医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


クリティカルケアに従事するすべての人に本書を勧めたい

クリティカルケア
SIRS・ショック・MODS

相川直樹,青木克憲 編集

《書 評》劔物 修(北大大学院教授・侵襲制御医学)

最新のクリティカルケアの全貌

 クリティカルケアの対象疾患の共通病態として,感染性ショックと多臓器機能障害症候群(MODS)があり,これらの病態の基礎には全身性炎症反応症候群(SIRS)がある。本書では,最新のクリティカルケアの理解に必要なSIRS,ショック,そしてMODSの病態について新進気鋭の執筆者を得て,わかりやすく解説されている。本書は6章から構成されており,第1章から4章では,SIRS・ショック・MODSの歴史的概観,病態,診断と初療,そして治療がそれぞれ具体的にまとめられている。
 第1章では,SIRS・ショック・MODSの概念が発生機序とともに理解しやすく整理されている。SIRS・ショック・MODSには,サイトカインストームで代表される各種のメディエータを介する宿主の自己破壊的な生体反応が共通の病態と捉え,編者の相川直樹教授は,自己破壊的生体反応症候群:autodestructive host-response syndrome(AHRS)という新しい症候群を提唱している。これは編者の永年にわたるこの分野における基礎的研究と臨床経験からの発想と理解され,説得力がある。
 第2章では,サイトカイン,ケミカルメディエータ,血管内皮と微小循環障害,虚血再灌流障害,組織酸素代謝障害がキーワードとなり,SIRS・ショック・MODSの病態を詳細に解説している。
 第3章では,ショックを「急性全身性循環障害で,重要臓器機能を維持するのに十分な血液循環が得られない結果発生する生体機能異常を呈する症候群」と定義している。従来は不十分であったショックの定義を端的に表現しており,含蓄のあるものである。ショックの分類も I.血液分布異常性(A.感染性,B.アナフィラキシー,C.心原性),II.循環血液量減少性(A.出血性,B.体液喪失),III.心原性(A.心筋性,B.機械性,C.不整脈),IV.心外閉塞・拘束性(A.心タンポナーデ,B.収縮性心膜炎,C.重症肺塞栓症,D.緊張性気胸)と,新しいものを採択している。この分類に最初は多少の戸惑いを覚えるが,内容を吟味すると納得のいくものと理解できる。この章では新しい分類に基づき,SIRS患者のトリアージ,ショックの診断と初療が順序よく記述されており,次の第4章のSIRS・ショック・MODSの治療に引き継がれている。
 第4章では,呼吸管理,輸液・輸血・栄養管理,血管作動薬,蛋白分解酵素阻害薬と抗メディエータ治療,血流浄化法が総論的にまとめられている。
 第5章では,新分類による各種ショックごとに,A.病態生理,B.検査・診断のポイント,C.治療の実際がコンパクトにまとめられている。
 第6章では,臓器サポートを呼吸不全,心不全,腎不全,肝不全,消化器出血とDIC,中枢神経障害に分けて,病態生理,鑑別診断,早期診断そして治療の実際を,治療を行なう立場から小気味よく記述している。

心憎いほど伝わる編者の意気込み

 本書では,各項のあとに3編ずつの文献抄録が付され,ショックに対する古典的なものから最新の考え方まで紹介されている。頁をめくるにつれてSIRS・ショック・MODSの知識が深まっていき,編者の本書に託す意気込みが心憎いほど伝わってくる。本書は,クリティカルケアに関与するすべての医師,看護婦(士)に推薦できるSIRS・ショック・MODSに関するガイドブックであると同時に,各科の研修医あるいは医学生にもぜひ一読を勧めたい良書である。
B5・頁292 定価(本体8,500円+税) 医学書院


多くの神経疾患に対し今後進むべきリハの方向を提示

神経リハビリテーション
Richard B. Lazar 編集/岩崎祐三,山鳥 重,山本悌司 訳

《書 評》大生定義(横浜市立市民病院部長・神経内科)

