医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


患者さん1人ひとりのパートナーでありたい

困ったときの
糖尿病患者の看護

貴田岡正史,菅野一男 監修/西東京糖尿病療養指導研究会 編集

《書 評》馬場茂明(国際糖尿病教育学習研究所理事長,神戸大名誉教授)

 この本を読んでの第一印象は,毎日糖尿病患者さんと向き合っている看護婦さんでなければ書けない内容だということであった。題名通りの困ったときの糖尿病患者さんの看護記録であるといってよい好著であり,広く関係者にお勧めしたい。
 近年の糖尿病学の進歩はめざましく,病因解明は遺伝子レベルまでになり,遺伝子治療や新しい創薬,予知,予防にまで希望が持てる時代となった。また,精密科学やITの進歩は,そのスピードと予期しないほどの影響を臨床にもたらしつつある。しかし進歩発展の中にあっても,未だ糖尿病患者さんは減らないし,むしろ増加している。
 少子高齢化社会はますます拡大し,便利さ,情報の氾濫,環境の激変,運動不足,ストレス社会はむしろ糖尿病を増加させていると思われる。

多様な背景を持つ個々の患者さんにいかに対応するか

 このような複雑な社会の中で日常生活を送っている糖尿病患者さんは,決して一律一様ではない。個性も,嗜好も,感情も,家庭事情もすべて異なっていると言ってよい。
 糖尿病患者さんの個々人に,適切な看護や医療と,的確な対応が必要なことは言うまでもない。私たちは教育や療養指導者としての立場にあるのではなく,常に患者さんのパートナーであるべきと考えている。
 本書はそれぞれの症例を提示し,問題点を浮き彫りにして,その対処法がきわめて丁寧に書かれている。
 例えば,糖尿病患者の検査時の問題と課題,食事療法上の問題点,薬物治療,インスリン治療上の問題点,糖尿病合併症患者の問題点,治療困難になる前のケースと事例,さらにシックデイ,海外旅行時の注意まで記載されている。このような実際に即した内容は実践臨床のテキストであるとともに,今まで医学教育になかった重要点を指摘し,なおかつその方策を示した点において,特筆すべき名著であると思う。
 看護にあたる方々はもちろん,チーム医療としてのすべての専門職の方々,さらに学生諸君にも読んでもらいたい本である。
 医療はヒューマニズムに基づくもので,人生経験を多く積むことによって人間らしく,また,病気の人たちの気持ちもわかるようになるものである。医療哲学は健康に携わるすべての人と近代社会に最も必要とされる部門であると言える。
 最後に糖尿病看護について指導し,ともに働いている貴田岡正史・菅野一男両先生の日頃の熱意が伝わってくる思いがしたことも付け加えたい。
A5・頁208 定価(本体2,500円+税) 医学書院


生活習慣病のセルフケア支援に最適の1冊

〈JJNスペシャルNo.68〉
生活習慣病 基礎知識とセルフケアへのアプローチ

富野康日己 編著/堀川直史,山崎友子 著

《書 評》黒江ゆり子(岐阜県立看護大教授・地域基礎看護学)

 「この頃少し気が抜けちゃって,食事の計算や運動もしないことがあるんだよ。病院は月に1回だし,わからないことがあっても,すぐには聞けないし。まあいいかと思って。1人だしね。がんばっても,張り合いがないね」と糖尿病の患者さんが語ったとします。その患者さんのケアを担当するあなたは,どのように対応することができるでしょうか。
 今回,医学書院から出版されたJJNスペシャル『生活習慣病-基礎知識とセルフケアへのアプローチ』の中には,このようなケースも豊富に紹介されています。
 食事,運動,休養,喫煙,飲酒などのライフスタイルは,生活習慣病と言われる疾患の発症や進行に影響することがわかってきました。しかし,生活習慣はどれ1つとっても,変えることはなかなか容易ではありません。なぜでしょう。それは,生活習慣が「日常性」の中にあるからです。日々の習慣は,1日に1回あるいは何回も,そして1年365日行なわれていることだからです。
 私たち保健医療職者の多くが,高血圧症や2型糖尿病をはじめとする生活習慣病の生活指導や健康教育にさまざまなかたちで携わっています。そこではセルフケア支援の難しさにとまどいながら,患者さんと家族をサポートしているのが現状であろうかと思います。おそらく誰もが多くの課題や悩みを抱えていることでしょう。
 1990年代初期にコービンとストラウスは,慢性疾患に伴う特徴を「慢性性(chronicity)」と表現しました。彼らは,慢性疾患を持つ患者をサポートするためには,保健医療職者が病いの慢性性を理解することが必要である,と説いたのです。さらに,「編み直し(reknits)」という概念を用いて,自分の生活習慣あるいは病気に対する考え方を編み直すことや,生活の中で折り合いをつけることの大切さを示唆しています。
 本書では,生活習慣病とは何か,疾病と生活習慣のかかわり,主な生活習慣病の病態や患者指導のポイントについて,専門的な立場から解説されています。主な疾病としては,肥満症,高血圧症,高脂血症,糖尿病,高尿酸血症,および脂肪肝・アルコール性肝障害が取りあげられています。
 このような本書を読み進むと,生活習慣がどのような意味を持つのか,健康にどのように影響を与えるのか,そして生活習慣をどのように調整する必要があるのかに,次第に迫っていくのがわかります。
 また,「セルフケアを支えるアプローチ」の章では16のケースが紹介され,「患者の言動から考えられる心理」「どのように援助すべきか」「避けたいかかわり方」などが示されています。これらは具体的で明解です。1つひとつのケースの解説とそこに描かれているユーモラスなイラストを見ると,思わず微笑んでしまったり,なるほどと納得することが多くあります。
 解説やイラストに楽しく目を通しながら,コービンとストラウスが指摘した「生活を編み直す」,あるいは「生活の中で折り合いをつける」ことの重要性と具体的な方法を知ることができるでしょう。
 日野原重明氏は次のように始まる詩で,生活習慣についてその本質を指摘しています。
 「鳥は飛び方を変えることはできない/動物は,這い方,走り方を変えることはできない/しかし,人間は生き方を変えることができる」(『「生活習慣病」がわかる本』,ごま書房,1997)
 ライフスタイルをどのように変え,またそれをどう支えるかは,私たち1人ひとりにとって重要な課題なのです。
AB判・頁128 定価(本体2,200円+税) 医学書院


