第2407号 2000年10月9日


21世紀の病院像を提示する

自治体病院における新たな試み

瀬戸山元一氏(高知県・高知市病院組合理事・前島根県立中央病院長)に聞く


 現在,医療を取り巻く環境の劇的な変化の中で,医療制度の抜本的な改革が余儀なくされているのは周知の事実である。
 本紙では,このような変化を背景に,日本の病院のあり方,また医療のあり方に1つの解答を提出し続けてきた,瀬戸山元一氏に話をうかがう機会を得た。瀬戸山氏は,世界初とされる病院全体を統合情報システム化した「電子カルテシステム」を自治体病院(島根県立中央病院)に導入。さらにその手腕を買われ,日本初の自治体統合病院(高知県立中央病院・高知市立市民病院)の病院長に就任した。これまでに氏が取り組んできた医療提供体制から,「病院とは何か」,「医療とは何か」について大いに語っていただいた(この記事は,島根県立中央病院長当時と,高知県と高知市との統合新病院の病院長として着任後のインタビューとで構成されている)。


戦略的統合情報システム=電子カルテシステム

「医療の主人公は患者さん」

瀬戸山 島根県立中央病院(以下,県立病院)では,「医療の主人公は患者さんである」との基本的な考え方を実現するために,試行錯誤を繰り返してきました。その中で,問題点や課題を1つひとつ検討し,具体的な解決策として実践につながるように努めてきました。その解答として,外来診療をはじめとして医事請求,会計,薬剤や検査部門,病棟,さらには物流管理にいたるまで,病院運営を一元管理するシステム「IIMS(Integrated Intelligent Management System)」を構築し,1999年8月の新病院の開院と同時に導入しました。その統合情報システム全体を,「SHIMANE(System of Hospitals for Integreted Management and Administration by Network Environment)」と呼んでいます。「SHIMANE」を人間の身体とすると,「IIMS」は頭脳と考えていただければわかりやすいかと思います。
 「IIMS」は広義の意味での「電子カルテシステム」であり,現在,話題になっている「電子カルテ」とは本質的に異なるものです。なお導入の目的は,「医療の質の向上をめざした情報の共有化と情報提供」と「経営の効率化をめざした省力化と評価の実施」とされています。

医療の基本を考えた病院づくり

――県立病院で「IIMS」を導入するきっかけは,どのようなことでしょう。
瀬戸山 システム構築にあたり,「良い病院とは何なのか」,「良い医療とは何なのか」などについて,見つめ直す作業からはじめました。そこで浮かび上がってきた問題や課題を拾っていき,その解決のためには何が必要なのかということについて根本的な改革をめざしたのです。
 「苦情は宝物である」との基本的な考え方に立って,病院の玄関に投書箱を設置して,患者さんの意見や要望をうかがったところ,大きく2つのクレームに集約されました。1つは,「病院は不親切である,自分がどこにいけばよいのかわからない」というものです。もう1つは,「病院は不愉快である,医師や看護婦から同じことを何度も聞かれて,うんざりする」というものです。まずこのクレームについて解消しなくてはならないと考えました。
 「医療の質を向上させる」という言葉は,医療界では日常的に使われています。しかし「では,具体的にはどのようなことですか?」と聞き直せば,答えが返ってくることはまずありません。そこで医療そのものについても,考え直すことになりました。医療の質が言葉だけになっているような現状は,現代医療の大きな課題であるとも言えるでしょう。
 医療提供の基本としては,(1)Truth telling(正確な告知),(2)Self-determinaiton(自己決定),(3)Informed consent(十分な説明の上での同意)の3つがセットでなくてはなりません。しかし臨床現場では,これらはどのようになっているのでしょうか。大いに疑問に思っています。だからこそ,医療提供システムの構築が急務であると考えたのです。
 一方では,医療環境,高度科学,地域医療,医療経済,病院経営管理,あるいは病院運営管理などのいずれをみても,医療を取り巻く変化としてとらえることができます。この変化に対応するためにも,システム導入は不可欠であると考えました。
 さらに受診者側から見た現代医療は,患者さん不在の医療,待たされる医療,短時間,説明不足,そして密室の医療などと酷評され,課題が山積みとなっています。私たち医療従事者は真摯な態度で,これらの問題・課題に応える医療を創造しなければなりません。そのためにも,病院内のシステム構築が必要であると考えたのです。

