第2412号 2000年11月13日

Vol.15 No.11 for Students & Residents

医学生・研修医版 2000. Nov


鼎談

第94回医師国家試験を考える

平成13年度の改定実施を前にして

細田瑳一氏
榊原記念病院院長
医師国家試験改善検討委員会
前委員長
 橋本信也氏〈司会〉
東京慈恵会医科大学客員教授
国際学院埼玉短期大学副学長
 福井次矢氏
京都大学教授・
臨床疫学附属病院
総合診療部長


第94回医師国家試験を振り返る

全体的な印象について:得点分布

橋本<司会> 今年の医師国家試験の合格率は79.1%と近年にない低い数字でした。昨年も合格率の低さが話題になりましたが,それでも84.1%でしたので今年はそれをさらに下回ったことになります。医師国家試験の出題基準は,4年に1度改定され,今年は平成9年に改定された医師国家試験の最後の年になりました。来年は大改革が行なわれます。そこで本日は今年の医師国家試験について,また改定される来年の医師国家試験について,先生方のご意見をいただきたいと思います。
 まず,今年の医師国家試験について,全体的な印象からお話しいただきたいと思います。細田先生からよろしくお願いします。
細田 結果から見ますと,確かに今年は合格率は低くなりましたが,正答率の平均値は昨年とあまり変わりませんでしたから,必ずしも問題が難しかったとは言えないのではないかと思います。
 合格率を考える時に問題になるのは,平均値もさることながら,やはり得点分布がどのようになっているかということです。本来は1つの山になることが期待されていますが,2つの山ができることもあります。そして,合否基準が下の山のピークより下にある時は不合格者は少ないのですが,たまたまそれより高いところへ合否基準がいきますと,不合格者が多くなります。
橋本 その原因は受験生にあったのでしょうか。それとも問題自体にあったのでしょうか。
福井 やはり受験者に2群いると考えたほうが理解しやすいですね。
細田 そうですね。今年はその2群の中の後ろの群が多かったので,大きな山ができてしまった可能性があると思います。正解率の平均値は今年はむしろ上がっていますからね。
橋本 試験問題はそれほど難しくはなかったということですね。
細田 ええ。それほど難しくないと思います。それから問題の質としては,不適切な出題が少なく,比較的良問,望ましい問題が多かったように思います。

受験者および大学教育にも問題が

橋本 福井先生はいかがでしょうか。
福井 私も,問題自体は以前と比べると格段によくなっていると思います。ただ,少なくとも合格率で見る限り,これだけ大きく変動した理由の大部分は受験者側の問題ではないかと思っています。
 と言いますのも,この出題基準になって4年目で,必修問題の傾向もかなりわかっているにも関わらず,成績のよい人が落ちてしまったということは,可能性として大学教育がD問題にかかわるプライマリ・ケアという方向に追いついていないところがあるからだと思います。厚生省の出題基準で,医学教育を誘導するのはけしからんというご意見もあるようですが,少なくとも卒業時にこうあってほしいという要望と,大学で教えていることにまだズレがあって,残念ながら必修問題の基本事項に相当する教育が効果的に行なわれていない大学がまだあるのではないかと思います。
 また出題のほうも,30題の必修問題の基本事項は確率的に変動します。少し異質の問題が1題入っているだけで正答率が変わりますので,絶対基準でしかも高いところに設定されて,合否判定基準になっているのは気の毒だと思います。
細田 ガイドラインでは「必修問題はプライマリ・ケアを中心に」ということになっているのですが,そうお考えにならない先生もいらっしゃいますので,そう認識されていない大学もあると思います。
橋本 全体的な印象としては,お2人とも問題の質は大変よく,難問奇問の数が少なかった。そして合格率が低かったのは,問題そのものよりも受験生の側に例年よりバラツキがあったのではないかというご指摘でした。

