医学界新聞

 

 〔連載〕ChatBooth

 入院記念グッズの「看護記録」

 加納佳代子


 7月のはじめ,手術日を決めに病院に行こうとしていた日の朝,腹痛がひどくなり耐えられなくなってきた。外来受診は,即入院となり,そのまま手術となった。
 下腹部に見つかった腫瘍は悪性を否定できなかった。術前の諸検査を外来通院で次々と入れ,あまりよくないその結果を知りつつ,仕事上のスケジュールをこなし,入院を予定していた期間の仕事はキャンセル,頼まれた原稿は書けるだけ書いて……というように,手術日が決まる外来日まであわただしく準備をしていた。そして,手術日と術式を決めるという当日,その痛みに耐えられる状態ではなくなり,手術室へ向かったのである。
 「なんで座薬を入れながらそんなに我慢してたの」と言われても,私は「患者」なので,そう判断をしてしまい,そうしていたとしか言えない。
 入院の準備というのは,休職中の仕事場のやりくりとか,留守中の家事の心配とか,下着やパジャマをそろえるとかだけではない。病室でメールができるように携帯電話からつながるようにしておくとか,今までの病歴や入院に至った過程と検査の結果を記述してプリントアウトしておくとか,「入院にあたってお願いすること」と題した主治医や看護者への注文を書いておくことも,私にとっては重要な準備だった。
 「手術や検査の結果,看護記録は自分の療養生活の記録なのですべてコピーしてもらいたい」とか,
 「私のいないところで看護計画評価をしないで,私に参加させてほしい」とか,
 「気に入らないことはその場で直接職員に言うから,私がわがままだったら率直に言ってほしい」とか,
 「携帯電話でパソコンを使わせてほしい」といったお願いである。外来に来たのに,そのまま入院となった私は,腹痛でのたうちながらプリントアウトしたそのお願い文を渡し手術室へ。
 現役であっても退職していても,同業者の患者は看護職には「煙たい存在」である。だけど私は,
 「どうせ煙たいのだから,遠慮なく煙をたかせてもらいますのでよろしく」といった調子であった。その病院では,卒後2年目のナースが私の受け持ちになった。のんびりとした,私にはうってつけのナースであった。
 「受け持ちナースに押しつけられちゃったんでしょ,悪いわね」
 「いえ,きっと私になると思っていました。いろいろ教えてください」
 「ええ,なんだって教えちゃうわよ。あなたに損はさせないわ」
 私はナースたちに,ある時は「患者」として,そしてある時は「ナース」として,ことごとく思いのたけを語り,「お騒がせ患者」として,術後25日で退院した。
 入院中に「情報公開請求」の手続きをしておいたので,退院後の外来受診の際に,看護記録類や検査データを,コピー代を支払ってもらってきた。私は請求理由に,「自分の療養生活の記念として,データを自分で持っていたい」と書いた。自分の療養生活の記念というだけでちゃんと看護記録はもらえる。そのことを示したかったのだ。
 療養生活の記念としての価値ある看護記録になっているかどうか。看護記録が「入院記念グッズ」としてどんどん請求されていくようになれば,看護記録はきっと患者にもわかるような内容表現となっていくだろう。
 今年の夏は,いつか入院したらやってみたいと思っていたことが果たせた夏だった。結果として,悪性細胞は見つからなかった。大騒ぎの日々が過ぎ,何事もなかったかのような顔をして,今はこれまで同様の仕事をしている。でも,今年は6月の次にすぐ9月がきてしまった。
◆ナースサポートkk URL=http://www.ac.wakwak.com/~kayokokano//