医学界新聞

 

第43回日本糖尿病学会開催される

糖尿病の関心は治療から予防へ


 さる5月25-27日,第43回日本糖尿病学会が,堀田饒氏(名大)のもと,名古屋市の名古屋国際会議場において開催された。今学会のキャッチフレーズは「21世紀に向けて,糖尿病の関心は治療から予防へ」。
 「自分史-糖尿病と歩み,患者から学んだ35年」と題した会長講演,糖尿病患者の立場からニコール・ジョンソン氏(ミス・アメリカ)と山崎照幸氏(マザック社長)を迎えた基調講演「糖尿病患者の立場から医療従事者の皆様へ」の他,特別講演3題,教育講演21題に,シンポジウム4題,またパネルディカッション4題,さらにワークショップや一般演題が企画された。加えて,鼎談「Message to the new millennium-21世紀の糖尿病学に期待するもの」や,今年4月に発足した糖尿病療養指導士制度に関する最新の情報を提供する「メッセージ-糖尿病療養指導士制度の発足と活動-Q&A」などもプログラムに折りこまれ,多数の参加者を集めた。


糖尿病治療の新たな展開

 パネルディスカッション(1)「21世紀に向けて目指す糖尿病治療-現状と展望」(司会=順大 河盛隆造氏,川崎医大 加来浩平氏)では,加来氏が「糖尿病のEBM確立に向け,材料はそろいつつある。これを統括し,来世紀への戦略を立てる時期にある」と,本シンポジウムの趣旨を説明。
 最初に岡本元純氏(大津赤十字病院)は,「食事と運動療法は2型糖尿病治療の基本」と位置づけ,効果的な利用法を模索。食事療法の指標として,過食の指標Caloric Indexおよび食事のムラの指標Calorie C.V.の有効性を報告した。氏は「客観的指標に基づいたオーダーメイドの治療」をめざすことを目標に,「食事療法と運動療法に結びついた指標と,それらを簡便に測定するツール開発が必要」と強調した。

新しい薬剤の開発

 松田昌文氏(川崎医大)は,2型糖尿病の治療に経口血糖降下薬の単剤投与で無効の場合に行なわれる併用療法の現状を,欧米の最新の臨床試験の結果を交えて報告。特に「SU薬とメトホルミンの併用療法は最も期待できるものの1つ」と結論した。また氏は,今後経口血糖降下薬の開発が期待される分野として,「(1)発症,病態進展の阻止を目的とした膵β細胞保護作用を有するもの,(2)既存薬とは作用機構の異なるインスリン作用増強薬,(3)抗肥満作用を併せ持つ,(4)脂質代謝に好影響が期待できるもの」をあげた。最後に,下垂体に作用し2型糖尿病を根本から治療することを目的とする薬剤(Bromocriptine)に関する研究状況を付け加えた。
 インスリン療法について難波光義氏(兵庫医大)は,積極的に開発が進められている超速攻型および超持続型アナログインスリンの開発動向を概説。また,吸入型インスリン「inhaled Insulin」や,適切な血糖自己測定(SMBG)をめざした時計型の自己血糖測定機器「MiniMed」など,患者のQOL向上に貢献する新しいデバイスを紹介した。続いて,糖尿病合併症治療薬の開発状況について,牧田善二氏(久留米大)が報告。(1)エバスタレットなどのアルドース還元酵素阻害剤(ARI),(2)アミノグアニジンなどのAGE阻害剤,(3)PKC-β阻害剤を取りあげ,それぞれの有効性と問題点に言及した。
 また新しい糖尿病治療法として注目される人工膵島の開発と遺伝子治療については,荒木栄一氏(熊本大)が解説。開発中のベッドサイド型人口膵島の概要を述べ,「今後は携帯型人工膵島の臨床応用や,イヤリング型,入れ歯型など植込み型人工膵島の開発が必須」と方向性を示唆した。一方,遺伝子治療について,非膵島細胞における膵β細胞機能の再構築をめざして,下垂体由来細胞などにヒトインスリン遺伝子とGLUT2,グルコキナーゼ遺伝子を導入。その結果,インスリン分泌上昇が認められた。さらにこの細胞を糖尿病マウスに導入したところ,血糖値の長期正常化に成功したことを報告。21世紀を見据えた新たな糖尿病治療の方向性が示唆された。