第2573号 2004年2月23日


〔寄稿〕

世界情報社会サミットに参加して

山根耕平(浦河べてるの家)


 昨年12月10-12日,「国連世界情報社会サミットWorld Summit on the Infomation Society: WSIS」がスイス・ジュネーブで行なわれた。情報社会がはらむ諸問題を解決するための国際戦略を世界中の首脳が集まって協議し,行動計画を採択するための会議である。そこでは発展途上国と先進国の間の情報格差とともに,障害者と健常者の間の情報格差,すなわち障害があるからという理由でIT機器から隔絶されている問題も討議される。日本から参加した浦河べてるの家は,日本財団からの補助金で構築しているテレビ会議システム,通称“べてるシステム”の発表を行なった(講演名:「精神障害者を支援するテレビ会議システムの開発とデジタルアーカイブ TV Conference System Development and Digital Archive that support Users of Psychiatry」)。
 当日の発表の模様を,このシステムの担当者でもある山根耕平氏(べてるの家主催2002年度幻覚妄想大賞受賞)に報告していただいた。


 世界情報社会サミットへの参加は晴天の霹靂(へきれき)でした。今回のサミットの責任者でもある河村宏さん(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所・障害福祉研究部長)から「べてるでの活動を“国連”で報告しませんか」と言われた時には,私は浦河町のスーパーの“ホクレン”さんの講演に誘われたものだと思っていましたし……。

政治家や実業家に べてるを紹介する……?

 今までべてるのみんなと日本中でいろいろな講演を行なったり,一昨年には横浜で開かれた世界精神医学会で発表をしていたので講演発表には慣れているつもりでした。しかし,国連のサミットとなると直接世界中に情報を発信することになるわけですから,出発前はやはりがちがちに緊張しました。
 まず参加者の顔ぶれがいつもの講演とまったく違います。いつもの講演でしたら医療福祉関係の方々や当事者の方々に向かって話をするのですが,今回の世界情報サミットの参加者は「各国首脳,国際機関長,産業界代表およびNGO代表」で構成されています。べてるのことはまったく知らない,心の病についても知らない政治家や実業家の人たちが多く,そういった人たちにもわかりやすくべてるの活動を説明するためにはどうしたらいいだろう……とだいぶ悩みました。
 これは1人で考えていてもだめだ,と思って途中で河村さんに相談したら,こう言われました。
 「今回の参加者は政治家や実業家,それにITのプロが多いから,システムの構成などについては簡単な説明で十分だ。それよりも山根君はサミットで何を伝えたいのかな?」
 私は,やはりコミュニケーションの大切さを伝えたいと話しました。
 「なるほど,ではそのコミュニケーションの重要性を伝える発表にしましょう」
 さて,河村さんから貴重なアドバイスをいただいて,「コミュニケーションの重要性を伝える発表」の原稿を作ってみたら……結果的に,いつも日本国内で行なっている講演とまったく同じものになってしまいました(笑)。

多くの人との「出会いのツール」に

 まず,べてるの家は「町のためにできること」を旗印にして浦河赤十字病院の回復者クラブメンバーの昆布の袋詰めからはじまったこと。コミュニケーションをなによりも大切にしていて,主なスローガンは「三度の飯よりミーティング」「手を動かすより口を動かせ」「安心してサボれる会社づくり」などであることを説明しました。
 また私自身の経験として,当時いた会社で安全な車作りを提案してメールマガジンなどを社内に配ったことが反発を買い,あらゆるコミュニケーションの手段を絶たれたこと。そして嫌がらせと普通の生活の区別ができなくなり,やっとたどり着いたべてるの家で多くの仲間から助けられ再びコミュニケーションや仲間の大切さに気づいたこと。最後に,これらのすべての経験やお互いの情報を分かち合うために,テレビ会議システムやデジタルアーカイブを使って日本中にネットワークを構築しようとしていることを報告しました。
 発表が終わったら,聾唖の方,ダウン症の方,世界回復者連合の責任者の方々など,多くの方々に囲まれました。
 「素晴らしい取り組みだね。これは最先端の取り組みだ」
 「このシステムは精神障害者のためだけのシステムではなく,聾唖の人たちにも有効なシステムだ。今後はシステムの対象者を限定しないで活動を続けてほしい」 などと,自分ではいままで気づかなかった多くの貴重なアドバイスをいただきました。
 今回の世界情報社会サミットでは,このように世界中の多くの方々との出会えたことが最大の収穫だったと思っています。そして今後もこのシステムを,直接出会って話をすることが難しい人や,その他大勢の人たちとのコミュニケーションツールとして改良していきたいと思っています。