医学界新聞

 

OSCEなんてこわくない

-医学生・研修医のための診察教室
 監修:松岡 健(東京医科大学第5内科教授)


第12回 頭頸部の診察

河野 淳(東京医科大学耳鼻咽喉科講師)


2487号よりつづく

《診察のポイント》
 頭頸部の診察は,顔面,頭部,耳,眼,鼻腔,口腔,頸部の部位に分けて行なう。頭部,顔面,頸部では視診,触診,聴診などを行なう。耳,眼,鼻腔,口腔の診察の場合には,各々に器具を使用する必要がある。診察部位が多岐にわたるので,個々に行なう必要がある。

《診察の注意点》
 診察部位が多岐にわたるので,診察の種類に合わせて話し方や声に配慮し,適切な言葉を使用し,適切な礼儀作法で患者に接する。また,疼痛,腫瘤などがある場合には注意して丁寧に診察を行なう。頭頸部の診察の際には,脳神経の診察も可能であるので,一緒にマスターするとよい。

■診察の手順

 診察する旨を告げ,了解を得る。

(1)顔面
*視診⇒触診(⇒聴診⇒打診)

(2)頭部

*視診⇒触診

(3)耳

*外耳の視診⇒触診
*外耳道・鼓膜の視診(耳鏡を使用)
*聴力のチェック

(4)眼

*視野,瞳孔,眼球運動,結膜,眼底(眼底鏡を使用)を診察する

(5)鼻

*視診(鼻鏡を使用)
*顔面骨の触診,打診

(6)口腔

*視診(舌圧子を使用)⇒触診

(7)頸部

*視診⇒触診⇒聴診

■解説

診察の最初に

(1)患者と同じ目線の高さで向かい合って座る。
(2)顔面全体と頭部の診察をする旨を話し了承を得る。

(1)顔面の診察

(1)表情,顔貌の異常を観察する。特に左右差(顔面神経麻痺など),異常運動などを観察する。
(2)触診し,皮膚の細かな変化を観察する。副鼻腔の疾患を疑う場合には,指先で前頭部,頬部を優しく触診または打診する。

(2)頭部の診察

(1)頭の大きさ,形状,頭髪の左右差などを観察する。
(2)頭皮を前から後ろへなでるようにして触診する。
(3)側頭動脈を触診,聴診する。

(3)耳の診察

(1)視診を行ない,先天奇形や変形を観察する。
(2)耳介を牽引して疼痛の有無を調べる(写真1)。


(3)聴力異常の有無を確認する。通常の会話聴取の状態,指擦り(耳介の位置から30cm離したところで指を軽く擦る)して聞こえるかどうか尋ねる(写真2)。また音叉を使用し,難聴の左右差などを確認する。


(4)耳鏡を用いて外耳道と鼓膜を観察する。鼓膜では,ツチ骨柄,弛緩部,緊張部,光錘を確認する。

(4)眼の診察

(1)眼球突出・陥凹の有無,眼瞼下垂などを観察する。
(2)瞳孔,虹彩を視診する。白内障に関して,斜照法にて観察する。同時に,瞳孔の大きさや対光反射を確認する。
(3)頭部を固定し,指やペンなどを注視してもらい,眼球運動を確認する。水平方向,垂直方向で複視や眼振の有無を確認する。眼振はエンドポイントでしばらく注視してもらい確認するが,この際正常でも数発の眼振がみられるので注意!。
(4)同じように指やペンを使用して視野を確認する。
(以上は2388号の「脳神経の診療」を参照
(5)眼瞼結膜で貧血を,眼球結膜で黄疸の有無を確認する。
(6)眼底鏡により眼底の観察を行なう

(5)鼻腔の診察

(1)鼻腔内は,通常額帯反射鏡(ない場合はペンライト)で光を入れ,鼻鏡を用いて確認する(図1)。鼻腔粘膜の性状,下鼻甲介の大きさ・色調・浮腫,キーセルバッハ部位の出血や鼻漏の性状,腫瘍の有無などを観察する。
(2)副鼻腔の疾患を疑う場合には,指先で顔面骨,特に前頭部(前頭洞),頬部(上顎洞)を触診または打診し,腫瘤,圧痛などの有無を調べる。

(6)口腔の診察

(1)口臭を嗅ぐ。
(2)舌圧子を用いて,口唇,口腔内を観察する(図2)。口腔内は,口峡(口蓋弓,扁桃,咽頭後壁)・軟口蓋・硬口蓋・歯肉・口腔前庭・頬粘膜を順序だてて観察する。舌圧子で舌の中央を押さえる際には,咽頭反射に注意する(写真3)。
(3)舌を出させ,舌表面,側面,底面と口腔底部を観察する。
(4)口腔底,頬粘膜に開口する唾液腺管を確認する(図3)。
(5)手袋をつけて,舌を触診し,硬結の有無などを調べる。