病院管理から見た課題

瀬戸山 システム構築にあたっては,病院の組織体がどうあるべきかという点にまで遡って検討しました。
 病院管理の上で重要となる意思決定回路は,いわゆる「自己陶酔型閉鎖回路」になっていました。病院方針あるいは医療方針が設定されていない,設定されていても職員に徹底されてなく,医師の裁量権にまかされたままで診療供給体制が作られていたのです。このような管理の困難性を踏まえた上で,いかにクリエイティブな形のシステムを作るかが課題でした。
 もう1つの大きな問題は,医師と看護婦など医療職員との関係でした。医師の指示を受けた時に,受けた職員の意思も判断も拘束されて指示通りに業務を行なうだけならば,ロボットと同じです。専門性もあったものではありません。そこで各職種の業務調査を徹底的に行ないました。その結果,日常の看護業務の半分以上が,指示書や伝票の転記作業,あるいは各種の帳票を含めて日誌や台帳など記入作業等の雑務であることが判明しました。この点に多くの時間を費やしているようでは,看護専門職としての力が発揮されず,良質な医療の提供という目的から離れてしまいます。他の医療職員についても同様のことが言えます。
 さらに,病院という組織体を考えた時,いくつかの問題が浮かんできました。1つは「組織の方向性が明確になっているのだろうか」ということです。病院が存在する目的は何なのか,また何をしなくてはならないのか。このようなこともわかっていないのです。例えば,一般的に「住民の健康福祉に寄与する」などと言っても何のことだか誰も理解していない。病院で働く多くの職員は,自分が何のために働いているのかさえわかっていない。これが病院の現状なのです。
 次に「外部機関との連携が明確になっていないのではないのか」ということです。例えば,病診連携,病病連携といっても,知り合いの医師同士が行なっているだけなのです。また医師会や大学,看護協会などと病院とはどのような関係が求められているのかなどについても,まったく組織的に認識されていないのです。
 これらを解決するために,病院運営に対する基本方針を明確に示し,病院内の意思決定や意思伝達のルールを作りました。委員会は病院長の諮問機関であり,協議会は単なる話し合いの場であり,「管理会議」が院内唯一の意思決定機関であるなどとしました。各委員会や協議会が活発に活動し,その意見が議題として提出され,「管理会議」で意思決定を図ることを明確にしたのです。同時に,組織としての病院への再構築を図ったのです。

病院全体の業務情報を一元化

瀬戸山 「IIMS」構築にあたり,業務分析を行ない,その結果を踏まえて手術部門の業務,救命救急業務,医療機器取り扱い業務など,具体的な日常業務に関する30を越える「院内マニュアル」を作成しました。この文書化したマニュアルをコンピュータなどの情報ツールに置きかえたものが「IIMS」になります。通常言われている「電子カルテ」は,コンピュータ技術もしくはメディア技術だけの論議に終始し,紙の診療録をそのまま電子化したような印象を受けます。しかしそれでは医療という大きな氷山の一角にしかすぎません。
 「IIMS」導入によって,病院では「診療録の標準化」「共有化などによるチーム医療の推進」「医師に対する情報支援の強化」「診療録の医学的監査と診療評価」「診療録情報の保管と活用」「医療サービスの向上」などがもたらされました。これらは,病院全体の統合化された業務情報が盛りこまれたシステムとして構築されていることから,当たり前のこととも言えます。

