医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


原価計算から得たデータを経営改善に結びつける

実践 病院原価計算
中村彰吾,渡辺明良 著

《書 評》竹田 秀(竹田綜合病院理事長)

名マネージャーと気鋭のシェフによる一品

 著者の中村彰吾氏は,聖路加国際病院の名事務長として病院経営に腕をふるっておられることはご承知のとおりである。また,長年にわたって病院の部門別原価計算を実践され,この分野の第一人者であることも改めてご紹介するまでもない。
 共著者の渡辺明良氏は,企画室チーフとして聖路加国際病院の経営戦略を担当されている若手であるが,経営管理に関する卓越した知識とセンスの持ち主でまさに俊英である。名マネージャーと気鋭のシェフにも例えられるこのお二人の師弟コンビが,聖路加国際病院の伝統である原価計算をどのように調理して読者に提供するか期待をもって頁を開いたが,期待にたがわない一品に仕上がったと言える。
 第1章は「病院経営環境の変化と原価計算」と題されているが,財務分析による費用の比率の見方と財務会計と管理会計の役割の違いが述べられている。第2章は原価の概念や損益分岐点の説明がなされている。ここまでは前菜にあたるが要領よく説明されており,原価計算に直接たずさわらない部門でも,管理職であれば理解しておくべき内容である。
 第3章の「原価計算の実務」は主菜の一皿であり,約3分の1の60頁を占める。ここは聖路加国際病院における長年の経験とノウハウが凝縮されていて,原価計算の担当者にとっては大変に貴重であり参考になるであろう。第4章は,第3章の部門別原価計算をいかに病院経営管理へ活用するかが述べられている。各科や各病棟の責任者が理解しておくべき内容である。
 第5章から第7章は応用編で,科別や疾病別の原価計算に触れている。
 第8章は原価計算の今後の展望としてABC(activity based costing)に触れられている。第9章は聖路加国際病院における経営戦略の具体的な事例がとりあげられていて,美味しいデザートである。

病院経営管理の参考書としても有用

 本書は全体としてコンパクトな中に,要点が盛り込まれており,原価計算のみならず病院経営管理の参考書としても有用である。
 原価計算の実務もさることながら,そのデータをいかに経営改善に結びつけるかという視点から記述されている点は,大きく評価したい。原価計算はそれ自体が目的ではなく,経営改善の手段だからである。
 各節にチェックポイントやキーワードがつけられているのも親切で丁寧である。また少しであるが演習問題があるので,学生や若い読者はおっくうがらずに手を動かして解くことで理解を深めてほしい。
 このコンビによる次書を期待したい。
A5・頁216 定価(本体3,000円+税) 医学書院


感染症・食中毒に遭遇した時,医療関係者は何をすべきか

アウトブレイクの危機管理
感染症・食中毒集団発生事例に学ぶ
 感染症・食中毒集団発生対策研究会 著

《書 評》岡部信彦(国立感染症研究所・感染症情報センター長)

 感染症コントロールのためには,的確な臨床診断とこれをサポートする病原診断,そして正しい診断に基づいた正しい治療の選択,さらに日常からの予防が重要であることは言うまでもない。最近は,これに加えてサーベイランスの重要性に関する認識が高まっている。
 サーベイランスには,担当者が情報の収集をその他の人や機関に依頼し,収集されたデータにつき分析,還元する受動的サーベイランス(passive surveillance)と,担当者が直接感染症の発生現場に出かけ,一定期間,患者への接触などを含め現場での調査を行なう能動的/積極的サーベイランス(active surveillance)がある。前者は日常的に行なわれている点が重要で,いわばサーベイランスの基礎的な部分であるが,後者は何らかの感染症の発生(アウトブレイク)に対して直ちにその対策をとるために必要なサーベイランスである。
 わが国では1999年4月より感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)が施行され,感染症サーベイランスの新しい体制が整備された。その中で,「サーベイランスは国の責務である」と法律で明記されている。同法には,都道府県知事は積極的疫学調査を実施できることも明記されている。地域において何らかの感染症のアウトブレイクが日常的サーベイランスなどから感知された時には,直ちにその対策をとることが必要なものであるかどうかを見極め,法律の規定による行動に限らず,積極的なサーベイランスを,いつでも行なえる体制を日頃から整えておく必要がある。

