医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


文献研究の意義を実感する1冊

エビデンスに基づく看護学教育
キャスリーン・スティーブンス/バージニア・キャシディ 編
杉森みど里 監訳

《書 評》舟島なをみ(千葉大学看護学部教授)

 本書は,米国において行なわれた看護学教育研究に関する文献レビューの成果を収載しており,全7章から成る。第1章は,エビデンスに基づく看護学教育とは何かを概説するとともに,その実現に向けて先行研究の検討と統合が必要不可欠であることを述べている。また,第2章から第7章は,各々が特定のテーマに焦点を当てた文献レビューとなっており,文献を検索,分析,統合する過程,及び,その成果を詳述している。
 各章が取り上げているテーマは,看護学教育におけるメンターシップ,看護技術教育,大学教育における不正行為と倫理,看護師資格試験,上級実践看護師としてのナースプラクティショナーの教育,看護における博士・修士課程修了生の状況と多岐にわたっている。

500編の看護学研究から学ぶ

 本書の成立を支えているのは,各章に紹介された看護学研究であり,その総数は約500編におよぶ。本書を読むことは,これら膨大な先行研究に系統的に触れることでもあり,読者は,わが国の看護実践・教育・研究について考えるためのさまざまな知的刺激を得ることができる。
 例えば,看護技術教育に焦点を当てた第3章は,看護基礎教育課程におけるミニマムエッセンシャルズとなる看護技術が何かを探求したいくつかの研究を取り上げている。これは,わが国においても関心が高まっている領域であり,研究が長年にわたり継続されている米国の状況の一端を知ることは興味深い。
 また,大学院修了生の状況に焦点を当てた第7章は,教育職に就いた者の業績の産出に関係する要因を探索した研究を紹介している。結果は,博士課程において指導を受けた教員の研究プロジェクトに参加することが修了生の業績の産出に関係することを示す等,大学院教育に携わる教員にとって示唆に富む内容となっている。

先行研究レビューの必要性を実感

 また,本書は,頁が進むほどに,エビデンスに基づく看護学教育の実現にとって,先行研究の系統的な検索,検討が必要不可欠であることを示している。
 筆者が所属する千葉大学看護学部看護教育学教育研究分野は,監訳者である杉森みど里氏が教授であった1993年,文献研究「我が国における看護学教育研究の動向」に着手した。これは,看護教育学における研究領域や研究課題の解明に向け,1989年以後に我が国の主な看護系学会に発表された看護学教育研究を検索し,多角的に分析する研究であり,今日まで継続的に行なっている。
 文献研究は,膨大な先行研究の中から関心を持つテーマについての文献を確実に検索し,1編1編精読,分析する必要があり,地道な根気のいる過程を通し,ようやく成果の産出に至る。本書を読み終えた今,これまで継続してきた文献研究の意義,それを今後さらに継続する必要性を再確認する思いである。教育の場に所属する看護職者はもとより,「エビデンスに基づく実践」や文献研究に関心のある看護職者にも,ぜひ本書をご一読することをお勧めしたい。
B5・頁224 定価(本体3,200円+税)医学書院


オカノスミタケ,“関わり学”をかく語りき

《生きいきケア選書》
老人ケアの関わり学

岡野純毅 著

《書 評》村上重紀  (広島県・御調町保健福祉総合施設附属リハビリテーションセンター次長,作業療法士)


 「こころ」はどこにあるのか? 私見では,人の場合,それは3か所に宿っており,胸と脳と「関係」にある。そして,「関係」の対象は他者,社会,森羅万象,そして自分自身である。
 「閉じこもり」や「引きこもり」,「痴呆」を,人の「こころ」の問題とみてとれば,そのケアの要諦は“関係性”の構築にあるが,関わるほうにも「こころ」があるので,とても一筋縄ではいかない。その難解な作業を,時に奇妙な迷路に踏み込みながらも紐解いてくれるのが,ケアの世界における“関係性”へのアプローチを試み,ケアの場面での“関わり”を考えようとする本書である。
 著者の岡野純毅さんは大学や専門学校で作業療法学を教えていた人である。現在は在野で,手と手舎発達研究所を主宰し,寝たきりや痴呆性老人のケアだけでなく,登校拒否や社会的引きこもりの地域化活動なども行なう行動派だ。
 彼はひたすらケアのキーワードである「関係」に耳を傾ける,思いを馳せる。子どもたちのデイケアを立ち上げたり,精神科デイケアの若者と行商に出たり,阿蘇に山小屋を建てたりする。痴呆性老人の前では「祈り」のパフォーマンスで神を演じる。彼にとってはどの障害者もすべて生活者であり,その生活者としての「不自由さを楽に」するために,彼らが「自己の内的世界を変化させていけるような現実的な“関わり”を,さまざまに創意工夫し,働きかける」のである。

