第2401号 2000年8月28日


NANDAの動向-その最前線

第14回NANDA(北米看護診断協会)学術大会より

江本愛子(三育学院短期大学・教授)


 NANDA(北米看護診断協会)学術大会は2年ごとに開催されている。さる4月5-8日の4日間,第14回NANDA学術大会が,アメリカ・フロリダ州のオーランド市において開催された。オーランドは,世界最大のディズニーワールドやシーワールド,ユニバーサルスタジオなどのテーマパークがあることで知られる町で,世界中から観光客が絶えず訪れている。
 筆者は,これまでに2回ほどNANDA学術大会に参加したことがあるが,今回は「Forging LINKS to the Future」のテーマに,特に関心を持って参加した。「リンク」という言葉は,今大会プログラムのメインテーマとして取りあげられただけでなく,実際にNANDAが現在取り組んでいる新たな方向,そのものであることが強く印象づけられた。そこで大会を通して見たNANDAの動きについて,私見を交えながら,最前線の情報をお届けしようと思う。


Forging LINKS to the Future

いくつもつながった鎖の環

 LINKSとは“Links in Nursing Knowledge Systems”(複数の看護の知体系におけるリンク)の頭文字である。“Link”は「鎖の環」を意味する。“Links”は「いくつもつながった鎖の環」と解釈できる。そして,複数の看護の知体系におけるリンクがアルファべットの“LINKS”に集約されていることが何とも興味深い。そして21世紀に向けて,着々とNANDAが看護の知体系におけるリンケージを推進していることを,アピールしているのだと理解できた。

アイオワ大学とNIC・NOC

 NANDAの主なリンクは,第1にNIC(看護介入分類)とNOC(看護成果分類)との関係にみられる。NICは,1987年にアイオワ大学の研究グループによって開発が始められた。NANDAは,看護が関わる人間の反応を概念化し,分類する団体であるのに対し,その反応が望ましい結果に変化するための介入行為,あるいは介入方法を概念化し,分類しているのがNICである。次に,看護介入によってもたらされた結果を適切に評価することを目的としたNOCを開発する研究グループが,1991年に同じアイオワ大学内に生まれた。
 このアイオワ大学には,1995年に看護分類センター(Center for Nursing Classification)が設立され,専任とパートの研究員を擁して積極的に活動が続けられている。看護分類センターからはNIC・NOCニュースレターが年3回発行され,これが新しい情報と意見交換の場となっている。
 NICグループは,今年すでに『Nursing Interventions Classification(NIC)第3版』を発行した。その中では486の看護介入用語を分類している。『Nursing Outcomes Classification(NOC)』については,1997年発行の原著第1版が『看護成果分類(NOC)-看護ケアを評価するための指標,測定尺度』(藤村龍子,江本愛子監訳,医学書院,1999)として日本語に翻訳されている。この成果分類の特徴は,個々の成果についての指標と5段階の評価尺度が設けられていることである。第1版には190の看護成果用語が分類されるにとどまったが,今年発行されたばかりの原著第2版には260の成果用語が分類された。

国際的なリンク強化のために

 大会初日には“Linking NANDA to the Future”と題したフォーラムが行なわれた。そこではNANDA,NIC,NOCの代表者が同じ座につき,3者のリンケージの理念とその実際について報告を行なった。NIC,NOCともそれぞれNANDAの診断カテゴリーごとに,使用可能な介入用語もしくは成果用語をリンクさせている。これらの用語,基準,または尺度を種々異なる場,あるいは対象者について十分検証し,客観的なデータが積み重ねられることが重要である。そうすることによって,さらに用語の改善も促進される。そして看護用語の分類に,最も長い実績を持つ団体であるNANDAが,このリンクの重要な位置にあるのだということが,この大会を通して鮮明に表明された。
 NANDAはこれまでも,例えばICNP(国際看護業務分類),オマハ分類など看護用語分類団体との関係を保ってきた。また研究,臨床検証においても専門領域のクリニカルナーススペシャリスト(CNS)の協力があった。そしてこの数年間,NANDAと他の諸団体におけるリンクの形成にはめざましいものがある。NANDA,NIC,NOCの「縁組」,NDEC(Nursing Diagnosis Extension and Classification)とのパートナーシップ,という表現からもその関係の深まりがうかがえる。NDEC研究チームとは,NANDAとの契約のもとでその研究を促進しているグループのことである。NANDAはまた,欧州看護診断協会や海外会員との間に国際的なリンクを強化しようとしている。

