第2438号 2001年5月28日


国際QOL学会第1回環太平洋集会開催


 近年,QOL(Quality of Life)に対する関心は医学・医療界にとどまらず,広く社会全般にまで拡がっている。そのような折り,さる4月13-15日の3日間,黒川清(東海大学医学部長)・福原俊一(京大教授)両会長のもとで,国際QOL学会(ISOQOL:The International Society for Quality of Life Research)の第1回環太平洋集会が,東京の都市センター会館において開催された。
 初の地区集会となった今集会は「The QOL research into the new millennium」をメインテーマに掲げ,特別講演「患者立脚型研究における健康アウトカムとしてのQOL」,パネルディスカッション「臨床試験のエンドポイントとしてのQOL」,教育セッション2題(「健康関連QOL尺度の経済的評価」,「インターネットによる健康アウトカム・モニタリング」),トレーニング・ワークショップ4題(「The SF-36」,「慢性閉塞性肺疾患(COPD)の健康関連QOL」,「癌におけるQOL」,「慢性腎不全におけるQOL」),シンポジウム3題(「ペイシェント・セイフティー」,「看護領域におけるQOL」,「高齢者,障害者のQOL」),ならびにアジア太平洋フォーラム「QOLの測定・解釈・適用におけるアジアの文化的問題」,難病財団主催による市民公開シンポジウム「難病とQOL」(本紙2437号にて既報)の他,サテライト・シンポジウム,ランチョン・セミナー,ポスター・セッション,一般演題などにおいて多彩なテーマが企画された。
 また「QOL研究」が持つ多次元的要素を反映し,医師・医療従事者の他にも,QOL研究に関心を抱いている社会学,心理学,疫学,統計学,経済学,政治学などの多分野の研究者が一堂に会し,QOL研究をめぐるさまざまな問題に関して多面的なアプローチが試みられた。本号では,特別講演を中心にその一部を紹介する。

 


■「患者立脚型アウトカム」と「健康関連QOL」

アウトカム研究におけるQOL

 Lee Goldman氏(米国・カリフォルニア大)による特別講演では,QOL研究の根幹的課題である「患者立脚型研究における健康アウトカムとしてのQOL(QOL as a health outcome in patient-oriented research)」がテーマとして取り上げられたが,福原氏は近著『臨床のためのQOL評価ハンドブック』(池上直己他・編/医学書院刊)において,アウトカム研究の歴史的動向を次のように素描している。
 (1)1800年代末(Nightingale:医療の質の系統的評価),(2)1965年~(Donabedian:医療評価モデル),(3)1975年~(Wennberg:Practice variation study),(4)1985年~(患者立脚型アウトカム測定尺度の開発),(5)1990年~(患者立脚型アウトカムを用いた研究の活発化)。
 また同書の「いま,なぜQOLか-患者立脚型アウトカムとしての位置づけ」において,アウトカム研究におけるQOLに関して次のように述べている。
 「これまで,多くの疫学研究や医療評価研究において罹患率,死亡率に代表されるアウトカム指標が重用されてきたのは,定義が明確であり,万人に共通の指標であるがゆえに,さまざまな比較,例えば,異なる群間の比較や,異なる治療介入による効果の比較に活用できたからである(略)。
 ところが1980年代に本格化したアウトカム研究では,これらの伝統的な評価指標・アウトカム指標から一歩踏み込んで,住民および患者の主観的な評価指標を重要視することを大きな特徴としてきていた。この主観的な指標の重要性がより明確に認識されるにつれ,種々のアウトカム研究が急速に取り上げられるようになり,<患者立脚型アウトカム(Patient-based outcomes)>と呼ばれるまでになった。アウトカム研究において,この患者立脚型アウトカム研究を最も代表するものが,健康関連QOLということになる。
 1980年代は,この患者立脚型アウトカムを測定するための指標・尺度とその計量心理学的な検証のために,多くの研究者の時間とエネルギー,そして研究費が費やされたと言ってよく,このことをみても,近年の医療評価研究においてこの患者立脚型アウトカムの1つであるQOLがいかに重要視されるようになったかが見てとれる」

「健康関連QOL」について

 また前掲書によれば,アウトカム研究の新しい流れが,QOLを「医療評価のための患者立脚型アウトカム」として明確に位置づけられ,従来の客観的な評価指標にはない画期的な特徴を持つ指標として重要視されたきた背景および意義には,次の諸点が考えられる。
(1)疾患分布の変化(急速に進む高齢化と医学の進歩による急性疾患の減少によって,慢性疾患が大きな比重を占めるようになり,治癒や延命よりも患者の生活の質の向上が治療の目標とされる)
(2)患者中心の医療(医療現場において,情報の開示や自己決定権の尊重が強調されているが,医療の評価においても,患者の視点に立ったアウトカムであるQOLこそが重要であると考える)
(3)健康に関するパラダイム・シフト(「疾病を治癒・克服することによって達成できる」というパラダイムから,「健康の維持・増進が重要である」という新しいパラダイムの誕生)
(4)医療資源の有限性に対する認識(医療の体系的・科学的な評価を行なう今日のアウトカム研究隆盛の原動力となる)
 一方,健康関連QOLを測定する尺度は,効果値などを測定する選好に基づく尺度と,健康を多次元的に測定するプロファイル型尺度に大きく分類される。
 前者は,効用値を測定する目的のためにQOLを一次元で表わすのに対し,後者はQOLに含まれるさまざまな領域(domain)を1つにはまとめず,多次元(multi-dimension)のままに表現しようとするもので,これはさらに(1)症状インデックス尺度,(2)包括的尺度,(3)疾患特異的尺度に分類され,これらの尺度の例,使用に適した研究,特徴などをまとめると()のようになる。

表:健康関連QOLを測定する尺度の分類
分類尺度例適した応用特徴
選好に基づく尺度EQ-5D,HUI臨床試験,医療経済研究単一指標
プロファイル型
  症状インデックス
  包括的尺度
  疾患特異的尺度

AUA
SIP,SF-36
KDQOL,
Asthma-QOL

臨床試験,診療
臨床試験,疫学研究
臨床試験

臨床的意義
標準値を得られる
反応性,臨床的意義
(AUA=米国泌尿器学会が開発した前立腺の症状スケール)
(『臨床のためのQOL評価ハンドブック』より)

【編集室註】EQ-5D=EuroQol. HUI=Health Utilities Index. SF-36=Mos-Short Form. SIP=Sickness Impact Profile. KDQOL=Kidney Disease QOL.