第2574号 2004年3月1日


〔寄稿〕

アフガニスタンの医学教育支援の展開

――第3回東京大学医学教育国際協力研究フォーラム開催報告

水嶋春朔(東京大学医学教育国際協力研究センター)


 2003年12月11日(木)午後,東京大学医学部総合中央館333号室において,第3回東京大学医学教育国際協力研究フォーラム〔主催:東京大学医学教育国際協力研究センター,共催:文部科学省,後援:独立行政法人国際協力機構(JICA)〕が開催された。
 医学教育国際協力研究センターは,2000年4月1日に設置された学内共同研究教育施設で,文部科学省が進める高等教育に関する国際協力を推進する医学教育領域の拠点センターとして位置付けられている。毎年フォーラムを開催し,学内外の多くの参加者を得て,医学教育領域の国際協力に関する討論,情報発信の場としている。
 国際協力の展開にあたっては,「顔のみえる貢献」「心の通う貢献」が重要とされ,保健医療分野や教育分野における国際協力は,もっとも重要な領域といえる。

わが国によるアフガニスタンへの支援の状況

 アフガニスタンは,世界でもっとも保健状況の劣悪な国のひとつであり,妊産婦死亡率1700/10万出生,乳児死亡率170/1000,栄養不良状態の子どもの割合は40%前後と推定される。同国に対して,2002年1月に開催されたアフガニスタン復興支援東京国際会議(緒方貞子議長)において,わが国が積極的な支援を表明したことは周知の通りである。
 保健医療領域や教育領域などでは,具体的な支援がはじまり,感染症対策,母子保健対策などの保健医療支援,五女子大学コンソーシアム(お茶の水女子大学,奈良女子大学,日本女子大学,東京女子大学,津田塾大学)による女子教育の支援などが展開されている。
 保健医療者の教育も大切な課題であり,複数の関連施設による協調的な連携が必要不可欠である。8月には,「アフガニスタン保健医療基礎調査団分遣隊(医学教育)」〔国際協力事業団(現,独立行政法人国際協力機構;JICA)〕が組織され,当センターから2名の教官(団長:大滝純司助教授,団員:水嶋春朔講師)が派遣され,アフガニスタンの医学教育の現状の課題と今後の方向性などについての情報収集に携わった。
 その後,JICAや文部科学省大臣官房国際課国際協力政策室などと,医学教育支援の可能性について検討し,今回のフォーラムを中心としたアフガニスタンから医学教育の責任者の短期研修受入を計画するにいたった。

医学教育の支援の可能性を討論

 この度,アフガニスタンから,医学教育の方向性を決める実質的な責任者であるGul Mohammad Tanin高等教育省学術調整局局長(カブール大学農学部教授兼任)とCheragh Ali Cheraghカブール医科大学学長の2名をJICA研修員(2週間滞在)としてわが国に迎え,今後の医学教育の協調的な支援の可能性について,関係各位と認識を共有し,有意義な討論をすることを目的として,本フォーラムが企画,開催され,約60名の熱心な参加者が参集した。
 開催にあたっては,行松泰弘氏(文部科学省大臣官房国際課国際協力政策室室長)から,本フォーラムへの期待について,挨拶を頂戴した。

地域によって医療者の質・量の偏在が大きい

 基調報告では,大滝助教授が「アフガニスタン保健医療基礎調査団分遣隊(医学教育)調査報告」を報告した。タリバーン支配時代の10年間は,世界の医学の進歩から取り残され,現在,都市部と地方の医療者の質・量の偏在が大きく,地域の医療過疎地域で働ける一般医(General Practioner)の養成が喫緊の課題であることや,カブール医科大学では1学年の定員が600人であったものを今年の入学者から100名に減らして新しいカリキュラムでの教育がスタートするので,カリキュラム開発や教員研修などにおいて日本の支援が必要であることが紹介された。
 基調講演「アフガニスタンにおける医学教育の課題と日本の協力への期待」においては,Gul Mohammad Tanin高等教育省局長とCheragh Ali Cheraghカブール医科大学長から,アフガニスタンにおける医学教育の課題と改革の方向性,およびカブール医科大学における医学教育に関して報告があり,わが国に対する支援の期待が表明された。
 シンポジウム「アフガニスタン医学教育協力コンソーシアムの展開」では,実際にアフガニスタンにおいて医療協力を展開している明石秀親医師(国立国際医療センター国際医療協力局支援官),小林志保子看護師長(東大病院ICU病棟)から,アフガニスタンにおける医療の現状からみた医学教育,医療者教育の課題について指摘があった。
 またわが国においてユニークな医学教育を展開している東京女子医科大学の吉岡俊正教授(医学教育学)と自治医科大学の三瀬順一講師(地域医療学)からは,それぞれの大学の歴史,使命,卒前教育の特徴が紹介された。
 女性の就労と教育が長年禁止されていたアフガニスタンでは,女子の高等教育が非常に重要な課題であり,独立した女性を育成することを目標にした女子医大の建学の精神,PBL(Problem Based Learning)をカリキュラムの骨格に据えている特徴的な卒前教育の方法が紹介された。自治医大は,医療過疎地域(へき地)において地域保健医療の向上に実質的に貢献できるプライマリ・ケア医の育成をめざしたユニークな大学であり,卒前から地域医療を学ぶ機会が系統だって取り入れられ,卒後研修,9年間の出身地における義務年限の制度などが紹介された。アフガニスタンの医学教育の新しいカリキュラム編成におおいに参考になる内容であると,Cheragh Ali Cheragh学長からもコメントがあった。

保健医療当局と高等教育当局の連携が鍵

 最後に,ODAの実施機関である独立行政法人国際協力機構(JICA)医療協力部の橋爪章部長から,「教育分野と保健医療分野の連携による医学教育協力の展開」について,発表があった。戦後,米国や世界銀行などから日本は多額の支援を受け,今日の繁栄の基盤が形成されたこと,医学教育の支援には,印刷機などを中心とした教材作成の支援などのハード的なものから,カリキュラム開発,教員研修などのソフト的なものまで広く考えられ,関連機関による協力の連携が必要であることなどが指摘された。
 総合討論においても,保健医療当局と高等教育当局の意思の疎通,連携が,アフガニスタンでもわが国でもまず大前提であること,その連携を有機的に形成して,アフガニスタンのニーズにあった支援をしていくことが重要であることが確認された。

「顔のみえる貢献」「心の通う貢献」

 最後に,加我君孝センター長より,閉会のことばとして,アフガニスタンの医学教育支援の有効な展開に向けて,アフガニスタンの医学教育,保健医療当局や,わが国における医学教育,保健医療に携わるさまざまな関連機関,関係者のご理解,ご協力をいただき,協調的な協力連携(コンソーシアム)を形成して,「顔のみえる貢献」「心の通う貢献」を確実に進めていきたい旨の宣言が発表され,大きな拍手で閉幕した。
 アフガニスタンの医学教育支援に関心をお持ちの方は,当センター〔医学部総合中央館2階,03-5841-3583,水嶋(shunsaku-tky@umin.ac.jp)〕まで,ご連絡いただければ幸いです。