他団体との用語統一をめざして

 数年前から,米国では医療関連職種における専門用語をリンクさせようとの動きがはじまった。これはNANDAにとって非常な好機である。
 NANDAの副理事長を2年,続く2年間を理事長として務めたDorothy A.Jones氏は,頻回に他の専門職の会議に招待され西,東へと飛び回った。そしてその場でNANDAの活動や,それが専門職看護に与えてきたインパクトについて証を立てたとのことである。その背景には,政府レベルの法制化と患者診療記録情報(PMRI)のコンピュータ化の動きがある。
 その1例として,SNOMED(Systematized Nomenclature of Medicine)との関係について簡単に触れておきたい。SNOMEDとは,1976年に病理学分野の人々によって開発された医学分野の命名法のことである。この団体は巨額の資金を投じ,グローバルな患者診療記録の索引や検索,総合,分析を可能にするような,記録データのシステム化をめざしている。1999年には,シカゴにおいてSNOMEDに看護用語を含めるための会議が持たれ,そこに看護用語分類団体の代表としてJones氏も参加した。
 このように,この数年の間に実に多くの用語分類団体とNANDAとの折衝が精力的に行なわれている。そしてNANDAとこれらの団体との関係は,一言で言えば「パートナーシップ」なのである。そこに,互いに相手の独自性を認めながら肩を組んでいくという理念がよく表されている。

標準用語を持つことの重要性

看護用語と看護の知構築

 ウェールズ・スワンシー大学保健学部のDame June Clark氏は,「看護用語と看護の知構築との関係-方法論の視点」と題する基調講演を行なった。幼児の言葉の発達を例にとったわかりやすい導入であった。幼い子どもは,まだ言葉を知らない。しかし物事の概念は年齢なりに次第に頭の中に形成させていく。概念と合致した言葉を覚えることによって知識が増し,その言葉を使ってコミュニケートできるようになる。知識は言葉を通して増大していくのだと,標準用語を持つことの重要性を強調した。
 化学者は物質が一体何なのかを知るために,その物質を構成要素に分け構造を明らかにした。そのように,過去において看護はまずその要素を特定し,ネーミングをした。つまり,ナースは何を行なうのかによって看護とは何かを定義しようとしたのである。しかし,ナースの行なう行為によっては,看護を他の職業とはっきり区別することが難しかった。
 医学においては,今日誰にでもわかる「肺炎」という診断名が確立されるまで,実は多くの人々が何年もかけてありのままの現象を調べたのである。そしてその概念を共有できるようになった。今日では「肺炎」は国際疾病分類に含められ,グローバルな用語となっている。
 現在看護は,看護が関わる1つひとつの現象の概念を明らかにすることを大切にしている。そして,その用語をいかに臨床で有効に活用することができるかを検証しなければならない。臨床効果を検証するためには,ナースが介入したことにより生じた成果(outcome)は何かを明らかにしなければならない。そのためにナースが関わる診断,介入,成果の共通用語が開発されている。診断と成果の両方の用語が必要かどうかの問題はあるが,それはそれとしてよいスタートであろうと述べた。

新看護診断分類法 II(Taxonomy II)

