第2551号 2003年9月15日


【投稿】

ピッツバーグ・ジャパンプログラム
医学生・研修医プログラム参加体験記

大塚亮平(聖マリアンナ医科大学 6年)


ピッツバーグ・ジャパンプログラムとは?

 「ピッツバーグ・ジャパンプログラム」はピッツバーグ大学医学部主催の日本の医学教育を支援するプログラムである。このプログラムは大きく分けて2つあり,1つは日本の医師や医学生がピッツバーグ大学で実際の教育現場を視察し研修する「ピッツバーグ派遣プログラム」,もう1つはピッツバーグの臨床教育専門家に日本の施設に来てもらい指導を乞う「ピッツバーグ教員日本招聘プログラム」である。
 今回私は前者の中の1つである「医学生・研修医プログラム」に参加した。このプログラムはアメリカの医学部が日本の医学生・医師を対象として企画した点,プログラム企画側が日本の医療・医学教育事情に長けている点,そして参加者が医学生の病棟での実習の様子を見学するだけでなく,カリキュラム作成側あるいはコース責任者側から講義を受けたり,討論したりする機会があるという点で,既成のプログラムとは異なるユニークなものであった。
 私が参加した「医学生・研修医用のプログラム」ではピッツバーグ大学で行なわれている卒前・卒後教育の見学とPBLやOSCE,EBMなどに関するレクチャーとディスカッション,いわば実践と知識の両面から日本のモデルとされるアメリカの医学教育を理解できるように工夫された大変中身の濃いプログラムであった。
 プログラム前日,プログラムディレクターの赤津晴子先生が,ご自宅で私たち参加者9名とホストフレンド(ピッツバーグ大学の医学生)を招待してくださり,素敵なWelcome Dinnerを開いてくださった。赤津先生のこのおもてなしの感激冷めやらぬ間に次の日の研修がはじまった。初日はクリニカル・クラークシップの見学で,参加者それぞれがホストフレンドとともに実習した。以下は特に印象に残ったセッションについて感想を述べてみたい。
 Dr. RaoによるWalk Roundsは,私たち参加者の学年が4年生から研修医までとさまざまであったにもかかわらず,患者の症状をもとに質問し,最終的には鑑別診断や疾患の病態生理,検査や治療に至るまで学生を導いた彼の指導は見事であった。いつの間にか,私たちもその患者の問題を解決しようと考えをめぐらせていたことに気がついた。そう,この学習者への動機づけが教育のキーなのだ。これほど参加者の興味を引き,かつ楽しく教育的な回診は,今まで経験がなく,非常に印象的であった。
 また,ICU(集中治療室)で行なわれたシュミレーターを用いての心肺蘇生トレーニングのセッションも有意義であった。ICUのような重症患者がいるところでは,手技や応急処置をやったことのない学生が,はじめての患者に医療行為を行なうには危険が伴う。そのため,本物の患者さんを診る前にシュミレーターを利用して何度もトレーニングするようになっている。ここでは,舞台裏で人形の心拍数・心電図・呼吸状態などを自由自在に操ったり,マイクを通して実際に患者が話しているような設定があり,臨場感たっぷりのシュミレーションができる。この経験により,学生は実際に患者さんに対しても落ち着いて,より安全に手技を行なうことができるようになる。

プログラムの概要
1日目 4/28(月)
・ホストフレンドに同伴しクリニカル・クラークシップを見学
2日目 4/29(火)
・Best Teacher Award受賞経験のあるDr. Raoの病棟回診
・開会
・アメリカの医学教育の全体像,特に内科医がどのように育てられていくかという講義
・グループ討論
・Attending Physiciansとの回診
 希望する科のクリニカル・クラークシップ見学
3日目 4/30(水)
・集中治療室のカンファレンス
・PBL(Problem Based Learning)セミナー
・救急医学センターの見学,救急救命士の教育プログラム(http://www.centerem.com/)紹介
・医学生のジャーナルクラブに参加
・ピッツバーグ市内の観光
・夜間の救命救急外来見学
4日目 5/1(木)
・集中治療室のカンファレンス
・模擬問診を用いた問診のトレーニング
・集中治療室でのシミュレーターを用いた心肺蘇生トレーニング
・グループ討論
・救命救急外来の見学
・臨床におけるEBMについての講義
・夜間の救命救急外来見学
5日目 5/2(金)
・グランドラウンド
・医学部図書館の見学
・インターンレポート
・レジデントレポート
・患者の権利擁護課訪問
・グループ討論
・放射線診断の学習

