第2403号 2000年9月11日


〔鼎談〕

精神科医療の新たな展開

広瀬徹也氏〈司会〉
帝京大学医学部教授・精神科
Lloyd. I. Sederer氏
Director, Division of Clinical
Serviceof American
Psychiatric Association
伊藤弘人氏
国立医療・病院管理研究所
医療経済研究部主任研究官


『Outcomes Assessment in Clinical Practice』について

広瀬<司会> 本日は,お忙しいところお集まりいただきましてありがとうございました。特にSederer先生は,短い滞日日程の中で時間を割いていただきまして,感謝申し上げます。本日は「精神科医療の新たな展開」と題しまして,精神科臨床や患者と治療に関する日米の実態調査の協同研究を中心にお話し願いたいと思います。
 まずSederer先生のご紹介をいたします。先生は現在APA(American Psychiatric Association:米国精神医学会)の診療部門の最高責任者でおられ,先生の編著『Outcomes Assessment in Clinical Practice』の訳書『精神科医療アセスメントツール』(医学書院刊)が,伊藤先生たちの翻訳によって出版されました。その点で本日は大変タイムリーと申せましょう。
 さてこの研究は,APAでPRN(Practice Research Network:診療研究ネットワーク)と呼ばれて,数年前から熱心に行なわれているものです。わが国では,昨年度から伊藤先生のお力で,APAとの協同研究という形で行なう話がまとまり,昨年秋に日本精神神経学会の評議員を対象に,患者満足度調査を予備的に行ない,今年の5月の総会で発表しました(資料1参照)。
 伊藤先生,Sederer先生のご紹介の補足も含めて,先生の著書を翻訳出版された経緯をご紹介いただけますか。
伊藤 私がハーバード大学医学部精神医学教室に参りました時に,Sederer先生にご指導いただきました。
 先生はハーバード大学の唯一の関連精神科病院であるMcLean Hospitalで診療統括副院長をされており,かつ精神科医療の質についての大変な業績をお持ちの方です。そして,Sederer先生は4月からAPAの部長にお移りになり,日本精神神経学会と交流を深めるお立場になられました。
 『Outcomes Assessment in Clinical Practice』の翻訳につきましては,先生と米国で仕事をする過程で,激動する米国医療界で,精神科医療の必要性を説明するツールがいかに重要な役割を担っているのかを身をもって感じたことが翻訳を思い立った動機です。どのような説明方法があるのかを学術的な根拠に基づいて紹介してある本書は,診療や保険医療制度の根拠がますます求められるわが国において,示唆深いものになるであろうと考えたからです。
 なお,本書はアウトカムの定義や,後ほど話題になるでしょうが,PRNの活動に加えて,米国で用いられているアセスメントツールの説明があります。巻末には,一般医療で用いられているSF-36など,いくつかのツールの具体例が付録として掲載されています。
 今回のPRNに関する調査については,Sederer先生にご紹介いただき,米国精神医学会に参りました時に「カナダやオーストラリアでも実施しています。日本でも行なってはいかがですか」というお言葉をいただきました。その後日本に帰りまして,国際交流委員会の委員長である広瀬先生にご相談を申し上げたところ,先生のご配慮で,日本精神神経学会でこの調査を実施していこうということになりました。