いかに看護教育の質を高めるか

看護学教育における
講義・演習・実習の評価

マリリンH.オーマン,キャスリーンB.ゲイバーソン 著/舟島なをみ 監訳

《書 評》佐々木かほる(群馬県立医療短大教授)

 本書『看護学教育における講義・演習・実習の評価』は,『Evaluation Testing in Nursing Education』の翻訳書である。「教授=学習活動」を展開するために必要な評価過程の理論と教育学研究者の業績を解説している。著者らは本書の内容を5つに分類構成し,16に章立てしている。

評価なき看護教育の状況を打開し改善するために

 内容の第1は「測定・評価・試験の概念」,第2は「試験問題の作成と分析」,第3は「看護学実習評価及び能力評価」,第4は「試験結果の解釈と報告」,第5は「教育プログラムの評価」である。いずれも研究結果や例題が豊富に示されている。以下にそのいくつかを紹介する。
 まず第1章の評価・測定の概念では,教育目標の分類学に基づく総合診断測定による評価の考え方を述べている。このBloom理論は1973年にわが国で翻訳・出版された『教育評価法ハンドブック』(第一法規出版)に詳しい。また,この評価の考え方は,わが国の看護学教育で,教員研修や臨床指導者講習会などにおいて,広く紹介されている。大学設置基準の改正により,現在大学では自己点検・評価が進められており,目標を明瞭に示し,評価していくこの理論はきわめて参考になる。
 客観的試験問題の作成では多肢選択式がよく使われる。第5章ではその多肢選択式試験問題作成を,看護学の例題を使い詳細に説明している。多肢選択式の試験は知識の単なる想起だけではなく,理解,応用,分析レベルまで測定できることから広く利用され,わが国では国家試験問題がこの形式をとっている。この章では国家試験問題の分析ができるような基準も示されている。
 看護学実習評価は,教師が学生の実践能力を評価し,目標の達成度を確認する。しかし,看護学実習での評価は客観性に欠けることがある。つまり,学習以前に学生が当然到達しなければならない社会人としての規範,それに加え看護基礎教育としての到達目標である患者・看護関係成立の能力・知識・技術・専門職としての責務など,広範な学習目標が示される。さらに,学習の場の複雑性などから信頼性・妥当性を確保するには課題が多い。第10章では,この分野を実習評価の公平性を期するシステムの必要性として取り上げ,公平性の3側面を説明している。
 日頃,誰もが目標を達成できる効果的な講義・演習・実習活動を展開したいと願いつつ,十分な準備がないまま講義に臨むこともある。また,看護学実習では多くの人材,物品および時間の調整,準備をするが,フィードバックなしで次の実習を行なうこともある。本書はこのように評価されない状況を打開し,改善するための手だてを示している。
 付言すれば,日本の看護学教育に携わる訳者らは,現場の実情に精通していることから,邦題を原題の直訳から,読者がイメージしやすく,平易に理解できる表現へと心がけている。難解な教育評価の専門書を最後まで読み切ることができるようにとの訳者らの熱意が感じられる。
A5・頁368 定価(本体3,500円+税) 医学書院