医学界新聞

 

【レポート】

心と身体を鍛える熱い3日間

医学生・研修医のための第15回家庭医療学夏期セミナー

加藤光樹(日本家庭医療学会学生・研修医部会代表,帝京大学医学部4年)


 今年も日本家庭医療学会主催の医学生・研修医のための夏期セミナーが8月に行なわれました。本セミナーの企画運営に関しては参加者へのアンケートの結果をできるだけ次の年に生かすことを目標としており,それをもとに毎年新鮮な講演,ワークショップを企画しています。家庭医療に興味を抱く医学生や研修医の方々が年々増加していることと,参加者からの反響も年々増加してきているということから,今年のセミナーは参加者150名,講師・世話人の先生方を含めると合計200名という大規模なものとなりました。ここにその熱気溢れる2泊3日の様子をお伝えしたいと思います。

家庭医のPluripotentiality

 初日の講演では「家庭医の現在と未来」と題し,多くの先生方から家庭医にまつわるお話をいただきました。心に残ったお話はたくさんありますが,ここでは紙面の都合からその内の1つだけをご紹介させていただきたいと思います。
 私が最も印象に残ったお話は,ミシガン大学の佐野潔先生による「家庭医のPluripotentiality」というお話です。“Pluripotentiality”とは「あらゆるニーズに対応できる多能性」のことを意味します。家庭医の行なう診療内容はその地域のニーズによって変化し得ます。小児が多い地域には小児科の,婦人が多い地域には婦人科のプライマリケアに対するニーズが多く生じます。しかし,そうした地域的なニーズは時間によって変化するものであり,小児科のニーズがある地域では将来必ず内科や婦人科のニーズが生じえますし,婦人科のニーズがある地域では将来必ず更年期障害に対する婦人科的なニーズに加えて老人科のニーズも生じてきます。
 佐野先生のおっしゃる通り,家庭医とはそうしたニーズの変化に対応できるように「多能性」を身につけておくことが要求されるのかもしれません。これから家庭医をめざす私たち医学生は「現在のニーズ」のみにとらわれることなく,選り好みをせずに広くそして深く,common problemに対処する能力を身につけていきたいものです。

患者の方のお気持ち

 初日の講演では家庭医の先生方のみならず,患者の方やそのご家族が医療者に対してどのようなお気持ちを持たれるのかということを学ぶために,ご自身が患者として,また患者のご家族として実際に家庭医療にかかわられた前野由紀子さんからもお話をいただきました。
 前野さんのお話は私たちに大変多くのことを気づかせてくださるもので,多くの参加者の皆さんがそのお話に聞き入っていました。私は前野さんのお話から,医療を受ける方々は「辛い時にこそ,いつも自分を診てくれており,自分やその家族のことを深く理解してくれている,心から信頼ができる医師に診てもらいたい」と思われているのだということを学びました。そして,ここに家庭医の必要性が存在するのではないのだろうかと改めて感じました。

盛り上がりをみせた実習セッション

 2日目は家庭医に必要な基本技能の修得のためのセッションが開かれました。今年は低学年の方々にも無理なく楽しんでいただけるような企画もいろいろと提案させていただき,高学年の方々のみならず幅広い学年の方々から高い評価をいただくことができました。私が参加したセッションは外来小外科,身体診察中級,臨床判断学でしたが,特に身体診察中級での眼底鏡を用いた実習やモデルを用いた婦人科内診の実習等はなかなか大学で学べない内容であるためなのか,かなり評判がよかったようです。

盛り上がる連夜の懇談会

 セミナーの本番はエンドレス懇談会という裏話があるほどの恒例の懇談会は今年も大変な盛り上がりをみせました。さまざまな大学の方々がさまざまな仲間と,そして実際に現場でご活躍中の家庭医の先生方と,将来について語らい,そして笑いあいました。ふだん他大学の方々との交流が少ない方々もこの懇談会では同じ夢をもった者同士語らい,ふざけあい,日本全国の仲間たちと大いに親交を深めていたようです。また,セミナーはちょうど8月の上旬から中旬にかけて行なわれましたので,夏休み中に行なった病院実習の活動報告なども活発に行なわれていたようです。
 懇談会では来年のセミナーのスタッフを募る場も設けられておりましたが,その際に30名余もの方々が名乗りをあげてくださった際には,さすがに目に熱いものがこみ上げました。「また来たい」と思えるようなこのセミナーの楽しさを参加者の皆さんに本当に認めていただけた瞬間であり,スタッフをやっていてよかったなと感じられた最高の瞬間でした。
 私は今から来年のセミナーが楽しみでしかたがありません。より多くの方々に最高の瞬間をお届けできるよう,私たちセミナースタッフは一生懸命に準備をして皆さんのお越しをお待ちしております。来年は,このレポートをお読みになって本セミナーにご興味をお持ちになられた皆さんと,この興奮を分かち合うことができれば幸いです。

著者本人以外の写真は,当編集部で撮影したものを用いました。