第2566号 2004年1月5日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


専門家にも役立つがん治療に必携の書!

がん診療レジデントマニュアル 第3版
国立がんセンター内科レジデント 編

《書 評》前原喜彦(九州大教授 消化器・総合外科)

急速に変わる日本のがん治療

 待望のがん診療レジデントマニュアル第3版が出版された。がんの化学療法がよくも悪くも注目されている昨今,まことにタイムリーな企画である。わが国のがん治療も急速に様変わりしつつあり,がんの告知は当たり前の時代になってきた。また,インターネットやセカンドオピニオンの普及などにより患者もさまざまな手段で情報を手に入れつつある。このような世の中の流れにより,医師はひとりよがりではなく,充分な情報の開示のもと,がんの治療を行なわなければならない時代になりつつある。こうした背景からわが国におけるがん薬物療法のレベルアップは急務であり,evidenceに基づいた治療を実践していかなければやがて時代から取り残されることは明白である。

がん治療のポイントを網羅

 そのように観点から本書をみてみると,がん薬物療法の基礎から各論に至るまで実に行き届いた内容になっている。特に注目したいのは,その根拠となるevidence levelを明確にしたことで,安易に薬物療法を行なうべきでないがん種まで明らかにされていることである。このことはがん薬物療法を学ぶレジデントにとってきわめて重要であり,現在行なわれている治療の位置づけが理解できるようになっている。当然のことながら,章末に記載されている根拠となる文献は最新のものが選ばれている。
 治療のゴールが明確に示されているのも本書の特徴であろう。すなわち,治癒を期待するのか? 延命効果を期待するのか?症状の緩和を期待するのか? などの記載が明確にされている。治療の選択をするうえでこうした情報は不可欠である。
 以上のように内容の大幅なグレードアップが図られているのにもかかわらず,コンパクトなポケットサイズに装丁されており,レジデントが常にベッドサイドで活用しやすくなっている。このサイズでありながら有用な情報を満載していることに感心してしまう。国立がんセンターにおける長年の蓄積されたノウハウが無駄をそぎおとすことに成功していると思う。
 本書はがん診療に携わるレジデントにはもちろんのこと,専門家にとってもきわめて有用なマニュアルであり,がん診療に必携の書と考え,ここに推薦する。
B6変・頁400 定価(本体3,800円+税)医学書院


患者が医師に求めていることを知らない医師が多すぎる

あなたの患者になりたい
患者の視点で語る医療コミュニケーション

佐伯晴子 著

《書 評》向井万起男(慶大助教授・病理診断部)

 “あなたの患者になりたい”だなんて,凄いこと言ってくれますね。こんなこと言われちゃうと,なんか勘違いしてドギマギしちゃう生真面目な医師もいるんじゃないでしょうか。……くだらない冗談です。スミマセン。
 しかし,こんな凄いこと言われても,プロとしての自信に満ちた医師の反応は違います(誤解のないように言っておきますが,プロとしての自信に満ちた医師は生真面目ではないというわけではありません。生真面目なだけではプロではないんじゃないかということです)。絶対にドギマギなんかしません。だって,こんな嬉しい,名誉な言葉ってないですから。病気になった人がわざわざ自分を選んで飛び込んで来てくれたら,ニコッと笑って“任せなさい!”の一言も言いたくなります。

著者は“模擬患者”のプロ

 でも,こんなこと言ってくれる患者さんも,こんなこと言って貰える医師も滅多にいないのが悲しい現実かもしれません。では,この悲しい現実を変えるにはどうしたらイイのか? 言って貰えるように医師が頑張るしかないでしょう(患者さんに頑張って貰うなんてわけにはいかないんですから)。では,どう頑張ったらイイのか? そのヒントを与えてくれるのが,この本。
 この本の著者は,“模擬患者”(Simulated Patient:SPと略す)のプロとして医学教育の世界では広く知られた人だ。御世話になった医学生,若い医師が日本全国に大勢いるに違いない。
 よくよく考えてみると,“模擬患者”とは変わった仕事だ。医学生や医師の教育・訓練のためにわざわざ患者役を務めてくれるんですから。そんな変わった役をこなせる人がいるのが不思議なくらい。あるいは逆に,誰だって患者さんになったことがあるんだから“模擬患者”くらいには誰だってなれるだろうに,ナンデそんな仕事にプロがいるのかと不思議なくらい。でも,どの道にもプロはいるのですね。そして,どの道にもプロは必要なのですね。この本を読むとよくわかります。
 “模擬患者”は今や医学教育には欠かすことのできない存在になっている。なにしろ,医学生や若い医師が模擬患者と行なう医療面接・実技試験を通して,患者と接する際の態度,コミュニケーション能力,診察能力が評価されるOSCE(オスキー。Objective Structured Clinical Examination;客観的臨床能力試験)なしには医学教育は語れない時代になっているのだから。こうした医学教育現場で長年にわたって“模擬患者”を務めてきた著者が現在の医療について感じたこと,思うことを綴ったのがこの本(言い方を換えると,世の中の大勢の患者さんが感じていること,思っていることが綴られているということになります)。

