という考え方である。これは腸管-腸管反射の刺激,腸管ホルモン分泌刺激による効果であり,BehrnsらはRCTを行ない,Early feedingにより入院期間を1.7日短縮したことを報告している。
b.早期離床(ポイント(3))――身体を動かすと腸も動く?
 Waldhausenらは術後患者において腸管筋電図測定を行ない,歩行前vs歩行後と,歩行開始時期術後1日目vs4日目,での比較を行ない,いずれも小腸・大腸運動の差を認めなかったことを報告している。このように早期離床は術後腸管運動回復とは直接の関係ないとされているが,深部静脈血栓症,肺炎,筋萎縮予防効果は推察されており,大切な術後管理であることは間違いない。
c.胸椎硬膜外麻酔(ポイント(4))
 局所麻酔薬を使用した胸椎硬膜外麻酔による術後の除痛は,腸管運動早期回復に最も有用な対策とされている。全身オピオイド(ペンタジン,フェンタネスト)使用例との比較で排便・排ガスが早期に認められることが,多くのRCTで証明されている。これは胸椎硬膜外麻酔による交感神経反射をブロックする効果があるためで,またオピオイドは腸管運動抑制作用が報告されている(オピオイドを抑制するナロキサンは腸管運動亢進)。また局所麻酔薬のみと比較して,硬膜外にオピオイドを使用した場合でも腸管運動は抑制されることが報告されている。

ドレーンは,もし必要なら,閉鎖式を用い,早期に抜去(ポイント(5))
 ドレーン使用は感染の危険因子とされている。日本では消化器手術ではほぼルーチンにドレーンが使用されているが,米国では臨床研究により待機的胆嚢摘出術,肝切除術,結腸切除術では,ドレーンは適応とならないとされている。直腸癌手術,膵手術,拡大郭清などハイリスクに限ってドレーンを使用することが勧められている。
 SSIは閉鎖式ドレーンと比較し開放式で有意に高率となることが,多くのRCTで証明されている。閉鎖式ドレーンの問題点として詰まりやすさ,材質の堅さがあげられ,長期留置には向かない。日本では縫合不全が起こった場合のドレナージ路としてドレーンをとらえており,1週間前後留置されることが多く,このことが日本で閉鎖式の導入が遅れている原因と推察される。一方米国では,ドレーンは感染の原因となる血液などのドレナージ目的であり,排液量が少なければ術後48時間で抜去される。縫合不全発症時にはCTガイド下ドレナージで対応する(超音波ガイド下ドレナージは骨に囲まれる骨盤内や,腸管ガスがあるところでは実施困難)。
 このようなドレーン使用法を行なうことで,術後のガーゼ交換も少なくなり,医療従事者からの感染の機会も減少する。CDCでは標準予防策で創部処置の際の手袋着用や手指消毒を勧めているが,病棟でのガーゼ交換自体を減らさなければ,基本的な院内感染対策である標準予防策の励行も困難となってしまう。

予防抗菌薬は術後24時間まで〈米国〉vs 72時間以内〈日本〉(ポイント(6))
 米国において,予防抗菌薬は手術開始時より術後数時間まで,適切な抗菌薬濃度を維持すればよいとされており,原則として術後24時間を越えての投与は認められていない。結腸手術臨床研究のメタアナリシスでは複数回投与と比較し,1回投与の術後創感染発生率オッズ比は1.17(95%CI, 0.90-1.53,P=0.92)で差を認めていない。実際2000年の米国結腸直腸外科医学会のアンケート調査では予防薬2回投与がもっとも多かった。ちなみに日本での2002年のアンケート調査では72時間以内に留めている外科医が30%を占めた。
 長期投与は結果として術後感染菌を耐性化させると考えられており,Harbarthらは冠動脈バイパス手術2641例を対象とし,長期予防(≧48時間)で短期予防(<48時間)と比較しSSIのリスクは減少せず(オッズ比1.2,95%CI0.8-1.6),有意に獲得耐性リスク増加(オッズ比1.6,95%CI 1.1-2.6)を示したことを報告している。
 注射用抗菌薬の売り上げランキングをみると,日本では予防抗菌薬が1位,3位を占めているが,世界ではやっと6位に第一世代セフェム薬が入ってくる。この理由として,日本における予防抗菌薬長期投与ならびに高価な予防薬の選択があげられるが,予防効果の優位性が証明されない限り,安価で副作用の少ないものを選択することが勧められる。日本でもPharmacoeconomicsについて今後真面目に取り組んでいくべきと考える。