 このたび,『Principles of Neurologic Rehabilitation』(McGraw-Hill, 1997)が岩崎祐三,山鳥重,山本悌司の3先生の手によって邦訳され,『神経リハビリテーション』として出版された。
 神経リハビリテーションの65人の米国専門家による分担執筆で,一部重複や記述の詳しさなどに若干不統一のところもあるが,執筆者の意欲があふれ,各章は各々に包括的な記述であり,1章1章が独立した論文でもある。
 編者のRichard B. Lasarは,第1章で「リハビリテーションは現実的かつ実際的で極めて重大な生活の質に関する課題を解決しようとする試みである。それはチームとして行なわれ意思の疎通と指導力が大切である。あらゆる意思決定の場において患者と家族の参加が求められる。社会資源の観点から,すべての疾患に無差別にリハビリテーションを行なうことは許されない。試行錯誤のリハビリテーションは,近い将来に消滅する運命にある。総合的リハビリテーションは直感的判断で行なうにはあまりにも高価である」と述べ,これからは「自然な回復で期待される以上にリハビリテーションが有効であったと証明する必要がある」と自らに課題を課している。
 全編に,社会的不利を持った人間が社会の一員としての生活をしていくための援助を行なうという哲学性と,神経科学の最新の知見に基づいて治療の検証をしていくという科学性(Evidence-based Approach)がバックボーンとしてあり,多くの神経疾患に対して今後進むべき方向を読者に示している。

リハ医療関係者の学習・研究の出発点に

 総論には機能評価や倫理についての章もあり,各論に入る前の神経治療の根本的な考え方もおさえられている。
 各論では頻度の高い疾患や病的状態について,基礎から現状・未来についての記述があり,リハ専門医のみならず,他科の医師,PTやOT,介護担当者を含めた医療関係者の学習・研究の出発点となりうる著書である。疲労感や栄養についても詳述している。とにかく大切な参考文献が多く紹介されている。
 リハビリテーションにあたっていない実地医家や医学生にとっては,薬物以外の神経治療概論としても有用な書であると筆者は考える。社会科学の用語が多い第2章で,翻訳について一部不充分・不適当と思われる部分があるように思われるが,短期間にこのような大冊の原著を取捨選択して世に出された諸先生の貢献がもっと重要なことである。この時期にタイムリーに本書を出された関係諸氏に敬意を表し,筆者は医師・看護職・リハビリテーション専門職・介護関連専門職,またそれをめざす学徒の方々に本書をお勧めする。
B5・頁456 定価(本体7,000円+税) 医学書院


診察室に置いて常に参考にしたい良書

〈総合診療ブックス〉
こどもの皮疹・口内咽頭所見チェックガイド

絹巻 宏,横田俊一郎 編集

《書 評》宮田隆夫(宮田医院)

 本書はカラーアトラスで皮疹を紅斑,丘疹,水疱などの病変を種類別に,しかも外来で遭遇する頻度の高い順に配列してあり,アトラスは非常に鮮明でよくこんなにはっきりときれいに写せたと感心するばかりである。本文の解説でもはじめに同じアトラスがあるため,その皮疹を何度も見ることになり覚えやすい。さらに診察所見の特徴,検査所見,治療のポイント,アドバイスがあり,その疾患に対して非常に理解しやすい。
 末尾には,一般医から寄せられた質問に対して小児科医がアドバイスするチェックガイドQ&Aがある。ここでは経験豊かな小児科医が子どもの皮疹,口内咽頭所見に対してその診かた,鑑別診断,治療などにおいて貴重なアドバイスが述べられており,われわれ小児科医にとっても非常に勉強になる。
 付録としてラミネートカードがある。これには「ステロイド外用剤の選択,小児の軟膏処方量のめやす」があり,便利でいつも診察室に置いて参考にしたい良書である。
A5・頁192 定価(本体4,700円+税) 医学書院


世界で広く愛読されている細胞診アトラスの第3版

Color Atlas of Cancer Cytology
第3版
 高橋正宜 著

《書 評》矢谷隆一(三重大学長・病理学,細胞診指導医)