診療の効率化

瀬戸山 患者さんがはじめて病院にいらした場合,総合受付で医事システムにより診察券を発行し,同時に「当日診療予約」の受付をします。この時,患者さんは何時くらいに診療を受けられるかがわかり,待ち時間の軽減につながっています。ちなみに,診察券はそのまま患者さんの「IDカード」になります。
 外来にこられた方は最初に必ず,診察時間の予約をしていただいています。再診予約をされていない再来院の方は,診察券を「自動再来受付機」に入れ,診察を希望する医師と時間を指定できます。これで診察まで待つ必要もなくなりましたし,誰に診察を受けるのかがわからないなどということもありません。患者さんは受け身でなく,患者さん自身が診療を選ぶことが可能になったのです。
 続いて患者さんは,看護婦に問診を受けるようになっています。その時のデータはすべて「IIMS」に入力されます。患者さんと看護婦が同じ画面を見ながら問診が進むため,聞き間違いなどもまったくなくなり,患者さんも納得されています。その後で事前に希望された各診療科外来に振り分けられます。
 外来担当医は,看護婦が得た情報をすでに入手していますので,患者さんは同じことを聞かれるという無駄は一切ありません。これこそが,患者さんからの意見に応えたシステムであると自負しています。

病院の顔は看護婦

瀬戸山 私は「病院の顔は看護婦」であると思っています。外来では,まず看護婦が問診を行なうということは先ほどお話ししました。病棟管理も看護婦を中心に行なわれています。看護婦がベッド・サイドにノート型パソコンを持参し,血圧や体温測定の記録をその場で入力しています。これにより,記録の転記などの作業が省略でき,無駄な残業時間もなくなりました。また患者さんの様子に何か変化があれば,その場で入力できることから,情報がより正確になりました。自分の手や腕に,患者さんの診療情報を書きこんでいる看護婦をよく見かけるのではないでしょうか。そのような情報は,見えにくくなったり,消えてしまったりして,記録としては正確さを欠き,リアルタイムな記録でないことからも,看護婦には多大な負担をかけていたことに加えて,医療事故の原因にもなっていたのではないかと思われます。このようなことについても,十分配慮されています。
 また,フロアごとに何という患者さんが入院されていて,どのベッドが空いていて,占有率が何%であるかなどが一目でわかる「病棟患者マップ」が作成されています。これは,その入院患者さんのお名前や疾患の状態などに加えて,担当医と受持看護婦が誰で,今日は入院何日目であり,面会可能かどうかなどの入院患者さんに関するデータが一目で検索できるようになっています。このことでも,看護業務は一段とスリムになったと言えます。

患者さんのメリット

瀬戸山 「電子カルテシステム」を導入する上でもう1つ重要なことは,患者さんにメリットがあるかどうかです。オーダリング・システムなどが導入されている病院を拝見しましたが,あまりプラスにはなっていないようでした。医師たちの不満も多く,また医師が入力の際に下を向いたままで対応するので,患者さんたちの不満も多いことがよくわかりました。
 「IIMS」では,診察の際に患者さんと医師や看護婦は,同じ画面をみているため,患者さんの話はすべて入力されますし,それを患者さん自身がその場で確認できます。もし間違っていれば,その場で質問もできるわけです。また医師が「検査しましょう」と言えば,どんな検査を行なうかが一目でわかります。
 また,従来のオーダリング・システムのようにキー・ボードを叩くのではなく,マウスあるいはペンタッチ操作になっていることから,患者さんの顔を見ながら診察できるという利点も兼ね備えています。このことは,患者さんからは特に好評です。
 職員に,「良質の医療とはどのようなこと」を聞くと,10人中ほぼ10人が「患者さんのニーズに応えること」との返事が返ってきます。その返事は正しいのですが,「具体的にどのようなこと」との問いには,ほとんど解答が返ってこないと先ほどもお話ししました。そこで,具体的に患者さんのセキュリティ,プライバシー,アメニティなどに関する項目をあげていき,それらのすべてを「IIMS」に取りこんでいく作業もしました。
 例えば,面会を希望される患者さんの場合は,診療受付の情報端末機に名前が表示されますが,希望されない患者さんの場合には,名前が表示されないことになっています。病院もホテルと同様に,患者さんのプライバシーを守ることは当然のことであると配慮されているのです。