術後48時間以上経過すれば,滅菌ガーゼによる創被覆の必要性,シャワー,入浴の規制に関するエビデンスはない(ポイント(7))
 創ケアの考え方もアメリカと日本では大きく異なる。日本では抜糸までの1週間ガーゼ交換が行なわれるが,CDCは1期的に閉鎖された創部を48時間以上被覆する必要性を認めていない。糸がついたまま直接下着を着てもよいとされている。48時間経過すれば,針穴から細菌が侵入する心配はない。またシャワーも早期から行なわれる。前述のドレーン早期抜去と併せ,術後48時間後にはガーゼ交換がすべてなくなってしまう。

血管炎やカテーテル関連感染防止のため,72-96時間で末梢血管のカテーテルを入れ替えローテーションする。ヘパリンによるロックは末梢では必要ない。生食で行なう(ポイント(8))
 日本では,末梢血管カテーテルは血管炎になってから交換されることが多い。そのため血管がつぶれ,入院期間が長引けば点滴確保に難渋するようになる。末梢といえども血管炎は合併症であることを認識する必要があるのかもしれない。以前72時間サイクルであったが,最近96時間でも血管炎発生率に差がないことが証明された。
 中心静脈ではヘパリンロックは必要であるが,末梢では生食ロックでよいとされている。しかし血液の逆流に注意してロックを行なわないと詰まってしまうこともあるので注意が必要である(とくにneedleless deviceの場合)。

■知っておきたい術前・術中対策

術前対策のポイント

手術患者全例に対するムピロシン軟膏鼻腔内塗布は勧められないが,保菌患者を除菌すると黄色ブドウ球菌による院内感染を予防できる(SSIに対する効果は不明)。
 黄色ブドウ球菌保菌はSSIリスク因子であり,ムピロシン軟膏で黄色ブドウ球菌は除菌される。しかしムピロシン軟膏でSSIが減少したとのエビデンスはなかった。
 Perlらは黄色ブドウ球菌保菌の有無にかかわらず手術患者3864例を対象としRCTを行なった。黄色ブドウ球菌によるSSIは,ムピロシン軟膏群2.3%,対照2.4%と差を認めなかった。次に黄色ブドウ球菌鼻腔内保菌者891例(23.1%)の検討では,黄色ブドウ球菌による院内感染全体の検討ではムピロシン4.0%,対照7.7%と有意差を認めたが,黄色ブドウ球菌によるSSIでは有意差を認めなかった(むしろ肺炎などの遠隔部位感染がコントロールされた)。

除毛は手術当日朝に行なう
 剃毛は皮膚に微細な傷をつけ,その傷は後に菌増殖のfocusとなる。切開創またはその周囲の毛髪が手術の妨げにならなければ術前の除毛を行なわない。
 SSI率は手術直前の除毛で1.8%,前夜で4.0%との報告があり,除毛を行なう場合はできればバリカンで手術直前に行なう。しかし日本においては,ナースの勤務の関係で手術当日朝に処置を行なうことは困難な場合が多い。米国では麻酔導入後に除毛が手術室で行なわれることも多い。

血糖コントロールは術後48時間がポイント
 Rathamらは胸部手術1000例の検討で,独立したSSI発症因子は糖尿病オッズ比2.76,術後48時間以内の高血糖(>200mg/dl)オッズ比2.02であったことを報告している。一方,術前高血糖(オッズ比1.1)やHBA1c>8%(オッズ比1.97)は独立した危険因子ではなかった。
 これらのことにより,慢性的な血糖コントロールの状態より,むしろ手術侵襲による一過性の高血糖が最も感染の大きい因子であり,血糖コントロールは術後48時間までが重要とされている。