教育者としてのレジデント(研修医)
――教えるというサイクル

 ピッツバーグ大学では,研修医には病棟のチームマネジャーとして,患者ケアの担い手として,そして「Teacher」としての役割が期待されている。この3つ目の教育者としての役割に関しては,研修のはじめに1日かけて,“Resident Teaching Workshop”というものが開かれ,ベッドサイドでの教育のコツ,学生へのフィードバックの与え方,回診をより教育的なものにするためにどうすればよいかなど,事細かに教えられるという。また学生への教育内容として,学生へのロールモデリング,学生が取った病歴・所見・アセスメント・プランへの指導とディスカッション,チームの教育環境の整備,ミニ講義,カルテやプレゼンテーションのチェック,手技の監督等が詳細に提示されていた。
 研修医の時から病棟での業務とともに教育的な仕事もこなし,その教えるという行為が次の世代に伝わっていく。教育はまさしくサイクルであると思う。人は自分が教えられてきたように人にも教える。また,よく教えられた人はよく教える。医学教育をよりよくするためにはこのサイクルの中に,教えるという習慣や効果的に教えることを植えつける必要があるのではないだろうか。昨今,ACLSやEBMがワークショップや講義を通じて草の根的に広まってきたように,「教え方」について学ぶ講義やワークショップが若い研修医に行なわれれば,教育のサイクルがよくなっていくのではと期待が持てた。

ジャンプではなく,スロープを辿る教育を

 日本の卒前医学教育を大まかに分けると最初の2年間は教養や基礎医学の講義,次の2年間は臨床医学の講義,そして5年生ではじめて病棟に行き,実際の患者さんに接する。モチベーションが高まったところで,6年生の間のほとんどは机上での国家試験勉強。国家試験に受かったとたん,医師として患者のケアの責任を担う。4年間机上の勉強しかしてこなかった学生が5年生になりいきなり病棟へ,あるいは1年間国家試験の勉強をしてきた医学生が合格した次の日からまったく仕事内容も責任の重みも違う医師に。これはとてつもなく大きなジャンプである。このジャンプは学生にとっても,指導する立場にとっても大きなストレスである。そしてもちろん患者さんにとっても然り。
 ピッツバーグ大学ではこのような大きなジャンプを避けるために,医療面接の仕方や身体所見の取り方を入学して間もないころから継続的に学習していく。最初は正常の所見を学生同士で取り,次はシミュレーターの人形を使って,そして最後は模擬患者である俳優に挑戦する。このような段階を踏んできて初めて病棟で患者ケアに関わる。一見長いプロセスであるが,こうすることによって着実に病棟でチームの一員として機能する力を身に付ける。それに加え,低学年のころからクリニックの見学,実際の症例からPBL方式で学習することなどにより,モチベーションを高めつつ学習していくという方法がとられている。この大学だけに限らず,アメリカのほとんどの大学では4年間なだらかなスロープを辿りながら医学と医療を学んでいくのである。
 昨今,日本でも米国で行なわれているクリニカルクラークシップ(参加型実習)の制度を導入している大学が増えている。確かによい制度であるが,臨床実習を参加型にするためには,学生が参加型でやっていける力をつける臨床実習前の教育が以前に増して重要になってくるのではないだろうか。指導する側も日常の業務に追われ忙しく,学生側も知識はあるが,チームの一員として機能できていないといった背景の1つに臨床実習前の教育が挙げられる。これは数週間の講義や実習で身に付くものでなく,知識を身につける時,つまり基礎医学の時から相互に取り組む必要があるように感じる。学生が医療面接や診察の仕方,カルテの書き方を習得し,問題解決能力を身に付けていれば,チームの一員として十分貢献することができ,教員もより効率的に教えることができるはずである。

最後に

 最後に,今回のプログラムで大変お世話になったプログラムディレクターの赤津晴子先生,ピッツバーグ大学の教員の皆様に深く感謝申し上げます。赤津先生の教育への熱い思い,ピッツバーグ大学のこのプログラムを全面的に支援しようとする姿勢が,このプログラムをますます素晴らしいものにすることと存じます。