医学界新聞

 

第23回日本看護科学学会開催




 第23回日本看護科学学会が川野雅資会長(三重県立看護大学教授・地域交流研究センター長)のもとで,昨年12月6-7日の両日,三重県津市の三重県総合文化センターにおいて開催された。
 「看護は健康上のニーズを持つ個人,家族,集団,地域そして国,地球に貢献するものであり,特に近年は看護の地域貢献が強く示唆される」という川野会長の意図のもとに,今回掲げたメインテーマは「看護における地域貢献」。
 会長講演「地域への貢献なくして看護の発展はあるのか」,教育講演「Communitas:Caring for self & Community」(ジーン・ワトソン コロラド大学名誉教授),シンポジウム(1)「地域貢献に焦点を当てた看護実践」,(2)「地域に根ざした看護実践知の探究」,市民フォーラム「病気・障害とともに暮らすこと-当面する問題・援助の選択・看護の活用」の他,13におよぶ交流集会が企画された。


■「地域貢献に焦点を当てた看護実践」

 シンポジウム「地域貢献に焦点を当てた看護実践」(司会=三重大学・大西和子氏,東大・同学会理事長・村嶋幸代氏)では,「地方の時代と言われる今,その地域のニーズに見合った貢献が的確にできるようになるための手がかりを得ることができ,看護学の社会貢献が進むこと,ならびに看護学の成果がより一層社会に活用され得ることを願う」(司会)という意図のもとに,3つの観点から話題提供が行なわれた。

看護大学における地域課題研究活動

 三重県立看護大学では,三重県内の各地域に根ざした健康モデルや看護の方法を探究すべく,地域交流研究センターが開学時に附設され,そこで地域課題研究や研究開発事業などのプロジェクトが立ち上げられ,地域の看護職や住民との交流を通して研究が遂行されている。北島謙吾氏(京都府立医大)は,その中の1つである平成11年度に発足した「県立志摩病院における精神科入院患者の在院日数短縮に関する研究」に関して発表した。  北島氏によると,同病院の精神科は県内の他の公立精神科に比べて在院日数が突出して長期に及ぶため,入院患者の実態および受け持ち看護師からみた入院長期化の原因を調査。その結果,「入院患者の高齢化」「作業・グループ活動への不参加」「退院後の受け入れ困難」「入居施設・社会参加資源の不足」などの理由が明らかになった。このことは,入院患者が置かれている志摩地域特有の乏しい社会資源と県(北中勢)からも地理的に交通不便な遠隔地であることがその一因であると考えられ,今後の看護ケアの方向性と地域支援促進への提言を行なった。また,精神科看護スタッフを対象に,受け持ち患者の看護計画についての監査・相談のため学内外の教員チームが定期的に病棟を訪問することによって,各病棟が一丸をなって従来の治療・看護プログラムの検討と見直しを図り,慢性期事例や一部の困難事例に対しての看護ケア計画がより緻密になった。  以上の結果を踏まえて北島氏は,「県内とはいえ地理的に交通の不便な遠隔地の病院に対し,看護大学の教員が病棟スタッフと協力し合いながら看護ケアの向上に取り組むことは,看護大学が地域に根ざして行なう貢献の1つではないかと考える」と報告した。

ICTを活用した地域ケア支援の展開

 「ICT(Information and Communication Technology)を活用した地域ケア支援の展開」と題して講演した川口孝泰氏(筑波大)は,(1)「ICT革新に伴う地域情報ネットワークの進歩」,(2)「遠隔看護:情報化時代の新しいニーズ」,(3)「有機的なシステムとしての地域ケア支援の必要性」について次のように概説した。  (1)については,「2001年度から国家的戦略として取り組まれたe-Japan戦略により,急速に情報環境が整いつつあり,それに伴い情報ネットワークを利用した新たなケアニーズが生じはじめている」と指摘。また(2)については,「今日の情報通信技術の進歩によって,これまで電話では不可能であったケアの実施が可能となってきており,遠隔看護へのニーズは,今後急速に高まっていく」。(3)に関しては,「従来の訪問看護とともに,在宅を中心とした遠隔看護のシステム化へのニーズが高まる」。  そして,最後に「兵庫県立看護大学COEプログラムにおける災害看護支援システムの構築」を紹介し,「災害看護の支援システムの構築もまた地域貢献に向けた看護実践の重要な取り組みである」と指摘した。

政策立案・決定の場に看護を生かす

 最後に,訪問看護を通した地域での活動が市会議員となることにつながった馬庭恭子氏(YMCA訪問看護ステーション・ピース/広島市市会議員)が,「政策立案・決定の場に看護を生かす」と題して講演。  政令指定都市113万人の中核都市で,8年前に在宅ホスピスを特化したステーションを開設し,その間,専門看護師として県委託で緩和ケアの教育プログラムを作成し,3年かけて緩和ケアナースを約100人育成した馬庭氏は,「平成16年には県立緩和ケア支援センターが開設される予定で,今後地域との連携をはじめ,在宅緩和ケアの後方支援も具体化してくる」と報告。そして,「その中で看護は行政とパートナーシップを発揮しながら,独自の実践活動が可能であること,さらにこれからは,地方自治の時代で住民と協働しながら,地域を活性化し,変革していくことが不可欠である」と述べ,さらに「人びとが生活をし,生きていく過程の中で,『いのち』『安心』『安全』のキーワードによって看護の視点で地域貢献できると確信している」と強調した。