アウトブレイクの危機管理のバイブル

 本書は,いくつかの感染症アウトブレイクを経験してきた自治体における感染症対策担当者によってまとめられた,いわば感染症の危機管理に関する実用的な書である。内容は,結核,O157,赤痢,インフルエンザ,予防接種副反応事例など,いつわれわれが遭遇してもおかしくない疾患の実践について知ることができるよう述べられている。発生現場も保健所において主にかかわるものだけではなく,老健施設,保育園,病院など広く取り上げられており,自治体における保健担当者のみならず,医療現場で感染症対策に取り組む人々すべてに対して役に立つ構成となっている。
 また現場における経験を述べるだけではなく,アウトブレイクに関する紙上でのシミュレーション,一般論としての対応の実際についてそれぞれ項目を立てて解説してあるので,どのような感染症のアウトブレイクであっても本書によってactive surveillance実施の道筋が立てられるようになっている,いわばガイドライン的な役割も本書は果たしている。

マスコミへの対応,協力も提示

 感染症のアウトブレイクがあれば,それを調査することは当然であるが,真の感染症対策のためには,その調査に基づいた提言を行なうことが重要である。さらにマスコミへの対応,協力なども実際の現場ではきわめて重要なこととなる。本書ではアウトブレイクに対する調査研究方法を提示するだけではなく,これらの重要な点についても触れられており,実際的である。
 以上より,本書は公衆衛生現場における感染症担当者のみならず,第一線の医療現場など感染症対策にかかわる人々に広く一読をおすすめしたい良書である。また実際のアウトブレイクに遭遇した際には,本書を資料の1つとして現場に携えていくことも併せておすすめしたい。
 現在わが国では,このような積極的なサーベイランスを行なう専門家の数はきわめて限られており,これを養成する2年間の研修コース(Field Epidemiology Training Program,FETP)が,国立感染症研究所感染症情報センター内に設置された。本書の著者の1人は,このFETPコースでさらなる研鑽を積んでいるところである。今後の研修の成果,アウトブレイクの経験などが集積され,さらに本書がより優れたものに発展していくことを心から願っている。
B5・頁168 定価(本体2,600円+税) 医学書院


脳の画像診断の勉強にうってつけ

ケースレビュー 脳の画像診断
Laurie A.Loevner 著/大平貴之,百島祐貴,山口啓二 訳

《書 評》細矢貴亮(山形大教授・放射線医学)

 一昨年の夏休み前だったと記憶する。メディカル・サイエンス・インタ-ナショナル(MEDSi)社から1冊の洋書が送られてきた。『Brain Imaging-Case Review』(Mosby, 1999)であった。「日本語訳にして出版する価値があるか意見を聞きたい」という趣旨の依頼だったと思う。「専門家というより脳の画像診断を勉強したい人が読者対象になるので,爆発的に売れるような本ではないが,大変すばらしい発想のもとに完成した著書と思う」という内容の返事をした。
 このたび,慶大の先生方が日本語訳を分担して本書を上梓された。一読して,まず感心させられた。短い期間だったにもかかわらず,大変読みやすい日本語に仕上がっているのである。それぞれが専門の分野を担当されているためと思うが,心から敬意を表したい。

Key filmを厳選

 本書の特徴は,大きく2つにまとめることができる。1つは,key filmを厳選して半頁-1頁にまとめていることである。画像診断の成書では,ともすると写真が多くなりすぎる傾向にある。専門的になるほど情報の欠落を避けるようになるからであるが,大胆と言えるほど写真が少ない。著者の英断に拍手を贈りたい。
 もう1つは,1例につき4問程度の設問がついていることである。類書では診断名を考えさせる形式をとってはいても,解答と解説は画一的な傾向になりやすい。本書では,画像所見の解釈,そこから考えられる病態や疾患,鑑別に必要な知識や臨床的事項など,症例ごとに設問が変えられ,かつ重要な点が繰り返されている。画像所見あるいは疾患のポイントが自然にわかるような構成になっている。臨床の現場で口頭試問を受けているような臨場感を感じるのは私だけであろうか。
 本書は,脳の画像診断を勉強しようとしている方にうってつけである。自分の実力を実感しながら,知らず知らずのうちに知識が整理されていくことに気づかれるであろう。また,症例の索引が英文と和文で呈示してあるので,系統的な構成でないにもかかわらず,1つでも診断名が浮かべば次々に鑑別疾患がわかる仕組みになっている。臨床に携わっておられる先生方にも,座右の書としてお薦めしたい。
A4変・頁284 定価(本体7,200円+税) MEDSi