“関わり”をキーワードにケアを考え,試行する

 本書は10章30節から成り,こうした実践の紹介とその論考とで編まれている。ケアに関わる者には各章とも興味深く,示唆に富んでいる。また各章のタイトルである「げんり」「あそび」「ちほう」「いやす」「こころ」「まなび」「こども」「じかん」「ちいき」そして「ねっと」というひらがな3文字の表題は,「関係」をお題にいただいたちょっと難解ながらも洒落た小噺(エッセイ)としてもおもしろい。また「関わり学の途中下車」というコラムも楽しく読める。
 老人ケア,精神科リハビリテーションなど,施設や地域で看護・介護に関わるちょっと知的なあなた,そしてなによりぼくのようにぐーたらな作業療法士には必読だ。
 「どうやら教育する側のゆるやかさが,学生ののびやかさを引き出すようなのだ」とか,「私が心血を注いでいるのは授業である」などの一節を通して,著者の教育に対する熱意と創意が並みのものでないことを納得させられるが,それでも岡野さんは教官の職から「途中下車」をして,地域活動に専念したり,時に文字通りの「引きこもり」生活を送った。本書の底流に一貫して感じられる「頼りない賑やかさ」のような雰囲気は,そうした岡野さん自身が織りなしてきた自らの「ジグザグ人生」(著者略歴による)に由来するものかも知れない。それは彼の「ヤマアラシのジレンマ」との共生による呵々大笑的孤独,とでも名づけるべきものである。
 ニーチェの「ツァラトゥストラ」は10年間山に籠った。起稿から10年余の歳月を経て,岡野純毅さんは本書『老人ケアの関わり学』を持って町へ降りてきた。オカノスミタケ,“関わり学”をかく語りき。ぜひ一読をお薦めしたい。
B5変・頁176 定価(本体2,000円+税)医学書院


21世紀の高齢者福祉を考えるヒントに満ちた本

高齢社会に求められるケアマネジメントサービス
篠田道子 著

《書 評》樋口京子(岐阜大学医学部看護学科講師)

 このたび,医学書院から『高齢社会に求められるケアマネジメントサービス』が発刊された。医療福祉をめぐる状況は,過渡期にあり,めまぐるしく変化している。本書では,医療福祉従事者自身がまずこの変化の全体像を把握し,あふれる情報を高齢者・家族を主体に整理し直し活用する能力と,変化する診療報酬や新しいサービスにフレキシブルに対応し,連携を促進し地域を変えていく力を高めていくためのヒントがちりばめられている。

継ぎ目のないケアを目指す

 本書において基盤となる考えは,(1)これからの高齢社会に求められるものは,住み慣れた地域で人生の終わりまで,利用者からみてSeamless care(継ぎ目のない,均質のケア)を,要介護度や痴呆が進行し,療養の場が移行しても年齢や所得にかかわらず受けることを保証すること,であり,(2)そのための鍵は,退院計画と地域連携を軸にして,施設や職域を越えたケアマネジメントサービスを経済・住宅の動向を踏まえて実践することである。
 本書の前半の3章は,「ケアマネジメントの意義と役割」「退院計画と地域連携」「在宅医療にふさわしいものと技術」である。特徴は,診療報酬や介護報酬の改定などの経済的側面を,連携を促進する重要なポイントとして位置づけている点である。2章では,退院計画と連携を評価する報酬の具体例が10種類のイラストでわかりやすく整理されている。3章では,利用者や介護する家族や医師の所属機関などのタイプ別に,新しい技術(PEGによる在宅経腸栄養など)を適切にマネジメントするノウハウが示されている。どの種類の退院計画の報酬やモノを用いることが,移行期を手厚くマネジメントし,安心や移行後の生活に希望を持てるプランとなるのか,連携実態に即して考えるヒントが示されている。

新しいサービスをポジティブに育てていく

 次に後半の3章は,「新しい痴呆性高齢者のケアマネジメント事業」「超高齢時代の終末期ケア」「変わる高齢者住宅事業」である。
 特徴は,最期まで自分らしく“住まう”ことの連続性が保証されているかに重点をおき,筆者の豊富な実践に基づいて課題が提起されていることである。要介護度や痴呆が重度になった場合,救急時や終末期の医療が必要となった場合にも住み続けられるかの視点を加えた新旧のサービスの比較表が各章に準備されている。ユニットケアやグループホームなど新しいサービスを,既存のサービスを巻き込みながら,“ポジティブ思考”で育てていこうとする筆者の温かいまなざしが感じられる。
 今,それぞれの場で孤軍奮闘している同輩へのエールを感じ取ることができる1冊である。
B5・頁164 定価(本体2,600円+税)医学書院