 1998年に,セントルイス市で開催されたNANDA25周年記念大会(第13回大会)において,新しい「診断分類法 II(案)」の枠組みが検討のため会員に紹介された(本紙1998年6月29日付,2295号「看護版特別編集」で既報)。この新分類法(案)は,6つの軸を持つ健康パターンに基づいた枠組みであったが,これは『NANDA看護診断 定義と分類1999-2000』(松木光子・中木高夫監訳,医学書院,1999)に詳述されている。看護診断の数が増えたこと,より個別の診断を可能にする枠が必要であること,患者診療記録情報のコンピュータ化などが,新しい枠組みに変更する主な理由である。しかし新分類法の必要性は確かにあるが,さらに慎重に検討された後,正式に採用すべきであるとの意見が多数を占めたという経緯がある。そして今回の第14回NANDA大会の全体集会の場で,理事会により新分類法(診断分類法 II)が承認されたことが報告された。

12領域から14領域の分類へ

 10年以上もNANDA診断分類法に関わり,過去数年間は分類法委員長を務めてこられたKay Avant氏は,新分類法 II について要点を報告した。氏は,「当初,新分類法の検討は,健康パターンに基づく12の領域(ドメイン;domain)と,下位構造としての類(クラス;class)を持つ多軸分類法から始めたが,検討の末に14のドメインとクラスを持つ多軸分類法に修正し,理事会によって承認された」ことを説明した。
 しかし,この新分類法に関しては,「これまでユニタリパーソン・モデルに基づく人間の反応パターンという理論があったのに,今回の『領域』は何の理論に基づいているのか」等,会場からは質問が相次いだ。それについてAvant氏は,「診断分類枠組みは誰彼の理論ではなく,単に分類のための枠である。どの看護モデルを用いてアセスメントを行なう人も自由に使える診断分類枠組みである」と強調。従来の診断分類法 I では,例えば「~の不足」「非効果的~」などの修飾語(descriptor)によって診断ラベルを表現していたが,患者の個別の状況を十分表現するのが困難であった。しかし,新分類法では6つの軸を用いて診断を表現することにより,クライエントや患者の個別の状況をより明確に示すことをねらっている。

参加者の意見を反映させる手段

 米国の学会では,マイクの前にかなり多くの質問者が列をなしている光景がよく見られる。ここでも熱心な質疑応答が行なわれたので,参加者の意見は今後どのように反映されるのかと思ったのは筆者だけではなかったようだ。しかし,分類法委員会は大会終了後直ちに集まって参加者からの質問やコメントに基づいた提言をまとめ,理事会に提出した。それらの提言はごくマイナーな問題ではあったが,理事らはその提言についての賛否を理事会に回答する。そしてすでに発表されたように,分類法委員会,診断審査委員会および理事会の間を密接にリンクし,12月頃までに『NANDA NURSING DIAGNOSES: Definitions and Classification 2001-2002』を発行する予定であることが,Avant氏からの情報によって確認できた。
 承認されたNANDA分類法 II「多軸健康パターン枠組み」は,2年前に紹介された枠組みから幾分変更が見られる。6つの軸そのものは変わらないが,軸の名称が「診断概念」,「ケア単位」,「時間」,「年齢」,「潜在度」および「記述語」となった。そして軸の内容には数個の新しい用語が追加されている。
 ドメインとその下位のクラスについては,12領域から14領域に変更されている。例えば,領域1「健康知覚-健康管理」が「ヘルスプロモーション」に変更され,その下位の類3「ヘルスプロモーション行動」は,領域名称と同一となったため削除された。領域13として「成長/発達」が加わり,最後に領域14として「その他」が追加された。「その他」は,現在は分類不可能な診断あるいは再定義が必要な古い診断を,新たな領域あるいは類が開発されるまでここに残しておくために設けられた。