赤面する医学生や医師も多いはず

 なかなか厳しいことも書かれています。医学生や医師が読むと赤面しちゃうことも多いはずです(念のために言っておきますが,赤面する医師は若い医師とは限りません。けっこうトシいった医師も赤面するに違いないと思います)。これまでの医療が,そしてこれまでの医師がいかに患者を中心に考えてこなかったかということがヒシヒシと伝わってくるのです。……患者中心の医療であれば当然なされるはずのチョットした気配りがないばかりに,いかに患者の気持ちが医師から遠のいてしまっていることか。
 何よりも,患者が医師に求めていることを医師はきちんと知るべきでしょう。それが一体何なのかを知らない医師が多すぎるのです。この本を読むと,少なくともそれがわかるようになります。
 ……それにしても,患者に向かって,「心臓バクバクします? マジっすか? ていうか,患者さんテキには……」なんて言う医学生や若い医師がいるなんてビックリ。こういう現実を知ると,できるだけ多くの医学生・医師にこの本を読んで貰わないとなぁと思います。
四六・頁128 定価(本体1,200円+税)医学書院


これからのプライマリ・ケア診療を照らし出したガイドブック

《Meet the Master Clinician》
見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール

生坂政臣 著

《書 評》野村 馨(東京女子医大病院一次診療外来)

見落されてきた診療のポイント

 本著ではプライマリ・ケアの現場から57症例が紹介され,その診断治療,それに関して従来の医学教育,研修では見落とされてきたような診断の要点(ピットフォール)が語られている。さらに鑑別診断や検査の妥当性などを紹介するミニレクチャーやプライマリ・ケアをめざす医療者へのアドバイスを語るマスター・アドバイスが随所に記載されている。
 全体を読めば著者の生坂政臣先生がめざしているプライマリ・ケアとは,各専門分野からの切り貼り細工により行なわれるものでなく,それを再構成して行なわれる新たなものであることが実感される。しかも外来診療と研修にかける著者の情熱と楽しみが共感できる好著である。大上段からプライマリ・ケアの理念を説くのではなく具体的な症例をもとにプライマリ・ケアとは何かを見事に紹介している。本著はこれからのプライマリ・ケア診療とは何かを照らし出したガイドブックである。プライマリ・ケアをめざす人には是非読んでいただきたい。また,日々忙しい診療に携わっている方々にもいままでになかったお得な教科書として手にとっていただきたい。私は一度読了した楽しみの後は,紹介された診断技能を引用するHow to本としても利用させてもらうつもりでいる。

軽症疾患の病名と病態も説明

 著者は「このシリーズには,見逃しても生命予後に影響のない日常病も掲載されている。たとえ軽症疾患でも病名と病態を説明することは,患者中心医療の基本であり,また診断名のつく診療は他ならぬ医者自身のやり甲斐を増すことになる。良質な医療の永続的供給には,患者だけではなく医師も満たされなければならない」(「はじめに」より)と述べている。このことは当たり前のようで当たり前でなかった現状がある。私も大学病院で「一次診療外来」を担当していて深く共感できるところである。系統的に細分化された疾患分類では軽症で自然治癒する疾患はその存在すら忘れがちである。頻度の高い日常病としてプライマリ・ケアの病名コードにしっかり登録し,その診断技術を確認しておく必要がある。本著がさらに発展することを熱望するゆえんである。
A5・頁192 定価(本体3,700円+税)医学書院


すべての精神科医が専門性を振り返るために読むべき1冊

精神科診察診断学
エビデンスからナラティブへ

古川壽亮,神庭重信 編

《書 評》岡崎祐士(三重大教授・精神神経科学)

エビデンスからナラティブへ

 タイムリーな出版である。しかも有用である。誰に対してか。編者の緒言によれば「初学者」向けである。しかし,実は,本書はevidence-basedに理論的に構成しながら,narrative-basedに収斂していく「一人の患者について必要なことを知り尽くそうとする終わりのない努力……」(山下 格)としての新しい診察診断を構成しようとする,意欲的な試みである。現代に生きる精神科医すべてが今一度自らの専門性を振り返るために一読すべき書物であるように思われる。
 全体は5編(I.精神科面接法-よりよい医師-患者関係の確立に必要なコツ,II.精神科診断学,III.精神症候の同定と診断,IV.診断の定式化-患者のストーリーを読む,V.治療の進展に伴うアウトカムの評価)からなり,付録(臨床測定学,DSMとICDの歴史,評価尺度)が付けられている。