出題分野別に考える:A問題

橋本 次に個々の問題についてご意見を伺いたいと思います。まず,出題分野別にまとめてみますと表1のようになります。後ほど触れていただきますが,ブループリントとの関係も含めて出題数や内容について何かお気づきの点がございますか。
福井 「主要症候」が増えていますが,プライマリ・ケア的な視点での知識を要求していることが反映されていて,個人的にはよい傾向だと思います。ちなみに,アメリカの医学教育との最大の相違点は,症候からのアプローチが日本の大学ではあまり教えられていないことです。もう少し症候論の教育を充実させる必要があると常々思っていますので,そういう見地からは大変望ましいのではないかと思います。
細田 確かに,A問題を見ましても基本手技と言いますか,例えば血圧の測り方とか頭痛の分類,子どもの体表面積の分布といった常識的に当然知っているべき問題が結構多かったように私は思いました。
橋本 「検査」や「治療」についてはいかがでしょうか。
細田 「検査」は例年とあまり変わりませんが,具体的なよい問題が多く出ていたと思います。「治療」のほうは,薬と診断の関係というものが比較的多いですね。大事ではあるのですが,以前とあまり変わってないのかなという意識で見ていました。
福井 「治療」は確かに多いですね。
橋本 学生が苦手にしているのは「人体の正常構造と機能」ですが,今年は問題A-14に胸部の正常解剖,A-16に女性性器の解剖,A-17に頭部CTによる出血の部位などが出題されていましたね。
細田 女性性器に関する問題は,少し細かいかなと思いますが,それ以外はあまり難しいものではないと思いました。
福井 これも結局,勉強の仕方の問題だと思います。
 現在の医学生がかわいそうだと思うのは,従来の方式で医学教育を受けてきて,臨床をやって,それからさあ正常解剖というのは,やはりどこかおかしいですね。本当は臨床をする中で自然に正常解剖が頭に入るようにすべきでしょう。解剖を教えるにしても,臨床側の教官がどれくらい関わって教えているか,という点が問題だと思います。臨床と切り離された形で教育を受けてきて,最後に正常解剖を勉強する,という状態になっているような気がします。

B問題とC問題

橋本 次にB問題に移りますが,B問題は全体的に過去問と過去問類似問題が多かったですね。難易度もそう高くはないのではないかという印象ですが,例えば問題B-47が大変よいと思うのは,「鉄欠乏状態における検査値の変化,経過」を聞いている点です。こういう問題は想起レベルだけでは答えられず,考えさせる問題だと思いました。
福井 卒業の時点でこうあってほしいという基準は,どうしても臨床医の立場から考えたものになってしまいますので,臨床実習も含めて,学生がこのような場を実際に経験していればよいと思います。
橋本 もう1つ,気になったのは感染症に関する出題です。再興感染症,新興感染症が問題になっているのに,昨年は1題で今年は3題,しかもクラミジア,百日咳,結核でした。問題としても易しいのではないかと感じました。
 次はC問題です。長文ですが,最初の「小児鉄欠乏性貧血」と次の「外傷」は易しいようでしたが,「妊婦外傷」は学生には難しいのではないでしょうか。
細田 おそらくこれは難しかったでしょうね。ただ,妊婦の交通事故は「救急」の問題として確か過去にも出題されていたと思います。「救急」の立場からは,どうしてもこういうことは当然わかっているべきだと,多くの方の判断によって出題されたのだと思いますが。
福井 かなり「救急」が重要視されていますが,実習の場で学生がどれくらい経験しているのでしょうか。救急に対する重要性を肌で感じていない状態で,多くの問題が出題されるのも少し気の毒な感じもします。知識のレベルしかないのに,救急の場での行動を聞かれていますからね。
橋本 そうですね。問題C-9は会話からネフロパシーを判断する問題ですね。
福井 数年前からいろいろなタイプの問題を出題するようになりました。これはインタビュー形式ですが,形式としてはよいのではないかなと思います。

D問題(必修問題)について

橋本 次にD問題,これは必修問題ですが,いかがでしょうか。
細田 問題の内容としては,私は割合よいのではないかと思います。例えば,Gram染色の問題が出題されていますが,この種の問題は以前からもっと多く出題されてしかるべきだ,という議論がありました。
福井 Gram染色を実習で教えている大学がどれくらいあるのでしょうか。
細田 あまりないでしょう。むしろ微生物の授業でやっていますね。
福井 基礎で教えているわけですね。
橋本 臨床実習ではまずないでしょう。
福井 今後,その辺の整合性を考える必要があるでしょうね。
橋本 問題D-1が「異常死体の届出」,問題D-2が「臓器移植の脳死判断」,問題D-3が「医療保険制度」です。この辺は医療的問題を必修と考えたんだろうと思いますが,いかがでしょうか。
福井 法律的なことについては,やはり最低限のことは知っておく必要があるので仕方がないと思いますね。しかもほとんどの学生は,卒業直前の受験勉強の時にしか,法律に関する知識を詰め込まないのが実情です。
橋本 問題D-12が「インフォームド・コンセント」です。もちろん大切なテーマですが,選択肢を十分吟味する必要があるのではないかという指摘がありましたね。
福井 臨床上必要なことですが,一般的に言って,問題を作成するのが大変難しいようです。

