医学界新聞

 

「ケアとテクノロジーの出会い」をテーマに

第8回日本看護診断学会が開催される


 第8回日本看護診断学会が,さる7月19-20日の両日,新道幸惠会長(青森県立保健大学長)のもと,「看護診断と情報科学-ケアとテクノロジーの出会い」をメインテーマに,青森市の青森市文化会館で開催された。
 今学会では,会長講演「看護診断のコンピュータ化の動向と現状」をはじめ,招聘講演 I「看護師が行なう診断の正確性-コンピュータによる記録の基本」(米・College of Staten Island Margaret Lunney氏),同 II「看護用語の国際基準-看護診断に及ぼす影響」(米・Vanderbilt University Judy Ozbolt氏),および教育講演「タキソノミー II の解説」(阪大 江川隆子氏)が行なわれた。また,シンポジウムは「看護管理と看護診断」をテーマとして,さらに事例セッション「事例に使ってみよう!NANDA & NIC & NOC」,ワークショップA「ともに学ぼう看護診断」,同B「正しく使って成果につなげよう看護診断」の他,「リハビリ領域」「電子カルテと看護診断」「クリティカルケアと看護診断」「助産診断の実際」など,6テーマでの交流セッションが企画された。なお,一般演題は口演・示説含めて27題が発表された。


●看護用語の統一をめぐって

 新道氏は,会長講演の中で,「情報管理のIT化に伴い,看護の領域もクリティカルパスの導入や,医療情報公開などの影響を受けてコンピュータ化が促進されているが,看護診断はまさにそのような背景のもとに開発されたもの。そこには,看護の独自性も盛り込まれており,看護診断は,ケアとテクノロジーを結びつける要素を持って発展をしてきたと言える」と述べた。
 また,IT化によって推進されるものとして「電子カルテ」をあげ,「その開発には看護職の参画が必須」と指摘。「看護診断のIT化の今後」に向けては,(1)看護の質向上を目標としたIT化,(2)NANDA,NIC(看護介入分類),NOC(看護成果分類)の活用,(3)地域の包括ケアへの活用を含めた,看護情報の共有化,(4)看護実践の国際的共通用語の構築と活用,をあげ,特に(4)については,「看護用語の統一化は,看護診断の方向性を左右する」ことを強調した。

「看護用語サミット会議」での検討

 看護用語の統一化に関しては,招聘講演 II でOzbolt氏が,「看護用語の標準化の必要性は,ナイチンゲールの『看護覚え書き』の時代から見られた」と指摘。看護用語の統一化は,1970年以降,NANDA,オハマシステム,NIC,NOC,HHCC(在宅ヘルスケア分類),ICNP(看護実践国際分類)など,急速に開発が進んできている。しかし,氏は「それぞれの分類が,あまりに概念や範囲が違いすぎ,臨床事象全般を網羅しているものがなかったために,統一するには至らなかった」として,「標準化には,別の種類の用語が必要」と述べた。
 さらに,標準化に向けては,看護用語サミット会議が1999年から開催され,その後ICN(国際看護師会議)がISO(国際標準化機構)標準化に向けた取り組みに協力するなどの動向から,2002年サミットでは,単純な用語を組み合わせて,複雑な用語を生成するルールが提示されたなど,現在も検討が進められていることが報告された。

看護診断を看護管理の視点で

 シンポジウム「看護管理と看護診断」(司会=滋賀医大病院 櫻井律子氏,青森県立保健大 中村惠子氏)は,看護管理において,看護診断はどのように捉えられているのか,また看護診断の導入が看護管理に影響を及ぼしているものがあるのかなど,同学会で初めて看護管理の視点から看護診断を論じ合う場として企画。
 情報管理の立場から美代賢吾氏(神戸大病院)が,看護管理の立場からは大森綏子氏(関西労災病院),看護診断を導入,活用している立場から吉岡みち子氏(島根医大病院),院内教育担当者の立場から青柳明子氏(北里大東病院)の4名が登壇した。
 なお美代氏は,「適切な看護管理には,看護にかかわるさまざまな病院・病棟情報,患者情報の把握が不可欠」と指摘。その上で,「今後重要になるのは情報分析であり,看護診断はそのツールの1つ。分析の結果を,現場にいかにフィードバックするのかが課題であり,看護診断の果たす役割は大きい」と,看護診断へ期待を述べた。
 また総合討論の場では,「電子カルテの導入やオーダリングシステムの開発・構築には,看護職が参画することが重要」などの他,電子カルテ,IT化が話題となった。

●多くの参加者を集めた事例セッション

 多くの臨床施設で取り入れられるようになってきた看護診断だが,NANDAの看護分類法にタキソノミー II が開発導入され,またNIC,NOCとのリンケージが行なわれるなど,その分類・用語統一をめぐってはまだ流動的な側面がある。事例セッション「事例に使ってみよう! NANDA & NIC & NOC」(座長=日本赤十字看護大 黒田裕子氏,全体ファシリテーター=健和会臨床看護学研 川島みどり氏,日本赤十字看護大 中木高夫氏)には,このような背景もあってか,約280名が参加した。

4領域に分かれて事例を検討

 黒田氏からNANDA,NIC,NOCの解説が行なわれた後,参加者は(1)急性期(胸部大動脈瘤と診断され手術を受けた77歳男性,術後2日目に焦点を合わせた),(2)慢性期(糖尿病と診断され4年経過する54歳男性,血糖コントロール目的の入院に焦点化),(3)終末期(乳癌術後に肺転移,縦隔リンパ節転移し化学療法施行。その後,骨転移を認め,疼痛緩和目的で入院中の66歳女性),(4)リハビリ期(右被殻出血と診断された保存的治療の後にリハビリテーションを開始した76歳男性,発症生後15日目に焦点化)の4群に分かれた。各群では,それぞれに配された複数のファシリテーター〔NDC(看護診断研究会,代表=黒田氏)のメンバー〕を中心に,NANDA看護診断の選択プロセスからNIC,NOCの選択までを,現場感覚で実践した。