第2568号 2004年1月19日


レジデントサバイバル 愛される研修医になるために

CHAPTER 1
ホウ・レン・ソウ〈報告・連絡・相談〉を忘れるな(前編)

本田宜久(麻生飯塚病院呼吸器内科)


 「卒後研修を楽しく,実りあるものにしたい」と誰もが思う。しかし,どうすれば楽しく,実りあるものになるのか。その秘訣を発見することは難しい。そこでまずはサバイバル。初期研修担当指導医が,君を安心して,ローテーション先の各科や次の後期研修施設に紹介できる条件は何だろうか。
 指導医の評価をみていると,医学的知識や技術以外に,コミュニケーション能力が実に重要な条件であるようだ。どんなことを忘れると致命的なのか? どんなことをすると問題なのか? 失敗の数だけ,お宝が埋まっている。そんな題材を具体的に紹介したい。


報告されていないものは,責任の取りようがない!

 ある日の救急外来。酩酊,外傷,感冒,眩暈……,さまざまな症状を持つ人々で待合室はあふれている。「1時間以上お待たせしない」を目標に研修医Aは努力していた。
 そんな時,若い女性が排尿痛で来院。熱はなく,背部の叩打痛もなし。尿は混濁し,白血球が陽性。Aは膀胱炎と診断した。指導医に報告しようとしたが,未診察のカルテが机には山積み。指導医も空いているスペースで診療を行ない,てきぱきと山ほどのカルテをさばいている。
 「グラム染色してる暇ないなぁ。よし,培養を出して抗生剤を処方しよう」
 「痛がっているし,鎮痛剤もいっしょに」
忙しさを理由に研修医Aは,指導医に事後報告をした。
研修医「若い女性の膀胱炎にシプロキサシンとNSAID処方しました」
指導医「えっ! 痙攣起こすかもよ」
 幸いなことに,会計業務が滞っており,患者さんはまだ院内にいた。処方を変更し,事なきを得た。このあと指導医の間では,
 「Aはよーく観察しとく必要があるぞ。いつのまにかひとりでやってるから,気をつけたほうがよいな」
と話題になった。

コメント
 「知らないうちに,ひとりで診療を行なっている研修医」を指導医は最も警戒する。
 指導医たるもの,「研修医の診療行為の責任をとる」という覚悟は持っている(持っていない施設はやめましょう)。指導医へ報告されていない診療行為は,いざ問題が生じれば,指導医の監督不行き届きとの責任を問われることも考えられる。事前報告は,あなたのみならず,あなたの指導医のためでもある。

その他の事例

●抗がん剤をダブルチェックなしでオーダーした。クレアチニンクリアランスで調節した投与量が極量を超えており,直前で指導医が発見した。
●海外の抗生剤マニュアルをみて,指導医の許可なく抗生剤を保険適応の範囲を超えて投与した。
●経口薬を指導医の知らない間に注射薬に変更した。しかも量が間違っていた。

悪いニュースほど早めに相談

 ある日の病棟,65歳男性の急性心不全患者を治療中である。15時に診察を終えた研修医Bは,状態の安定していることを指導医に16時に報告した。
 その後,患者の呼吸が速くなっているとナースから連絡があり,病棟へ戻った。
病棟17時「なんか呼吸が速いけど,しばらく様子見ようかなぁ」
病棟22時「なんかきつそうだなぁ。朝までは大丈夫かなぁ?」
病棟27時「あぁ,SpO2が85%以上あがらないぃ! もっと早く相談しておけばよかった」
 深夜3時,指導医に電話……。
 「おまえ,もっと早く連絡しろ!」と怒りつつ,来院してくれた指導医。緊急に気管内挿管し,ICU管理となった。

