医学界新聞

 

〔連載〕How to make

クリニカル・エビデンス

-その仮説をいかに証明するか?-

浦島充佳(東京慈恵会医科大学 臨床研究開発室)


2518号よりつづく

〔最終回〕フレミンガム・ハート・スタディ(3)

大規模コホート研究

 フレミンガム・スタディの後,万単位の人を対象にした大規模コホート研究が西欧諸国で開始され,多くの疾患リスクが明らかにされてきました。その中の1つにナース・ヘルス・スタディがあります。この研究は,およそ12万人以上の看護師を中心とするヘルス・プラクティショナーにアンケート調査等を行なう前向きコホート研究であり,もうすぐ30年になろうとしています。
 これは,看護師の健康に対する知識と興味に期待して始まったものですが,予想通り大きな反響がありました。特に経口避妊薬としての女性ホルモン剤が乳がんや冠動脈疾患などにどのような影響をもたらすかなどが主なトピックでした。ケース・コントロール・スタディでは通常1つの疾患に絞らざるを得ませんが,コホート・スタディでは疾病の種類に関して選択の幅があります。
 このナース・ヘルス・スタディから,New England Journal of Medicineをはじめとする有名な雑誌に多くのクリニカル・エビデンスが報告されました。そして,現在ナース・ヘルス・スタディ2として,若い世代をターゲットに新たな研究が始まったところです。

裏で支えるスタッフたち

 ナース・ヘルス・スタディは,フィジシャン・ヘルス・スタディとともにハーバード・メディカル・エリアのチャニング・ラボ(写真1)に本拠地を構えています。このチャニング・ラボは元来結核療養所だった関係で微生物学の研究室も入っていますが,ナース・ヘルス・スタディもプロジェクトとして1フロア以上を保有していました。
 これだけ大きな研究となると,多くの人が1つのプロジェクトに専念しなくてはなりません。そして,フロアは郵便局のようで,常時10人以上のスタッフがアメリカ全土のナースと手紙のやり取りをします(写真2)。さらに大学院生は研究参加者に病気が発生した際に,担当医師に詳細を電話で確認し,ファイルとして残します(写真3)。さらに最近はホームページ上からもアクセスできるシステムを構築し,手紙によるアンケートと並行して研究が進んでいます。
 これと並行して100台の大きな液体窒素タンクを配し(写真4),日々到着する血清,尿,白血球などの検体をスタッフが保存し続けています(写真5)。白血球保存はDNA保存を意味しますが,説明と同意をアンケート型の文書でとっていました。そして,名前とIDは分離され,検体の表面にはバーコードと数字しか記されていません。
 1人に対する郵便料金はたかが知れています。また検体保存もたいしたことはありません。ところが,12万人となると相当な研究費が必要です。しかし,ここから生まれる知見により,将来の女性の健康はより改善されることでしょう。癌の50%は生活習慣から発生すると言われています。もちろん心臓病や糖尿病,脳卒中などは生活習慣と密接な関係があります。新薬開発に数億円かけるのであれば,このような病気予防のための研究にそれ以上かけても決して無駄ではないでしょう。なぜなら,予防は治療に優るからです。

 

 

(本連載はこれで終了します。ご愛読ありがとうございました。)

《番外編》2537号