医療における顧客満足

瀬戸山 医療のCS(customers satisfaction:顧客満足)とは,「待たさない」「持たせない」「わかりやすい」の3つであると思っています。具体的には,診療までの待ち時間や会計での待ち時間など,患者さんを何時間も拘束しない,カルテを持ってあちこちに行ってもらうようなことになってはならない,そして患者さんと話すときには専門用語を多用することのないように注意するなどになります。
 「IIMS」は,「もし自分が病院にかかることになったら」と,患者さんの立場で考えられました。患者さんは知識や情報がないために,勝手に不安に思っているのです。これは今まで日本の医療形態が「知らしむべからず,よらしむべし」であったことに原因があると思われます。「先生にもう少し聞いてみたいけど,怒られる」などと,患者さんに思われるようでは医療者としては失格なのです。患者さんが気後れせずに医師の説明を聞き返せる,自分が言いたいことが言える診療形態が必要なのです。
 そしてさらに,患者さんを人間として対応すること,しかも個別性を尊重することが求められていると言えます。これを実践しようとした結果が,私たちの「電子カルテシステム」なのです。

新しい病院づくりに向けて

――瀬戸山先生は,平成16年(2000年)にスタートする高知県立中央病院と高知市立市民病院とを統合した新病院の病院長として就任されました。自治体病院を統合してこのような形でスタートするのは,日本で初めてかと思われます。また,先生はこの新病院の基本設計段階から参画していらっしゃいますね。現在進めておられる新病院の基本構想について教えてください。
瀬戸山 まず自治体病院が担うべき「使命」を考え,その使命を踏まえた基本構想にしなくてはならないと思っています。高知県・高知市における統合新病院としての使命は,大きく6つあると考えています。
(1)医療行政の一環を担う
(2)高知県と高知市の両者の行政機関,各関係分野との密接な連携と役割分担を推進する
(3)医師会や看護協会,他の医療機関,福祉・保健機関などとの密接な連携を図る,そして自己完結にならないように,高知県全域での「地域完結型」医療を展開する
(4)高知県立中央病院,高知市立市民病院ともに従来から果たしてきた以上に,規範的な医療機関を,同時に常に向上するように努力する医療機関をめざす
(5)地域活性を推進する医療機関になるように努める
(6)高知県全域内での医療格差を解消するような機能を持つ
 現在,自治体病院の経営問題が大きく取り上げられていますね。しかしその前に,「なぜ自治体病院が存在する必要があるのか」について,県民や市民のみなさんに理解していただくことが大事であると思っています。自治体病院である以上は,不採算な分野であっても責任をもって患者さんを受け入れる体制などを作る必要があります。逆に,採算部門についても既に他の病院などで行なわれていれば,あえて取り組まなくてもいい場合もあるのではないかとも考えています。

あえて「車の修理工場」に

瀬戸山 病院が「車の修理工場」であると言われていた時代があります。これは決してよい評判ではありません。一方,検診や人間ドックなどが重要な医療の一分野であることは十分認識しています。福祉についても同様です。だからこそ,私は「病院は診断と治療という診療だけではいけない。健康増進医学,予防医学を推進し,福祉・リハビリテーションなどを含めた統合医療を行なうべきである」と提唱してきました。
 しかし新病院では,今まで酷評されてきた「車の修理工場」にあえてならなくてはならない,急性期を中心とした診療機能を充実させた病院にならなくてはならないと考えています。高知県は医療機関が非常に多いことで有名なのですが,そのようなことも踏まえて地域の中でそれぞれの役割を果たさなければならないと考えた上のことです。
 同時に,これまでの病院は「車の修理工場」にもなっていなかったのではないかとの反省も込められています。「車の修理工場」では,エンジンやブレーキなどの修理だけでなく,板金や塗装なども施され新車同然に仕上げられてきます。しかし従来の病院は,それさえもできていなかったのではないのかと思われるからです。