コメント
 「相談すべきか迷った時には相談する」という原則を持っておこう。突然の悪いニュースよりも,あらかじめ報告されていたほうが指導医の心も平静である。
 たとえ,「こんなんで呼ぶな!」と怒られても,それは小噺か懐かしい思い出で終わる。全身で謝っておけばそれで済み,責任は指導医に移る。
 一方,「なぜ,もっと早く呼ばないんだ!」と呼ばれるのは大事件だ。苦い思い出では済まないかもしれない。
 「こんなんで呼ぶな」と怒られることが続き指導医に相談しにくくなった頃,または自信が過信になったころに大事件はやってくる。できるかぎり,その日の終わりに,「それぞれの患者にどんなことが起こり得るか」を,指導医とまとめておこう。

その他の事例

●アルコール性膵炎で入院した患者が,昼間,点滴をさわりそわそわしていた。気にはなったが放置。深夜アルコール離脱症候群で暴れだした。
●アセトアミノフェン中毒の治療を,ゆっくり教科書で確認していたら,指導医が飛んできた。「肝不全起こしたら,死ぬんだぞ! ゆっくり見てる場合じゃないゾ!」
●「先生,○○さんが発熱しています」との報告あり。熱型表を見にいくと,39度のスパイクフィーバーが3日間続いている。指導医は「敗血症かもしれないぞ! 早く言え!」と呆れた。
●救急外来で突然の胸痛の50代男性を診察。心筋梗塞かなと思いつつも,病歴をしっかりとり,心電図をとっているところに,指導医が通りかかりびっくり仰天。「緊急の疾患を疑ったんだったら,すぐに伝えろ!」

相手を気遣う魔法の言葉
「今,よろしいですか」

 ある日の病棟,午前10時。尿路感染中で入院の70歳女性。解熱し食欲も出てきたが,入院以来4日間便が出ていないという。緩下剤を調べてみるとたくさんあり,どうしてよいかわからない。
 研修医Cは思った。
 「そうだ! 悪いニュースは早めに相談しろと最初に言われたぞ!」と。指導医を呼んだ。
指導医「はい,○○ですが」
研修医「先生,△△さんのことなんですけど,便秘なんですが緩下剤は何がよいでしょうか? 吐き気もなく,排ガスはあるようです」
指導医「今,外来中だっ! 後にしろ」
 そこで,後日の相談で,魔法の言葉を使ってみた。
指導医「はい,○○ですが」
研修医「先生,△△さんのことなんですけど。今よろしいですか?」
指導医「今,ちょっと忙しいから,あとで連絡する。それでいい?」
研修医「はい,わかりました。お待ちしています」

コメント
 指導医の仕事は外来や検査といった診療だけに限らず,各種の会議や来客への対応など研修医が想像できる以上に多岐に渡っている。もちろん指導医も,その中で,慣れない研修医のために時間を割こうとしている。ただ,「こちらの身にもなってくれ!」という本音は,人間なのでやはりある。
 そんな時,「今,よろしいですか?」と研修医にいわれたら,嬉しい。「こちらの忙しさを気遣ってくれているんだな」と指導医も安らぎ,「いいよ」といいたくなるもの。大事にされたら,大事にしたくなるのが人情。

CAUTION
よいわけがない時間帯に「今,よろしいですか」と言うと,逆切れされます。いわゆる,慇懃無礼です。
例:夜中の3時に指導医に電話。
研修医「先生,今,よろしいでしょうか?」
指導医「……なんだ!(いいわけないだろ!!)」
こんな時には「遅くにすみません」でOK。

その他の事例

●廊下で出会い頭に研修医が「先生,55歳の女性なんですけど。2週間前から……」と,いきなりプレゼンをしはじめた。指導医は会議で急いでおり,イライラを隠せない。




【筆者略歴】
1973年茨城生まれ。長崎大学卒業後,麻生飯塚病院で3年間の初期研修を終了し,現在,同病院呼吸器内科勤務。日常診療と研修医教育に従事している。
研修医時代より院内でのコミュニケーションに興味をもち,以来,事例を集めている。趣味の読書で感動した言葉「全ての人を理解できれば,全ての人を許すことが出来る」をめざして,1歩でも1mmでも努力するのが日課。どちらかといえば,許されてばかり。
yhondah2@aih-net.com