第2409号 2000年10月23日


OSCEなんてこわくない

-医学生・研修医のための診察教室
 編集:松岡 健(東京医科大学第5内科教授)


第7回 バイタルサイン(前編)

内藤雄一(東京医科大学第2内科講師)
山科 章(東京医科大学第2内科教授)


《診察のポイント》

 バイタルサインとは生命を維持している最小限の兆候であり,体温,呼吸,脈拍,血圧のことを言います。これらは全身状態の把握の最も基本となるものです。特に一刻を争う救急医療現場では迅速かつ的確にバイタルサインをとらなければなりません。  実際の救急外来では意識障害の症例など臥位で行なうことも多いのですが,ここでは意識のある一般外来の患者を想定し,脈拍,血圧を中心に坐位でのバイタルサインのとりかたの基本を示します。前編の今回は主に脈拍を,後編(次回)では,血圧を取り上げます。

■手順

診察する旨を告げ,了承を得ます
坐位をとらせ体の力を抜くように指示します

(1)橈骨動脈を触診します(写真1

左右同時に第2-4指の3本指をそろえて橈骨内側の拍動にあてます。まず脈拍を15秒間数え4倍します。リズムに注意し不整脈があれば1分間数えます。脈の大小,脈の遅速,緊張,動脈壁の性状,左右差の有無,呼吸性変動(奇脈)も観察します。

(2)呼吸数を数えます

胸郭または腹部を観察し呼吸数を数えます。患者が自覚しないように脈に触れながら続けて行ないます。30秒間測定し2倍します。12-20回/分が正常です。深さが変化せず25回以上の速い呼吸を頻呼吸,12回以下の少ない呼吸を徐呼吸と言います。呼吸の深さ,型,リズムも観察します(異常呼吸の詳細は胸部の診察の項にゆずります)。

(3)上腕動脈を触診します(写真2

肘窩の内側(上腕二頭筋腱付着部あたり)を第2-4(5)指でおさえて拍動を確認します。

【以下,(4)-(6)は次号で解説】

(4)血圧計のマンシェットを巻きます

(5)触診法にて血圧を測定します

(6)聴診法にて血圧を測定します

 

・OSCEでは
動脈の触診では橈骨動脈の触れ方,所見を言えたか(数,整か不整か,大小遅速,性状,左右差など)を評価します。

OSCE-落とし穴はここだ

 橈骨動脈の触診ではほとんどの学生が3本指で左右同時に触れ,脈拍数,不整脈の有無までの所見は言えるようです。ところが,(通常,模擬患者は健常者のため脈の性状に異状はありませんが)解説で述べているように脈からいろいろな情報が得られることを,学生たちほとんど知りません。
 「心臓の聴診」の項で紹介したシミュレータ(ハーベイ人形)は脈のシミュレートが可能です。これらを活用するケースも考えられますから,典型的な速脈や二峰性脈など覚えておいてください。心房細動など不整脈の模擬患者を使う可能性もあります。呼吸は数のみでなく異常呼吸の種類をまとめておきましょう。

■解説

脈拍の触診

 OSCEでは便宜上,橈骨動脈の触診が選ばれていますが,心疾患による脈の性状の観察は頸動脈が適しています。初診時には頸動脈,橈骨動脈をはじめ上腕動脈,腹部大動脈,大腿動脈,膝窩動脈,足背動脈など体表より触知可能なすべての部位で行なうべきです。左右同時に,また中枢側と末梢側とを同時に行なうことが大切です。大動脈炎症候群や大動脈縮窄症,閉塞性動脈硬化症などによる動脈の狭窄を診断するきっかけになるからです。 橈骨動脈で脈を触れずに上腕動脈で触れた場合の収縮期血圧の目安は70nnhg以下です。さらに上腕動脈で脈を触れずに頸動脈や大腿動脈で触れた場合,収縮期血圧の目安は60nnhg以下です。血圧が低下している時には中枢側の動脈ほど触れやすいことも覚えておきましょう。ショックの患者さんなど救急時の診療に役立ちます。

【A.脈拍数と調律】
頻脈
毎分100以上の脈拍を言います。洞性頻脈,発作性上室性頻拍,心室頻拍,心房粗動などが代表です。
徐脈
毎分60以下の脈拍を言います。特に40以下の脈拍は高度房室ブロックや洞機能不全症候群(SSS)によることがあり失神発作の原因となることもあります(Adams-Stokes症候群)。
呼吸性不整脈
平静呼吸時に呼吸性の洞性不整脈がみられることを言います。通常,吸気時に脈が遅くなります。臨床的意義はありません。
期外収縮
心収縮が起こるべき時期よりも早期に起こるものを言います。十分に拡張しきらないうちに収縮するので脈が非常に弱かったり触れないため脈の脱落と感じられます。心電図をとらないと発生部位診断(心房性,結節性,心室性)はできません。
絶対性不整脈
全く規則性のない脈拍を言います。ほとんどが心房細動によるものです。

【B.脈の大きさ】
大脈
脈拍の振幅の大きいもので触知している指が高く持ち上がるように感じます。大動脈弁閉鎖不全症,動脈管開存,動脈硬化症など脈圧の大きい疾患でみられます。
小脈
脈拍の振幅の小さいものを言います。大動脈弁狭窄症や心不全でみられます。
交互脈
リズムは規則正しいのですが,大小の脈が交互にみられるものを言います。重症心不全でみられ,心音ではしばしば奔馬調を伴います。
奇脈
平静呼吸時の吸気時に脈拍が小さくなることを言います。収縮期血圧も吸気により10mmHg以上下がります。心タンポナーデ,慢性収縮性心膜炎,拘束型心筋症が代表で,静脈圧は上昇しているため内頸静脈の怒張を伴います。その他,右室梗塞や肺疾患(気管支喘息,閉塞性肺疾患,肺塞栓)でもみられます。

【C.脈の遅速】
速脈
立ち上がりが急で大きく,急速に小さくなる脈を言います。速脈は同時に大脈であり,大動脈弁閉鎖不全症,動脈管開存,甲状腺機能亢進症,重症貧血などでみられます。Corrigan脈,Water-hammer pulse,反跳脈とも呼ばれます。
遅脈
緩徐に立ち上がり,消退もゆっくりの脈を言います。同時に小脈であり大動脈弁狭窄症でみられます。

【D.二峰性脈】
収縮期に脈が2つに分かれて触知されるもので,大動脈閉鎖不全症,閉塞性肥大型心筋症で認められます。

【E.重複脈】
波型は二峰性ですが,二峰性脈と異なり収縮期と拡張期に1回ずつ脈が触れるものを言います。熱性疾患,低血圧,心不全,ショックなどで心拍出量が低下し末梢血管抵抗が上昇している時にみられます。

【F.脈の緊張】
動脈上にあてた3本の指のうち最も中枢側の指の圧迫を強めていき,その他の指に感じる拍動で緊張度を判定します。収縮期血圧が高い時は緊張の強い脈(硬脈)となります。

【G.動脈壁の性状】
脈拍を触れる際,動脈の硬化(蛇行,索状,数珠玉状)の有無を観察します。動脈の中枢側を左手指で圧迫し血流を途絶してから末梢側の血管を右手指で触診するとよくわかります。