E問題とF問題

橋本 では,E問題およびF問題はいかがでしょうか。
 E問題ではいわゆるマイナーの科目,皮膚科2題,眼科3題,耳鼻科3題,麻酔科1題で,今年も40題のうち,9題が出題されています。
福井 これはおかしい,と感じた問題はあまりありませんでした。
橋本 受験生にとって妥当であったということですね。
細田 そうですね。特に問題とすべきものはなかったように思いますね。やはり,先生が言われたように,受験生にとって多少難しい,実際に自分が実習してきたことと少し違っていることはあったと思います。
橋本 F問題はいかがでしょうか。ここは昨年より難しかったと言う方もいましたが。出題の中心は内科・外科・小児科・産婦人科で,例年診断名を問う問題が多いのですが,今年は少なかったように見受けられます。
細田 手術の時期というような問題は少し難しいかもしれないです。大学によって,あるいは現実にやっていらっしゃる方によって考え方が異なることもあり得ますし。

出題領域別について

橋本 そこで次に今年の国試を出題領域別に見てみますと,表2のようになります。診療科の壁を取り外して出題していますから,このような見方は適当ではないかもしれませんが,現実に卒前教育は各科で授業が行なわれているので,参考になると思います。
 毎年問題になるのは内科系の比率ですが,今年は45.6%です。プライマリ・ケアのレベルでは50%をややオーバーしているのがよいという意見がありますが……。
福井 ここでいう分類不能の中にいろいろな要素が含まれていると思います。この中の基本的なものが内科に関わっていれば,50%を超えてしまうということにもなりますね。今年は産婦人科が22題から35題に増えて,少し多かったですね。それ以外はほとんど,大きくは変わっていないように思います。その分が内科が一見少なくなっているように見える原因でしょうか。
細田 これは内科の先生が内科系を出題しているわけではなく,各科の人が内科系を出しているわけですね。例えば,耳鼻科でも眼科でも,当然これはプライマリ・ケアのレベルでわかるべき部分はありますね。
 そういうものが出てくれればよいのですが,あまり各科の専門でしか診ないものになってくると困る,ということだろうと思います。
橋本 細田先生がおっしゃったように,他科の人が内科系問題を出し,内科の人が他科の問題を出すことは本当は望ましいのですが,現実にそうなっていますか。
細田 ええ。以前から「できるだけそのようにしてください」と言っています。
 ただ,必ず境界的な問題は30%ほど出題することになっていますから,使えるようなものなら,それを使われてもよいわけですから,そういう問題が作られていないとは言えないですね。できるだけプライマリ・ケア的,ジェネラルに通用するような各科の問題を多くするように,と考えているわけです。
橋本 そうしますと,いまご指摘の産婦人科や整形外科が多かったと言っても,なにも産婦人科の先生や整形外科の先生が出題しているわけではないということですね。
細田 基本的にはおそらくそうだと思います。ただ,境界的な問題の中で出てきたものを比較的たくさんとっていると思いますね。ですから出題委員会として,これは内科分というよりジェネラル,総合的な問題として出そうという認識で出題されている問題があると思います。

