医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


一読の価値のあるインターネット自由自在

保健・医療者のためのWeb検索・活用ガイド
中山和弘 著

《書 評》久保田啓介(東大・胃食道外科学/乳腺内分泌外科学)

増大する医療従事者のインターネットの活用

 本書では,医療従事者を対象に,診療の場面のみならず利用できるインターネット活用の方法が紹介されている。私自身は,めずらしい疾患に遭遇した際に,時によってインターネットでの情報収集を試み,うまくいかないとすぐにあきらめる,いわゆる「中級者」レベルのユーザーである。本書は実際の画面をふんだんに掲載し,これと対比しつつ解説してあるので,通勤時などに読んでも非常に理解しやすい。
 まず前半で基本的用語,操作法が解説される。「ブラウザ」,「Web」,「サイト」,「ページ」などわかっているようでわかっていない言葉が理解でき,トラブルシュートに役立つと思われた。画面のスクロール法,文字化けの対処法などは,今後多用するようになると役立ちそうだ。本書の中心部では,目的のサイトの効率的な検索法,および引用したサイトの有効な活用法が紹介される。サーチエンジンの「Google」の利用,検索語として「とは」を加えるコツ,リンク集の活用など,実際に試してみて非常に有用であることが実感された。ディレクトリのさかのぼり,ドメイン名の利用などのテクニックも今後ぜひ試してみたい。活用法についても,「お気に入り」の整理,PDFファイルのコピー,画面の印刷方法など,知っていると便利な項目が多い。

ビギナーにもベテランにも役立つテクニックが満載

 インターネットはとっつきにくいという初級者,使ってはいるが有効に使いこなせていない中級者の方は,本書を読めばインターネットの有用性を理解されるであろう。また,すでに多分に利用されている上級者,自宅・職場・出張先などでモバイルとして利用されている方にも,役立つテクニックが満載である。
 著者は自分でホームページを所有され,かなりのヘビーユーザーであることがうかがわれる。本書は手頃な分量と親しみやすい体裁でありながら,このような著者の実際の経験に即して書かれた解説書であり,一読の価値のある書と言える。
A5・頁144 定価(本体1,800円+税)医学書院


全頁フルカラーの世界的な総合細胞診断テキスト

Diagnostic Cytopathology 第2版
Winifred Gray,Grace T. McKee 編

《書 評》小林忠男(済生会滋賀県病院臨床検査部技師長)

心待ちにしていた本書の改訂

 このたび,7年ぶりにChurchill Livingston社より上梓された『Diagnostic Cytopathology』の第2版を手にした。1,000頁以上におよぶフルカラー総合的細胞診断テキスト(アトラス)でずっしりと重い。今回の改版については,2001年にアムステルダムで開催された,第14回国際細胞学会議の席上で編集者のDr. Winifred Grayから改訂の作業を精力的に進めていることをお聞きしていたので,心待ちにしていた者の1人でもある。
 初版では,Dr. Gray1人であった編集を今回は米国マサチューセッツ総合病院細胞病理部のDr. Grace T. McKeeを編集委員として迎え,総合的テキストとしての魅力をさらに深めたような気がする。
 この本の執筆者の特徴は,英国を中心としたヨーロッパから50人にもおよぶ第一線の細胞病理学者が参加している点であろう。しかし,その内容については,実によく統制が保たれ,しかも体裁よく洗練されたカラーアトラスとなっている。これらは,編集者のお2人とも女性の細胞病理医であることからも,随所にそのこだわりが感じ取れる。例えば,頁の上に帯状のカラー印刷などは,それぞれの項の検索を容易にしている点などはそのよい例であろう。
 衆知のとおり細胞診は,生検組織診と比べて簡便・迅速な手法であることから,従来の剥離細胞診から穿刺吸引細胞診(FNA)の方向に重点が移動しつつあり,きわめて有用な形態学的検査の1つとなっている。本書の序章において,細胞診断学が同時代を生き抜いた2人の偉大な先駆的学者,Dr. George PapanicolaouとDr. Aurel Babesが奇しくも1928年に発表した“新しい細胞学診断法”からすべては始まったことを,その逸話とともに紹介し,“新しい分子技術法”とその未来についても興味深く概説している。