「日本精神神経学会の精神科医療に関する予備的調査」について

広瀬 学会として,この研究を取り上げることになったわけですが,調査を行なうにあたって,はたしてアンケートに協力して答えてくださる会員がどのくらいおられるかに関しては,未知数の点が多々ありました。ともあれ,伊藤先生が中心となって昨年の秋から評議員を対象に,予備的な患者の満足度調査を始め,今回の学会発表に至りました。その結果については伊藤先生からご説明いただけますか。
伊藤 広瀬先生がご紹介されたような経緯で,日本精神神経学会でこのPRNの調査を行なうことになりました。そこで,国際交流委員会で5名のコア・リサーチ・グループを作り,その可能性を検討しました。このPRNは,コア・ネットワーク・メンバー尺度と,コア患者尺度という,2つの調査から成り立っていますので(表参照),何が可能であるかということを検討し続けてきました。
 当初は,コア・ネットワーク・メンバー尺度のほうが可能なのではないか,と検討してきましたが,ただ,できるだけAPAの尺度と比較可能な形で検討してきましたので,結果的に大変長いものになってしまいました。もう1つのコア患者尺度では,12名のうち3名を選び,その方の詳しい内容をうかがうという方法になっています。ただ,われわれの検討委員会の中では,日本の外来では1日に大変多くの患者さんを診ますので,12名と言っても,例えば朝から始めるか,午後から始めるかによってかなり患者さんの層が違ってくるという可能性が出てきました。
 今回は予備的な調査ですので,可能かどうかということに焦点を当てると同時に,PRNの活動と言いますと,将来的に満足度の調査というものも考えていくということでしたので,最も簡単な方法というものに焦点を当てて開発を進めました。その結果,気分障害の方で,最も満足していると評議員が考えている患者さんを1人選んで,その特色や満足度について調査をするという方法にしました。これは大変短いもので,A4判2枚ほどのものです。そして,今年度は後者の調査を評議員に対して行なうことにしました。ただ,今回は予備的なものでして,毎年改定しなければならないと思っています。それでも今年度は広瀬先生が厚生省から研究費をお取りになられましたので,財政的なサポートも可能になりました。以上が調査の概要です。
 今回,回収率が低かった最大の理由として,「気分障害の対象となる患者さんがいなかった」という回答が何人かいらっしゃいました。それが今後の方法を改定する検討課題の1つです。
広瀬 評議員は他の会員よりも学会に対する責任を持っているので,もう少し回答率がよいと期待したのですが,この結果はやはり評議員が忙しいからでしょうか。一般会員に対象を拡げていけば,回収率はよくなるだろうと期待しています。

WCP横浜大会開催に至るまでの日本精神神経学会の経緯

広瀬 ところで,このPRNのような調査研究は学会として本当に基本的な問題だと思いますが,これまで日本の学会ではほとんど考えられなかったことなのです。と申しますのは,日本精神神経学会は1968年頃からアメリカのコロンビア大学で始まった学生運動に端を発した学会紛争に深く巻き込まれまして,混乱状態がかなり長く続いたのです。
 そこでは,研究に対する批判が非常に強く,一時は学会で学術的な発表をすることも困難なことすらありました。一方,患者さんの人権を守るということに関しては,ラジカルな人たちは非常に熱心に行動を展開しました。それはそれで非常に大切なことではありますが,そこにあまりにも力点が置かれた結果,全般的な医療に目を向けた調査がなおざりにされてきたという事情がございます。
 そういった状況のために,WPA(World Psychiatric Association:世界精神医学会)が行なうWCP(World Congress of Psychiatry)を日本で開いてほしいという声は以前からありましたが,お断りせざるを得ませんでした。その後,ようやく学会も落ち着いてきて,2002年に日本で引き受けるということが決定しました。そういう経緯がございました。ですから,日本はもちろん,アジアにとっても初めてのWCPということだけではなく,日本精神神経学会がようやく混乱を納め,世界とともに歩調をあわせて,学会開催を実現できるに至ったという意義があるわけです。

APAの活動について

広瀬 日本の実情を簡単にご説明しましたので,ここでSederer先生にPRNを含めた米国の状況をご説明いただけますか。
Sederer まず最初に,本日このような機会を与えていただきましたことに感謝したいと思います。また,『Outcomes Assessment in Clinical Practice』の日本語版が出版されて,それを実際に見ることができまして大変嬉しく思います。伊藤先生から,この訳本の反響を聞いております。翻訳していただいてありがとうございます。
 さらに,これまでの日本精神神経学会の歴史についてお話していただき,大変興味深くうかがいました。人権の問題をはじめ,過去の学会紛争の中での臨床への影響などについて,いろいろ困難があったことが理解できました。
 最初にAPAでの仕事の話をさせていただきたいと思います。4月にAPAの仕事を始めました。シカゴで広瀬先生に,また上司であるミレン(Steven M. Mirin)先生や同僚のリギア(Darrel Regier)先生と一緒にお会いできましたね。私たちは,リギア先生がチーフでやっております研究部門と,臨床部門があります。臨床部門は私が責任者です。研究部門と臨床部門は協力し合っています。
 私は「Practice Guideline」と「質の評価」を担当しています。リギア先生が担当している質の指標や,Practice Guidelineをどのように使うかという研究をしています。ですから,「コインの表と裏」というような感じです。

