第2392号 2000年6月19日


OSCEなんてこわくない

-医学生・研修医のための診察教室  編集:松岡 健(東京医科大学第5内科教授)


第5回 心臓の聴診

内藤 雄一(東京医科大学第2内科講師)
山科  章(東京医科大学第2内科教授)


《診察のポイント》

 心臓の聴診領域はまず基本的な4つの弁領域を覚えてください。各領域でまず I 音,II 音を判別し,収縮期,拡張期を同定します。分裂にも注意します。次いで過剰心音を最初は収縮期(駆出音,収縮期クリック)を,次に拡張期(III 音,IV 音,僧帽弁開放音)をみつけます。最後に心雑音に意識を集中し,収縮期雑音か,拡張期雑音か,その両者なのかを識別します。聴診領域を拡大し,どの領域で雑音が最もよく聞こえるか,駆出性か逆流性かを判断します。聴診を行なう方法は自由ですが,一定の手順により見落としが少なくなります。
 今回はOSCEで課されることの多い聴診法の基本を示します。

■手順

診察する旨を告げ,了承を得ます
手を温め,まず坐位で診察します

(1)心尖拍動を触診します(写真1

(2)心尖部に膜型聴診器をあて聴診を開始します(写真2

(3)三尖弁領域を聴診します

((4)Erb領域を聴診します)

(5)肺動脈弁領域を聴診します

(6)大動脈弁領域を聴診します

筆者は通常,情報の豊富な心尖部から聴診を開始しますが,最初から II 音の識別が容易な心基部より聴診を開始してもよいと思います。
正常状態では心基部で II 音が強くはっきり聞こえ,心尖部では I 音が大きく聞こえます。また, I 音-II 音間(収縮期)は II 音-I 音間(拡張期)より短く,ドットンと II 音のほうが軽く高調なため識別は容易です。
しかし,頻脈や心房細動の時や心音の減弱時など I 音, II 音を同定できなければ大動脈弁領域より逆に心尖部に移行聴診(inching:1インチ〔約2.54cm〕ずつ移行させていく)を行なうほうが適しています。それでもわからなければ頸動脈を触診しながら聴診し,頸動脈の立ち上がりと同時に聴こえるのが I 音です。
OSCEでは心尖部からでも,心基部からでも順序は問いません。4領域をしっかり聴診しているかを評価します。

(7)ベル型聴診器に切り換えて心尖部を聴診します(写真3

(8)同様に三尖弁領域,肺動脈弁領域,大動脈弁領域を聴診します

ベル型の聴診は本来,心尖部-三尖弁領域で十分です。当大学ではベル型や膜型の特性や音の性状を覚える意味もあり,膜型の聴診後,ベル型でも4領域をinchingするよう指導しています。ただし,最初からいきなりベル型で心基部から聴診すると減点の対象となります。

・実際の診察では
さらに,仰臥位や必要に応じ前かがみの座位,左側臥位の聴診が加わります。
前かがみの座位-心基部の聴診(AR, II Pなど)
左側臥位-心尖部の聴診(III 音,IV 音,OS,拡張期ランブルなど)

 写真1
患者さんの右側より手首をのばしたまま触れます。心臓は等容収縮期に前方に向いながら回転し胸壁に軽くあたります。そのため指先を叩くような拍動を触知します。坐位で約半数の人は触知できます。左室肥大や拡大があると盛り上がるように大きく触れ,100円玉より大きければ異常です。心尖拍動が触れればそこが心尖部です。触れなければ左鎖骨中線上第5肋間を僧帽弁領域とします

 写真2
膜型は強く皮膚に押しつけて高音成分を聴きます。聴診器のイヤピースは外耳道の方向(鼻のほう)に合わせて調節し,音が最も入りやすい位置を探します。寒い時は聴診器を暖めてから聴診を開始します

 写真3
ベル型は軽くあて低音成分を聴きます。III 音,IV 音や拡張期ランブルなどの低音成分に注意します。ベル型を強く押しつけると減点されます

■解説

聴診部位

●心臓の聴診部位(1)
-基本的な4つの弁領域(図1)

大動脈弁領域 :第2肋間胸骨右縁付近
肺動脈弁領域 :第2肋間胸骨左縁付近
三尖弁領域 :第4肋間胸骨左縁
(胸骨下端左縁)付近
僧帽弁領域 :心尖部(左鎖骨中線上
第5肋間)
Erb領域 :第3肋間胸骨左縁付近
すべての聴診領域が
含まれておりロマンの
領域とも称されています。
副大動脈領域とも言い,
特に大動脈閉鎖不全の
拡張期雑音のチェック
ポイントです。




●心臓の聴診部位(2)(図2)