少なくとも手術30日前から禁煙する
 ニコチンは創傷治癒を遅延させ,SSIを増加させると考えられており,待機手術の少なくとも30日前からの禁煙を指導する。入院してからの禁煙では遅い。
 Mollerらは関節置換術における検討を行ない,禁煙または50%以上の減煙を手術6-8週間前に行なった群では,対照と比較し創関連や心血管系の合併症が有意に減少したことを報告している。喫煙の創傷治癒への影響として,コラーゲン産生低下,免疫能低下,ニコチンによる血管収縮と組織酸素化減少があげられている。

手術前夜に消毒剤を使用してシャワーまたは入浴を行なう
 Chlorhrxidineを使用したシャワー浴で皮膚の細菌数を9分の1に減少させることが報告されている。しかしSSI率を低下させたとの決定的な証明はなされていない。

術中対策のポイント

創閉鎖には絹糸は用いない
 交通外傷1000例のRCTで,創感染率は絹糸23.8%,吸収糸18.2%で有意差を認めている。その他,絹糸は吸収糸と比較し縫合糸膿瘍が高率に発症し,意外にも創し開も高率とされている。また一般的に,あみ糸と比較しモノフィラメントは感染促進効果が少ないとされている。

消毒剤は正常皮膚に用いるべきで創面には直接用いない
 消毒薬は好中球,線維芽細胞,ケラチノサイトに有害で創傷治癒障害を起こすことが知られている。創閉鎖時に筋膜や皮下脂肪に消毒薬を用いた群ではSSI5.8%,生食で洗浄した群では1.7%であった(P=0.08)(上部消化管手術;生食55%,消毒61%)。急性創は汚染の有無にかかわらず消毒薬の適応でなく,慢性創でも感染を合併していないcolonizationでは一般に消毒薬は用いない。

手術時の手洗いは5分以内とし,ブラシは爪,指の間のみに使用する。
 手洗い10分では皮膚傷害を生じ5分でも菌数減少効果は同等とされている。また,1-2分消毒薬による手洗いの後にアルコール製剤塗布(Two-stage scrub)は5分の消毒薬による手洗いと同等の効果が得られる。ブラシ使用は皮膚を傷害し,細菌増殖の原因となる。ブラシは爪,指間にのみ用いるべきである。菌数減少効果はスポンジでも得られるとされている。
 最近,ヒビテン・アルコール単独の手洗い(Waterless scrub)も報告されており,その場合スポンジも不要である。手洗い後細菌数(log CFU,5日)はWaterless 3.1±0.5,Traditional 3.7±0.8で有意差を認め,手あれ(19日目visual skin scoringの変化)も少なかったことが報告されている。
 ちなみに我々は,消毒薬(ヒビスクラブなど)で爪,指間をブラシング(1分),手・前腕を手で揉み洗い(1分),水洗後ペーパータオルでふき取り,アルコール製剤(ウエルパスなど)塗布,乾燥(30秒-1分)を行なっている。

術中保温
 術中低体温はSSI危険因子とされている。心臓手術では意図的低体温が心筋や中枢神経保護目的で行なわれる。大腸手術で低体温がSSI率を増加させると報告されており,これは低体温による血管収縮が,創への酸素供給を減少させ,白血球の貪食能を損なうためと考えられている。術中保温もSSI対策といえる。

おわりに

 現在SSIのサーベイランスが日本でも行なわれるようになってきた。そのデータを各外科医にフィードバックし,感染率が高い場合は,なんらかの改善処置が行なわれ,SSI率が低下してはじめてサーベイランスの意義があると考える。しかし,最も推奨され,手本となるべき周術期管理の方法(state of the art)が,過去日本では明確には示されていなかった。
 伝統的な手法が継承されている傾向にある日本においても,EBMに基づいた方法への改善の余地は少なからずあると考える。



竹末芳生氏
1980年広島大卒。同第一外科,ミネソタ大Goldberg教授のもとでの研修などを得て,2002年4月より現職。専門は外科感染症,大腸肛門(炎症性腸疾患)。