PRNの歴史

Sederer 次に,PRNの歴史について簡単に述べたいと思います。PRNが開始された当初から私も加入しましたから,私たちは5-6年もこの活動をしているわけです。ですからたった1年間で,日本の皆さんがかなりのレベルにまで達成されたことは大変すばらしいことだと思います。
 まずどのような問題があって,それをどのように解決してきたかについてお話をしたいと思います。例えば,調査への参加者の集め方です。先日,伊藤先生にも申し上げましたが,当初は200-250人ほどでしたが,現在は800人もの方が参加しています。メンバーに参加するように働きかけることが必要でした。
 これに関しては2つのグループがありました。1つはランダムサンプルです。そしてもう1つはボランティアのグループ,つまりこちらの活動を広報し,それに対して自発的に参加したいと言ってきた方々のグループですね。ランダムサンプルだけでは十分な対象者を得ることはできないと思いましたので,皆さんと同様にいろいろな人に働きかけました。
 そして,調査票を手元において電話をかけ,この調査がどうして重要なのかということをまず説明します。また,調査にはどれくらい時間がかかるのか,それから患者さんの守秘義務をどのように守るかについても説明します。さらに,どのような見返りがあるかということについても説明します。これは金銭ではなく,例えば総会の時に朝食を提供するとか,またPRNと書いてあるコーヒーカップ,Tシャツやペンをお渡しすることです。馬鹿馬鹿しいと思われるでしょうが大変効果があります。それから,もちろん研究費をつけることも重要です。そのようにして始めて,先ほど言いましたように現在800人の会員が参加していますが,1000人を目標にしています。

PRNの現状

Sederer ディッキー(Barbara Dickey)と私は,現在新しい本を共同執筆しています。その中で,APAがEBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づいた医学)によって,質改善活動をどのようにしているかについて説明した章があり,今年の終わり頃に出版される予定です。
 「American Journal of Psychiatry」の論文にも,PRNの歴史が書いてあります。今後2年間の計画に関する報告です。
 異なる分野でのデータの使い方についての計画が書いてあります。アクセス(受診)の問題から結果,それから,特にガイドラインでわかっているよいケアを,実際の診療にどのように取り入れるかということです。それから支払い方法のアウトカムへの影響などです。そのようなことがメインの活動となっています。
 資料2をご参照ください。3-5年後には,日本の皆さまもこういうことをなさるのではないかと思いますが,これは「データグラム」と私たちが呼んでいる短い報告書です。PRNのメンバーはもちろん,他のいろいろな機関やAPAに渡し,PRNはこういうことをしていると宣伝して,今後もますます協力してもらうように働きかけます。1頁だけの短いものですからFAXで送ることも可能です。
 また,私が特別にリック・スミス(Rick Smith)先生という診療研究のシニアの研究家とともに行なっている新しいプロジェクトは興味深いものです。これは,インターネットに関するプロジェクトでして,医師がインターネットのホームページを利用してデータ提供ができないか,ということを検討するプロジェクトです。
 最初はうつ病の患者さんに焦点を絞り,3つのことを知りたいと思っています。
 まず1つは,医師がインターネット上で情報を提供できるかどうかということ。そして,それがうつ病の治療のガイドラインに沿っているかどうかということ。そして3つ目は,ガイドラインに沿って診療を行なっている先生方の診療のアウトカムと,ガイドラインに沿っていない診療のアウトカムを比べるということです。これは非常に高価な研究ですので,政府から研究費をもらっています。インターネットを使って,それぞれの医師が自分のデータをコンピュータに打ち込んで提供し,人口統計学的なデータとか,SF-36とかの機能的な面の情報,それから患者さんがいくつかのツールを使って記入するような用紙があります。
 当初,医師が要する時間は1回に3-4分ぐらいです。患者さんがそのツールを使った用紙に記入するのは,初回,3か月後,6か月後,9か月後,12か月後の5回になります。

「米国精神医学会治療ガイドライン」について

広瀬 先般の日本精神神経学会で,ガイドラインやアルゴリズムに従うか,または無視するかというテーマのディベートが企画されました。米国でもガイドラインに従いたくないと言う精神科医は多いのですか。
Sederer 米国のほとんどの精神科医は,ガイドラインに従いたいとは思っていません。私の上司は「そういう人たちを従うようにさせるのが君の仕事だ」と言います。
広瀬 ちなみに,最近日本では『American Psychiatric Association Practice Guideline-Practice Guideline for the Treatment of Patients』を『米国精神医学会治療ガイドライン』シリーズ(医学書院刊)として日本精神神経学会が監訳して出版しています。すでに『精神分裂病』,『パニック障害』,『アルツハイマー病と老年期の痴呆』,『物質使用障害』,『大うつ病性障害』,『摂食障害』,『精神医学的評価法』などの各種の疾患別のガイドラインが翻訳出版されています。
Sederer 私たちは常にそういうガイドラインを出版していますが,なかなか医師は従ってくれないので,どのように従ってもらうようにするか,ということを考えることが大きな課題となっています。
広瀬 日米共通の問題ですね(笑)。
Sederer コーヒーカップやTシャツぐらいでは従ってもらえないと思います(笑)。
 先ほどのインターネットのプロジェクトの目標は,ガイドラインに従ってもらうことです。つまり医師や患者さんがガイドラインに従った診療の場合と,そうでない場合の結果をみてもらうことが大きな目標です。私たちの仮説としては,従った診療の結果のほうがよいと思います。