群を抜く内容の量と質の高さ

 近年,細胞診は治療医学においても,予防医学においても大いに活用され,現場では細胞診指導医や細胞検査士が細胞診業務に従事している。臨床の現場においては,生検組織診とともに悪性腫瘍細胞の有無および治療効果の判定,感染症の有無,程度の類推などに利用され,予防医学においては,子宮癌検診における子宮頸部細胞診,ハイリスクグループに対する子宮体部細胞診や,肺癌検診での喀痰細胞診などが成果をあげている。現在までわが国の細胞診検査体制は,日本臨床細胞学会を中心に大いに進歩してきた。その中で,入門書や細胞診指導医および細胞検査士の勉強のために書かれた細胞診関連の本が多く出版されているが,特に細胞診の最大の課題である癌に絞った,高橋正宜先生が最近改訂された『Color Atlas of Cancer Cytology』第3版は,その量および質の高さでは群を抜いていると言える。
 本書は,第1部の総論,第2部の臓器ごとの各論で構成されている。今回は,高橋先生以外に計7名の先生が分担執筆者として参加されている。「総論」は,大きく書き変えられている。旧版では,癌の疫学から細胞生物学的レベルまで,また実技面を含めて広範囲に網羅された内容であった。しかし,新版では,他の細胞診の本に載っているような内容はすべて省略あるいは各論への分散を行ない,旧来よりあるX,Y chromatinの項目に免疫組織化学,細胞生物学的に重要である細胞周期,Fluorescence In Situ Hybridization(FISH)などの現在最も大切な項目が加えられている。個人的に旧版の総論が好みの人もいるかもしれないが,アトラスの意味を考える時,あくまでも細胞診のレベルに必要な画像にこだわり,豊富な写真をもとに最新事項に絞り記述していることは,特筆に値する。

臨床現場の流れに合った新設項目

 第2部「各論」でもいくつかの変更点がめだつ。実技的内容を総論より移し,各臓器に応じた内容で紹介している。またWHO分類を中心に新分類の記載,良性悪性の鑑別点など多彩な表が加えられている。The Bethesda Systemの紹介およびWHO組織分類が加えられ,UICCおよびFIGO分類は省略されている。項目別では,旧版の消化管の項目から胃が削除され「唾液腺」,「食道と腸管」,「肝臓,胆管および膵臓」に編成し直され,従来の泌尿器から「前立腺」が独立し,さらに「甲状腺」,「胸腺と縦隔」などの項目が新設されている。いずれも臨床現場において,需要が増している臓器であり,きわめて当然の流れである。Grogan教授(アリゾナ大学)による悪性リンパ腫の予後マーカーについての第18章,最近話題になっているテレパソロジーおよびテレサイトロジーに関する第22章と,直接の細胞診とは関係ないが知っておくべき項目も新設されている。第22章で著者の高橋先生のご活躍の姿がうかがえる。
 英語で書かれ,これまでも世界で広く愛読されている一流の細胞診アトラスであるが,今回の改訂により,日本人特有の繊細な観察力,写真の美しさが再び評判になると思われる。日本においても細胞診指導医,細胞検査士は言うに及ばず,病理医,産婦人科医,内科医,外科医など,細胞診に関わる多くの人が読まれることをお勧めする。
A4・頁488 定価(本体25,000円+税) 医学書院


睡眠障害の診療と予防の実際をわかりやすく解説

一般医のための
睡眠臨床ガイドブック

菱川泰夫 監修/井上雄一 編集

《書 評》樋口輝彦(国立精神・神経センター国府台病院院長)

成人の5人に1人が睡眠障害

 今日,わが国では成人の5人に1人が睡眠障害に悩んでいるという。そして,このうち2人に1人が睡眠薬を服用している。睡眠障害はこのように,今や国民病と呼んでもおかしくない病気である。正確な疫学調査の研究があるわけではないが,これらの睡眠障害に悩む方の大半はプライマリ・ケアの医師によって治療されていると考えて間違いない。しかし,これまでわが国の医学教育で睡眠障害は,どの程度教育されてきただろうか。せいぜい学部の系統講義が1コマあればよいほうで,卒後教育にはまったく組み込まれていない。あとはプライマリ・ケアの医師の自発的な勉強に頼るしかないのである。このような状況下で今回出版された『一般医のための睡眠臨床ガイドブック』は,まことに時宜を得たものと思う。
 本書は,総論と各論の2部構成である。総論では睡眠障害の実態が明らかにされ,続いて睡眠障害の診断と鑑別診断が解説され,さらに睡眠薬の種類と治療の実態が述べられている。この約50頁を読むだけでも大変勉強になる。