出題形式について

橋本 それでは,次に出題形式をまとめますと表3のようになります。K'が廃止され,K2やK3タイプの問題も徐々に減っていくと思われましたが,まだかなり出題されています。
福井 K2やK3タイプの形式は明らかに正答率が高いというデータはあるのでしょうか。
細田 どちらかといえばそうなりますね。ただ,Aタイプは明らかにこの1つだけが正答肢というように作られているとは限りません。これは比較の問題で,教育学的にそうですが,評価の場合に,結局ネガティブにどれが一番よいのかを見てくださいと言っているわけで,別に絶対にこれだけとは言っていません。ワンベストというのは,その差を認識してとり出してくれと言っているわけです。ですから,はっきりさせるために,出題者側はそれだけ難しいわけですね。
橋本 ワンベスト・リスポンスですから,他の選択肢に比較してこれがベストであるということになるわけですね。選択肢を順にaから見ていって,これが正答だと思うと受験生は他の選択肢は見ませんね。
細田 そういうことがあり得るわけです。しかし,そうではないのだということを,私たちとしては指摘しておく必要があると思います。評価の問題でいつもそこが聞かれているわけです。K2やK3タイプの問題についても同様です。
橋本 なかなか難しいですね。
細田 どうも受験生側は一番はっきりしているところを1つ選んでしまうので,K2やK3タイプの問題の正答率は低くなるか,あるいは高くなるかということになりますね。Aタイプがよいことは確かですが,作成する側からすると非常に作りにくい場合があるのは事実です。
福井 特に症状については,絶対に起こりえない,あるいは100%起こるということは稀ですね。ですから設問文にこれは相対的な頻度での比較だということをもう少しはっきりわかるように書いたほうがよいのかもしれませんね。
細田 その辺りがはっきりわかるような出題の仕方になれば,よく理解されるようになると思いますね。
橋本 K2やK3タイプの出題の場合,比較でも組み合わせですから,外れる選択肢が出てきますが,Aタイプの場合は程度の差ということですと,受験生にとって紛らわしいことがありますね。
細田 やはり程度の差が大きいということがはっきりしている場合は,仕方がないでしょうが,それをただ言葉尻で済ませてしまうと,解答がないということになってしまいます。
福井 佐賀医大にいた頃の話ですが,外来実習中に「胸痛」の患者さんがいらした時に,学生からの鑑別診断として「解離性大動脈瘤」とか「急性心筋梗塞」しかあがってきませんでした。
 つまり,例えば「咳が続くと,筋肉痛のため胸が痛む」というようなことがまったく頭に入ってないから,あまりにも当たり前のことでも,卒業時の学生には頻度の問題は,やはり難しいのだろうと思いました。
橋本 それは教科書で「胸痛」ということで見ていくからでしょうね。
福井 そうだと思います。生命に関わるものをしっかり教えますので,やはり頻度もそういう概念で頭に入っていますね。

不適当問題について

橋本 今年の国家試験の最後になりますが,毎年,不適当問題が話題になります。今年はいかがでしょうか。
細田 毎年見ていますが,絶対に不適切という問題は少なかったと思います。ただ,レベルの妥当性と言いますか,少し人によって考え方が違うので,そういうことを言いますと,救急の問題なんかで,これは少し無理ではないかというような点は指摘できると思います。
橋本 毎年,「解答割れ」や「正解が出ない」ということが問題になりますが,今年は比較的それが少なかったのではないでしょうか。良問が多かったということになるわけですね。
福井 不適切問題として採点から排除されたような問題は,今年はありましたか。
細田 なかったのではないでしょうか。
橋本 昨年は試験後に,厚生省から1題,不適当問題の指摘がありましたが,今年はなかったようです。

第95回医師国家試験を展望する

平成13年度医師国家試験出題基準改定の概要

橋本 それでは次に,来年の医師国家試験を展望したいと思います。いよいよ来年は4年に1度の改定,それも比較的大きな改定になります。この改定は昨年4月の「医師国家試験改善検討委員会」の報告書に基づいていますが,その委員長であった細田先生から概要についてご説明いただけますか。
細田 平成13年からは新しい出題基準になります。その詳細は(資料1)を参照していただくことにして,まず一番大きな事項は出題数の増加で,当初考えていた600題までは届きませんでしたが500題にしました。そして,国民の求める質の高い安心できる医療を提供できるように,プライマリ・ケアや医の倫理・患者の人権に関する問題など,医師としての基本的事項である必修問題を30題から100題に増やすとともに,この中に「医療面接におけるコミュニケーション能力や行動科学的な領域を含む基本的な臨床能力を問う問題」を充実させます。また必要に応じて,「一般教養的な問題」や「他の医療関連職種に関する問題」の出題も検討されます。
 一方,これまでのように毎年試験委員が作成・修正する従来のような問題作成方法では,出題数の増加に対応することが困難ですから,「試験問題の公募」や「プール制」が導入されます。その際の試験委員会の役割は,収拾した試験問題を選定・修正(ブラッシュアップ)することに位置づけられるでしょうが,公募問題やプールされた問題が相当数になるまでは,試験委員会は従来どおり並行して行なうことになります。
 また,これまでは受験生が持ち帰っていた試験問題を今後は回収します。このことによって,良質の問題を繰り返し出題することが可能になるとともに,試行問題の実施,受験生のレベルの変化に対する調整に加えて,結果としてプール問題が増え,漏洩を防止することにもつながってくると考えられます。しかし,それでは受験生は自己採点ができなくなりますから,今後は受験生に試験結果を通知することになります。通知する内容は,合否の結果,総点数,問題(必修問題,一般問題・臨床実地問題)ごとの点数,禁忌肢選択率,全受験生の成績分布の中の本人の成績などで,原則的に本人に通知します。
 出題形式については,先ほど話題になったK2やK3タイプの問題をできるだけ少なくし,Aタイプの増加およびXタイプが拡大されます。
 それからもう1つは,今年も似た問題が出題されていましたが,応用力試験としてSA(Skills Analysis)の問題形式を使って長文問題を中心に出題し,記憶に頼るような問題は極力減らそうとしています。
 また,今年の反省点でもあるのでしょうが,合否基準を絶対評価にするのか相対評価にするのかという問題については,必修問題に関しては絶対評価で,これはある一定の正解率でないと合格できないというラインを設けます。それ以外の問題に関しましては,一部に相対評価の基準を入れ,合格率が大きく変動しないようにします。