今後の課題

Sederer 今後考えていることは,1つにはHMO(Health Maintenance Organization)などの大きな機関とともに仕事をすることです。そしてもう1つは,電子オーダーシステムや電子カルテシステムを作ることです。医師は今後は鉛筆や紙を使わずにパソコンを使うことになります。例えば,その患者さんに「大うつ病」という診断が下されたとすると,はたしてその診断のクライテリアに沿っているかということが検討されます。そして次いで,処方の面では,抗うつ薬は適切な量が,適切な期間処方されているかどうか。少なくとも最初のエピソードでは9か月間,反復する場合はもっと長い期間です。
 それから,大うつ病と診断しても処方しない先生もいます。そのプログラムを作ることができます。そうすると,コンピュータが「大うつ病と診断されたのに,なぜ処方されないのですか」と聞いてきます。また例えば,大うつ病と診断して,ある医師はベンゾジアゼピン(benzodiazepine:抗不安薬)を処方します。これは,大うつ病の処方薬としては適切ではありません。そうしますとコンピュータが,「抗うつ薬ではなく,こちらを選んだ理由は何ですか」と聞いてきます。

アウトカム・スタディ:マネジドケアとの関わりから

広瀬 先ほど話が出ましたが,この『精神科医療アセスメントツール』が出版されたことでもわかるように,米国では「アウトカム・スタディ」が大変重要な問題になっています。日本でもそうですが,このアウトカム・スタディが臨床に対してだけではなく,保険の問題に大きな影響を与えていると思います。特に米国で現在大きな問題になっておりますし,やがては日本にもそういう事態がくると恐れられている「マネジドケア」の問題との関連において,ご説明いただけますか。
Sederer いまのご指摘は大変重要です。マネジドケアは精神科の分野にこれまでになかったほどのダメージを与えました。マネジドケアと戦う方法として私たちが強調しているのは,「質」,それから「アウトカム」のことです。マネジドケアというのは,お金をどのように節約するか,ということだけに焦点を絞っていますので,料金が安くなるとアウトカムが悪くなる。そうすると,患者さんの満足度も下がるということを示しています。PRNの仕事の中でも,マネジドケアとマネジドケアではない診療について比較して,その点を証明しております。費用のことばかりいうと,アウトカムが悪くなるということです。
伊藤 今回『精神科医療アセスメントツール』を翻訳出版した背景には,Sederer先生がいまご指摘なさったアメリカの精神科医療分野での経験がありました。つまり,アウトカム・スタディがいかに重要であるかとを痛感したからです。
 日本においては,精神科医療のみならず医療全般の中で,アウトカムの重要性が十分に理解されているとは言えないのが現状です。しかし,臨床家にとって,自分たちがどのような診療をしているかということを,さまざまな立場の人に説明をするツールとして,アウトカム・スタディは非常に大事なことであると考えています。
 私は精神保健政策管理を専門とする研究者ですが,臨床家が行なっている診療を説明できる方法,つまりアウトカム測定方法の開発を現在行なっています。そしてまた,将来的にはアウトカムと関連づけられる診療報酬を制度的にも考えていくことが必要になっていくのではないか,よりよい診療を実践している場合はよりよい収入が得られる,という制度に改善していくことが大事なのではないかと考えています。