不採算部門は自治体病院で

瀬戸山 「少産・少子化」の問題に対しては,非採算部門として撤退する病院も今後出てくるかもしれませんが,まさにこのような分野は自治体病院として,より積極的に充実させるべきでしょう。一般小児科であれば診療所などでも担ってくれていますので,新病院では母体搬送,未熟児センター,新生児センターなどを含めて考えなくてはならないでしょう。また内科学と同様に,小児循環器,小児アレルギーなどと小児の専門医療を充実させなくてはならないでしょう。産科診療も充実させ,PICU(母体・胎児集中治療室)で対応し,NICU(新生児集中治療室)に直結できるような医療を行なわなければならないとも思っています。また,こどもの発育・成長などについての相談や,社会情勢を鑑みて小児精神や思春期の子どもたちへの対応も充実させなくてはならないでしょう。これらの機能は自治体病院の最低限の役割であると思っています。

全病棟が緩和病棟

瀬戸山 着任当初は,緩和病棟として20床用意されていましたが,より具体的な構想の段階で削除していただきました。
 緩和医療,緩和ケアは非常に重要な医療分野であり,もちろん新病院でも積極的に取り組まなくてはならないと考えています。といって「緩和病棟」が必要だとは考えていません。なぜならば,病院全体が,すべての病室で緩和ケアが行なれることは当たり前のことだからです。さらに言えば,急性期病院である以上,患者さんがお亡くなりになる可能性は,一般病院より高くなります。結果として力及ばずという場合も多々あるわけです。そのような状況で,緩和病棟でしか緩和医療・ケアを提供できないようではいけません。さらに緩和ケアの意味を広く考えて,術後や出産などで「痛み」を抱えるすべての方々に,緩和医療・ケアが適用されなくてはならないと考えています。現実には,緩和病棟を設置したことが弊害になったり,緩和病棟以外の病棟で緩和ケアが実践されなかったりすることが危惧されたことも事実ですが。

地域医療の中で必要なもの

瀬戸山 新病院では3次救急を担う高度救急救命医療センターを設置されることになっています。これまでの救急救命センターは,急性脳血管障害と,急性心筋梗塞を含む循環器疾患への対応が大きな役割でした。これに東京地下鉄サリン事件や和歌山カレー事件のような急性中毒に対する対応や,広範囲の熱傷,四肢切断の再接着,この3機能を充実させ高度救急救命センターとしての責務を果たそうとするものです。
 さらに,新病院は災害拠点病院ならびに難病拠点病院などとしての役割を果たすことも義務づけられています。そして,限界はあるとはいえ,アメニティ面にもきめ細かに配慮し,特にバリア・フリーには十分心がけなくてはならないと思っています。
 リハビリテーション(以下,リハ)に関しては,急性期リハを徹底しなくてはならないと考えています。この急性期リハが医学的にも的確に対応できていなければ,その後に続くリハはほとんど意味がありません。ですからベッドサイド・リハに集中し,トレーニング室などのリハ施設は設けないことで方向づけがなされました。施設や設備が必要な場合は,他の医療機関にご紹介するという形で対応するべきであると考えています。このような対応方法についても,病病連携などの医療連携ネットワークとしての基本構想の具現化となることが期待されています。

