医学界新聞

 

第8回白壁賞,
第27回村上記念『胃と腸』賞決定


 「第8回白壁賞」が吉田操氏(都立墨東病院)・他「食道癌の深達度診断-内視鏡像からみた深達度診断」(『胃と腸』36:295-306),「第27回村上記念『胃と腸』賞」は渡辺英伸氏(新潟大)・他「虫垂・盲腸Crohn病の病理学的特徴と鑑別診断」(『胃と腸』36:183-194)と松本主之氏(九大)・他「潰瘍性大腸炎診断基準の問題点-非連続性病変の面から」(『胃と腸』36:507-515)に決定し,その贈呈式がさる9月18日,東京の東商ホールで開催された早期胃癌研究会の席上において行なわれた。

「第8回白壁賞」に吉田操氏

 「白壁賞」は,故白壁彦夫氏の偉業を讃えて設けられた賞で,氏の業績を鑑みて,消化管の形態・診断学の進歩と普及に寄与した優れた研究に対し,「『胃と腸』誌に掲載された論文に限らず,同誌編集委員が推薦する論文をも対象とする」としている。今回は同誌36巻に掲載された全論文と応募英文論文1篇が選考対象となった。
 贈呈式では選考委員会を代表して横山善文氏(名市大)が,「本論文は,吉田先生の永年にわたる食道癌診断学の集大成というべき論文である」と選評を述べ,編集委員会代表八尾恒良氏(福岡大筑紫病院)から賞状と盾が,金原優医学書院社長から副賞が贈呈された。
 続いて受賞者を代表して吉田氏は,「この仕事は20年ぐらい前から続けてきたもので,共同執筆者である前勤務地の駒込病院のグループだけでなく,小池盛雄先生(東医歯大),滝澤登一郎先生(同)に病理の面でバックアップを受けた。また,食道癌の早期診断を勉強するグループの中でも海上雅光先生(わたり病院),板橋正幸先生(茨城県立中央病院)に長年指導を受け,多くの仲間の代表として賞をいただいたということで大変うれしい。食道癌の診断学は遅れており,私がこの世界に入った時には,最も早期の癌はsm3くらいで,治療しても再発する方が多く,早期癌という概念からは遠かったが,粘膜内癌の診断ができるようになって食道癌の早期診断が何とか完成できた。今日の賞をいただいて,食道癌の診断学も消化管診断学の中に存在感を認められたとしみじみと感じる。今後も食道領域の診断学・治療学に対してご支援を賜りたい」と謝辞を述べた。

「第27回村上記念『胃と腸』賞」に渡辺英伸氏と松本主之氏

 引き続いて同会場で,「第27回村上記念『胃と腸』賞」の贈呈式が行なわれた。
 同賞は,『胃と腸』誌創刊時の「早期胃癌研究会」の代表であった故村上忠重氏を顕彰して設けられた賞で,特に消化管疾患の病態解明に寄与した同誌の年間最優秀論文に対して贈られる。なお,渡辺氏は「原発性の空・回腸腫瘍の病理-肉眼形態と組織像の対比」で「第7回」の同賞を受賞しており,今回は2度目の受賞となった。
 贈呈式では,選考委員会を代表して横山氏は投票の結果2本が選ばれた経過を,「従来Crohn病に関して虫垂はあまり注目されていなかったが,渡辺先生の論文は虫垂のCrohn病も小腸あるいは大腸の病変と変わらないということを明らかにした。一方松本先生の論文は,従来潰瘍性大腸炎は直腸から連続性にびまん性に広がると定義されてきたが,多くの症例を集めて非連続性の病変が決してまれではないことを明確にした」と説明。八尾氏からは賞状と盾が,金原社長から副賞が贈呈された。
 続いて受賞者を代表して渡辺氏は「1978年に初めてCrohn病の論文を『胃と腸』誌に発表し,八尾先生と一緒に診断基準を確立したが,盲腸のCrohn病があまり再発しないことを疑問に思っていた。22年間,早期胃癌研究会でも多くの症例を見せていただきながらその思いを頭に入れていたので,この会でアイディアを醸造させることができた。実際には,虫垂から延びた病変が盲腸の虫垂開口部に出るということがほぼわかった。しかし,この疾患は再発が少なく,全身性の縦走潰瘍に進展していくのが少ないのはなぜか,などまだ疑問がたくさんあり,その点でも夢がある。おそらく若い方も,1つの仕事を終えたら2つか3つは疑問が残ると思う。いつもそういう疑問を作りながら論文を書いていくことは大変楽しい。私の思い出の一環を述べて感謝に代えたい」と謝辞を述べた。
 また松本氏は,「私が今回まとめたのは潰瘍性大腸炎の非連続性病変に対してだが,振り返れば1994年,旭川医大第3内科の斉藤裕輔先生が内視鏡学会雑誌に報告された論文に感銘を受け,それから症例を蓄積してきて,非連続性病変のほうが多いことが証明できたと思う。最近,炎症性腸疾患の世界では,新しい治療とか分子生物学的な病態解明とか言われているが,土台となるのは臨床診断である。今回この仕事を行なって臨床診断の難しさ,重要性を勉強させていただいた。共同研究者の諸先生,また八尾隆史先生(九大形態機能病理)と飯田三雄先生(同大病態機能内科)に深謝したい」と謝辞を述べた。