WCP開催に向けて:その意義

広瀬 それでは最後のテーマである「第12回世界精神医学会(WCP)横浜大会」のことに触れたいと思います。
 2002年の8月24日から29日まで,横浜市で第12回世界精神医学会(WCP)が開催されます。先ほどもお話ししましたように,日本精神神経学会は内部の混乱のために,なかなか世界に目を向けられませんでしたが,奇しくも2002年は日本精神神経学会創立100周年の年にあたります。そのことも外国の問題などに目を向けることに反対する人たちを説得する力になり,世界会議を開催できるようになりました。
 アジアで最初に開かれるWCPですので,もちろんアジアの人にたくさん来ていただけることを期待していますが,日本は欧米から地理的に遠いところに位置しておりますので,そういう国からたくさん来ていただけるか心配しています。
 しかしながら,米国からは特に多くの参加者があるのではないかと大いに期待しています。と申しますのも,1962年ですからかなり昔の話になりますが,APAと日本精神神経学会とのジョイントミーティングを開催して,大成功を納めたという経験があるからです。日米関係は政治も含めて多方面で非常に友好的な歴史を持っていますし,Pacific Rim College of Psychiatristsが西海岸を中心にありますので,APAには大いに期待しています。

APAとWPA

広瀬 従来,APAとWPAの関係は必ずしも密接でないような経緯があったと思いますが,最近はWPAもAPAに歩み寄っているようです。この間のシカゴの学会でも,WPAの幹部がAPAの幹部にも会って話し合っていますし,WPAとAPAの関係が,横浜大会に向けて密接になってきているという動きがありますから,そこに私どもも期待しております。
 実際,シカゴで日本の組織委員長の大熊輝雄先生,大会運営委員長の鈴木二郎先生と私が,ミレン先生やリギア先生にもお会いして,WPA大会に向けてAPAの協力をお願いしたわけです。具体的に,APAと何か協同のシンポジウムを持つようなことができればよいと思いますね。その1つの可能性として,このPRNの研究も考えられるのではないかと思います。日本の組織委員会として,APAには非常に期待しているということを申し上げます。
Sederer ご指摘のように,WPAとAPAは距離がありましたが,現在は大変密接になっています。
 それからDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:精神障害の診断統計マニュアル)-IV についても,APAとWPAが協力することは大変重要です。なぜならば,DSM-IV は世界中で同じ統一の診断基準にすることを目的にしているからです。WHOのICD(International Classification of Diseases and Related Health Problems:国際疾病分類)も,米国精神医学会のDSMも同じようにするということです。そういう目的がありますから,APAもWPAも同じ目的をめざして協力しあっていくことが重要です。
 それから,ミレン先生にお会いした時に「横浜のWPAでは,それに関連づけてまた別のイベントを催したらどうでしょうか」とお願いしました。そのほうが人を惹きつけられるのではないかと思ったからです。リギア先生も私も同意見でした。
 このPRNについて,ジョイントでシンポジウムを開催するのはとてもいいアイデアだと思います。帰りましたらリギア先生にその可能性について話してみたいと思います。
広瀬 時間が参りましたので,これで終わりにしたいと思います。
 本日は,長時間どうもありがとうございました。


資料1:日本精神神経学会会員の精神科診療に関する予備的調査
【はじめに】日本精神神経学会が会員の精神科診療を把握することは重要な活動の1つである。アメリカ精神医学会との共同研究の形で行なう方向で,国際交流委員会において検討を重ねた結果,長期的活動の第1のステップとして,(1)参加しやすい調査内容や方法で,(2)評議員に対して運用調査を実施して意見を集約するという結論に達した。本発表はその経緯と運用調査結果を報告する。
【運用調査の対象と方法】対象は1999年11月以降に評議員149名の診療を受けた患者で,評議員が「気分障害」と診断し,かつ「診療に対して満足している」と判断した患者のうち,調査への協力の同意が得られた各1名の患者である。調査票は年齢や精神医学的診療などを問う評議員調査票,および診療への満足度を問う患者調査票からなる。
【運用調査結果】149名の評議員のうち,76名(51%)から調査結果が事務局へ寄せられた。72名は調査に参加するか「関心ある」と回答し,1名は「関心ない」,3名は無回答であった。72名のうち調査に参加した評議員は42名であった。本報告では両調査票が回収できた41名(27.5%)について分析する。患者の平均年齢は54.6(SD=12.9)歳であった。機能の全般的評定尺度(GAF)の平均得点は74.0(SD=11.3)点であった。診療への満足度は高く,精神科医,看護職員,事務職員の対応で「とてもよい」としていた患者は,それぞれ33名(81%),18名(44%),13名(32%)であった。32名(78%)は治療に関する説明に満足していた。「受付から診療」「薬局」での待ち時間は,「診療から会計まで」「検査」より長いとしていた。 
【おわりに】本結果は,回収率が低いために解釈には限界があるが,精神科医が患者満足度の高い一群を抽出することができる一方で,「受付から診療」と「薬局」での待ち時間を改善することが課題であることを示していた。今後は,(1)会員の本活動への関心を高め,(2)回収率を高めるための方法論をさらに検討する必要がある。

