第2556号 2003年10月20日


〔寄稿〕

教え上手,教えられ上手になるには?

白井敬祐(ピッツバーグ大学附属SHADYSIDE病院内科レジデント)


■教えられ下手で損してませんか?

 夏休みになると多くの学生さんが見学に来られるのですが,教えていて楽しい人と,教えにくい人がいることに気がつきます。
 そうなると自分のことは棚に上げて,あの子はここがいいねとか,あいつはあそこがbadだとか,好き勝手な論評が研修医室でははじまるのです。
 はたして自分たちは教えられ上手な研修医だろうか? 思わず教えたくなるような研修医だろうか? 教えられ下手で損していないだろうか? そう考えたのがことの発端です。
 教え方について,うまいと感心したり,へただと文句を言うのも楽しいですが,教え上手を求めるなら,教えられる側としても,教えられ上手になるための努力が必要だと気づいたのです。

教えられ上手って?

 では,いったい教えられ上手とは,どんな人をさすのでしょうか?
 抽象的ですが,上手にフィードバックを受けることのできる人だと考えます。
 アメリカ研修中,エクスターン先の病院で独自に作っていた,ホチキスでとめられただけの小さなマニュアル『プリセプターハンドブック』によると,フィードバックとは,学ぶ人が同じような状況で今後もっといいパフォーマンスができるように,学ぶ人の今の状態を的確に表現してあげることだそうです。フィードバックは指導医からだけではなく,同僚,看護師,患者さん,あらゆる人から受けることができれば最高です。自分が気づかないところも,周りの人が教えてくれる状況を作り上げられるからです。
 僕は,「ていねいな対応をする医者になる」ということを当時目標にしていたので,「ちょっとでも僕がえらそうだと気づいたら何でも言ってください」と看護師さんにことあるごとにお願いしていました。

なんかやりにくい人

 教えられ上手を研究する前に,なんかやりにくいなぁと感じた人を思いつくままにあげてみました。
  • 何を言っても反応のない人。
  • 何を教えても何でももう知っている人
  • 何があっても文句ばっかり言っている人
  • 知らないうちに報告なしで全部ひとりでやってしまう人
 すべて僕にも当てはまります。
 そういった教えられ下手な自分が顔をのぞかせた時に,いかに自分で気づけるか,あるいはいかに周りの人に気づかせてもらえるかがポイントです。そのためには日頃からいいフィードバックを受ける必要があります。そうすれば貴重な研修を無駄にしないうちに軌道修正ができ,教えられ上手に少し近づけるのではないでしょうか。

■「つい教えたくなってしまう研修医」になろう!

 出し惜しみなく,つい教えたくなってしまう研修医になるには,どうしたらいいでしょうか。
  • 若いやつと働くってのはいいなぁ。と思わせる。
  • こいつを教えると,俺の仕事が楽になる。と思わせる。
  • あいつは何でも感動してくれる。むくれたり,すねたりしない。打てば響く教えがいのあるやつだ。と思わせる。
 それには日頃の姿勢が大事です。『プリセプターハンドブック』にはこうあります。
 「自分がしてもらいたいようにしてあげなさい。どうしたら研修医の力になれるか研修医自身に聞いてみなさい。何を教えてもらいたがっているのか,それに気づくことが大事です。問題を分析して明確にしましょう。自分のニーズではなくて研修医のニーズにこたえましょう。状況をうまく作って,研修医にも教え方を手直ししてもらいましょう」
 指導医側も努力しているのです。研修医も歩み寄らないわけにはいきません。
 「指導医がしてもらいたいようにしてあげなさい。どうしたら指導医の力になれるか指導医自身に聞いてみなさい。何を教えたがっているのか,それに気づくことが大事です。問題を分析して明確にしましょう。自分のニーズではなくて指導医のニーズにこたえましょう。状況をうまく作って,指導医にも教えられ方を手直ししてもらいましょう」
 このように心がけることで,指導医から教えたい気持ちを引き出すことができるかもしれません。

誰に助けを求めるか?

 指導医だって人間です。当然人間ですから,機嫌のいい日もあれば悪い日もあります。教えたい日もあれば,教えたくない日もあります。そんな時に,今日はどの指導医に助けを求めればいいかを見極めることは,患者さんに対する鋭い観察眼の養成に一役買うことでしょう。
 僕たちもわがままですから,時間がじっくりあって,病態生理から説き起こしてじっくり説明してほしい時もあれば,背景はそこそこにして,今何が必要か,見落としはないか,端的なワンポイントアドバイスがほしい時もあります。ある程度自分の判断にも自信があり,あとはOKサインでそっと支えてほしいだけの時もまたあります。
 状況に応じて,どの指導医を選べばいいか,どんな聞き方をすればいいか,あなたの観察力,質問力が試される時です。
 時間がない時に,1を聞いて10返ってくる人に助けを求めたら,それはあなたの判断ミスです。聞き上手になるための訓練と思いたいところですが,時間がない時は正直きついです。
 『プリセプターハンドブック』にはこうあります。「あまり長すぎるフィードバックはよくない。なぜなら誰でも自分の時間をとられるのはいやだから」
 おそらく,指導医も自分の時間をとられるのはいやな時もあるはずです。察してあげましょう。

「間違い」をみつけた時

 がまんすることも必要です。教える側だって人間です。当然,間違いもあります。少し動けるようになり,そういったことに気づけるようになった頃が危険です。そこはがまんしてください。
 へたにつっこむと教える側のトーンが一気に下がってしまうかもしれません。なんといっても知識,経験値のいずれにおいても,トータルでは指導医,専門家のほうが上です。へたなつっこみで,その後の教えてもらう機会,他の患者さんを見てもらう機会を失ってはそれこそもったいないです。
 『プリセプターハンドブック』にはこうあります。
 「できるだけしっかり観察しなさい。もう待てない時,その時を逃すともうだめな時,ロールモデルになることが必要だと感じた時以外はむやみに介入してはいけません。そして介入した時にも研修医に自分のしていること,そして目的をわからせなさい。主導権を奪うのではなくて,介入の後はていねいに主導権を研修医にわたしなさい。研修医と患者さんの関係に注意を払いなさい」
 研修医側もじっと観察です。
 「できるだけしっかり観察しなさい。もう待てない時,その時を逃すともうだめな時,いやなやつになることが必要だと感じた時以外はむやみに介入してはいけません。そして介入した時にも指導医に自分のしていること,そして目的をわからせなさい。主導権を奪うのではなくて,介入の後はていねいに主導権を指導医にわたしなさい。指導医と患者さんの関係に注意を払いなさい」
 以上を注意すれば,へたなつっこみは減るはずです。

 あれこれ考えていたことを書いてみました。研修の合間に,教え上手,教えられ上手になる作戦を思いつくままにたててみるのもおもしろいかもしれません。必要な時に必要な指導を受けるためには,教えられる側の工夫も必要なのです。give and giveでもなくtake and takeでもなくgive and takeになるよう工夫をしましょう。
 「要は,shareってことやんか」と妻には一言で片づけられてしまいましたが……。



白井敬祐氏
1997年京大卒。横須賀米海軍病院研修医,麻生飯塚病院研修医,国立札幌病院勤務を経て,2002年より米国ピッツバーグ大附属SHADYSIDE病院にて内科研修開始。飯塚病院時代,研修医の間に広めた「SHARE」の意識は,現在でも飯塚病院の研修における特徴のひとつとなっている。