群を抜く鮮明なカラー写真と魅力的なすべての病変の記述的記載

 更新された本書の全体的に貫かれている考えは,すべての病変が記述的である点であろう。これらは,初版から引き継がれており,美しいカラー写真とその説明とともにこの本の大きな魅力の1つでもある。さらに「細胞所見」と「診断的ピットホール」をそれぞれ別々に整理してある点は,日常の細胞診断の実務に携わる者としては,そのつど要点把握する上でありがたい。
 例えば,乳腺においては「正常」,「炎症・良性病変」,「悪性病変」とそれぞれ別々の項で説明されている。「正常」の項では,前処理としてのLiquid based cytologyやCore needle biopsyの使用とその意義やFNAの役割と臨床的考慮などのフィールド中心に述べられている。最も重要と思われるのは,無理のない,そして適切な細胞学的評価をいかに導くかというロジックを説明しており,何が何でも細胞診で診断とは決して言ってはいない。また,第2版の全頁におよぶカラー写真は,印刷所の変更によるものか知らないが,すべてにおいて写真の質が向上しているのはうれしい。
 精選されたカラー写真を有する本書は,細胞診断の現場の実務者はもとより病理専門医や細胞検査士をめざす者のよき指針となるに違いない。多くの人に自信を持ってお薦めしたい「総合的な細胞診の実際カラーアトラス」である。
A4変・頁1,042 52,900円(税別)
Churchill Livingston社/医学書院総代理店


画期的な循環器病学のEBMハンドブック

エビデンス循環器病学
Peter J. Sharis,Christopher P. Cannon 原著/藤田直也 監訳

《書 評》一色高明(帝京大教授・循環器内科学)

努力がいる日常診療でのEBMの実践

 Evidence-Based Medicine(EBM)の重要性が導入されて久しいが,自分の専門領域を別にすると,日常診療のすべての領域においてEBMを実践することには,かなり大変な努力が必要である。専門領域から離れれば離れるほどその傾向は顕著となり,EBMの重要性を頭では理解していても,個人レベルでの過去の経験や,その施設で引き継がれてきた慣習に引きずられやすい。わが国における多忙な医師の日常を考えると,1つひとつ文献をあたって,各々のテーマのエビデンスを確認する作業を行なうことは,考えるだけで気の遠くなる諸兄も多いことだろう。
 さて,市井には循環器病学の分野だけをとってみても数多くの医学書があるが,そのうち日常診療の参考書として汎用されるのは,いわゆる「指針本」,「マニュアル」の類である。これらは確かに利用しやすいが,EBMの観点からその記述内容の根拠を求めようとすると,肝心の部分には文献があげられていなかったり,あったとしても,その文献の内容を確認するためには,オリジナルを探し,通読し,検討するという作業が必要となる。このような読者のニーズに呼応していわゆる大規模臨床試験の要約本や文献集などが存在するが,これらの書物から求めている内容のエビデンスを探し出すことは,決して単純な作業ではない。

実践に即したエビデンスの集約

 今般医学書院より発行された『エビデンス循環器病学』は,Dr. SharisとDr. Cannonの共著である『Evidence-Based Cardiology』(LWW)を忠実に翻訳したもので,上記の短所をすべて消去した画期的なハンドブックである。本書を一言であらわすならば,「疾患解説つき文献要約集」とでも言えるだろうか。460頁余の本文中4分の3は,文献とその要約で占められている。それらの文献の1つひとつは,十分に吟味されているだけでなく,代表的な循環器疾患の疫学や診断あるいは治療に関する解説の中に関連づけられているため,読者は本書を読みながら,そのエビデンスを理解できる仕組みになっている。これだけの内容をポケットサイズに作成してある点も好ましい。
 残念なのは,活字が小さく,レイアウトが平面的になっていることである。6つある各章の本文の頁と参考文献の頁が区別しにくくなっている。ポケットサイズに作成するために犠牲になったためかもしれないが,ハンドブックとしての特徴をもう少し追求して,横見出しをつけるなどの工夫があれば利便性がさらに向上することであろう。
 さて,原書の発行は2000年であり,すでに2年が経過している。序文に筆者らも述べているように医学の分野は日進月歩である。本書が常に最新の情報を提供できるように,原書とともに頻繁な改訂を望みたい。本書は,循環器病学の現状を正しく理解し,それを日常診療に応用するためにぜひとも身の回りに置いておきたい1冊である。
A5変・頁468 定価(本体4,800円+税)医学書院