医学界新聞

 

“21世紀への医学教育”――を基調テーマに

第32回日本医学教育学会開催


 第32回日本医学教育学会大会が,久道茂大会長(東北大医学部長)のもとで,さる7月26-27日の両日,仙台市の戦災復興記念館において開催された。
 今回は「21世紀への医学教育」を基調テーマに掲げ,「21世紀の医学・医療」(自治医科大学学長・高久史麿氏),「これからの医学教育」(文部省高等教育局医学教育課長・布村幸彦氏)の2題の特別講演の他,シンポシウム「生命科学と医学教育」,「臨床医学と卒後初期研修」,パネルディスカッション「医学教育センターに期待するもの」,「入試選抜について」,ワークショップ「テュートリアル教育」,「クリニカル・クラークシップ」,「EBMを医学教育にどのように導入するか?」などが企画された。


特別講演「これからの医学教育」

 布村幸彦氏は特別講演「これからの医学教育」で,21世紀の医学教育を取り巻く環境として(1)少子・高齢化社会の進展,(2)生命科学技術の進展,(3)患者中心の医療への社会的要請,(4)医療制度および医療提供体制の改革,(5)大学改革の推進,の5点を指摘。さらに,医学教育改革の推進課題として,(1)入学者選抜方法の改善,(2)学部教育の再構築,(3)卒後臨床研修の充実,の3点をあげ,特に前2者について次のように詳述した。
 まず「入学者選抜方法の改善(学士編入学制度の拡充)」ついては,「学力とともに,目的意識,適性の評価が重視されるべきで,そのためには面接,小論文,適性検査の実施が望まれる。また学士編入学受け入れ枠の拡充に関しては,2002年4月までに国立大学24医学部,8歯学部で計200名を受け入れる予定である」と述べた。
 次いで「学部教育の再構築(学生を主体とした教育の構築)」については,(1)教育内容の改革(コア・カリキュラムの策定)=(a)医師養成に必要な卒前教育内容の精選(教員が教えたい教育内容から,学生が将来必要とする教育内容へ),(b)カリキュラムの統合化(医療に密接に関連した教育の実施に向けて,基礎と臨床医学の融合),(c)カリキュラムコースの設定(学生の志向に沿った選択コースの提供),(2)教育方法の改善(課題探究能力の育成)=(a)初等中等教育との接続,(b)知識詰め込み型教育から問題解決学習へ,(c)講義とテュートリアル教育などの問題解決型教育とのバランス型教育の実施,(3)学生の評価システムの構築(適性な評価の実施)=(a)科目ごとの評価の厳格化,履修単位の上限設定(FD:Faculty Development)の実施による適正な評価の実施),(b)科目ごとの単位認定とは別建ての評価の実施(教員間の評価基準の一貫性,総合試験の実施,(c)臨床実習前の基本的臨床能力の評価の実施(米国の医師国家試験のstep1を参考に日本版総合試験の導入),(d)知識だけでなく,技能,態度の評価が必要(OSCEの実施へ),(4)臨床実習の充実(見学型から診療参加型へ)=(a)臨床実習のレベルアップ,(b)臨床実習の内容の整理(卒後臨床研修の到達目標との調整,コア・クラークシップの策定),(c)そのための課題の解決(診療行為のあり方,事故などの対応策),(5)教員の意識・資質の向上=(a)教育に対する意識啓発(教育方法などに関する研修会の実施,学生による授業評価の実施へ,教育活動の相互視察・評価),(b)教員評価の多元化,(6)組織の教育能力の開発=(a)FDは教育組織の能力開発である,(b)事務組織の能力開発(今後は教員と事務職員の密接な協力が不可欠で,FDは教員のみでなく,事務職員にも必要で,教員の問題提起による事務職員の意識改革が求められる),(c)FDを効果的に進めるためには,学内FD委員会の設置や,FD担当者のためのFDの実施が必要であると指摘し,「専門家による具体的な検討に着手し,その検討を踏まえて,今後の医学教育改革施策の展開を精力的に進めていきたい」と抱負を語った。


「医学教育センターに期待するもの」

 パネルディスカッション「医学教育センターに期待するもの」(司会=慈恵医大・橋本信也氏,日本医師会・桜井秀也氏)では,同学会の長年の宿願である医学教育センターの問題が討議され,まず司会の橋本氏が,「医学教育センター構想の経緯」を次のように概説した。
 医学系大学教員のFDとして,ワークショップ形式のTeacher Trainingが世界各国に普及し,WHOもこの方法を高く評価して,世界主要地域にRTTC(Regional Teacher Training Center)を,各国にNTTC(National Teacher Training Center)の設置を推奨。一方わが国では,WHOのIntercountry Workshop(RTTC・シドニー)に牛場大蔵,日野原重明,館正知の3氏が初参加(1973年),医学教育者のためのワークショップ開催(1974年~),臨床研修指導医養成講習会開催(1996年~),などの歴史があり,これまでもNTTC設置の必要性が多くの人から強く指摘されてきたが実現を見るには至らなかった。
 しかし,1997年に日本学術会議が報告書『医学教育センターの設置について』を出し,その中で「Teacher Training機能を含め,医師養成に関わる諸問題を調査研究し,学部教育,臨床研修,生涯教育を円滑に行なうための第3者機構の設置」を提言した。そして,それを受ける形で1998年に日本医学教育学会内に「医学教育センターに関する特別委員会」が,1999年には日本医師会内に「日本医学教育センター設立に関するプロジェクト委員会」(委員長=森亘日本医学会会長)がそれぞれ設置され,今や具体化が目前に迫ってきた。
 橋本氏は,同プロジェクト委員会の審議内容(全5回)を紹介し,「医学教育のさらなる充実と,よき医師養成の必要性を再確認できたが,そのためには多岐にわたる問題点の存在も認識すべきで,この報告書を基礎にして,日本医師会がさらなる討議を続けることを期待する」と結んだ。
 続いて,「医学教育者のためのワークショップ」(東海大・田中勧氏),「入学者選抜のための第3者機関」(日大・桜井勇氏),「医師国家試験のための専門実施機関」(榊原記念病院・細田瑳一氏),「臨床研修評価に関わる第3者機関」(国際医療センター・松枝啓氏)などの視点からそれぞれ医学教育センターへの期待を述べ,久道茂氏および堀原一氏(前日本医学教育学会会長)が特別発言を行なった。


EBMを医学教育にどのように導入するか?

 EBM(Evidence-Based Medicine)はインターネットをはじめとする情報技術の普及とあいまって,臨床実践の新しい方法としてもわが国の医療にも大きな影響を与えつつある。
 ワークショップ「EBMを医学教育にどのように導入するか?」(ファシリテーター=ハーバード大・Thomas S. Inui氏,東大・福原俊一氏,松村真司氏)では,「EBMという概念に関する共通理解の確認」(福原氏),「米国におけるEBMの医学教育導入に関する現状」(Inui氏),「わが国におけるEBMの医学教育導入に関する現状」(松村氏)のdidactive sessionに続いて,(1)EBMをわが国の医学教育に導入する際に予想される促進・障害要因は何か?,(2)導入に必要な資源,問題点の解決方策は?,(3)EBMは既存のカリキュラムのどこに入るか?,誰が教えるべきか?,(4)教官の養成はいかに行なわれるべきか?,などについて,参加者によるグループ作業とその結果が発表された。