第2485号 2002年5月13日


連載
第2回

再生医学・医療のフロントライン

  

皮膚の再生

朝比奈泉 東京医科歯科大学大学院・口腔機能再建学


 再生医学の分野で,最も臨床応用の進んでいる組織は皮膚であり,細胞を組み込んだ,いわゆる培養皮膚がすでに製品化されている。
 皮膚は,外界と接し,重層化した表皮角化細胞からなる表皮層と,表皮を支え,線維芽細胞を多く含む結合組織からなる真皮層で構成されており,培養皮膚は,(1)表皮角化細胞を重層化させた培養表皮,(2)線維芽細胞と結合組織で構成される培養真皮,そして(3)両者の構造を持つ培養皮膚に分類される。また,細胞の供給源が,自己か,あるいは他者かによっても分類される。自己の細胞から作成される自家培養皮膚は,永久的に生着することが期待できる。
 一方,不特定多数の患者を対象とする他者由来の細胞を用いた同種培養皮膚は,一般には永久生着しないと考えられている。しかし,移植した細胞が産生する種々の生理活性物質が,皮膚の再生を積極的に促進する。

培養皮膚の作成

 古くは表皮角化細胞の培養は困難とされていたが,Greenらによってマウス3T3細胞をフィーダーとして用いる方法が開発され,大量培養の道が開かれた。この方法で作製された(1)培養表皮が広範囲熱傷へ臨床応用されて以来,培養表皮は熱傷,皮膚の瘢痕,色素性巨大母班などに対し,数多くの施設で臨床応用されている。名大の上田らは,口腔粘膜上皮が表皮角化細胞に較べて増殖能が高いことに注目し,口腔粘膜由来の培養表皮を,口腔粘膜の欠損ばかりでなく,皮膚への応用も試みている。そして,日本初のティッシュエンジニアリングベンチャーであるJ-TEC社によって製品化が進められている。
 このように,培養表皮はすでに広く臨床応用されているが,皮膚全層欠損創には生着しにくく,感染に弱いという欠点がある。
 一方,(2)培養真皮は表皮層を持たず,主に線維芽細胞の産生する種々の生理活性物質による皮膚創傷の治癒促進を目的に,重度の熱傷や難治性潰瘍に対して用いられている。線維芽細胞は増殖が早く培養方法も容易だが,3次元的構造を構築するために線維芽細胞の足場となる基質が必要である。この基質として,吸収性合成高分子を用いた培養真皮(Dermagrft)が,欧米で製品化されている。日本でも北里大の黒柳らを中心として,アテロコラーゲンスポンジを基質とした同種培養真皮が製品化されようとしている。
 (3)培養皮膚としては,Bellらによってコラーゲンゲルの中で線維芽細胞を培養したものの上に表皮角化細胞を重層化させて培養したものが最初に開発された。培養皮膚は本来皮膚の持つ表皮層と真皮層を持ち,操作性,生着性に優れている。しかし,作成方法が難しく,培養中にコラーゲンゲルが著しく収縮するために,大きなシートを作ることが困難であった。
 この問題を克服するため,多孔質ポリカーボネート膜を用いた培養皮膚「Apligraf」が米国で商品化されている。
 そのような中,われわれは,コラーゲンゲルの中に,一定方向にハチの巣状に穴があいたハニカム構造を持つコラーゲンスポンジを骨格として組み込み,ゲルの収縮を防ぐことに成功した。また,このスポンジを組み込むことで,操作性を向上させることができた。

今後の課題

 培養皮膚の基本的作成技術や適応方法は確立された感がある。しかし,色調や粘弾性の調整,あるいは操作性の向上のためには,いまだ改良の余地があり,さらに,毛包や汗腺などの皮膚付属器官の再生が望まれている。また,培養皮膚は作成や移植が容易であることから,先天的に欠損した遺伝子や,インスリンなど全身性ホルモンの遺伝子を組み込んだ培養皮膚を移植することによる遺伝子治療への応用も期待されている。

図1 口腔粘膜由来の細胞を用いた培養皮膚(粘膜)の組織像
ハニカム構造コラーゲンスポンジの骨格を持つ真皮層の上に,重層化した上皮層を認める
  
図2 作製された培養皮膚(粘膜)
右:コラーゲンスポンジの骨格を持つため操作性に優れ,ピンセットで容易に保持でき,縫合することも可能
左:シャーレ中で作製された培養皮膚