医学界新聞

 

第10回日本消化器関連学会週間

DDW-Japan2002が開催される




 第10回日本消化器関連学会週間(Digestive Desease Week-Japan2002)が,さる10月24-27日の4日間にわたり,横浜市のパシフィコ横浜において開催され,第6回肝臓学会(慶大 石井裕正会長),第44回消化器病学会(金沢大 小林健一会長),第64回消化器内視鏡学会(千葉大 税所宏光会長),第40回消化器集団検診学会(徳島大 伊東進会長),第33回消化吸収学会(大阪府立母子保健総合医療センター岡田正会長)が一堂に会した(各学会とも「日本」省略)。
 会期中は,21題のシンポジウム,27題のワークショップ,16題のパネルディスカッションがそれぞれの学会から企画された他,DDW合同企画として,特別講演「ゲノミックスは消化器がん検診に何時,如何に寄与できそうか?」(国立がんセンター 杉村隆氏)や,教育講演「消化器病診療のup-to-date2002」,「DDW-Japan10回記念国際シンポジウム」(司会=日本消化器関連学会機構議長 中澤三郎氏)など,多彩なプログラムが催された。


ウイルス性肝疾患研究の進歩

 「ウイルス性肝炎から肝細胞癌へ-30年間における研究の変遷と治療の進歩」をテーマに消化器病学会長講演を行なった小林氏は,ウイルス性肝炎から肝細胞癌の発生に関連した研究の歴史と,近年の進歩について述べた。
 氏は,ウイルスによる発癌の研究について,B型肝炎ウイルス感染による発癌モデルとしてのウドチャック肝炎ウイルスを用いた肝発癌研究から,研究の歴史を振り返った。特に「近年の研究において特筆すべきなのは,C型肝炎ウイルスの発見である」とし,家族内感染の検討,Quasispecies nature,C型肝炎ウイルス複製に関与するNS5やIRES(internal ribosomal entry site)についての研究も紹介した。
 また,「昨今のヒトゲノムプロジェクトの推進とあいまって,cDNA microarrayや,SAGE(serial analysis of gene expression)法についても研究が進んでいる」と述べ,その結果から,「B型とC型肝炎では発現を亢進する遺伝子が異なることがわかり,それぞれについて発癌のメカニズムも異なる可能性を示している」と指摘。さらに,これらの研究法の発達によって,今後インターフェロンによる効果の予測が可能になることで臨床における有用性が増すとの考えから,「個々の患者に対するPersonalized Medicineの実現に向けて,さらなるデータ集積が期待される」と,将来の治療指針へ与える影響を示唆した。

●胆道膵悪性腫瘍に対する内視鏡診断と治療

 2日目に行なわれた消化器内視鏡学会,消化器病学会との合同シンポジウム「胆道膵悪性腫瘍に対する内視鏡診断と治療の進歩」(司会=福岡大 池田靖洋氏,仙台市医療センター 藤田直孝氏)では,診断・治療ともに困難とされる胆道膵悪性腫瘍に対する内視鏡を用いた新しいアプローチの確立をめざして議論が展開された。