SA,試行問題,4大項目の新設

橋本 ありがとうございました。そこで2,3お伺いしたいのですが,まずSAについてです。入学試験に一部導入している大学がありますが,これに馴染んでいない受験生もいます。SAについて受験生に何かアドバイスはございますか。
細田 行動科学的な領域やコミュニケーション・スキル,あるいは福井先生がご専門のDecision Analysis,というような問題を出題する上でも,SAという形式は使いやすいのではないかと思います。
橋本 SAの問題を出題するのは大変難しいですね。かなりトレーニングを積んだ出題者が出さないといけませんね。
細田 そうですね。出題者の力量が問われると思います。
橋本 もう1つ,試行問題はどのような形で導入されるのでしょうか。
細田 500題に上乗せさせる形になると思います。その時,どの問題が試行問題であるのかは公表されません。なぜかと言うと,これは全員が同じものであるかどうかわからないからです。要するに,採点の対象になる問題は全員同じですが,試行問題は同じであるかどうかわかりません。
橋本 そうしますと,500題という出題数は受験生にとって絶対的な数ではないわけですね。
細田 550題ぐらいになると思います。出題数が大幅に増えますが,今回から試験日を1日増やして3日間になりますので,十分対応できると思います。
福井 アメリカのナショナルボードのステップ1は350題ですが,その中の20-30題がフィールドテスト用になっていますので,実際に採点の対象になるのは少なくなります。今回の厚生省のプランは,500題プラスαという形のフィールドテストのようですね。
橋本 福井先生はいかがですか。
福井 必修の基本的事項の大項目に,「チーム医療」,「臨床判断の基本」,「心理・社会的側面についての配慮」,「一般教養的事項」の4項目が新設されました。臨床研修を始めるにあたってすべての人が勉強しておいてほしい項目で,受験生は少し神経質になっているかもしれませんが,それほど特殊な事柄ではないように思います。
橋本 必修の基本的事項ですから,どれも納得できる項目ですね。それ以外に今回の改定で「医学各論」の「精神・心身医学的疾患」が従来の「精神・神経・運動器疾患」から分かれましたね。

ブループリントの作成

橋本 もう1つの話題はブループリント(医師国家試験設計表)の作成です。これは大変画期的なことで,望ましいことだと思います。これについてご意見をいただけますか。
福井 ブループリントの趣旨は「平成13年版医師国家試験出題基準」の冒頭に書かれています(資料2参照)。今までははからずも,年度によっては非常にバラツキがある出題も起こり得たわけです。そういうことをなくす意味でも,各項目・評価領域ごとに出題数を規定したブループリントを作成して,それに基づいて問題を作るのは大きな進歩だと思います。受験生にとっても,問題が変動して不当な結果になることは避けられるのでよいことだと思います。
細田 福井先生がご指摘のように,従来はブループリントに類するものがなかったので,バラツキが生じたり,一方では長年出題されない領域が生じたりしましたが,今後はそういうことはなくなるでしょう。今回の改定で出題数が500題になったからこういうことができたと思います。
橋本 ブループリントには「大項目」の出題割合が明記されています(表1参照)。ここまでやるとかえって窮屈にならないか,という懸念もあるようですが,いかがですか。
福井 実際のところ,作る側は苦労すると思います。しかし,それを意識してやらないと作りやすい分野の問題ばかり出ることになってしまいます。問題を作成することが難しいことを承知の上で,それでもやはり出すべき問題は出題すべきではないかと思いますね。
細田 出題者側にとって非常に厳しいと思いますね。ただ先ほどのブループリントの趣旨に示されているように,受験生が知っておくべき当然の知識,という観点から作られているのですから,その通りに行なわれることが望ましいと思います。しかし,やはり作られる先生は本当に大変でしょう。