 心疾患により心臓の形態変化が起こり聴診領域は変化します。もう少し広く放散を考慮した聴診部位も覚えましょう。4か所について理解してください。
左室領域
右室領域
大動脈領域(左室流出路)
肺動脈領域(右室流出路)

(Luisadaの聴診部位もチェックしておきましょう)

D音の発生機序とその異常

【I 音】
 僧帽弁と三尖弁の閉鎖により生じます。

 主成分はほとんどが僧帽弁閉鎖音です。Erb領域で注意深く聴診すると正常でもかろうじて三尖弁の閉鎖音を聴取できます。
【II 音】
 半月弁の閉鎖により生じます。

 大動脈弁閉鎖音(II A)と肺動脈閉鎖音(II P)よりなり,II Aが先行します。
 内圧の変化と結びつけて整理しておきましょう。僧帽弁は左室圧が左房圧より高くなると閉じ,低くなると開きます。
 大動脈弁は左室圧が大動脈圧より高い間は開いています。正常では弁の閉じる時に心音が聴かれ,開く時の音は聴き取れません。よって開放音を認めれば異常です。それには僧帽弁や三尖弁開放音,半月弁開放による駆出音(大動脈駆出音,肺動脈駆出音)があります。(図3
【II 音の分裂】
 必ず II Pが明瞭な肺動脈領域で聴診します。
正常呼吸性分裂
  II A-II P間が吸気により分裂幅が広くなることを言います。
奇異性分裂
 正常とは反対に吸気時に分裂幅が狭く,呼気時に広い状態を言います。AS,左脚ブロック,動脈管開存症(PDA)でみられます。
固定性分裂
 呼吸の変化を全く受けない場合を言います。心房中隔欠損症(ASD)でみられます。
病的呼吸性分裂
 呼気時に分裂があり,吸気によりさらに広く分裂することを言います。MR,心室中隔欠損症(VSD),肺動脈弁狭窄症(PS),右脚ブロックでみられます。
【過剰心音】
 III 音,IV 音は左側臥位で心尖でよく聴取される低調な音です。よってベル型で聴取します。
III 音-心室の急速充満期(拡張早期)に心房から心室に血液が流入する振動により生ずる低調音。心室の容量負荷や心不全で認めます。
IV 音-前収縮期(拡張終期)に心房が強く収縮し,心室への流入が増加し心室筋が伸展して生ずる低調音。心室コンプライアンスが低下した時に聴かれます。
 I 音,II 音に III 音ないし IV 音が加わり3拍子になると奔馬調(ギャロップリズム)と呼びます。
収縮期クリック
 僧帽弁逸脱症で聴かれる収縮中期-後期の高調性の鋭い音です。
収縮期駆出音
 収縮早期に駆出された血液が大動脈や肺動脈を拡張させて生ずる高調な音です。
 大動脈駆出音-AS,AR,上行大動脈瘤,高血圧
 肺動脈駆出音-PS,肺高血圧
房室弁開放音
 僧帽弁開放音と三尖弁開放音がありますが,前者が臨床的に重要で,MSで認めます。

・OSCEでは
まず患者さんへの配慮が問われます。診察する旨を告げたか,言葉づかい,手や聴診器を温めたかなども評価されます。制限時間は通常5分程度です。心音の聴診は聴診器の使い方(膜型,ベル型の使いわけ),4領域を適切に聴診できたか,CDなどによる心音を聴き,所見や考えられる疾患名などが問われます。

心雑音の発生機序

 血液が流れるところに狭窄があると雑音が発生します。前後の圧較差が大きいほど雑音のピッチは高くなります。また雑音の大きさは圧較差のある部位を通る血液量によります。
 心雑音の強さはLevineの分類により第1-6度に表現されます。
【収縮期雑音】
 駆出性雑音と逆流性雑音があります。
駆出性雑音
 流出路聴診領域で通常ダイヤモンド型を呈します。
 大動脈性駆出性雑音-ASやHOCM(大動脈弁下の狭窄による)
 肺動脈性駆出性雑音-PSやASD(血液量の増加)
 機能性雑音(心拍出量の増大)-貧血,甲状腺機能亢進症
逆流性雑音
 全収縮逆流性雑音-I 音(減弱)から始まり,II 音を被って終わるプラトー型の雑音です。MR,TR(吸気時に雑音は増強しRivero-Carvallo徴候といいます),VSDで聴かれます。
 収縮後期雑音-僧帽弁逸脱症で聴かれます。収縮期クリックに続いて聴かれます。
【拡張期雑音】
拡張期逆流性雑音
 AR,PRが代表です。心室の拡張期に大血管から心室への血液の逆流によって発生します。II 音から始まり I 音で終了するblowing,灌水様などと表現される漸減性,高音の雑音です。
 Graham Steel雑音-肺高血圧による相対的PRをいいます。
心室充満雑音(拡張中期ランブル)
 心室充満期に心房から心室へ血液が流れ込む際に狭窄があったり,その血流量が多い時に生じます。MS,TSが代表です。低調で雷がゴロゴロ鳴る(rumble)ような雑音です。
 Austin Flint雑音-ARの相対的僧帽弁拡張期ランブルをいいます。
 Carey Cooms雑音-急性リウマチ熱の心炎による相対的僧帽弁拡張期ランブルをいいます。
心房収縮雑音(前収縮期雑音)
 心房から心室へ血液が送り込まれる際に狭窄があったり,その血流量が多い時に生じます。洞調律のMSの時,ランブルに連続して聴かれます。
【連続性雑音】
動脈と静脈の短絡シャントでは収縮期だけでなく拡張期にも圧較差があるので連続的に雑音が生じます。PDA,Valsalva洞動脈瘤破裂,冠・肺動静脈瘻などで聴かれます。
【ブランコ雑音】(to and fro murmur)
AS+ARの時の雑音です。

