医学界新聞

 

ノーマライゼーションをテーマに

第37回日本作業療法学会開催される




 第37回日本作業療法学会が,さる6月25-28日の4日間にわたり,「ノーマライゼーション──作業療法の挑戦」をテーマに,北九州国際会議場,他にて開催された。精神・身体・発達の各分野で障害者の社会参加づくりが議論された他,ナイトセミナーでは支援費制度,権利擁護,成年後見制度などのテーマが企画された。
 また,北九州市に所在し,“西のリハビリテーション発祥の地”ともいわれる九州リハビリテーション大学校の閉校年度と重なった今回は,その1期生でもある大丸幸氏(北九州市立障害福祉センター)が学会長を務めた。

■障害者の社会参加づくりの支援を

 大田仁史氏(茨城県立医療大)による特別講演「からだそこそこ,心うつうつ──最後まで看まもるために」では,最初に講演タイトルについて補足説明がなされた。「からだそこそこ,心うつうつ」は,「病院での訓練を終えて退院した人の体はそこそこ良くなっている。でも気持ちが晴ればれしていない」状態を表わす言葉だという。これを踏まえて,障害を抱えて地域に戻った人を最後までどうやって看まもることができるのか,医療職はどんな考え方を持っていればいいのか持論を語った。
 多くのリハビリテーション職が悩みに陥りやすい,維持期の目標設定について,氏は「非常に難しいが,退院後の“社会性の獲得への支援”こそが重要」と提言。病院から在宅までのソフトランディングをするためには,PTやOTが入院中から患者の退院後を想定し,心の問題への対応も含めて対応すべきだと述べた。特に,高齢者の閉じこもり予防については,「外に出たくない人も確かにいるが,こういう人を出すのもプロの仕事」と,医療職の責務を強調した。
 また訪問リハビリテーションの「大目標」として,(1)閉じこもり(社会的孤立)の予防,(2)外出の大切な第1歩の準備,(3)交流の場(拠点)づくり,の3点を確認。そのためにも,(1)軽い介助による起きあがりが可能,(2)少しの間背もたれなしで座っていられる,(3)何かにつかまって立っていられる,などの具体的な目標設定をあげた。
 また氏は,こうした主張の実践例を数々のスライド写真を交えて聴衆に提示。失語症の英国人と日本人グループ同士の,“言語の壁を超えた”欧州旅行の思い出。91歳で脳卒中に倒れた実母の在宅リハや,93歳になったときに「夫の命日に墓参りをしたい」という希望を叶えるため高松で墓参りをした時のことなど,ユーモアを交えて話した。

最後まで人間らしくあるために終末期リハを提唱

 また,「これは最後まで人間らしくいるための保証」として終末期リハビリテーションが提唱された。
 最初にスライドに提示された写真は,口が開いたままとなった老人のもので「これでは死化粧ができない」と話し,膝の拘縮を起こした写真では「このままだとお棺に入らない。葬儀屋が親族のいないところで骨を折るしかない」と説明した。「これが人間の最後の姿としてふさわしいか。わずかなリハの技術で防げることをやっていない」と,終末期リハビリテーションがないがしろにされる医療現場を強い口調で批判。終始笑いの絶えなかった会場も,この時ばかりは氏の話に静かに聞き入った。
 最後には,車椅子の人たちと阿波踊りに出場した時のビデオを提示しながら,障害者の社会参加づくりの意義を説明。また,「日常の仕事は楽しいことばかりではないかもしれないが,自分の心を動かすような場をつくるのもプロの仕事」と,聴衆にメッセージを贈り,大きな拍手に包まれる中,講演を結んだ。

■作業療法士教育のあり方を議論

 現在,作業療法士教育においては,養成校が急増するなかで,学生の質の確保が当面の課題となっており,日本作業療法士協会においても教育や実習の新たな基準づくりが進められている。パネルディスカッション「わかりやすい授業展開のために」(司会=九州リハビリテーション大学校・佐藤祐司氏)では,5つの教育施設から報告がなされ,OT教育のあり方が再検討された。
 岩瀬義昭氏(鹿児島大)は,「わかりやすい授業にするには,教育の達成目標を明らかにする必要があり,講義の場合は情報獲得が目標」とした。そのためにも教員は,いつ・どこで・どのように,学生に情報を伝えるかをシラバスによって明確に示しておくことが大事だと述べた。また,「単位付与権を持つものは学生よりも強者である」との認識に立ち,学生が行なうべき課題や評価方法まで記載する責務を説いた。
 小平憲子氏(神戸大)は,「教えない教育方法」について説明。円座形式にして学生同士が顔を合わせるよう授業場面を設定,講義形式による情報提供を最小限にして学生自身に考えさせる,などの自身の取り組みを紹介した。
 青山宏氏(札幌医大)は,「大切なのは,作業療法の面白さを伝えること。この1点に尽きる」として,3年生における2週間の評価実習と,その後の症例検討を紹介。小平氏と同じく,グループ形式の授業を通して,学生が自ら学ぶ重要性を強調した。
 陣内大輔氏(熊本リハビリテーション学院)からは,現在答申がなされている「作業療法士教育の最低基準」について報告がなされた。改訂のポイントについて,「ICFの用語をとり入れた他,成績評価のなかで態度や行動を優先した」と説明した。また,「臨床実践との関連づけが今後の教育には重要」と,事例を用いた授業などの工夫が今後求められるとした。

施設にお任せの臨床実習に異議

 一方,平賀昭信氏(柏崎厚生病院)は,専門性の獲得以前に「職業準備性(基本的学習態度)」を学生に身につけさせることが必要で,これがなければ実習の際にも問題を起こすと指摘した。氏は,挨拶と掃除を合い言葉に,教員自らも事務所の掃除をし,学生にも教室の掃除を義務づける試みを紹介。それと同時に,なぜ掃除や挨拶,時間の厳守が,将来OTとなる学生に必要なのかを学生に理解させることが大切だとした。
 また,教員同士の交流については,(1)複数の教官で1つの科目を持つ,(2)授業資料を教員全員に事前提出,(3)授業の様子を教官室で報告,などの工夫を例示した。最後に氏は,「OTになれば,自分の父親ぐらいの人に先生と呼ばれる。信頼されるOTとなるには,職業の準備性を日常から身につけなければならない」と,繰り返し強調した。
 小林毅氏(帝京大)は,臨床実習の教育の立場から意見を述べた。まず,臨床実習を引き受けるにあたって,養成校と実習施設の関係は,「説明と同意による契約関係にある」とし,「実習施設にお任せします,というのが多い」という現状の改善を要求。養成校における講義の内容や実習における到達目標まで,施設側に明らかにすることが一番大切なことだとした。
 また,氏は,学生には必ずレポートやノートを実習に持って来てもらうという自らの教育実践を紹介。これは,実習中の学生に多い「習っていません」という発言に対して,すでに学習した内容であることを理解させるためで,「レポートは学内実習の指標になる。必ず持たせるように」と助言した。最後に,「臨床実習において,学生に到達程度を高く求めると失敗する」と,資格取得後の生涯教育の継続も,作業療法の専門性の確立には重要であるとまとめた。