医学界新聞

 

新しい創傷治療へ向けて

東京都創傷・褥瘡セミナーより


注目される「閉鎖療法」

 さる7月5日,東京都創傷・褥瘡セミナーが,東京都千代田区のよみうりホールにおいて開催された。東京都看護協会とスミス・アンド・ネフュー株式会社の共催で行なわれた今回のセミナーでは,創傷治療,栄養管理,看護,リハビリテーションの視点から,創傷および褥瘡に対するアプローチが紹介された。その中で,夏井睦氏(相澤病院)は創傷被覆材を用いた閉鎖療法について講演を行なった。
 氏はこれまでに「消毒をしない,ガーゼを当てない皮膚外傷の治療」という視点から閉鎖療法を実践,その有用性を紹介して,注目を集めている。今回も会場には多くの医療従事者が集まり,関心の高さをうかがわせた。

なぜ「傷にガーゼ」はだめなのか

 今回のセミナーでは,氏は「新しい創傷治療-『消毒とガーゼ』の撲滅を目指して」と題し,「乾燥させて治す」,「消毒してガーゼをあてる」といったこれまでの創傷治療のあり方を鋭く批判した。氏はまず,培養細胞と同様に創傷部の真皮や肉芽組織の細胞も乾燥すると死んでしまうことを指摘し,このため創傷部は適度な湿潤環境に保つことが重要であると述べた。また,創傷部から分泌される浸出液には細胞成長因子が含まれており,「創傷をハイドロコロイドや親水性ポリウレタンなどの創傷被覆材で覆うことにより,治癒に最適な環境を提供できる」と,実際に創傷が治癒していく過程の写真を交えて閉鎖療法の合理性を強調した。
 そして,これに対して従来用いられているガーゼは創面を乾燥させることで細胞から水分と細胞成長因子を奪い,また創面に固着するため交換処置の際に疼痛,出血を引き起こすことを挙げ,「創面にガーゼを当てることで傷は治りにくくなり,患者の苦痛も大きくなってしまう」と述べた。

消毒に「異議あり!」

 氏はまた,「創から細菌が検出されれば創感染である」という一般的な認識について「発赤,疼痛などの感染症状があるのが創感染であり,創面に細菌がいるだけでは創感染ではない」と述べ,そのうえで「細菌単独で創感染を起こすにはきわめて大量の菌数が必要であり,そのようなことは通常起こりえないが,創内に異物・壊死組織があると非常に少ない菌数でも感染を起こしてしまう」と説明した。そして,このことから創面の感染予防において重要なのは消毒による細菌の除去ではなく,洗浄や外科的デブリードマンによる創内の異物の除去であると指摘,また消毒を行なっても短時間のうちに皮膚常在菌が創面に移動してくることから「消毒には創感染の予防・治療効果はない」と述べた。
 さらに,消毒薬の細胞障害性は細菌よりも創面の細胞に対しての方が大きいため,「消毒薬は創傷治癒を阻害する」とし,「手術の執刀前やカテーテル挿入など消毒が本当に必要な処置以外は消毒を行なうべきではない」と述べた。
 そして氏は最後に「消毒をやめ,きれいに洗浄したうえで創傷被覆材を使用すれば,創傷はきわめて速やかに,最小限の瘢痕で治癒する」と締めくくった。

 
 
 閉鎖療法による創傷治療
自転車で転倒し受傷。水道水で洗浄後(Fig.1),創傷被覆材とフィルムドレッシング材により密封閉鎖(Fig.2)。受傷4日目でほぼ完全に治癒している(Fig.3)。

(夏井睦著『これからの創傷治療』〔医学書院〕より)