医学界新聞

 

【投稿】

日本腎臓学会の新しい試み

――学生・研修医のための教育セミナーに参加して

内片健二(山梨大学6年)




 名古屋国際会議場で開催された日本腎臓学会西部学術大会(2003年10月23日-24日,大会長=名古屋市立大学 郡健二郎先生)の1つのブースで,およそ4時間にわたり医学生・研修医向けの症例を用いた教育セミナーが行なわれました。その模様を報告いたします。
 会場には,学生・研修医20人程度,指導医クラス20人程度の参加者が集まり盛況でした。安田隆先生(聖マリアンナ医科大学腎臓高血圧内科)の進行によるアイスブレーキングで,学生・研修医&指導医のペアを作ったうえで,わいわいがやがやとプログラムははじまりました。内容は三本立てでした。

1人の患者さんには3つの病名がある

 「腎炎へのアプローチ」では今井裕一先生(愛知医科大学腎臓膠原病内科)が,なぜこんなにも腎臓疾患を理解するのは難しいのか,についてユーモアを交えつつその突破口を示してくださいました。ポイントは3つありましたが,最大のポイントは「1人の患者さんには3つの病名がある」こと,すなわち臨床診断名,機能的診断名,病理診断名の3つの病名を使って病態を表現できる点でした。それが理解できれば,次に病因を考えること,さらに病変が腎臓局所の場合と,全身性疾患の腎臓病変とを区別すること,が強調されました。
 疾患名を貫く「軸」を理解することで,知識を整理する棚が作られたような気がしました。何よりこのプレゼンテーションに共感を覚えたのは,若かったころ腎臓病のとっつきにくさに悩まれ,教科書を開いてもちっとも理解の助けにならなかった,という今井先生ご自身の経験に立ち戻って内容が構成されていたからだと思います。

双方向のやりとりでClinical Problem-Solvingを学ぶ

 続いて須藤博先生(東海大学総合内科)と安田先生による「Clinical Problem-Solving “A Solution of Dilution”」では,46歳男性の症例を題材に,前半は診断へ至る思考過程を共有しました。症例を通して学ぶ醍醐味を知った学生にとっては,New England Journal of MedicineのClinical Problem-Solvingシリーズなどはよい教材となりますが,知識や経験の到達レベルが低い学生にとっては,論点の解説がほしいと思うことがしばしばあり,今回のような双方向のやりとりをしながらのClinical Problem-Solvingは,まさに恰好の学びの場でした。
 後半は低ナトリウム血症の病態理解について解説がありました。ここでも病態を理解する2つの「軸」,すなわち容量調節系と浸透圧調節系を考えることで,それぞれの臨床パラメーターである尿中Na濃度,尿浸透圧で何を見ようとしているのかをすっきりと示していただきました。
 最後の「検査と治療について」では再び今井先生から,検査後確率と治療閾値を理解することが,不確実な診療現場での決断に役立つことを症例を通して説明していただきました。

学生にも学会にも有益な企画

 この度の試みは,日本腎臓学会員の中でも特に教育に対して熱心な有志が集い,企画されたものだとお聞ききしました。学生は学会参加費も免除していただきましたし,いずれのプレゼンテーションも入念な準備がなされていたことがよくわかるものでした。会場からのコメントも多数の方からいただきましたが,共通して教育的示唆に富むものでした。
 このような試みの最たるものとして,私が知っている範囲では,日本家庭医療学会の夏期セミナー(毎年夏に開催,講師の方は手弁当で集まってくださり,学生・講師あわせて200人以上が2泊3日で集うもの)がありますが,こうした試みは学生にとってはまたとない学びの場である一方で,学会にとっても学会の魅力をアピールし新たな人材を確保するうえで多いに役立つとものと思われます。今後ますますこうした教育と交流のムーブメントが加速することを期待します。そして,私自身もいつの日かこのような世代を超えた交わりの中にいたい,との思いを強くしました。
 最後に,症例を呈示してくださった御三方に加え,紙面では紹介できませんでしたが,司会を務めてくださった守山敏樹先生(大阪大学健康体育部),宮崎正信先生(長崎大学第2内科),症例へのコメントを度々いただいた松村正巳先生(石川県立中央病院)に感謝いたします。