実例を豊富に掲載して理解しやすく

 記述は具体的な指摘と実例が豊富で,読者の理解を助けている。例えば,診察診断の態度と技法を扱ったI編の「I-1精神科面接の技法」には,服装・髪型,椅子,言葉づかい,患者との距離,相手を確認し自己紹介しよう,位置づけをせよ,専門用語を使うな,できるだけ大和言葉を使おう,感情に焦点を当てるために,面接を支配せよ,記録の取り方,などである。「I-3精神科診断面接」には,精神科面接の3つの目的,最初の接触に成功すること,面接を成功に導く3つの要素,患者が話したいこと,医師が聞きたいこと,不確かさの中にいつづける,言葉は近似表現である,患者に好意を持てない時,患者が医師と親密な時,医師に影響力を持つ時,面接の終わりは,などである。精神科医の診断と治療の多くがなされる,医師と患者・家族が相対する面接という場面に,どのような態度で臨み,この出会いをより治療的なものとするためにどのような技法を磨くのがよいかが明確にされる。すべての精神科医に期待される態度と技法として編者らは「良識精神療法(common sense psychotherapy)」を提唱する(「良識」という道徳観を連想する訳語は今ひとつ工夫が必要かと思われた)。I章には,他に特別な配慮が必要な患者への接し方(児童・青年期の患者,興奮している患者,末期患者・臨死患者)が含まれている。
 II編は,診察診断の知識的側面を扱っている。診断学総論-なぜ分類するのか,evidence-based diagnosisの基本,誤診の心理,器質的原因を見逃さないために,から構成されている。不確実な臨床的場面における推論としての性格を持つ診断と治療の選択をより確かなものにするための理論が,具体例をあげて丁寧に解説されている。これらの項目はまさに今後,臨床的営為を合理的なものとするために,すべての精神科医が理解しておくべき素養の範囲と考えられる。
 III編,精神症候の同定と診断,においては症候のヒエラルキーが重視されている。原因的・病態特異的なものとの関連の強さに従った,意識の障害-気分の障害-認知や思考の障害-不安,その他の症候という階層性の仮説が提案されている。ヨーロッパ精神医学に支配的であった病態の深さ仮説のヒエラルキーと2位,3位が逆転されている。筆者もこの逆転には賛成である。よく舞台にたとえられるが,舞台の照明度やカーテンの開閉度に相応する意識障害,舞台の色調(暖色系,寒色系など)に相当する気分の障害,舞台の造作の纏まり具合や出来栄えにたとえることができる認知や思考の障害,照明・色調・造作が産み出す雰囲気などにたとえることができる不安その他の症候,である。前者があると後者が見えにくくなるが共存する。この症候理解の枠組みは病態の深さと結びつけるという2重の仮説を避け,今のところ診断特異的な症候から順に評価しようという臨床の知恵に留めておくのが適切な判断であろう。この枠組みとその他の症状に含められている身体諸症状との関連を含めた新しい枠組みの提案を,次の機会には期待したい。
 第IV編,診断の定式化(diagnostic formulation)-患者のストーリーを読む,は診断面接で得た事実データの総合的解釈の仕方である。Diagnostic formulationについてと,診察の進め方と記録の仕方-予診,初診,入院報告,退院報告とからなる。診断の定式化の代表例である,DSMの5軸診断,睡眠障害国際分類3軸方式の実際が紹介されている。障害の発生過程の文脈情報から患者のストーリーを読むアプローチも,ライフチャートの使用をはじめ簡潔に解説されている。その裏づけとなる外来,入院場面における記録の仕方と内容も具体的である。ここに家族の中の患者,生活の場(職場,学園,地域)との関連において症候の中の体験を把握する項目も設けてほしいと思った。治療とケアの指針を具体化するのに必須だからである。
 第V編は,治療の進展に伴うアウトカムの評価である。重症度および重症度の変化の評価,経過の診断からなる。ここではもっぱらそのような目的に供されるtoolが種々紹介・解説されている。筆者は32の統合失調症家族を追跡して今年平均25年目を迎えているが,このようなアウトカムの諸側面を評価する手段を身につけていることの重要性を感じている。一方,それを可能にするには患者と家族の生活相談,健康相談,医療相談などのもろもろの相談に応じられる準備が必須であることを痛感している。

役割に応じて診療の基本を学べる

 以上,本書はevidenceに基づき目の前の患者を巨視的に位置づけながら,narrativeに個性的な側面とを統合して,個別にも把握・理解するという精神科診断面接の革新的な提唱を,わかりやすく親しみやすいように解説した好著である。卒前教育における精神医学のコアカリキュラム化,卒後研修義務化における精神科必須科目化の動きの中で,医学生,研修医,教育・研修指導医,すべての精神科医の方々が,その役割に応じて精神科診療の基本を身につけることができる,絶好の書である。ぜひ多くの方が一読されることをお薦めする。
B5・頁332 定価(本体6,800円+税)医学書院