医学界新聞

 

あなたの患者になりたい  

「おたがいさま」で「おかげさま」

佐伯晴子(東京SP研究会)


 私が模擬患者活動に参加して6年。その間にOSCEを「オスキー」と読むのが定着し,病歴聴取を「医療面接」と呼ぶ大学が増え,医療面接教育は急速に普及しているように見受けられます。しかし,実際の医療現場で患者さんが個々の医療者と十分なコミュニケーションがとれる日はまだ先のように思います。理想の医療面接を行なうには,現在の診療体制では限界があるのも否めません。
 ただ,実習やOSCEに参加して感じるのは,限界にぶつからないうちに学生さんが割り切ってしまわれていることです。時間がないから,効率的に病歴を取って検査にまわして診断を下して治療を施さねば,という焦りが伝わってきます。しかし救急以外の時で,話を十分に聞かないうちに,「とにかく検査を」,というやり方が本当に効率的なのでしょうか。費用や身体の負担,検査時間,結果の心配,すべてが患者さんにふりかかります。不必要な検査だったと後でわかることもあります。
 OSCEの医療面接をそつなくこなす学生さんも増え,医療者の質問リストの穴埋めをすませ「では診察と検査をします」と宣言して終了する面接が多く見うけられます。服装や挨拶も礼儀正しく言葉づかいも丁寧で,たしかに以前よりよくなったように思います。でも,マニュアルを覚えてそこで終わっているような感じがするのです。
 マニュアルは医療者が話す方向においての項目です。しかし,面接Interviewはinter(相互に)view(見る)という語であるからには,患者さんが話をする方向も大事にされるのが本来の姿でしょう。
 患者さんの話や答えを聴き,それについて反応するというやりとりが進むと,お互いの手応えが変わってきます。展開なく次々と別の質問に移るという一方的な感じはなくなり,一緒に考えてくれるあたたかさ,思いやりが伝わってきます。顔があり表情を示す□□先生に出会っている感じがして,一方的に話を打ち切られ勝手に検査を決められたという感覚にはなりません。□□さんという医療者を○○さんという患者が人生の協力者として信頼できれば,医療の質と効果は高まり,おたがいに手応えと満足感が得られるような気がします。
 おたがいに気持ちよく話せるとき,コミュニケーションのバランスがよいと言えます。バランスとは力関係です。話させる,承諾させる,の使役動詞で発想する限りバランスはとれません。患者さんが治るのを支えるという姿勢から出発してもらうと,おかげさまでという感謝の気持が素直に出せます。インフォームドコンセントも「とる」のではなく,患者さんが十分informを受け納得して自分からconsentするのですから主語は患者です。
 医療者と患者がおたがいに信頼する医療は特別な場面に強調されるのではなく,日常の基本を続けることにあると私は思っています。
 おかげさまでこれが最終回です。ご愛読ありがとうございました。

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SPから学ぶ対患者コミュニケーション
単行本今秋発刊

 連載「あなたの患者になりたい」の著者,佐伯晴子氏と日下隼人氏(武蔵野日赤病院臨床研修部長)による「対患者コミュニケーション」をテーマとする単行本が今秋,医学書院から発行されます。
 本書は,豊富なSP研修の経験を持つ2人が,SP実践事例を紹介しつつ,「どうしたら患者さんとよいコミュニケーションがとれるか」を丁寧に示します。ご期待ください。なお,現時点では書籍名,価格等は未定です。