(7)頸部・甲状腺の診察

(1)患者を座位の状態にして,前面から頸部を観察する(写真4)。側面,背面も視診する。
(2)両手で患者の頸部を触診する。視診・触診にあたっては,頸部の亜部位を考慮して系統的に観察する。リンパ節の腫大などがある場合には,硬さ,大きさ,数,圧痛の有無,リンパ節相互あるいは周囲との癒着を両手でよく触診し,どこの所属リンパ節かを理解し,診察部位を考慮する必要がある(写真5)。胸鎖乳突筋の緊張を軽減するために,頸を左右に傾けると傾けた側の観察が容易となる(写真6)。
(3)甲状腺を視診,触診する。一般に甲状腺はあまり触れることはない。甲状腺の腫大がある場合には,部位,大きさ,硬さ,圧痛,周囲との癒着,リンパ節腫大の有無を触診する。診察は患者さんと向き合って行なう場合と後ろに立って両手で行なう場合があるが,いずれも患者さんに上を向いてもらうと観察しやすくなる(写真4)。
(4)患者を仰臥位とし,頸部静脈怒張の有無を確認する。仰臥位で外頸静脈が頸部の1/2の高さよりも下顎よりに近づいていると,頸静脈の怒張があると判断できる。
(5)頸静脈コマ音を聴診する。

  

OSCE-落とし穴はここだ

 頭頸部の診察は,頭部から頸部にある器官が含まれ多岐にわたります。しかも容易に視診,触診できない眼(特に眼底),鼻腔,耳(外耳道,鼓膜)が含まれるので,診察における評価が難しい。しかし,個々の診察を確実に行なえばOSCEは困難ではないので,まずその技術を会得してください。
 一般にBSL(ベッドサイドラーニング)では,眼底の診察は眼科で,鼻腔,口腔,耳の診察は耳鼻咽喉科で,また口腔は内科診断でも実習されるので,まとめて実習する機会は少ないと思われます。また昨今の専門性への細分化と補助診断,画像診断や機能検査の進歩により,例えば鼻漏を伴う風邪症状などで副鼻腔疾患を疑った場合に顔面の触診・打診を重視して行なっている医師は,専門医の中にも多くありません。しかしこれらの診察は頭頸部診察の必須事項であり,レントゲン検査をすぐ行なえない場合,専門機関でない場合などには,それを行なうことによりきわめて重要な情報を得ることができるのです。また,頭部,顔面診察などではさまざまな全身疾患を一見して診断することができ(snap diagnosis),眼,口腔の診察では病態,診断に至る貴重な情報を提供してくれます。また頭頸部の診察で12脳神経の所見をとることもできます。これらの理由からOSCEでは,視診のみでなく触診・打診も,また頭部,顔面,頸部の診察に加え眼,耳,鼻腔,口腔の診察も必要となります。
 これらの技術は個人的にきちんと練習しておく必要があります。実際のOSCEでは時間内に適確に診察を進める必要があるので,あまりお粗末な手技については評価が低くなります。各部位の診察にあたっては,適切な言葉かけを行ない,所見もそれぞれ答えながら行なうので,BSLで実際に可能な限り多くの病的所見を経験するように努めてください。

◆OSCEでは

 OSCEでは時間の関係で,頭頸部の各部位の診察すべてを評価することはできない。実際にはある疾患を想定して診察するわけだが,この際,眼,耳,鼻腔,口腔など特殊な器具を使う診察は省かれる可能性が高い。このような中でも顔面,頸部の診察と眼の視診,口腔の診察は必須と思われるので,特に亜部位に注意して診察できるようにしておく。また実際に診察に合わせて,部位と診察内容の適確な回答を要求される。

●調べておこう
 -今回のチェック項目

顔面:満月様顔貌,仮面様顔貌,顔面の振戦,顔面神経麻痺
頭部:中毒性脱毛,円形脱毛,頭部白癬
:伝音性難聴,感音性難聴,Ramsay Hunt症候群,耳介牽引痛
:動眼神経麻痺,輻湊反射,Horner症候群,乳頭浮腫,うっ血乳頭
:キーゼルバッハ部位
口腔:アセトン臭,黒毛舌,イチゴ舌
頸部:伝染性単核球症,正中頸嚢胞,亜急性甲状腺炎,Stokesのカラー

●先輩からのアドバイス

 頭頸部の各部位の診察について,本項の解説を十分に理解しましょう。この際,知識が曖昧な点,不明な点は,必ず診断学などの教科書で確認し習得してください。部位が多岐にわたるので,手順を大まかに理解したら,頭の中で順番を立ててシミュレーションを繰り返してください。また眼,耳,鼻腔,口腔など特殊な器具を使うので,BSLで十分トレーニングしておくことが大切です。
 頭部,顔面,頸部については模擬患者を想定して,実際に診察を行なってみましょう。


この項つづく