・OSCEでは
診察手順を一通り終えた後,聴診所見を述べます。
正常の場合の例
『I 音,II 音正常,III 音,IV 音,その他の過剰心音も認めません。各領域で有意な心雑音は聴取しません。』 OSCEでは健常人の聴診がほとんどと思いますが,今後は機能性雑音など雑音を認める模擬患者を用いることも検討しています。

●先輩からのアドバイス

 聴診法の最も有利な点は,高価な機器がなくても聴診器1本あればきわめて多くの情報を得られることです。しかし,近年では心エコーをはじめとする診断機器に頼り,聴診がまともにできる医師がほんとうに少なくなった観があります。最近では心音図もルーチンの検査から外されてしまいましたが,筆者の経験では繰り返し心音図をとることにより聴診能力は飛躍的に向上できると思います。また,心エコーで病態を把握してからもう一度聴診し直してみることも大切です。逆に聴診のほうが正確に情報を提供してくれることもめずらしくありません。
 当大学では27例の心臓病の身体所見をシミュレートできるハーベイ人形を導入し聴診トレーニングを開始していますが,心雑音のコンピュータソフトやCDも市販されていますので,OSCE対策には有効と思います。

●調べておこう
 -今回のチェック項目

□ II 音の分裂
□過剰心音
□駆出性雑音
□全収縮期逆流性雑音
□拡張期逆流性雑音
□拡張中期ランブル
□連続性雑音
□Levine分類
□亜硝酸アミル負荷

OSCE-落とし穴はここだ

 OSCEの模擬患者は通常,健常人であるため,聴診手技に関しては4領域の聴診,膜型,ベル型の使い分けなど問題なくできる学生がほとんどです。しかし,今後は心雑音を認める模擬患者を用いる可能性もあります。
 現在,東京医大のOSCEでは,異常心音の聴診のコンピュータ(MacintoshのPower Bookによりあらゆる種類の心雑音が出せる)を用いヘッドホンにて行なっていますが,まず I 音, II 音の同定,すなわち収縮期と拡張期がわかりにくいようです。よって典型的なMRの全収縮期雑音とARの拡張期逆流性雑音を逆に答える学生が多数います。
 慣れてくると雑音の性状からも収縮期と拡張期がわかるようになりますので,とにかくCDなどで繰り返し練習し基本的な心雑音(主に左心系)は聴取できるようにしましょう。パソコンを持っている人は過剰心音や心雑音を心周期にあわせてシミュレートできるソフトが市販されていますのでゲーム感覚で覚えることができます。間違いやすい心雑音のポイントをまとめてみましょう。
(1)収縮期の駆出性雑音と逆流性雑音の鑑別
 a)駆出性雑音は流出路領域のダイヤモンド型の高調性な粗い雑音で I 音,II 音ははっきり聴こえる。
 期外収縮や心房細動で長い拡張期があると次の心拍による駆出性雑音は増強する
 b)逆流性雑音は心室領域でプラトー型の高調性な雑音で,雑音が被り I 音,II 音は,はっきりしないことが多い。不整脈でも雑音は変化しない
(2)拡張期逆流性雑音は流出路で II 音に続く漸減性の高調性雑音
(3)拡張期ランブルは心室領域でベル型で聴く低調性雑音
(4)左心系か,右心系かの鑑別
 右心系で発生する音はASDや右室コンプライアンスが著明に低下している場合を除いて吸気によりほとんど増強する

 高性能のシミュレーター,ハーベイ人形は重くて移動が困難なためOSCEへの導入は難しいとは思いますが,ステーション配置の工夫次第で,将来導入する施設も出てくるかもしれません。
 ライフ・プランニング・センター(Tel:03-3265-1907)ではハーベイ人形を使用できますので(要予約で講師が必要),興味のある人は問い合わせてください。もちろん当大学のハーベイ君にもぜひ会いに来てください。