医学界新聞

 

地域医療・家庭医療の教育を議論

テイラー夫妻を交え,指導医・学生らと


 揖斐郡北西部地域医療センターでは,(社)地域医療振興協会主催の夏期セミナーの一環として,8月24日に,米国より,家庭医療学の権威として知られるロバート・テイラー氏(オレゴン州立健康科学大学教授)とアニタ・テイラー氏(同大)を招聘し,学生,地域医療の現場で活躍する指導医,大学教員によるワークショップが開催された。
 また,夏期セミナーに引き続いて8月25-26日に開催された同協会主催の「診療所フォーラム」(都市センターホテル)では,同セミナーの参加学生による発表会が行なわれた他,テイラー氏らによる講演,シンポジウムが開催され,こちらにも地域医療・家庭医療に関心を寄せるたくさんの学生が参加した。(9面に関連記事


いかに地域で教育するか

 北西部地域医療センターで行なわれたワークショップでは,まず,同センターの吉村学氏が6年生を対象に実施している2週間の実習プログラムを紹介した。同センターへは現在,名大,筑波大,自治医大,札幌医大から学生が実習に訪れているが,バイオメディカルからEBMまでを含む包括的な実習プログラムとなっている。ロバート・テイラー氏も「医学教育的な原理から言っても非常に優れている」と賞賛した。
 続いて,本年度から5年生を対象に必修のプライマリ・ケア実習を立ち上げた名大の伴信太郎氏(総合診療部教授)は,外来実習や診療所実習を含む1週間のプログラムを紹介。医師としてプライマリ・ケア能力を持つことの重要性,ジェネラリスト養成の必要性を指摘した。これに対しアニタ・テイラー氏は「米国でも家庭医療を学んだ者がそのまま家庭医療の専門家になるわけではない。しかし,一度家庭医療を学ぶと,他科の専門家になった場合にも非常に視点が広くなり,有効だ」と付言した。
 日鋼記念病院・北海道家庭医療学センターで本格的な専門家庭医の養成を行なっている葛西龍樹氏は,今年6月初の家庭医認定が行なわれた同センターの家庭医療学専門医コースを紹介。同コースは,ジェネラルな初期研修終了後の3-4年目にサテライトの診療所での研修や,揖斐郡や沖縄での地域医療研修を主体として行なわれる本格的なもので,葛西氏は他施設との連携も含めて,今後の発展への大きな期待を述べた。

すべての医学生が一定期間地域で学ぶべきだ

 一方,場所を東京に移して行なわれた「診療所フォーラム」では,全国で夏期セミナーに参加していた学生たちが,一堂に会し,それぞれの実習の成果を報告する発表会の場が設けられた(司会:六合温泉医療センター 折茂賢一郎氏)。参加者は各地域の特性,医療・福祉のアプローチの仕方などを議論しながら,地域医療についての理解を深めた。
 同フォーラムでは,ロバート・テイラー氏による講演やシンポジウム「明日のへき地医療-プライマリ・ケアの確立をめざして」も行なわれ,その中で,同氏は家庭医療学の基本原理などを解説した後,オレゴンで実施している全医学生必修の6週間におよぶ地域医療実習などを紹介した。また,「旧来の人々は地域に目を向けなかったが,今,めざすべき医師の姿とは,人に近いケアを提供する医師だ」と力強いメッセージを送った。
 同フォーラムのシンポジウムで司会を務めた高久史麿氏(自治医大学長)はこれらの議論を受け,「日本でもすべての医学生が地域での医療を見るべきだ」との考えを示した。参加した医学生らには,自分たちが受ける医学教育について考えるよい機会となったようだ。


患者の状況を話し合う吉村氏,日鋼記念病院から研修に来ている富塚太郎氏,実習中の寺沢冨久恵さん
「それぞれの地域には個性がある。医師としての幅を身につけるためにも,複数の地域で研修をすることは有益です」(富塚氏)

テイラー夫妻を囲み,地域での医学教育を議論する指導医,大学教員,学生たち。社会のニーズに応える医師を育成するには,新しいカリキュラムが必要だ
 

吉村氏の外来で実習する寺沢さん

夏期セミナー発表会を終え,笑顔で記念撮影に収まる学生・指導医たち
 

ワークショップで発言するアニタ&ロバート・テイラー氏