充実し,実践向きの内容構成

 各論は,12の章で構成されている。それぞれの章をその領域のエキスパートが執筆しているだけあって,内容は大変充実している。この各論の各章の構成は,実践向きにできており,診断と治療の仕方に力点が置かれている。編者の井上があとがきで「睡眠障害の臨床を行なう上で,確実に必要な知識を重点的に網羅することを意図した」と述べているが,まさにその意図が実現されている。確かに睡眠の生理学や病態生理あるいは最近の遺伝子の話題などはほとんど登場しないので,専門の医師にはややもの足りないかも知れないが,本書があくまでも「一般医」あるいはコメディカル,学生を対象とする姿勢を貫いた結果であり,目的は十分達成されているように思う。
 各論の各章すべてを紹介したいところだが,紙数に限りもあるので,ここでは1,2を紹介するにとどめたい。
 その1つは,「睡眠時呼吸障害」である。この領域は睡眠覚醒リズム障害と並んで,最近診断と治療法の進歩が著しい領域である。特に睡眠時無呼吸症候群に関しては,一般人口の1%以上を占める病気であることと,睡眠障害のみでなく,生命予後に関係する病気であることから,最近注目されている。おそらく一般医を別な主訴(高血圧,不整脈など)で受診する可能性も高く,その意味では,ぜひ一般科の医師に認知してもらう必要のある障害である。大変,要領よく簡潔に診断,病態,検査,臨床症状,治療が述べられており,日常診療に役立つこと間違いなしである。
 次に「睡眠障害を予防するための生活習慣の工夫」である。睡眠障害のもたらす弊害は脳機能の低下のみでなく,免疫系や循環器系機能の低下をも含んでいる。今日のような都市型の生活パターンは容易に睡眠障害を引き起こす。であるがゆえに睡眠障害を予防する視点が重要とされる。この章では,筆者らの長年にわたる研究成果をもとに睡眠障害の予防の方策がわかりやすく述べられている。一般医やコメディカルを介して睡眠障害の予備群の方への啓蒙にも役立てられる内容と思われる。
 このガイドブックが活用され,わが国の睡眠障害の適切な診断と治療が推進されることを願って,書評の締めくくりとさせていただく。
A5・頁240 定価(本体3,400円+税) 医学書院


使いやすく,高画質画像の肺疾患HRCT診断書

High-Resolution CT of the Lung
第3版
 W. R. Webb,N. L. Muller,D. P. Naidich 著

《書 評》村田喜代史(滋賀医大教授・放射線医学)

 びまん性肺疾患に焦点を絞った高分解能CT(HRCT)の教科書として,9年前に初版が発行されて以来,多くの読者を得てきた本書であるが,今回の第3版は第2版と比べて頁数をみても約2倍となり,大幅な改訂となっている。
 新しい高画質の臨床画像が数多く追加されているばかりでなく,読影室の放射線科医が使いやすいように新たな工夫が追加されている。その1つは,本書の最初の40頁を使って新設された“Quick Reference”という画像索引の頁で,代表的疾患の代表的画像が提示されていて,臨床の現場で役立ちそうである。また,各章の最初の頁に内容の目次が新たに作られたのは使いやすいし,さらに,HRCTの所見からどのような鑑別診断を考えるかを記載した第3章では,所見を説明した本文や図に加えて,各所見から鑑別診断に至る流れを“algorithm”という名でフローチャートの形で挿入されており,本文を読んだ読者が,内容を整理して記憶するのに役立つと思われる。

放射線科読影室に常備の1冊

 章の構成自体は前版を踏襲しているが,第2版にはなかった8.Airways disease,9. Pulmonary hypertension and pulmonary vascular diseaseの2章が,独立した形で追加されている。これは,これらの疾患の診断において,HRCTの有用性が最近特に認識されるようになったことを反映していると思われる。
 この数年間にCT技術の大きな進歩がみられ,通常のHRCTばかりでなく,吸気・呼気のHRCTが臨床に使用されたり,マルチ・ディテクターCT(MDCT)が登場してきたことを反映して,HRCTの技術的側面を記載した第1章では,これらの新しい技術についても,かなり詳しく記載され,読者が現状を把握できるようになっている。また,鑑別診断としての疾患の記載では,現在までに発表された画像診断に関する論文をもとに整理された形で疾患の特徴が記載され,特に最近新しく出てきたNon-specific interstitial pneumonia(NSIP)を含めた間質性肺炎,リンパ増殖性肺疾患,好酸球性肺疾患などではかなり詳しく記載されており,読者にとって最新の情報が得られる内容になっている。
 今回の改訂第3版の本書は,びまん性肺疾患のHRCT診断が非常に整理された形で記載されていて使いやすく,また多くの高画質の画像とともに最新の内容を含んでいることから,放射線科読影室に,ぜひ備えておきたい1冊と思われる。
B4変・頁629 \23,620(税別)
Lippincott Willams & Wilkins