医学界新聞

 

第6回日本薬剤疫学会開催


 第6回日本薬剤疫学会学術総会が,道場信孝会長(帝京大学教授・第3内科)のもとで,さる11月10-11日,東京・お茶の水の全電通会館において開催された。
 学術総会では会長講演の他,招聘講演「Case-Control Studies of Drug-Induced Neutropenia and Stevens-Johnson Study of Outcomes Following Drug Use」(ペンシルベニア大 Brian L. Strom氏),シンポジウム I「薬剤疫学における薬剤師の役割」(座長=金沢大 古川裕之氏,シンポジスト=福井医大 政田幹夫氏,厚生連高岡病院 高瀬美咲枝氏,(社)日本病院薬剤師会 土屋文人氏,鹿児島大 熊本一朗氏),II「薬を選ぶ:薬籠に何を入れるか」(座長=東医歯大 津谷喜一郎氏,同=京大 福井次矢氏,(財)医療機器センター 久保田晴久氏,帝京大 清水秀行氏,昭和大 内田英二氏)が注目を浴び,「情報・方法論」,「有効性・安全性」,「安全性・経済性」,「薬物使用実態」などの一般演題が発表された。


会長講演「循環器疾患と薬剤疫学:反省と展望」

 会長講演「循環器疾患と薬剤疫学:反省と展望」で道場氏は,(1)pharmaceutical health promotionとそのシステム,(2)臨床における薬剤疫学(pharmacoepidemiology:以下PE),(3)循環器疾患とPE,(4)PEの展望,という項目に沿って循環器疾患と薬剤疫学との関連を解説した。

pharmaceutical health promotionとそのシステム

 道場氏は,まず「pharmaceutical health promotion」(“質の高い薬物の使用”をめざす社会的,また疫学的研究を進めるためにWHOが提唱したスローガン)に触れ,「これを実現するためには,患者,医療者,製薬会社,そして行政管理の4面からなる“質の高い医療ピラミッド”の構造を適切に機能させることが必要である」と指摘。さらにこの構造の理念を,次の3つのレベルに分析し,「この枠組みの中でこそ,それぞれの果たす役割が確かめられ,正当に評価できる」と付け加えた。
 level(1)認識:薬物を健康の保持・増進の手段として位置づけ,薬物の有効性と安全性に関する共通の考えを持ち,薬物の使用に先立って薬物の適正使用を可能にする環境が整えられる
 level(2)知識と技術:適切な決断による必要な知識,技術,資源を共有し,開かれた形で予防的なオプションや各個人の選択を重視した薬物の使用を決断し,処方し,助言する
 level(3)実行と評価:有益効果と有害効果とがモニターされ,質の高い薬物使用が保障され,問題解決のためのシステムが機能する

臨床におけるPEとその将来

 次いで「臨床におけるPE」を論じた道場氏は,「薬物開発が飛躍的に増加する中では,どのように薬物を広く一般の人たちに用いるかについて,より正確な考えを持たねばならない」として,第 I-III 相の臨床研究の範囲を超えた第 IV 相の市販後調査(PMDS)の重要性を強調。
 「case-control study,cohort study,RCT(randomized control trials),メタアナリシスなどの手法によってPMDSが行なわれ,その結果,種々の患者要因の効果が科学的に評価され,それによって予期しない有益・有害効果,費用・効果比,あるいは治療の個別化について有用な情報が得られる」と解説した。
 また道場氏はPEの将来に関して,「PEは患者の治療を決断する際に,薬物を取り巻く不確かさを減らす上で重要な役割を持つが,それには大規模なデータベースと病歴の結合が必要であり,また,医師,薬剤師,患者,行政者,製薬会社にとってそれらの研究資源が適切に利用できる状況になければならない」と述べ,「PEが健康の保持・増進に絶対必要な科学として発展するためには,PMDSに新たなシステムが求められ,研究者とともにその活動を支援する十分な社会的サポートが必須である。さらには,PEの新たな展開には遺伝学・生物学・分子生物学などの先進テクノロジーとのリンケージが求められる」と言及した。

アウトカム研究の必要性

 さらに道場氏は,アウトカム研究に関して,「PEは有害効果についての過剰な反応や過小な評価を排除し,かつ効果の評価にはQOLや健康状態の総合評価,そしてdrug utilityも含めたアウトカム研究として進められなければならない」としてその必要性を強調した。そして,「アウトカム研究は薬物療法の決断に関連した臨床結果と経済結果に焦点を当てたものであり,ヘルスケアを成功させるためには必須な研究方法である。このようにして,疫学的研究法を駆使し,蓄積されたデータベースを適切に解析し,解釈することによって,個人的・集団的見地から,治療に関する合理的な見解を可能にする臨床的,および経済的帰結が得られる」と述べた。

循環器疾患とPE

 「循環器疾患とPE」については,降圧薬,抗心筋虚血薬,抗心不全薬,抗不整脈薬などの循環器用薬の過去40年間の飛躍的な開発を概観した後に,特に降圧薬を例にあげ,「1950年代後半から利尿薬,β遮断薬,α-遮断薬,Ca拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,AⅡ受容体拮抗薬へと開発が進み,多くのRCTによってその有用性は確立されてきた。しかし,欧米における薬剤の使われ方と,わが国の現状には大きな差があり,このような薬の選ばれ方の差がヘルスケアのアウトカムにどのような影響を及ぼすかを明らかにしていく必要がある」と指摘。さらに,「現在進行中のALLHAT(Antihypertensive and Lipid Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)研究の結果が2002年に明らかにされれば,ほどなく降圧薬の選択にも大きな変化が生じると予測されるが,このようなダイナミックに変わっていく薬物選択の傾向は,PEにおける研究に無視できない影響を及ぼすものと推測される」と強調した。
 最後に道場氏は,「PEは疾病のケアに関して多くのエビデンスを提供するが,これらの情報を個々の患者のケアにどのように適用するかが医療者に課せられた大きな課題である。まず医療者はPEを十分に理解し,得られた情報の内容を批判的に吟味し,個々の患者に情報を正しく伝えて,医療者の決断の理由を知らせることが必要である。同時に医療者は個々の患者のアウトカムの帰結に果たす医療の役割を適切に認識していかなければならない」と強調して会長講演を結んだ。