精度の高い診断法確立をめざして

 最初に中村和人氏(東医大)は,胆道疾患における蛍光内視鏡の有用性を報告。蛍光内視鏡で生検組織所見が得られた48例を対象に,蛍光内視鏡で緑色蛍光が減弱する部分の生検所見と通常内視鏡所見との対比検討した。結果は,蛍光診断の特異度は低く偽陽性も高率に認めたが,感度は100%と高く,悪性病巣の検出に優れ,通常の内視鏡では指摘困難な3病変を検出するなど利点も大きい。氏は「蛍光内視鏡を通常内視鏡検査に付け加えることで,精度の高い診断が可能」と述べた。
 次いで,近年のバーチャル内視鏡の臨床応用研究を背景に坂上信行氏(千葉大)は,造影CTを用いたバーチャル・パンクレアトスコピー(VPS)を膵管内乳頭腫瘍,膵管癌,慢性膵炎など各種膵疾患に施行。全体の73%(49例中36例)にVPS画像が作成できたが,膵管拡張がない例や膵実質萎縮が強い例では困難であった。また経口膵管鏡と比較し,VSPは膵管鏡では観察不可能な嚢胞内の観察に優れていたことを明らかにした。
 長谷部修氏(長野市民病院)は,胆道膵悪性腫瘍131例に,ERCPに引き続き,ガイドワイヤー留置下胆管生検,ブラッシング細胞診,胆汁細胞診の3者を可能な限り施行。各手技の陽性率を比較したところ胆管生検(72%)が最も優れており,各種疾患における3者併用の診断陽性率は乳頭部癌,胆管癌,胆嚢癌では良好であった。一方,生検陰性例24例中に行なった細胞診では7例に陽性が認められた。これらの結果から,経乳頭的胆管生検・細胞診は「質的診断におけるファースト・ステップとしての意義は十分にある」とした。
 続く山崎総一郎氏(広島大)は,早期診断が困難である浸潤性膵管癌に対して,画像診断時に経内視鏡的に採取した膵液を用いて,膵液細胞診とras変異,p53異常,テロメラーゼ活性を対比検討。特に膵液中のテロメラーゼ活性測定は膵癌を高率で認め,慢性膵炎では認められなかったことから,膵管内乳頭腫瘍の良悪性の鑑別にも有用性が示され,「優れた膵癌の補助診断になる」と述べた。
 内視鏡を用いた診断技術に関して,吉田浩司氏(総合会津中央病院会津消化器病センター)と園田幸生氏(九大)が追加発言を行なった。吉田氏は,過去5年間のERCP2902例のうち内視鏡的経鼻膵管ドレナージ術(ENPD)留置による連続細胞診と局在診断,管腔内超音波検査(IDUS)とgene chipを施行した結果を報告。膵上皮内癌の診断は1度の細胞診では見落とす可能性があり,ENPD留置による連続的な細胞診が必要な点や,留置細胞診や遺伝子解析の有用性を述べた。その一方で,ERCPなどで膵癌を小さい状態で発見することは困難であることを指摘した。続いて園田氏は,早期膵癌や多臓器の悪性腫瘍との合併率が高いとされる膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMT)に着目。膵切除を行なってIPMTと診断された76例中,IPMTに合併した膵癌症例7例を詳細に検討した。その結果から,IPMTを膵全体の病変ととらえて,バルーンERPを全症例に施行し,特に膵液細胞診の陽性例にはバルーン分節性細胞診を行なうという診断への過程を提示した。

内視鏡治療の可能性

 シンポの後半は,内視鏡を用いた治療の可能性について,特にステントの効果的な使用法や,患者のQOLに重点を置いた治療をめぐって4人が登壇した。最初に伊藤彰浩氏(名大)は,IDUSを用いた十二指腸乳頭部領域における腫瘍に対する早期診断の有用性と,内視鏡治療の可能性を検討。IDUSは治療法選択に重要な情報が得られる精密診断法であり,また外科的切除が第1選択であった乳頭部腫瘍に対して,内視鏡的乳頭切除術が安全な根治手術であることを証明した。
 次いで伊佐山浩通氏(東大)は,切除不能の悪性肝外胆道閉塞112例を対象に,polyurethane covered stentとuncovered stentをランダムに割付け成績を比較。その結果,胆嚢炎と膵炎などの合併症も見られたが,胆嚢管癌浸潤例への留置を慎重に行ない,主膵管非閉塞例には乳頭を処置することで合併症予防がある程度可能になることから,悪性胆道閉塞症例に対するcoverd stentの有効性を強調した。
 東田元氏(友仁山崎病院)も根治術不能な悪性胆道狭窄にexpandabole metallic stent(EMS)による内瘻術を施行。ステントの種類や使用本数,ステント留置後の平均生存期間や累積開存率などを解析したところ,「悪性胆道狭窄に対する内瘻術では,中・下部胆道狭窄では侵襲の少ない乳頭的ステンティングが有用。一方で肝門部・上部胆管狭窄では,患者の全身状態や社会的背景,在院日数など考慮し,経皮的アプローチも視野に入れた取組みが必要である」と分析した。
 続いて前谷容氏(東邦大)は,胆膵悪例腫瘍に合併した十二指腸狭窄に対するステント治療と胃空腸吻合術の治療成績を比較検討。両者では治療成績の違いは見られなかったものの,ステント治療では術後早期に食事が可能になり,患者の満足度も高かったことから,「QOLの視点からステント治療はより効果的」と結論した。