緑内障の日常臨床のすべて

緑内障治療経過図譜
永田 誠 監修/松村美代,黒田真一郎 編集

《書 評》澤口昭一(琉球大教授・眼科学)

豊富なデータを臨床経過とともに

 本書は,小生にとっては新潟大学名誉教授の岩田和雄先生とともに尊敬する日本における緑内障の草分け的存在である永田誠先生と,その多くのお弟子さんの中でも直系の弟子ともいえる松村美代関西医科大学教授,さらに永田眼科の現スタッフによって長年にわたる多数の緑内障の症例をありのままに,しかも一目見て説明は不要なほどの大変きれいな細隙灯写真,視神経乳頭写真,隅角写真あるいは視野等を含めた豊富なデータをその臨床経過とともにまとめられた力作である。
 小生にとっては,特に永田先生が執筆された1頁から9頁の,これまでの緑内障の手術治療法の変遷について記述された「20世紀における緑内障手術のあゆみ」が,多数の文献を網羅しており,理解しやすくまた大変参考になる内容であった。また130頁から144頁のIV「緑内障手術の成績」は,これまでの永田緑内障の手術成績の集大成とも言えるものである。過去,現在そして未来の緑内障の手術治療法へのホップ・ステップ・ジャンプが見事に記載されており,これまでの永田眼科における手術療法の進歩とその結果が非常によく理解される点で秀逸である。
 この出だしとまとめの間に,先天性緑内障,開放隅角緑内障から閉塞隅角緑内障,さらに血管新生緑内障を含めた難治性緑内障等,ほとんどすべてのタイプの緑内障の症例について,いくつかのバリエーションを含めてその診断法,治療法,手術療法の選択の基準と過程,またその結果が短期的,長期的な経過とともに記載されている。
 文章は簡潔で読みやすく,またきれいな写真とともにすんなりと頭に入り,小生のこれまでの臨床経験とダブって興味深く読むことができた。またポイントの記載は治療法の選択の妥当性,正当性について豊富な経験を基に論理的に書かれており,緑内障専門医を自認する小生にとっても大変勉強になった。

眼科臨床に携わる人に

 また頭休めに所々書かれていると思ったコラムは,実はそれなりに日常臨床の上で参考になる含蓄のある文章であることも,読んでいただければわかる。
 本書は日常の緑内障診療の上で緑内障専門医ばかりでなく,一般眼科医あるいはこれから緑内障専門医をめざす若い眼科医にとっても,外来の机上に置いて参考にできるハイクォリティの1冊としてお勧めできる秀作である。
B5横・頁160 定価(本体10,000円+税) 医学書院


PTCAに携わるすべての医療スタッフのための実践書

PTCAスタッフマニュアル
湘南鎌倉総合病院心臓カテーテル室 編集

《書 評》川中秀文(小倉記念病院心臓カテーテル室長・放射線技師)

 近年,心疾患の新しい診断法の進歩には目覚ましいものがあり,それらを駆使すればきわめて精密な診断が可能となってきた。その進歩には心エコー,X線CT,SPECT,MRI,などの画像診断法が寄与しているが,心臓カテーテル検査法が安全に施行できるようになったことが,診断技術の進歩に最も大きく貢献したと言われている。1977年,Gruentzigが初めてPTCAに成功して以来,冠動脈造影という元来,侵襲的であった検査法は,PCTAという虚血性心疾患の治療法の発展と普及とともに,患者さんにも認知された感がある。わが国でも80年代半ばにはすでに虚血性心疾患の重要な治療法の1つとなり,以来,飛躍的に増加の一途をたどっている。