禁忌肢について

橋本 次に禁忌肢のことですが,禁忌肢のある問題はどのように受けとめておいたらよろしいでしょうか。
細田 従来のように禁忌肢が非常に少ないと,いわゆる当たり外れがあり得るわけです。これは禁忌肢が入っているのではないかと思ったら,解答しない受験生までいました。しかし,禁忌肢の比率やどの問題に入っているかは公表されていませんから,全体として問題数が増えたということは禁忌肢も増えると思いますので,どの問題に関しても注意を払わなければならないことになります。そう認識されて対応されればよいと思います。
 ただ禁忌肢は明らかに生命に関わる,あるいは法律違反になることがはっきりしている項目で,しかも1つの問題に禁忌肢がいくつも入っているわけではありません。その意味では,少なくとも非常に慌てたりすることがない限りは,禁忌肢を踏むことは常識的には起こり得ないと思います。
橋本 実際には禁忌肢で落ちる受験生は非常に少ないと言われていますね。
細田 禁忌肢を複数肢踏んでいないと合否に関わってきませんから,非常に少ないと思います。全体の合格点にも達しない人が禁忌肢を踏んでいることが多いですね。
橋本 福井先生いかがでしょう。
福井 今年の経験から言うと,本当に成績の優秀な学生が落ちているような大学は,やはりその大学の教育のあり方についても考えていただかなければいけないと思います。
橋本 声を大にして言ってください(笑)。
福井 特に必修の基本的事項の部分が難しく感じるような教育をしているのではないかという印象を,私は拭えないのです。
 新しい出題基準は,おそらく現在大学でこういう教育が行なわれているからこういう基準にしようという考えで作られているのではないと思います。どちらかと言うと,あるべき論で,卒業時にはこうなってほしいという理想論から出てきたもののようですから,大学の教育とのディスクレパンシーが細かいところでいろいろあると思いますね。
 残念ながら大学によってフォーカスの合わせ方がかなり違う可能性がありますので,受験生は少なくとも出題基準ではこういうところが重要視されているということを知った上で,勉強する必要があるのではないかと思います。

受験生へのアドバイス

橋本 最後になりますが,この新聞が発行される頃は,受験生は来年の受験準備で,大いに勉強をしている最中だろうと思います。そこで,今回,大幅に改定される医師国家試験を受験される学生に向けて,何か一言ずつアドバイスをお願いいたします。
細田 先ほども申しましたけれども,今回の受験の準備としては,やはり必修問題の範囲をよくご覧になって,繰り返し習得されることが,一番大事なことではないでしょうか。
橋本 福井先生はいかがでしょうか。
福井 確かに問題数は増えますが,奇問や難問は減る方向にありますので,基本的にはかえって実力のある人がマグレで落ちたり,逆に実力のない人がマグレで受かったりする可能性が低くなります。
 つまり,きちんと勉強している人にとっては歓迎すべきことだろうと思います。そして,今回の改定はそういう仕組みを作るための1つのステップだと思いますので,すべての項目をまんべんなくカバーするような勉強をされることを勧めます。
橋本 ありがとうございました。本日は第94回の医師国家試験を振り返り,今年の出題についていろいろご意見をお伺いいたしました。
 また来年は医師国家試験が改定されますので,その展望についてもお話いただきました。医師国家試験は,着実に改善されていると思います。近い将来にはOSCE(Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)などの実技試験の導入も検討されております。
 受験生の方は大変だろうと思いますが,国民に質の高い医療を提供するためにはこれは当然のことであるということになります。受験生の方は大いに頑張って,来年,全員が合格することをお祈りしてこの座談会を閉じさせていただきます。
 先生方,お忙しいところありがとうございました。