3つの運営構想

――新病院の役割と機能についてお話いただきました。今度は病院運営の観点から,お考えをお聞かせください。
瀬戸山 新病院の運営構想は3つあります。
 1つ目は,戦略的統合情報システムの運用としての「電子カルテシステム」の導入です。イントラネットでの病院運営システムであると同時に,高知県全域での医療情報ネットワークが求められていることになります。この医療情報ネットワークの確立によって,高知県における標準的な医療はより向上し,結果として県民,市民への福音となるだろうと大いに期待されています。
 2つ目は「医療センター構想」の推進です。統合情報システムが確立すれば,患者さんがどの地域の医療機関でも標準的な医療が受けられることになります。そのためには,新病院として大きな役割を果たさなければならないだろうし,また,その実現と運用のために期待されていると思っています。この「医療センター構想」についての具体的な機能は,今後,あらゆる観点から検討される必要があります。
 3つ目は「医療関連ビジネス」との積極的な融合です。今後の病院運営は,医療管理と経営管理との分離が不可欠であると考えています。その手段として,PFI(private finance initiative;公共的事業への民間資金の活用)を積極的に導入し,業務委託あるいはアウト・ソーシングではなく,共同経営あるいは一体的運営にならなくてはならないと考えています。島根県立中央病院では検体検査業務についてはブランチ・ラボ方式を採用し,医事課業務についてはコ・ソーシングとして企業に一任してきました。従来では,このようにA業務はA社,B業務はB社に,というようにアウト・ソーシングされてきましたが,新病院ではステップ・アップして,すべての業務を一括して,いわゆる「丸投げ」の形で,その企業と共同経営することを考えています。
 しかし,PFI導入の構想は,理想像を追うようなところもあり,机上の空論とでも言われるような現状でもあることを認識していなければならないと自らに言い聞かせています。自治体病院の使命を半永久的に果たしていくためには,経営基盤がしっかりとしていなければならないことは誰しもが認めていることです。そのためにも,関係する方々にはPFIについて理解していただくだけでなく,力強く支援していただきたいと願っていますというのが正直な心境です。

医療の意味を考える

瀬戸山 日本の医療を考える上で,特に病院医療を考える上で,私は「赤ひげ先生」を否定してきました。確かに赤ひげ先生が行なった医療行為は高く評価できます。しかし彼1人が万能とされ,患者さんも含めて取り巻きの人々は無能であるかのような表現形態が,医者が1人いれば医療が成立するというような「医師一人医療」という,日本型医療の原型を作った原因であると考えるからです。このような医療についての考え方を,病院医療にまであてはめようとされたことに問題があるのです。今後は,専門職がそれぞれの専門性を十分に発揮して成り立つ医療が,さらに求められてくることは明らかです。社会が複雑化し,患者さんのニーズが多様化する中,医師1人だけで何ができるのかということについて,再度,問い直されなくてはならないのではないでしょうか。
 「医療の主人公は患者さんである」の具現化のためには,「患者さんと医療人との間にはギャップがある」ことを認識していなくてはならないと考えています。またそのギャップを,医療人側から積極的に埋めるように努めなくてはならないとも考えています。新病院は,そういうことが実践される病院でなくてはならないし,これが新病院の使命であるとさえ思っています。
 さらに進めていけば,「患者権利憲章」などを徹底し,患者さんの権利を尊重する病院にならなくてはならないでしょう。また,セカンド・オピニオンやかかりつけ医,あるいは病診連携や病病連携などについても,患者さんの立場で考えられるような病院にならなければならないでしょう。このように考えていくと,まだまだ課題はたくさんあることになります。
 ですから今,医療について真剣に考えなくてはならないと言われているのです。逆説的に言えば,今こそ日本人のための医療が創造される絶好の機会であるとも言えます。このような時期に,私には素晴らしい環境を与えられていることになります。感謝の気持ちで一杯です。
 最後に,高知県民,高知市民の方々からのご意見や苦情などを頂戴し,積極的にお教えをいただきながら,「より高度な医学と技術でもって,普段着としての医療サービス」を提供させていただくことに努めて参りたいと思っています。
――ありがとうございました。