ウェルネス診断

銀のリボンパネル

 ウェルネス診断は,日本でもこれからの分野として必要性が認識されはじめている。しかし,本来看護は人のライフサイクルを通し,あらゆる健康レベルにおいて関わる役割を担っていたのではないだろうか。看護診断においても変調や問題に対する治療だけではなく,健康面を意識したウェルネス診断をさらに開発させるという課題が残されている。
 このウェルネス診断の問題にNANDAがどのような取り組みを開始したかと言えば,まず「銀のリボンパネル」の働きをあげることができる。「銀のリボンパネル」は,この問題に関する提言をするためにNANDA理事会により特別に承認された専門家グループである。最近専門家グループは,看護診断の分類軸の中に「潜在度(potentiality)」を含めるよう提案した。また,ヘルスプロモーションやウェルネス診断を分類するためには,より都合のよい別の分類枠組みの開発を考慮してはどうかと提案していると報告した。
 その報告の後,会場からJudy Carlson Catalano氏がマイクの前に立ち,ウェルネス診断について1つの問題提起をした。氏は,「『健康問題とライフプロセスに対する人間の反応』ばかりではなく,『人間の体験』についての臨床判断という言葉を看護診断の定義に含めてはどうか。『人間の体験』を看護診断の定義に含めれば,ウェルネス診断が使いやすくなる。現在の定義では,『ウェルネス診断がどこに位置づけられるのかが見えにくい』という意見が,診断ワークグループからもかなり強く出されていた」と述べた。

ナースだからできる診断

 Catalano氏は,ウェルネス診断の観点から「身体活動不足」という看護診断の承認をNANDAに申請している。その承認の手続きのために提出された論文が,NANDA機関誌「Nursing Diagnosis, The International Journal of Nursing Language and Classification, 11巻1号」に掲載された。論文には新たな診断を提案する根拠として,診断ラベル,定義,診断指標,関連因子に関する氏の研究が詳しく報告されている。
 提案の趣旨は次の通りである。慢性疾患を引き起こす多くの危険因子の中でも,人々が陥りやすい最大の単一因子に「身体活動不足」がある。ヘルスプロモーションのための関わりは他のヘルスケア関連職種も実践している。しかしナースは,直接生活を通してクライエントに指導をするのに最適の場にいる。ナースは,適正な運動プログラムを毎日の生活に組み入れることを指導するのであれば,「身体活動不足」というウェルネス診断をすることができる,というものである。スペシャリストとしてのこの研究と会場での発言はともに注目に値するものである。

第7回日本看護診断学会学術大会に向けて

前NANDA理事長を招聘

 今回筆者は特別の目的のために,NANDA理事長のJones氏にお会いすることになっていた。それは,明年6月21(木)-22日(金)の両日,横浜市のパシフィコ横浜で開催される第7回日本看護診断学会学術大会の大会長を筆者が仰せつかったが,その際の招聘講師として,Jones氏に依頼をするためであった。
 それまで,Eメールのやりとりなどを通して大筋の意思疎通はできていたが,直接お目にかかり講演の内容を確認することができ大変感謝している。多忙なスケジュールを抱えておられたにもかかわらず,Jones氏は温かく数人の同僚と筆者を迎え,標準用語の動きとその背景について熱っぽく話してくださった。短時間ではあったが,同氏の信念と希望が筆者にも伝わってくるようなひとときであった。
 明年の学術大会では,Jones氏から標準用語への最新の動きとその背景について,また機能的健康パターンアセスメントツールに関するご自身の研究について,多くの学びができることと大いに期待している。

新しい看護の時代に向けて

 なお,第14回NANDA学術大会をもって,Jones氏はNANDA理事長の任期を満了。代って,副理事長であったKay Avant氏が次期理事長に就任された。最後に,Jones氏のNANDA理事長挨拶の一部をお伝えしてこの稿を終わることにしたい。
 「過去2年間は,きわめてダイナミックで変化の多い時代でした。そのような時代に,NANDAと看護用語開発の活動に携わる機会を与えられ,心から感謝しています。理事長として,多くのフォーラムにおいて報告,発表をしました。これらの機会を通して,看護診断と情報システム開発や患者ケアとのリンクの可能性を実感することができました。27年の歴史を持つNANDAは,今まさに新しい時代に乗り出そうとしています。NANDAは,看護診断と診断分類法の開発を通し,これからも看護学の構築に貢献していくことでしょう」。