表:米国精神医学会における診療研究ネットワークコアデータ要素
コア・ネットワーク・メンバー尺度コア患者尺度
●ネットワーク会員の人口統計学的特性(年齢.性.人種と民族)
●訓練(卒業後の年数.海外の医学部卒かどうか.資格)
●専門家としての活動(直接的な患者ケア.教育・スーパービジョン.研究.コンサルテーション).
●患者ケアの作業負担(最近の1週の患者数.最近の1週間の延患者数.最近の1週間の新規患者数.先月の診療患者数)
●最近の1週間に診療した患者の特性〔総計〕(年齢と性別.人種と民族.診療の場所と形態.保険の適用範囲とケア・プラン.主診断カテゴリー
●患者の社会人口統計学的特性(年齢.性.人種と民族.教育レベル.婚姻状況)
●保険の適用範囲とケア・プランの特性(支払い元.ケア・プランのタイプ.管理医療の介入/制限)
●診断情報(主診断.DSM-第1軸:精神障害.DSM-第2軸:人格障害.DSM-第3軸:一般身体疾患.DSM-第4軸:心理社会的および環境的問題.DSM-第5軸:機能の全体的評定).
●以前の精神科治療
●現在の精神科治療(治療の場所と形態.個人精神療法.集団,家族または夫婦精神療法.向精神薬.他の身体的治療.他の心理社会的サービス)
●将来/予測される精神科治療


●第12回世界精神医学会(WCP)横浜大会開催案内

 第12回世界精神医学会(XII World Congress of Psychiatry)横浜大会が,きたる2002年8月24日-29日,横浜市のパシフィコ横浜において開催される。「手をつなごう,こころの世紀に(Partnership for Mental Health)」をメイン・テーマにした同大会は,幅広く精神医療,精神保健関係者の参加を呼びかけている。
〔主なプログラム〕
(1)21世紀の世界の精神医学,精神医療の諸問題
(1)新世紀の社会に対応する精神医学・医療の研究.(2)医療関係者,当事者,市民などの世界的連帯.(3)世界各地域,文化の中での精神医学・医療の実態把握とその発展のための方策の確立.(4)分子生物学,神経画像法などの最先端の神経科学を応用した精神疾患,老年性痴呆疾患の成因解明と治療・予防法の開発.(5)現在・未来の産業社会における精神医学的・精神保健的諸問題(テクノストレスなど).(6)災害と精神医学(心的外傷後ストレス障害など).(7)こころの健康を確保するための精神保健環境の整備.(8)マルチメディアと精神医学・医療・福祉.(9)精神医学・医療における倫理的問題.(10)地域精神医療の諸問題.(11)性・生殖医療と精神医学
(2)アジアの精神医学・医療の諸問題
(1)アジアにおける精神障害の特徴.(2)東洋的文化と精神医学.(3)アジアにおける精神医療の問題点と将来への展望.(4)アジア諸国における精神医学教育
(3)日本における精神医学・精神医療・精神保健・福祉環境の諸問題
(1)世界の中での日本の精神医学の位置付け.(2)国際的に見た日本の精神医療体系の問題点と対策.(3)精神障害のノーマライゼーション.(4)少子化・高齢化社会における精神医学的諸問題.(5)不登校,暴力,いじめ,摂食障害など思春期の諸問題.(6)日本文化と精神医学

 役員は,大熊輝雄組織委員長,鈴木二郎大会運営委員長,広瀬徹也事務総長の他,下記の通り。
大会会長:Juan J. Lopez-Ibor, Jr.(WPA会長;スペイン)
大会副会長:大熊輝雄(組織委員長;国立精神神経センター名誉総長・東北大学名誉教授),鈴木二郎(大会運営委員長;日本精神神 経学会前理事長),Norman Sartorius(WPA前会長;スイス)
学術委員長:Norman Sartorius,副委員長:中根允文(長崎大教授)A. Okasha(WPA次期会長;エジプト)
事務局:第12回世界精神医学会横浜大会事務局〒107-0052 東京都港区赤坂9-5-24 赤坂日本ビル コンベンションリンケージ内
 TEL(03)5770-5549/FAX(03)5770-5532
 E-mail:wpa sec@c-linkage.co.jp
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