心カテ室にこの1冊を

 従来,心臓カテーテル検査法やPTCAに関する専門書は数多く出版されている。そのほとんどはこれらの技術に精通した経験豊富な循環器専門医によって,これからカテーテル技術を習得する医師のために執筆されたものである。残念ながらコメディカルスタッフのために書かれたものはほとんどなく,当然,本書のように放射線技師,検査技師,臨床工学士,看護婦(士)など各職種の方々が,それぞれの視点で書かれたものは今まで皆無であった。
 心カテ室に配属されるコメディカルのほとんどは,心カテ室での専門知識のないままに新人として,または業務の都合上,配置転換などの理由で心カテ室勤務となる。中にはそのために不安からカルチャーショックに陥ることもある。『PTCAスタッフマニュアル』を拝読し,まず感じたことは,本書が1冊あれば数える側も教わる側も「これ1冊でもう安心」ということである。心カテ室での業務における入門的な基礎知識から検査,治療時の重要な注意点,患者さんへの配慮など,各職種の方々が細部にわたってわかりやすく解説されている。
 本書の構成は診断カテーテル,PTCA,緊急カテーテルが段階づけて分けられており,それぞれの業務の流れを明確に把握できるようになっている。また,各職種における注意点について細かく記載があり,必要な時にすぐに対応できるように構成されている。

患者さんのためにどうするか

 PTCAは熟達した医師個人の技術のみに頼るものではなく,各職種のスタッフが質の高い技術や環境を提供することにより成立する。また,患者さん中心のチーム医療の重要性を認識することが不可欠であり,そのためにわれわれは努力していかなければならない。
 本書は,医師や心カテ室勤務者にすぐに役に立つ技術解説書でありながら,患者さんのためにどうすればよいかをたえず考えながら書かれたものと確信する。湘南鎌倉総合病院心カテ室に勤務されている優秀なコメディカルスタッフの方々のご努力に敬意を表すとともに,本書をPTCAに携わる多くの方々に読んでいただきたい。
B5・頁180 定価(本体3,500円+税) 医学書院


周産期医療に必要な遺伝学の知識を1冊に

〈Ladies Medicine Todayシリーズ〉
周産期遺伝相談
 神崎秀陽,玉置知子 編集

《書 評》瓦林達比古(福岡大教授・産婦人科学)

 一般産科臨床の中で,超音波機器の急速な発達と普及によって,胎児各臓器の形態診断のみならず,機能診断までが広範囲に行なわれるようになりましたが,さらに多くの胎児情報を得るための検体に関しましても,羊水,絨毛,胎児尿や胎児胸・腹水だけではなく,臍帯血管穿刺による胎児血採取も可能になりました。さらに,不妊症治療としての体外受精・胚移植や顕微授精などの生殖補助医療技術の進歩も著しく,受精卵の一部を検体とすることも可能になっています。

現場の医師に要求される見識

 一方では,世界中でヒトの遺伝子解析が急速に進められることによって,多くの疾患の遺伝子異常や遺伝的背景が明らかにされ,遺伝医療情報そのものが医療関係者のみならず,一般の人々にも大変身近なものになってきました。その結果として,遺伝子異常を含む胎児異常の出生前診断精度もさらに高まり,その中で胎児治療の可能な疾患も類別できるようになってきています。
 このような周産期医療全体の変革の中で,臨床の現場で働く1人ひとりの医師にも正確な遺伝学の知識と倫理学や哲学に立脚した高い見識が,ますます要求されるようになってきました。ところがそれらを学習するに当たって,現在までわが国においては,研修医から専門医およびコメディカルスタッフにまですべての医療従事者にわたって理解できる,最新の情報を網羅したわかりやすい解説書は見当たりませんでした。

外来・病棟ですぐに役立つ

 そういう意味で,今回出版された本書は時宜にかなったものであり,わが国の現状に則した検査法やその評価,着床前診断を含めた胎児や新生児の異常,不妊症に関係する両親の染色体異常,実例提示を含む遺伝相談の体制や技法などを,わが国の社会的かつ倫理的背景を重視した立場から丁寧に解説されており,外来または病棟で今すぐ役に立つ,待ち望まれていた実用的な良書です。
 さらに,巻末には遺伝関連資料や遺伝子診断施設のインターネット検索のためのホームページ一覧まで添付されており,周産期医療に携わるすべての人たちの必読書として,また座右の書として推薦できるものです。一読されることをお勧めいたします。
B5・頁208 定価(本体6,000円+税) 医学書院