資料1:平成13年(第95回)の試験からの改善事項
(厚生省「医師国家試験改善検討委員会報告書」の概要より)
(1)出題数の増加と出題内容の改善など
 出題数を500題(相当数の試行問題を加えることが望まれる)とし,一般問題と臨床実地問題をほぼ同数とする。このうち,必修問題を100題とするとともに,医療面接におけるコミュニケーション能力や行動科学的な領域を含む基本的な臨床能力を問う問題を充実させる。必要に応じて,一般教養的な問題や他の医療関連職種に関する問題の出題も検討されることが望ましい。
 出題内容の改善としては,臨床に関連した基礎科目の出題を増やすとともに,公衆衛生については,臨床上特に必要と思われる必修的な問題を中心に出題することが望ましい。
 また禁忌肢問題は従来どおり出題する。
 なお各項目・評価領域ごとの出題数を規定したブループリントの作成が望まれる。
(2)合否基準
 必修問題に対しては絶対基準,一般問題・臨床実地問題に対しては各々平均点と標準偏差を用いる相対基準を設定することが現実的であると考えられる。
 また,過去の問題を一定数出題し,受験生のレベルを把握・調整するとともに,修正アンゴフ法(1),修正イーベル法(2)などによる検討も随時行なっていくことが望ましい。
 なお,禁忌肢を選択した場合は,これまでどおり合否の判断に採用される。
(3)試験問題の公募,プール制の導入,試験問題の回収
 全国の大学医学部・医科大学などに問題の作成について協力を依頼するとともに,視覚素材の提供は臨床研修指定病院にも依頼することが望ましい。
 ただし,これら公募した問題のうち,試験委員が各領域ごとにチェックした問題を,実際の試験において試行問題(採点対象としない)として相当数を追加して出題し,その結果,適切な問題を順次プールし,常時数万題の問題を備えるとともに,原則3年ごとにこれらの問題を見直す委員会を設置することが望まれる。
 また,これまで受験生が持ち帰っていた試験問題は今後は回収する。
(4)試験結果の通知
 試験結果を通知することとする。通知内容は合格点に加え,本人の合否,総点数,必修問題,一般問題・臨床実地問題ごとの点数および禁忌肢選択率ならびに全受験生の成績分布における本人の成績とし,通知は原則本人のみに行なうことが望ましい。
(5)Ktypeの減少・廃止,Atypeの増加,Xtypeの出題領域の拡大
(6)応用力試験(Skills Analysisなど)を長文問題中心に出題する
<注>
(1)修正アンゴフ法:各設問ごとに,合否境界水準にある受験生のうち,正解する者の割合を平均設定したものを,合議に基づき合否判定として設定する方法。
(2)修正イーベル法:各設問ごとに,その内容の必要度(内容妥当性)と難易度を加味した上で,合議に基づき合否判定として設定する方法。

資料2:平成13年医師国家試験出題基準・ブループリントの趣旨
(「平成13年版医師国家試験出題基準」より)
1.医師国家試験出題基準とは
(1)定義

 医師国家試験出題基準(ガイドライン)は,医師国家試験の「妥当な範囲」と「適切なレベル」とを項目によって整理したもので,試験委員が出題に際して準拠する基準である。
(2)基本的考え方
 (1)「必修の基本的事項」は,プライマリ・ケアを主題とする出題であり,利用できる機器は聴診器,血圧計など簡単な機器のみであって,口頭や通常の身体診察で行なえる内容(面接,診察のみ)とする。また,多科にまたがるような基本的な問題を出題する。
 (2)「医学総論」,「医学各論」では,原則,わが国のどの医療機関であっても対応できるような内容に限る。
(3)卒前教育との関係
 大学医学部・医科大学における医学教育は,大学の自主性に基づいて実施されているが,大学医学部・医科大学卒業後,医師国家試験に合格し,登録されると医師となるのであるから,医師の任務を果たすのに必要な内容は一連の医学教育に包含されるべきものである。一方,試験委員が準備する出題基準は,医師が医療の場に第一歩を踏み出す際に少なくとも具有すべき基本的知識・技能を項目により具体的に示したものである。これは,卒前教育のすべてを網羅するものでなく,また,卒前教育のあり方および内容をいかなる形でも拘束するものではないが,医師の任務を果たすのに必要な事項である。
2.ブループリントとは
 ブループリント(医師国家試験設計表)は,出題基準の各項目(章,大項目など)ごとの出題割合を示したものである。これにより,重視すべき領域(患者の人権・医の倫理,医療面接,行動科学など)や高頻度で重要な疾患を相当数出題することになる。